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おまけ

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「健!!」

 人混みの中、爽やかな美形ということで周りの注目を集めている健を見つける。こちらも分かるように手を振り近づくと、健は分かりやすく嫌な顔をした。

「ごめん。おまたせ」
「それは良いんだけど……後ろのは……?」

 健は俺の腰に手を当てサングラスとマスクをかけ、深く帽子を被った怪しい男を指指す。どうみても怪しいのに、その類い稀なる体格とオーラが男を只者でないと示していた。

 健以上に周りの視線を集めている。

「あぁ、うん。……ごめん」

 申し訳なさそうに頭を下げる俺を他所に、後ろの男、香苗は会話に興味なさそうにそっぽを向いていた。

「はぁ……いいけどさ。俺のことちゃんと構ってね」
「分かってるよ」

 じゃあ、と俺の手を引こうとする健の手を後ろから香苗が叩き落とす。ムッとする健と、それを気にもしていない香苗。はっきり言って気まずい。

「あの、やっぱり今日は健と二人で」
「だめ」

 ここに来るまでも何度も繰り返した案は速攻却下された。何度言っても嫌がるし、仕方ないかと思っていたが思ったより香苗が不機嫌オーラ丸出しだ。

「健は義弟だって言ったよな?」

 あれから俺の家庭のことも話してある。実母との関係が良好だと知ると、香苗はあっさり「良かったな」と喜んでくれた。ずっと黙っていた罪悪感はあるものの、香苗は気にしていないようで俺もあまり考え過ぎないようしたのだが、健はダメだった。

 あれから健のことを洗いざらい尋問されて、親族だと伝えた時は納得していたが、前に誘われたことがあると漏らしてしまってからはもうダメだ。会うな。連絡を取るな、の一点張りで家族だから困ると言えば、渋々許してくれたが、二人きりで会うのはNGらしい。

「でも、あいつは男もいけるだろ?」
「健にだって選ぶ権利はあるから!」
「は? こんなに可愛い律を好きにならないわけないし」

 隣で健が砂を吐くような顔をしている。

「いや、可愛くないし」
「可愛い。俺の中では世界一可愛いし綺麗だ。俺は愛しい律が他の男と会おうとして、我慢できる男じゃない」
「い、愛しいとかっ……」

 最近聞き慣れた言葉だが、嬉しくて方がにやけそうだ。俺が可愛いとか、香苗の目はおかしくなってしまったみたいだ。どちらかと言うと怖いと言われるのに、可愛いとか綺麗とかそんな惚気。

「嫉妬深くてごめん。でも、愛してるから心配してしまう」

 もう何も言えなくて、ううと噛み潰した声が出る。恥ずかしい。嬉しい。ぴんと来ていなかった愛しいという感情を香苗が掴んでからずっとこうだ。何かと愛を伝えてくる。恥ずかしくて堪らないのに、嬉しくて堪らなくもあるから何も言えない。

「嫌わないで。律がいないと生きていけない」

 オーバーキルだ。もうこれ以上、嬉しい言葉を言わないで欲しい。溢れる感情のまま、俺の腰に添えた手をぎゅっと握った。

「嫌うわけないじゃん……」

 こんな幸せ。あの頃は想像出来ただろうか。愛なんて。そう言っていた頃の香苗はもういない。「分からせて貰えたからには、愛を注ぐよ」と宣言してからは、俺が顔を赤くする毎日だ。しらけそうな愛の言葉も、一等の美形が言うと様になるから慣れることもない。

「あのさ、話ずれてない?」

 つい二人の時間に飲み込まれていると、健が呆れたように話を本題に戻すよう促した。

「いちゃつくのは、まあ……いいとして。まじで俺、彼氏持ちにアプローチする気ないから」
「だよな!だから大丈夫だよ香苗」

 義弟の前で何をしているんだと、先ほどとは違う恥ずかしさに身を悶える。ちょっと、いや大分調子乗っているかも。気をつけようと反省しながら香苗を見ると少し悩んでいるようだった。

