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ザマァレボリューション

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「ヴォルフ・モーガン! 光栄に思いなさい! この私があなたのパーティ入ってあげるわ!」
「あ?」

 偉そうな女に、すぐにキレるような短気な大人ではない。だがあまりに突然なもんで、睨みを効かせたうえに、酒も飲んでいたから、ついじわりと殺気も出してしまった。

「な、なによ! 別に怖くなんてないわ!」

 ……いや、そりゃあ、明らかに嘘だろ。

 耳にくる甲高い声も、偉そうに腰に置いた手もカタカタと震えている。あれは、自分の身が危機に瀕していると自覚した時に起きる身震いだ。

 なんだ、こいつ……

 不審に思いながら、目の前の女を見る。今まで、俺のパーティに入りたいという奴は五万といたが、俺より弱い奴とつるむ気なんてゼロでその全てを断ってきた。そのため、俺がパーティを作らないことは有名になっている。それでも、パーティ加入を宣言してきた人間は、これで三回目。しかも、いずれの人間も傲慢な態度で、冒険者を見下しているのに冒険者になろうとしている捻くれ者達だ。そいつらは男だったが、いつちらの例に鑑みれば話は見える。

「貴族の道楽か」

 時々いるのだ。自分の強さを過剰に判断して、暇な時間がてら冒険者にでもなってやろうか、と言う貴族達が。対立している冒険者達など自分たちの実力を見ればひれ伏すに決まっていると信じ、傲慢にやって来る貴族達の末路はだいたい同じ。
 門前払いだ。

 今回も同じように対処しようと、方針を決めがてらぼそりと貴族の道楽と決めつければ、女は上半身ををずいと前に突き出して俺と女の間にある木製のテーブルを叩いて憤慨した。

「道楽じゃない! 私は本気で来たのよ!」

 あー、めんどくせぇ。

 貴族であることは否定せずに、ただ自分の意気込みだけを主張した所で何とかなると思っているのか。だから、実力もないくせに偉いと勘違いしている貴族達は嫌いなんだ。

 この時点で、無視して宿に帰りたい気分だが、まだ時間はあるしエールをもう一杯飲みたい。前にパーティに入れろと言う貴族の男を無視していたら、男が八つ当たりでギルドの机を壊してしまった。別に俺にはなんの非もないが、ギルド長に「また問題ごとかい」と苦言を言われたのだ。

 この女の相手をする面倒くささと、ギルド長に次会う時、苦笑されながら苦言を言われることを回避すること。紙一枚分後者の勝ちだった。
 なんてことない。さっきは少し漏れた殺気を増やせば大抵の奴は焦って逃げていく。それで、他の貴族の野郎も逃げ出して行ったものだ。

「失せろ」

 俺は、早速その女にさっきの何倍も濃縮させた殺気を浴びせる。冒険者として戦っていけば、当然身につくスキルだ。女は、針のむしろにいるような気分だろう。
 これで、この偉そうな貴族も逃げ出す。

 そう思っていた俺は、ちょっとばかり驚いた。

「……いや、いやよ」

 女は、頰を大粒の涙で濡らし、脚を震わせながらそれでも俺に対峙してきたのだ。声は上ずって、震えている。
 当たり前だ。
 俺の殺気は、常人には耐えられない。そこらの冒険者でも、覚悟のない奴は逃げ出してしまうそんな代物だ。

「私は、本気なの。道楽なんかじゃないわ!」

 声を震わせながら、それでも主張してくる女に、様子を盗み見ていた冒険者たちが呆気に取られる。そりゃそうだ。冒険者達は面白がって俺と女の成り行きを見ていた。俺が殺気を出したからには、ここにいる誰一人として女がここに留まれるなんて思っていなかっただろうから。
 俺は、溜息をつく。偉そうな貴族だ。雑魚だ。見るからにひ弱で、服だけ立派な使えない女。それでも、まあ、女にしては他の野郎と違う覚悟があるようだ。感心なんてしてない。パーティに入れろと言うなら、それくらい耐えれて当然。だが、これで引かないと言うことは、なかなか厄介な相手ということになる。

「分かった。道楽じゃないということは」

 女に向けていた殺気を解く。
 だいぶ投げやりに言った言葉だったが、女はそれを称賛ととったのか、さっきまで狼に睨まれたウサギみたいに縮こまっていたのに、冒頭にあったようにまた踏ん反り返って、嬉々として話し出した。

「分かっているじゃない! ヴォルフ・モーガン! 私をパーティに入れる決心はついたかしら!私はね、この国随一の魔法学科でトップの成績を叩き出していたエリート中のエリート!全ての属性の魔法が使える上に、得意なジャンルは大範囲魔法と付与魔法!私を入れて、損はさせないわ!」

 まくし立てて、自分が如何に優れているかをペラペラ話し出す女に、やっぱり無視すれば良かったと思う。
 殺気に耐えれても、偉そうな貴族と言うことは変わらない事実だった。

「分かった」
「そう!私を入れる気に」
「俺に勝てたら入れてやる」

 女の言葉を遮り、言い切る。

「本当かしら!」

 女は、そのキンキン高い声をより一層高鳴らせて喜ぶが、俺達を見ていた周りの冒険者は一気に白けた様子で各々の作業に戻る。
 結果は見えている上に、冒険者には珍しい女とは言え、冒険者ギルドと対立している貴族を誘いたい奴なんているわけがない。

「俺は、自分より弱い奴をいれる気はない」

 要するに「いれるわけねーだろ」と遠回しに言っているのだが、馬鹿には通じないのか。目の前の女は、「望むところよ!」とウキウキしだす始末。

 この女。偉そうなうえに、自分に陶酔している節がある。手に負えない。

「俺は、第一級冒険者だぞ?勝てると思ってんのか?」
「ありゃりまえよ!」
「ありゃりまえ?」

 本当に戦うのも面倒で、「勝てるわけねーだろ」と再度遠回しに言っても、自信満々に謎の呪文を返された。聞いたことのない呪文に眉をひそめたら女は急に慌てた。

「も、勿論って言いたかったの!」

 俺はもう一度溜息をついた。
 ……こいつは、本物のバカらしい。

 本物の馬鹿と話すのは面倒くさい。なら、さっさと倒すか。残った酒をぐびっと仰ぎ、俺は武器であるブロードソードを持った。ギルド内にある闘技場に向かい歩けば、女はキョロキョロとギルド内を見ながらついてくる。

「闘技場申請宜しく」
「お子ちゃまなんだから、優しくしてあげてね」

 受付で、ミランダに冒険者カードを見せ、闘技場を使う許可をもらう。一部始終を見ていたミランダは、女に聞こえないように耳元で囁くが、こう言う奴は強めに倒しておかないとまたアタックしに来るので無視した。

 
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