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ザマァレボリューション
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しおりを挟む「え、付き合ってないんだよね?」
「付き合ってないわ」
同じような質問を繰り返し、困惑したような顔のエヴァに、エルははっきりと否定する。
「でも、ヴォルフが……エル君、ヴォルフってどんな男だい?」
エルの言葉が信じられなかったのだろうエヴァは、不自然な根拠だとばかりに俺の名前を出すが、俺が口を割らないと知っている。早々に、射撃の的をちょろいエルに変えてきやがった。
急な話の変換に困惑しつつも、素直に答えてしまうところがエルだ。
「ヴォルフ? ヴォルフは基本的には優しいわ。私が困っているとすぐ助けてくれるの。最初は無表情でなにを考えているか分からなくて怖かったけど、最近は表情があるわね。割と笑ったりするし。慣れれば可愛い野生動物みたいなものよ」
エルが俺に好感を持っていることは知っている。警戒心の強い野生動物に例えられるのは初めてだが、エルが俺に抱いている印象はそんなところだろう。
俺なりに、エルを大切に扱ってきた。好印象でなくては困るくらいだ。
「優しい? 助ける? 笑う? エル君はどこの世界のヴォルフのことを言っているんだい?」
「へ?」
対してエヴァはその答えが信じられない。いや、あり得ないとばかりに言う。失礼な男だ。
「ヴォルフは、君が今言った所の真反対にいる男だよ!?冷酷、非情、無表情、顔と稼ぎがいいからありとあらゆる女性にモテるけど、それを逆手にとって何股もしてる最低男だ。怒った女性にビンタくらいさせてやってもいいのに、それも知るかとばかりに避けるような、そんな……そんなヴォルフが……」
まるで俺に恨みがあるかのように、現在を含めた蛮行を告白するエヴァに、黙らせたい衝動がつのる。別に、エルにエル以外の人間の扱いを隠したことはなかったから問題ないはずだ。それでも、エルには聞かせてはいけない気がする。
「エヴァ、黙れ」
「ええっと、ヴォルフが男として最低なのは知ってるわ。だからヴォルフとは付き合いたくないと言っているの」
俺がエヴァを黙らせると同時に、エルは地動説を述べるかのように俺の非道徳さを肯定して、その上でバッサリと切りさる。
「でも、そう言う部分を抜けば、私に対しては優しいから」
否定しようもない事実。その事実は知られているはずで、知られていてもいいと思っていたが、どこかで鈍いエルは分からないかもと馬鹿にしていた。だが、分かっているのか。エルが俺の特別だと分かった上で、エルはそれでも俺の条件を飲んでいる。
手放さない、と分かっていれば条件など突っぱねればいいのに、エルはそうしない。何故、そうしないのか、俺には分からなかった。
「確かに、エル君とは同居して二年ももってるからねぇ。もしかして、ヴォルフにも……」
思案顔のエヴァは、チラリとこちらを見て「いや、それはあり得ない」と首を振った。なんとなく、言いたいことはわかるが、エヴァの正解だ。エルはあくまで利用価値があるから大切にしているだけ。
「話を戻そう。エル君の引き渡しに関しては、最近第三王子のリース王子がエル君を説得しに来るだろう? だから、リース王子が貴族委員会に取り合ったのかと思ったんだが、そうではないらしい」
「だろうな」
当然だとばかりに頷く俺に、エヴァは不思議そうな顔をした。
「ん? ヴォルフはリース王子が原因ではないと知っていたのか?」
知るも何も、簡単な話だ。
「ああいう人間は権力が全てだと思っている。だから、貴族委員会からの打診だけで勝ったに違いないと勘違いするだろ。だけど、さっきの馬鹿王子に余裕な様子はなかった。きっと、あの馬鹿王子はこの事を知らないはずだ」
「馬鹿王子……」
馬鹿王子だから、馬鹿王子と言ったまでだが、エルには衝撃だろう。いくら貴族ではなくなったからと言っても、塗り固められた固定概念は消えない。王族はそれだけで偉いなんて馬鹿げた幻想はなかなか消えはしなかったのだ。だからこそ、エルも馬鹿王子に怯えてしまう。
エヴァも内心馬鹿王子と思っているだろうから、俺の発言にはノーコメント。
立場あるエヴァが、俺の発言を咎めない事を知ったエルに問いかけるように言う。
「馬鹿王子だろ?」
俺だけじゃなくて、常識人のエヴァだって認めている。その上で、まだあんなものに遠慮してる気か?と言外に問えば、エルは深呼吸してから数秒し、お腹を抱え笑い出した。
「ふ、ふふふ! 確かに馬鹿王子ね! 天才の私を冤罪で追い出したんだもの! 馬鹿以外の何者でもないわ!」
それでこそ、エルだ。いつもの調子のエルに戻ったことに懐かしさを感じ、安堵する。過去に縛られていたエルが自由に旅立った瞬間だった。
「ここでは言ってもいいが、外で大っぴらには言わないでおくれよ?」
「分かってる。公然の秘密というやつだ」
晴れ晴れとした顔のエルに、エヴァは絆されながらも上の立場の人間として諌める真似をする。その後の、俺の冗談に言い返さず苦笑しているあたり、あの馬鹿王子には困っていたのだろう。
エルは「秘密ね、分かったわ」と嬉しそうに笑う。
ギルドからの呼び出しなんて、面倒でしかなかったがこの時初めてわざわざギルドに足を運んでよかったと思った。
「それでも、リース王子じゃなければ、やはりエル君の御実家からの圧力なのか」
「……どの家か、繋がりたい家があるのかもしれないわ。その道具としてやっぱり私が必要になったとしか」
男女平等と口の良いことを言っておきながら、貴族は女を道具として扱う。今まで、それになんの反感も覚えなかった。
だが、エルを道具として扱うのは、あまりに間違っている。エルは利用価値のある人間だ。頭が良いくせに馬鹿で、阿呆で気が強くて、それでも努力家で気高くて美しい。そんな人間をただの物に貶めるなんて、あっていいはずがない。もし、そうならエルの父親は相当、物事の計算が出来ない馬鹿だ。
「一個人の都合で、貴族委員会を動かせるのか?」
それは、どこの組織だって同じ。ひとりの得のために、組織全体を動かす者はいないはずだ。
「それは、……いくらあの人でも無理、いや、でも……分からないわ。あの人、裏で各家の弱みを握ろうと切磋琢磨していたので」
一度否定したエルは、なにかを思い出した後、答えを曖昧にした。理由は、なんともちゃちなもの。でも、そんなちゃちな事で組織を動かせるなら、政治なんて楽なもんだ。
「なるほど。じゃあ、ハーツ家の手引きが濃厚なんじゃないかな」
「そう、かもしれませんわ」
二人が難しい顔で、事の発端を探す中、俺は貴族達がエルを連れ去る、大義名分になるものを考えていた。不当な契約……これがネックだ。俺たちの間にある条件はどこからどう見ても不当。やはり、条件は消すべき。
今更必要ない形だけの条件、だけど無くすことに少しの抵抗を覚えていた条件をやっと無くす決心をする。取り敢えず、今日の夜にでもと思っていたら、エヴァは話の総括に入っていた。
「と言っても貴族委員会の軽い要求だから、拒否することは出来る。そもそも、国と独立した組織だから受け渡す義務なんてないしね。だから、まあ、これからもその要求が続くようだったら連絡するよ」
「よろしくお願いしますわ」
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