「別に会うなとは言わない。でも、会う時は俺も一緒で」
「嫉妬深い彼氏だなぁ」

 香苗なりの譲歩に、健が茶々を入れたが香苗は気にする様子もなく真っ直ぐ俺を見ている。

「分かった」
「それで分かっちゃうのが律だよね」
「……いちいち煩い」

 香苗に呆れていたはずの健が今度は俺に呆れていた。好きな相手には甘くなってしまうのはしょうがない。健だっていつか分かるはずだ。

 結局三人で個室居酒屋に入り、食事をした。最後の方では香苗も態度を軟化させて普通に話していて、どうやら健は大丈夫だと判断したらしい。お互いに連絡先まで交換していた。お会計は香苗が全部払っていて、健と二人で遠慮したが彼氏の務めだと自身ありげに言われたらこれ以上言うのも野暮だ。俺としては今まで同じように割り勘で構わないのだが、それを言うと寂しそうな顔をするので甘えておく。


「今日はありがとう」
「うん」

 シャワー浴び終えて、香苗の隣に座る。自然に引かれ合うようにキスをしてから、香苗が立ち上がるのを無言で止めた。

「どうした?」
「今日はそのままでいい」
「結構汗かいたけど」
「それがいいんだよ」

 しょうがないな、と香苗はベッドに深く座り直し、俺を押し倒した。

「恋人が変態で嬉しい」
「俺が変態でも喜んでくれて嬉しい」

 真顔で言い合ってから、吹き出すように笑う。なんだこの幸せな時間は。自分でも相当バカップルみたいだと分かっているが、今はこの時間を楽しめばいいと思う。

 クスクス笑いながら、合間にキスをして服を脱がす。脱いでいる間もどこかしら身体は触っていて、ひとかけらも離れたくなかった。
 優しい手触りで、香苗が俺の肌を撫でる。くすぐったくて、でもゾクゾクとした快感が背中を通り過ぎた。

 期待で乳首がぷっくり勃ち上がり、香苗がそれを軽く噛みながら口の中で転がす。俺は少し痛い方が気持ち良いから、つい喘ぎ声が漏れた。口が寂しくて、香苗の耳を喰み、じんわりと襲い来る快感をやり過ごす。

「律……」

 俺のことを確かめるように、香苗が何度も俺の名前を呼んだ。その呼び声に返すように香苗を抱きしめる。今や俺のペニスは勃っていて、香苗は遠慮なくそこを扱いた。強い快感を覚えながら、俺も香苗のペニスに手を伸ばす。

 香苗のペニスは下走りで濡れて硬く腫れていて、俺だけじゃなく香苗も興奮してくれていることが嬉しい。

 後孔は既に自分で解してあり、それに気付いた香苗は不満そうに「俺がやるのに」と呟く。

「早くしたくて堪らなかったんだよ」

 俺が笑ってそう返せば、仕方ないなとばかりに抱きしめられた。

 ゆっくり香苗のペニスが挿入される。腹の中で感じる質量は、じんと響くようなやわい快感をもたらす。気をつけなければ射精してしまいそうで、我慢すれば中がきつく包むようで、香苗が眉間に皺を寄せた。

「イクかと思った……」

 漸く馴染んだ頃に、俺の頬を撫でながら香苗が照れ笑う。

「俺も」

 興奮と幸福に包まれながら行うセックスは骨の髄まで染み込んで、俺の心を変えてしまった。もう身体だけの関係では満足できない。

「香苗、愛してるよ」

 何故か愛を伝えたくなった。思いのまま、香苗に伝える。

「俺も愛してる」

 いつか夢見ていた。香苗が愛を知って幸せになることを。もし、もし愛した相手が俺であって、俺と共に幸せになってくれたらと何度も妄想して諦めた。そして、諦めた未来が今ここにはある。

 この幸せを離したりしない。
 俺は今一度、そう決意して香苗にキスをした。




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みんなの感想(1件)

榎茸滑子
2024.05.22 榎茸滑子

いやぁ尊かった…。続き待ってます!

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