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ザマァレボリューション

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「ヴォルフ、私、洗濯の仕方分からないわ」

 女、いや、エル・ショコラを拾ってからは大変だった。俺の命令に絶対服従という条件だったが、魔法以外は何をさせても、からっきし駄目で、何もできやしない。持ち家の空き部屋を貸してやったら、ここクローゼット?と宣う。
 せめて、身体を頂こうとすれば性知識がない。セックスという行為を教えてやれば、俺とそんなことするぐらいなら自害すると短刀を出すから条件から性的な命令は外した。まあ、相手には困っていないし無理やりは萎えるからやらないが、本当に何のためにこいつ拾ってきたんだろうと後悔した。

 だが、そんなエルにも使い道はあった。

 エルと俺の実力には大きな隔たりがあり、最初は仕事に連れて行かなかったが、ある希少薬草の採取をする依頼の時にエルの魔法薬学の知識が役に立つと連れて行くことにしたのだ。

「やっと、私の出番ね! この時を待ってたのよ!」
「あー、大人しくしてろ。あと、静かにもしてろ」

 エルの魔法薬学の知識も半信半疑で、その薬草はビターウルフの縄張りにあり、自分の身は自分で守れと命令していた。

「速度強化!」

 エルの呪文と共に、俺の身体が赤く光る。俺の身体は付与魔法なんてしなくても極められていて、付与魔法をかけられても普段と特に違いがないため、エルに付与魔法をかけると言われるたびに断っていたのだ。

「いらないって言ってるだろ」
「いいでしょ!別に減るもんじゃないんだし」

 なんでも思い通りに行った世の中、絶対服従を誓ったエルだけが上手く思い通りに動かないことに苛つきながら、モンスターの縄張りに入り、戦闘を始める。

 なに?

 やけにモンスターの動きが遅い。いや、俺がいつもより早くなっている。

 効かないはずの付与魔法が効くことに、疑問を覚えながらも感じたことのない速さに快感を覚える。普段の1.5倍近いスピードで動く俺に、モンスターは成すすべなく倒れていった。ふと、視線の端に、エルが複数のモンスターと対峙しているのが見えたが、あれだけエリートエリート豪語していたのだ。パーティに入れてはやったが、エルのことなんてどうでもいいし、死んでもいい。それに、エリートなら倒せて当然だろう、と目の前の敵に専念し、叩き出した依頼達成速度は、難易度7の依頼にして最速のタイムだった。

 使えない女だが、付与魔法だけは特別。面倒くさがりやな俺の唯一の趣味は、自分を強化することで、この自分の限界を突破すると言う体験は、俺を魅了した。そして、いつしか、仕事をする際には、エルの付与魔法が欠かせないものになっていて。
 それは、俺が始めて自分以外の何かに執着すると言う稀有な状況に陥っていることを示していた。





 エルを拾ってから三年の月日が経った。

「エル、いつもの」
「う、うん」

 エルが恥ずかしそうに、小さい口を開ける。これは、俺が教えた仕草だ。付与魔法のより効果を増幅させる昔ながらの方法。それは、キス。エルを拾って暫くして、そのことをたまたま知った俺は、恥ずかしがるエルに仕事のためと説明してその方法をとることにさせた。どうやら、魔法使いと付与魔法対象者の粘膜が接触されることで、より魔法が強く持続するのだ。
 エルは、唇がくっつくだけのフレンチキスを知らない。ディープキスしか知らないという事実は、まるでエルを俺好みに育てているようで興奮する。

 思う存分、口内を蹂躙し最後に口から溢れた唾液を丁寧に舐めとってやれば、エルは腰も砕けてふにゃふにゃになる。この時ばかりは、普段の高飛車でお喋りな口も閉じ、色気が倍増する。

 何度抱いてしまおうと思ったことか。

 だが、駄目だ。それは、条件に反する。無理やりにでも抱いたら、エルは俺の元を離れるかもしれない。こんな、良い付与魔法逃してなるものか。




「早く行ってきなさいよね! 後ろは、最強な私の魔法で倒して見せるんだから」

 少しして、エルが正気に戻るとエルはけろっとした顔で背中を押して来る。キスする前は恥ずかしがるエルも、魔法のためと割り切っているのだ。
 俺は、何故かそれが少し気に入らない。

 戦闘中、基本エルのところにモンスターは行かない。エルの元へ行く前に、俺が倒してしまうからだ。今日は、三年ぶりの希少薬草の採取の依頼だった。エルの付与魔法が使えると知った時と同じ依頼。

 もう、三年も経ったのか。
 最初は使えなかったエルも今では、家事が出来るようになったし、街では評判の美少女だ。今や、冒険者のマドンナはミランダからエルに変わったが俺の手つきだと思われているからナンパされることはない。エル自身も特別親しい男を作るわけでもなかった。
 エルは勝ち気な性格はそのままに、偉そうな態度や自己陶酔はなりを潜めて、煩い女ではなくなったが、相変わらず俺の思い通りにいかない。

 なんとなく感慨深いものを感じながら、モンスターを次々と切っていたら、エルが複数のモンスターと戦っているのが見えた。目の前にいるモンスターを倒した方が効率的だが、迷わずエルの方へ向かい、モンスターを倒す。

「ちょっと!ヴォルフは、先にいるモンスター倒しないなさいよ!」

 エルに怒られたが、しょうがない。エルは、弱っちいから怪我をするかもしれないのだ。

「こんな雑魚に時間かけてるのが気になるんだよ」
「べ、別に時間なんてかけてないわ!今回はたまたまよ!」

 後ろで暇を持て余しているエルと話しながらモンスターの首を刎ねる。吹き上げる青い液体が少しかかったからエルに浄化魔法で綺麗してもらおうと考えていたら、モンスターは全滅して、エルも慣れた手つきで薬草を回収したから依頼は前回のスピードを超えて歴代最速を塗り替えたのだった。


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