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本編
25.あまい夜
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「僕は……触ってほしいです」
猛烈に恥ずかしかったが、ここは素直に答えるべきだと東は堪えてそう言った。おそらく、顔は熱くなっている。
「では、失礼します」
そう言って蓜島はまず、東の手を取った。繋がれた手のひらはまた恥ずかしいくらいに汗をかいている。
「告白のときも、こうでしたね」
「…蓜島さんも」
「はい、一緒です」
「ふふ……蓜島さんって、いつも丁寧ですけどたまに語彙がかわいくなりますよね」
「そ、そうでしょうか」
「かわいいです」
恥ずかしそうに頬を染めた蓜島は、東に触れた手を今度は顔の方に移動させる。
指先で軽く顎のラインを撫でて、頬を包み込むみたいにぴたりと手を当てて、時折東の形のいい耳をくすぐった。
「…東さんのほうが、かわいいですよ」
「…おれ、かわいいですか?」
「はい。黙っていると綺麗ですけど、喋っているとかわいいです」
「……喋ると残念とはよく言われますけど」
「その人たちは、東さんのかわいさがわからなかったんですね」
さわさわと優しく触れられるのが気持ち良い。東はどきどきと心臓がうるさくなりつつも、同時に心地よさも感じていた。愛しさと穏やかな気持ちと、それからやましい気持ちもわいていて、ぐちゃぐちゃになってしまいそうだった。
「……キスしてもいいですか?」
蓜島がそう尋ねる。東はどきりとする。
そうだ、ずっとこれを夢見ていた。東は初めて蓜島が自分のケーキを目の前で食べている姿を見たときから、ずっと思っていたのだ。
「して、ください」
この唇に、自分も食べられたい。甘いクリームと一緒にくちづけられたなら、いったいどんな幸せな気持ちになるのだろう。そんな風に考えていたのだ。
「……東さん」
「は、……っ、ん、」
焦がれた唇が自分の名前を呼び、それに息を呑むと同時に優しくキスをされる。ほんの少し、はむ、と吸いつかれた感触で、重ねた唇が快感でぴりぴりと痺れた。
「……嫌じゃ、ないですか?」
「…嫌なわけ、ないじゃないですか」
触れた時間はほんの僅かな間だけなのに、東にとっては待ち侘びた分だけそれはとても長く感じた。
蓜島にとっては、今まで触れる距離には居なかった憧れの人とのキスで、未だなんだか不思議な気分だったが、恋人として触れ合えた喜びの方が大きかった。甘い香りのその人は、キスの味までもがひどく甘くて、本当はもっと欲張って、たくさんキスしたかった。
「しあわせ、です」
「そんなに?」
「してほしかったんです、蓜島さんに。自分のケーキに嫉妬するくらい」
「……ふっ、」
「笑わないでくださいよ」
蓜島が思わず吹き出したのを珍しく思い驚く気持ちと、笑われて恥ずかしい気持ちで東は忙しかった。
「すみません、東さんがあまりにもかわいいことを仰るので、つい」
そんな風に言いながら髪を優しく撫でられると、東は何も言い返せなくなる。蓜島は、東への愛おしさで胸がいっぱいだった。
「東さんのことも、東さんのケーキのことも、全部ひっくるめて、あなたが好きですよ」
「……どうしよう」
「何がですか?」
「めちゃめちゃうれしい」
「……かわいい人」
幸せで苦しいくらいになってしまった東は、もうお手上げだというように蓜島の胸に顔を埋める。蓜島はそれをぎゅっと抱きしめて東の甘い香りをめ
いっぱい吸い込むと、幸せで心が満ちていった。
その夜は、そのままずっと甘い甘い時間が続いたのだった。
猛烈に恥ずかしかったが、ここは素直に答えるべきだと東は堪えてそう言った。おそらく、顔は熱くなっている。
「では、失礼します」
そう言って蓜島はまず、東の手を取った。繋がれた手のひらはまた恥ずかしいくらいに汗をかいている。
「告白のときも、こうでしたね」
「…蓜島さんも」
「はい、一緒です」
「ふふ……蓜島さんって、いつも丁寧ですけどたまに語彙がかわいくなりますよね」
「そ、そうでしょうか」
「かわいいです」
恥ずかしそうに頬を染めた蓜島は、東に触れた手を今度は顔の方に移動させる。
指先で軽く顎のラインを撫でて、頬を包み込むみたいにぴたりと手を当てて、時折東の形のいい耳をくすぐった。
「…東さんのほうが、かわいいですよ」
「…おれ、かわいいですか?」
「はい。黙っていると綺麗ですけど、喋っているとかわいいです」
「……喋ると残念とはよく言われますけど」
「その人たちは、東さんのかわいさがわからなかったんですね」
さわさわと優しく触れられるのが気持ち良い。東はどきどきと心臓がうるさくなりつつも、同時に心地よさも感じていた。愛しさと穏やかな気持ちと、それからやましい気持ちもわいていて、ぐちゃぐちゃになってしまいそうだった。
「……キスしてもいいですか?」
蓜島がそう尋ねる。東はどきりとする。
そうだ、ずっとこれを夢見ていた。東は初めて蓜島が自分のケーキを目の前で食べている姿を見たときから、ずっと思っていたのだ。
「して、ください」
この唇に、自分も食べられたい。甘いクリームと一緒にくちづけられたなら、いったいどんな幸せな気持ちになるのだろう。そんな風に考えていたのだ。
「……東さん」
「は、……っ、ん、」
焦がれた唇が自分の名前を呼び、それに息を呑むと同時に優しくキスをされる。ほんの少し、はむ、と吸いつかれた感触で、重ねた唇が快感でぴりぴりと痺れた。
「……嫌じゃ、ないですか?」
「…嫌なわけ、ないじゃないですか」
触れた時間はほんの僅かな間だけなのに、東にとっては待ち侘びた分だけそれはとても長く感じた。
蓜島にとっては、今まで触れる距離には居なかった憧れの人とのキスで、未だなんだか不思議な気分だったが、恋人として触れ合えた喜びの方が大きかった。甘い香りのその人は、キスの味までもがひどく甘くて、本当はもっと欲張って、たくさんキスしたかった。
「しあわせ、です」
「そんなに?」
「してほしかったんです、蓜島さんに。自分のケーキに嫉妬するくらい」
「……ふっ、」
「笑わないでくださいよ」
蓜島が思わず吹き出したのを珍しく思い驚く気持ちと、笑われて恥ずかしい気持ちで東は忙しかった。
「すみません、東さんがあまりにもかわいいことを仰るので、つい」
そんな風に言いながら髪を優しく撫でられると、東は何も言い返せなくなる。蓜島は、東への愛おしさで胸がいっぱいだった。
「東さんのことも、東さんのケーキのことも、全部ひっくるめて、あなたが好きですよ」
「……どうしよう」
「何がですか?」
「めちゃめちゃうれしい」
「……かわいい人」
幸せで苦しいくらいになってしまった東は、もうお手上げだというように蓜島の胸に顔を埋める。蓜島はそれをぎゅっと抱きしめて東の甘い香りをめ
いっぱい吸い込むと、幸せで心が満ちていった。
その夜は、そのままずっと甘い甘い時間が続いたのだった。
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