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続いていく日々
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「ルイ、見てください。今年もほら、つぼみがつきました」
「本当だ。また庭が華やかになるね」
「はい。花が開けば香りもいいんですよ」
それから時は流れ、数年が経ち、それでも二人は変わらず仲睦まじく龍の屋敷で暮らしていた。
相変わらず屋敷に物は少なく、必要最低限の慎ましい暮らし。
けれどフェイの趣味で庭や池の周りはたくさんの種類の植物が植えられて、素朴ながら賑やかな場所となっていた。それも始めはうまくいかないこともあったが、少しずつ植物の特徴を学んでいき庭づくりをしていった。
せっせと働き、花の中でにこにこと笑っているフェイを見て、ルイもまたそれだけで幸せだった。
「フェイ、たくましくなったねえ」
「あはは、元がひょろひょろでしたから。今もそんなにですよ」
ルイの仕事を手伝ったり庭仕事をしたりする生活の中で活発に動き回り、王宮の離れでの幽閉生活で痩せ細っていたフェイからは想像できないほどに健康的になった。
髪や肌のハリツヤが良くなり、程よく筋肉もついた。その変化はフェイを更に美しくしたのだった。
「それにほら、この前のジンを見たでしょう。あれに比べれば私など」
「ああ、確かにジンは立派な大人の男になったなあ。出会った頃は小生意気な子どもだったのに」
「ふふ。あの頃だってもう成人ですけれどね。素敵な大人になっていて、兄として嬉しいです」
王宮に居る弟とは、一年に一、二度ほどではあるが付き合いは続いていた。久しぶりに会う弟はすっかり大人の男らしい体つきになっていっていて、かつて共に暮らしていたときのあどけなさが残る表情とはずいぶんと変わっていた。
年月は、確実に進んでいき様々なものの姿を変えた。
双子の弟ジンユェはこの春に王の座を退く父の跡を継ぎ、新たな王となる。もはやフェイとジンユェが並ぶ姿を見て二人が双子だとわかる者は親しい者以外には居ないだろう。
「……世界は変わっていくものですね。なんだか不思議な気持ちです」
「……そうだね。寂しいかい? フェイロン」
「それ、今さら聞きます?」
フェイは可笑しそうに、けれどどこか切なそうに笑う。
「置いて行かれるような、取り残されるような切なさはやはり……少しは感じてしまうものです。けれど私は言ったはずですよ。それさえも幸福に思っていると」
「ああ、そうだ。そうだったね」
ルイはそう話すフェイを抱き締めて、片角の生える額と髪を撫でる。フェイがくすぐったそうに目を細めると、そこにそっとくちづけを落とした。
「私も、フェイが隣にいてくれればどんなときも幸せで、穏やかでいられる」
「はい。私もです……愛しています、ルイ。私のだんな様」
「私も、誰よりも何よりも、フェイのことを愛しているよ」
迷わず疑わない、まっすぐな愛を受け止め与えてくれるルイの言葉に、フェイはもう『つのつき』として生まれてきたその姿に負い目など何も感じることがなくなっていた。
そうして交わされたくちづけは何よりも甘く、重なり合うふたりの影は幸せの形をしている。
長く、永い時間が流れても、世界がどんどん姿を変えていっても、山深くの龍の屋敷と呼ばれるそこには変わらず寄り添い合う龍と人との暮らしが在り続けたと言う。
「本当だ。また庭が華やかになるね」
「はい。花が開けば香りもいいんですよ」
それから時は流れ、数年が経ち、それでも二人は変わらず仲睦まじく龍の屋敷で暮らしていた。
相変わらず屋敷に物は少なく、必要最低限の慎ましい暮らし。
けれどフェイの趣味で庭や池の周りはたくさんの種類の植物が植えられて、素朴ながら賑やかな場所となっていた。それも始めはうまくいかないこともあったが、少しずつ植物の特徴を学んでいき庭づくりをしていった。
せっせと働き、花の中でにこにこと笑っているフェイを見て、ルイもまたそれだけで幸せだった。
「フェイ、たくましくなったねえ」
「あはは、元がひょろひょろでしたから。今もそんなにですよ」
ルイの仕事を手伝ったり庭仕事をしたりする生活の中で活発に動き回り、王宮の離れでの幽閉生活で痩せ細っていたフェイからは想像できないほどに健康的になった。
髪や肌のハリツヤが良くなり、程よく筋肉もついた。その変化はフェイを更に美しくしたのだった。
「それにほら、この前のジンを見たでしょう。あれに比べれば私など」
「ああ、確かにジンは立派な大人の男になったなあ。出会った頃は小生意気な子どもだったのに」
「ふふ。あの頃だってもう成人ですけれどね。素敵な大人になっていて、兄として嬉しいです」
王宮に居る弟とは、一年に一、二度ほどではあるが付き合いは続いていた。久しぶりに会う弟はすっかり大人の男らしい体つきになっていっていて、かつて共に暮らしていたときのあどけなさが残る表情とはずいぶんと変わっていた。
年月は、確実に進んでいき様々なものの姿を変えた。
双子の弟ジンユェはこの春に王の座を退く父の跡を継ぎ、新たな王となる。もはやフェイとジンユェが並ぶ姿を見て二人が双子だとわかる者は親しい者以外には居ないだろう。
「……世界は変わっていくものですね。なんだか不思議な気持ちです」
「……そうだね。寂しいかい? フェイロン」
「それ、今さら聞きます?」
フェイは可笑しそうに、けれどどこか切なそうに笑う。
「置いて行かれるような、取り残されるような切なさはやはり……少しは感じてしまうものです。けれど私は言ったはずですよ。それさえも幸福に思っていると」
「ああ、そうだ。そうだったね」
ルイはそう話すフェイを抱き締めて、片角の生える額と髪を撫でる。フェイがくすぐったそうに目を細めると、そこにそっとくちづけを落とした。
「私も、フェイが隣にいてくれればどんなときも幸せで、穏やかでいられる」
「はい。私もです……愛しています、ルイ。私のだんな様」
「私も、誰よりも何よりも、フェイのことを愛しているよ」
迷わず疑わない、まっすぐな愛を受け止め与えてくれるルイの言葉に、フェイはもう『つのつき』として生まれてきたその姿に負い目など何も感じることがなくなっていた。
そうして交わされたくちづけは何よりも甘く、重なり合うふたりの影は幸せの形をしている。
長く、永い時間が流れても、世界がどんどん姿を変えていっても、山深くの龍の屋敷と呼ばれるそこには変わらず寄り添い合う龍と人との暮らしが在り続けたと言う。
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