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聖魔法は性魔法でした
しおりを挟む「おお、救世主よ!!」
トラックに轢かれる瞬間、聞こえたのはおじさんの歓喜の声で。目を開いた俺がいたのはネット小説でテンプレの中世異世界だった。
そこそこ偏差値の高い高校に通い始めて2日目に俺は異世界召喚された。ネット小説が好きだった俺は、一瞬この非日常に喜びを覚えたが次に絶望した。神官の話では、俺はもう元の世界には戻れないのだ。
悲しくて堪らなかったが、地球の俺はもう死んでいるらしく、そもそも帰っても棺桶の中。腹を括るしかなかった。
俺を転移させたのは、エバー王国という世界有数の国家で、科学は発展していないものの豊かで、他国よりは富んでいるようだ。俺が召喚された理由は、100年に一度、大きく活発化される暗黒渦の浄化のためで、その浄化は召喚された者しか扱えない聖魔法が大きく効くらしい。それが終わった後も暗黒渦の発生はあるので、それからも俺の存在は重要であり、その後も歓迎されるとのこと。
2日前まで中学生だった俺は反抗する事もできず、周りの大人たちの言う通りに動いた。この世界に来て一週間後には王立の学校に通うことが決まり、そのお供として宰相の息子サイリが着くこととなった。
いきなり異世界に連れて来られ、何が何だか分からず不安な俺にサイリはいつも優しく寄り添ってくれた。長い銀髪に人形のように整った鋭利な美貌、勉学だけでなく武術・魔法も超一流のサイリは、王国の中でも有名人で誰もが憧れる人物。そんな憧れの的が俺だけに微笑みかけてくれる。
元々女の子が好きだった俺は簡単にサイリに惚れてしまった。告白してきたのはサイリからだった。
『貴方が好きです』
シンプルで誠実なサイリらしい言葉。嬉しくて、嬉しすぎて泣きながら俺も好きと言えば、サイリは綺麗な微笑みを浮かべた。俺は国賓という立場ではあり、敬われる立場ではあったけど立場に胡座をかいて、サイリに嫌われたくはなかった。必死に勉学に励み、魔法の特訓に精を出した。なかなか聖魔法を使うことができず焦ったが、サイリはいつも俺を励ましてくれる。
初めて手を繋いだ日のこと、初めてキスをした日のこと。……初めてセックスをした日のこと全て覚えている。
俺は女の子じゃないのに、まるでお姫様を扱うように優しく丁寧に触ってくれた。サイリは天使のように整った顔で性欲なんてなさそうと思ってたのに、サイリは毎日のように俺を抱いた。
抱かれれば抱かれるほど俺の感度は上がり、トコロテン、メスイキ、乳首イキとどんどん俺の身体が開発されて、いつのまにか身体を触られるだけで感じる身体になっていた。皮膚と皮膚が交わるだけで訪れる快感は俺の日常を不便にさせたが、サイリが感度が上がったと喜んでくれたからなんでもよかった。
サイリはえっちなこうきが一番好きだと褒めてくれる。だから勉学も魔法もえっちも全部頑張った。いつでも感じられるようにとニップルピアスをつけてから、シャツに擦るだけで感じる身体も、サイリに可愛がれるための準備だと思えたら耐えられる。どんどん自分を開発していくのも楽しくなり、そんな日々を過ごして2年。俺はついに聖魔法を使うことに成功したのだ。
聖魔法の発動は大きく話題になって、俺は久々に王宮に招かれた。王立学校に通うため、それまでサイリと二人仮屋暮らしだったのだ。
王宮に連れて行かれ、すぐに謁見の間に通される。いつも通り隣にはサイリがいた。
「ご苦労であった。これからも励むように」
王の言葉はそれだけで終わったが、王だけでなく周りにいる貴族たちの視線が酷く下卑て不快で俺はそそくさと部屋を去った。あの視線が気持ち悪く、馬車の中でサイリにあの視線に気付いたか聞こうとしたが、サイリはいつも通りの優しい笑顔を浮かべ何も気づいていないようだ。
俺の気にしすぎなのかもしれない。俺はそのことをなかったことにした。
俺が聖魔法を使えるようになってから、暗黒渦が発生する時期まで幸いなことにあと一年あった。聖魔法が使えるようになったからにはあとは熟練度を増すだけである。サイリの世界を救うために俺は全ての生活を聖魔法の特訓に当てたが、何故かうまくいかない。
悔しくてたまらないでいると、サイリは俺を優しく抱きしめてくれた。サイリ以外の誰もが俺に義務的に接するから、こうやって優しくしてくれるのも弱音を吐けるのもサイリにだけだ。
サイリは泣いてる俺を優しくあやしながら、俺を抱いた。久しくセックスをしなくても俺の身体はもう抱かれる身体に変わっていたのか、すぐにほぐれてサイリを受け入れる。サイリは俺の涙を一粒ひとつぶ舐め上げて、とんとんと俺の良いところを抉った。サイリが優しくて、気持ちよくて、最中に寝てしまった俺は次の日寝坊してしまったが、聖魔法は上手くなっていた。
がむしゃらにしたって仕方がない。今まで通りでいないと特訓なんてうまく行きっこない。そう悟った俺は、今まで通り、ご飯を食べて特訓をしてセックスをして寝て。そんな日々を繰り返した。その内、俺は史上最高の聖魔法使いと称されるようになる。
一年が過ぎ、暗黒渦の発生が確認されて、俺は浄化の旅に出ることとなった。それ自体に何の不満もない。元から決まっていたことで、そのために俺は地球から呼ばれたのだ。ただ、聖服がちょっと予想外だった。
