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ザマァレボリューション

14 エル視点

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「エル・ショコラ・ハーツ、この事実を持って君を告発する! そして、僕との婚約も解消だ!」

 高らかにリース王子が宣言する。隣の男爵家の養女アオイ・ローレンスが勝ち誇った表情を隠しきれていない様子でリース王子の腕にしがみついている。彼女を遠くから見ると、まるで被害者のように見える。
 その時の私の頭は混乱でいっぱいだった。









 私が生を受けたのは、この国に三つもない公爵家のひとつ。私は妾の子だったが、当時婚外子を認める風潮もあり、正式にハーツ公爵家の長女となった。だけど、二人の兄も、お母様も私のことをどこの血が混じっているか分からない、と認めてはくれない。お父様は、お家の中で絶対の存在で私のことを政治の道具としてか考えていないのだ。
 私は、認めてほしかった。誰かに必要とされたくて、誰よりも努力して小等部の頃からトップの成績を叩き出した。そうすると、次第に周りの人は私を認めてくれる。婚外子であることも内密にされたから、私の周りには私を褒め称えてくれる友人も出来て、自分を鼓舞するために言っていた勝ち気な言葉遣いも、その頃には本物になっていて。私の自信は肥大していた。

 そうしていると、中等部に入った頃にはリース王子の婚約者になっていて、正直ホッとした。これで、お父様に認められると。実際にお父様に褒められたこともないし、未だにお母様とお兄様と一緒にお食事をさせてはいただけなかったけれど、家族以外の会う人々は私を賞賛するから気は紛れていた。

「エル、そこで私はこう言ってやったんだ」
「あら、そうなんですの」

 いかに自分が優れているか話すリース王子は私と似たところがある。第三王子であるため、後回しにされることが多く劣等感が強いのだ。
 正直、この人を好きになれる気はしない。たが、この人と結婚することで私の価値が高まるなら別に愛のない家庭でもよかった。

 高等部に入る時、生徒達は進みたい分野によってそれぞれ違う学科に進むことになる。リース王子は経済学科、私は魔法学科に進み、当然のように今まで務めてきた生徒会を続けることになった。高等部の初めは、私たちの関係は可もなく不可もなく悪くはなかった。
 それが、変わったタイミングは明確で、アオイ・ローレンスが書記として生徒会に入ってからだ。

 リース王子は、変わった。隠していた劣等感を前面に出し、自分の立場を絶対として私に対しても高圧的に接するようになった。結果的に、それはアオイ・ローレンスの魅惑の魔法の影響もあったのだろう。魅惑の魔法の副作用に自身に秘めたる欲を掻き立て光悦感を得るというものがあるからだ。私は生徒会副会長、リース王子は会長で、その他の役員は全員男性。そして、男性の役員は全てアオイ・ローレンスの手に落ちていった。

 私の罪は、その物事に対して何も対処しなかったこと。アオイ・ローレンスが転入して一年で、私の断罪の場面に繋がるなんて想像もしてなかったのだ。私はこれまで培った信頼があるから大丈夫とタカをくくっていた。だって、私は凄い。私は、家族以外の人、皆んな認められていて、友人だっている。もし、何か誤解があってもその人達が理解して分かってくれると疑わなかったのだ。

 そして、運命の日。私は、リース王子から国のお金である学園運営費の横領、アオイ・ローレンスへの暴行未遂で断罪された。どちらも誤解で、そんな事実断じてなかった。

 きっと他の人達は私を信じてくれるはず、そう思って周りを見わたす。

「っ、」

 向けられていたのは疑いと軽蔑の眼差し。訳が分からなかった。最後の望みをかけて、親しくしていた友人たちに目を向けても、そこにあるのは困惑と失望で。
 私には今までの積み重ねがある。それは、私の価値を上げていたけど、王族の宣言というのはそんな私の価値を飛び越えて絶対の信頼を得ていた。だって、私たちは血筋が正義。王族こそ絶対なのだと教育を受けてきたのだ。私とリース王子ならリース王子を信じる、それが私たちの世界を取り巻いていた現実で不条理だったのである。

 私が固辞してきたものが失われ、思い描いていた想像と全く違う人々の様子に私は分かりやすく動揺した。

 言おうと思えば、いくらでも身の潔白を証明できたはずである。だけど、私の世界の拒絶に喉を締め付けられ、足が震えて何も出来ない。結局、本物の犯罪者のように私はそこから逃げ去った。

 学園から逃げるように向かった先は、自分の屋敷。逃げる間も、人が私に疑惑の目を向けているような気がして、魔法帽を深く被る。
 混乱した頭の中、お父様にどう説明すべきか考える。実際に、私は何一つ悪いことなどしていないのだから調べれば分かるはずだ。お父様にそれさえ嘆願出来れば、きっと信頼を取り戻せるはず。
 私だって、頑張ってきたのだ。私は価値があるはずだし、お父様だって表情には出さずとも前よりは私に愛着が湧いているはず、とほぼ祈るように思う。使用人にお父様の居場所を聞けば、幸か不幸かお父様は珍しいことに屋敷にいた。

 まだ何をどう説明するかも決まってはいないが、報告は早い方がいいとお父様の書斎に行けば、お父様は一枚の紙をじっと見て座っていた。

「お父様、実は」
「出て行け」

 ぼそり、と言われた言葉に聞き間違いかと耳を疑う。まだ何も言っていない。何も言えず、固まっていればお父様は憎らしそうに私を見て言った。

「やはり、血の濁ったお前を拾ったのは間違いだった。妻の言っていたことは正しかったようだな。まあ、よくも私に恥をかかせおって」

 ほんの少しの期待も打ち砕かれたような気分だった。私を認めてくれた人達が目を背ける中、私を認めないお父様が私を受け入れるはずなんてあるわけなかったのに。
 それでも、誤解されたままではいられない。

「お父様、誤解なんです」
「誤解も何もあるか!リース王子は、元婚約者の情けとして、おまえの追放で手を打つとおっしゃって下さっている。さっさと出て行け」
「ですが」
「出て行けと言ったんだ!二度と私の前に現れるな!」

 絶望した頭の中でも、お父様の命令は絶対という決まりが言葉を詰まらせ、抵抗する気力を無くさせた。
 こうして、私は家を勘当させられたのである。




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