日本で想像される聖女の服といえば真っ白で、布面積が大きく清らかなイメージだと思うが、ここでは白い布は同じものの布面積が少なくお尻が見えてしまいそうなショートパンツに、ちょっと屈んだら乳首を見えてしまいそうなほど前の空いた半袖。それにガーターベルトをつける仕様で、えっちなお店に出てくるような衣装だったのだ。
乳首についてるピアスがバレるんじゃないかと、最初は戦々恐々としたもののバレる様子はなく極めて順調に浄化の旅は続いた。
旅には勿論サイリも付いてきて、サイリは毎日俺を抱いた。場所によっては野営とかもあり、青姦は怖かったけどその頃には俺はセックスが大好きになっていたし、疲れれば疲れるほどセックスのことで頭がいっぱいになるようになった。
あと少しで浄化の旅は終わる、そんな時に王の使者が来た。状況を報告しろということらしい。それにはいつもサイリが報告に行っていたけど、俺は早くセックスがしたくてたまらなくて、青姦のために鍛えた隠密魔法で二人が話す部屋を訪ねようとした。
「それでどうですか。こうき殿の様子は」
ノックをしようとしたその時、使者がサイリにこう尋ねた。サイリがどう答えるか気になった俺はもう一度身を密める。
「相変わらず、といったところです」
サイリは淡々と答えた。もっと暖かい答えを期待していた俺は拍子抜けして動けないでいると使者が急に笑い出す。
「ははは!あんな下品な乳首を堂々と晒した卑猥な淫乱はあいもかわらずですか!!」
それは俺のことだろうか。いや、俺の話をしていたのだから。
「あの愚かさもこうき殿の良き点ですよ」
「まあ、そうですな。性行為によって力の増す聖魔法ですからあれほどの淫乱でお気楽な人間が合ってるのでしょう」
「違いない」
「サイリ殿も大変ですな。あの淫乱の相手を一人でするのも。いくら宰相と言えども自分の子供を生贄にするなど感心しませんよ。もしよければ、」
「いえ、こうき殿の世話など簡単です」
「……そうですか。では、旅は順調。浄化まで間近という報告を行いたいと思います」
衝撃で頭が回らなかった。ただ、この場にいてはいけないことだけ分かる。俺はその場から立ち去り、建物の外でかがみ込んだ。
嘘だ。嘘だ嘘だ。聖魔法がセックスで効果が増す?そのためにサイリは俺と愛し合ってる?そんな、だってそんなはず。膝を抱え込んでいると、同行している騎士が俺を見つけ声をかけた。
「どうされました?」
そういう騎士の目線は、開いた胸元にあり、使者の言葉を思い出した俺は立ち上がって何でもないと逃げ出した。なんで今まで気づかなかったんだろう。あんなにいやらしい視線に。
冗談だよ、と言って欲しい。でも、これは目を背けたい現実でしかない。俺はその日サイリとのセックスを断って使者の部屋に向かった。
使者は聖服で訪れた俺を鼻息荒く歓迎し、執拗に横に座りたがった。
「それで用とは」
先ほどのことを聞こうか迷い、なかなか言い出せずにいると使者は俺の手首を掴んでベッドに引きずり上げた。
「なにを!!」
「どうせその淫乱な身体を持て余して、抱いて欲しくてきたのだろう。焦らさずとも分かる。抱いてやる」
「っっ」
血走った使者が俺の身体をいやらしい手つきで触る。俺は触られるだけで感じる身体になっていたため、その汚らしい手にも感じてしまい涙が出そうだった。使者はそれを快感によるものと勘違いしたのだろう。俺の服に手をかけた。
咄嗟に魔法を放つ。雷魔法で相手を気絶させる魔法だ。俺の体上に覆い被さるように倒れた男を蹴り飛ばし、自白の魔法をかけた俺は今度こそ涙した。
聖魔法は性魔法である。性行為によって力が補填され、その使用者がより感じやすく性に対して奔放であればあるほど強い威力を持つ。聖魔法を使わせるために、使用者に相手を見繕わないといけないが、女だとむやみやたらに孕まされるかもしれない。また、男性だと射精で終わるが女役となるとオーガズムがあるため男役をする男を見繕うことに決めた。そして、それこそがサイリであり、サイリは俺をうまく管理すれば次期宰相に約束される。
衝撃の事実はたくさんあった。でも何よりもサイリが自分を騙していることが悲しくてたまらない。
裏切りに怒りは湧かなかった。こんな平凡な男に愛の言葉を囁くのは嫌だっただろう。仕方のないことだ。それでも、サイリは俺を愛していない。自分のために愛しているフリをしているだけ、という事実は俺の胸を抉った。
使者の俺と会っていた時の記憶を消し、サイリのいる自室に向かう。俺たちはダブルベッドで毎日一緒に寝ていたから一人になりたくてもなることはできない。美しいサイリの寝顔を見て思う。悲しい。悲しくてたまらないがサイリのために。
俺は何も知らなかった時と同じように過ごした。
そして、暗黒渦の消失に成功した。これから一年は暗黒渦は生まれないらしい。
「こうき、よく頑張ったね」
頭を撫でながら笑うサイリに俺は満面の笑みを返した。少し休憩したら王都でパレードだ。そう笑う旅の一行はその夜大いに飲み明かして、いつもは飲まないサイリまで酔って寝てしまったから抜け出すのは簡単だった。
「さよならサイリ。俺はサイリのために頑張ったよ。あとは自分のために生きるね」
俺はこのままどこかに身を隠す。もう王都には戻らずひとりで生きていくんだ。
涙が出てくるけど大丈夫。
俺はもう大丈夫。
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