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目が覚めた。パーシヴァルさんはまだ眠っているらしい。気恥ずかしさからベッドを出て行きたくなったけれど今日は留まることにした。前回先にベッドを出たことを非難されたからだ。それでもやっぱり恥ずかしいからパーシヴァルさんに背を向けた。
不意に体に腕が絡みついて離れていた体の距離がゼロになる。
「おはようございます。パーシヴァルさん」
「ミナーヴァ、おはようございます」
「……今日はベッドにいてくれたんですね」
「……恥ずかしいですけど我慢しました」
つむじに唇が触れた気配がした。
「あなたは本当に可愛らしい」
いつにも増して甘い声音でそんなことを言われて私は真っ赤になった。
「……ミナーヴァ、こちらを向いてください」
「今は無理です」
「首筋が赤くなっていますよ」
赤くなっているのがバレていると知らされてさらに顔が熱くなった。
「耳も赤いですね」
そんな冷静に実況しないでほしいと心の底から思った。
「ほら、こちらを向いてください」
無理だと私は顔を左右に振る。
「赤くなっていることは分かっているんですからいいじゃありませんか」
どこか拗ねたような声でそう言うものだから、パーシヴァルさんが今どんな表情をしているのか見たくなった。
意を決して振り向けば額に口付けられた。パーシヴァルさんは微笑んでいた。
「ミナーヴァ、今日は忙しいですよ。教会に行って結婚式を頼まなければいけないんですから」
「やっぱり大安がいいとかこの世界にもあるんでしょうかね」
「大安?」
「私の世界の結婚式にいい日です」
「ジューンブライドみたいなものですか?」
「いえ、大安はただの縁起がいい日なので別に大安に式を挙げたからって幸せになれるという言い伝えはありません。というかパーシヴァルさんの世界にもジューンブライドってあるんですね」
「はい。俺も正直ジューンブライドがミナーヴァに伝わるとは思ってませんでした。あとはサムシングフォーですね。これは用意できないか」
「古いものと新しいものと借りたものと青いものですっけ?」
「はい」
「古いものが無理ですね。祖母や母から受け継いだものを身に着けるんですよね? 確か」
「そうです。せめて、式は六月にしましょうか」
「別にいつでも大丈夫ですけど今は三月ですし丁度いいかもしれないですね」
「ではそうしましょう」
それから二人で順番にシャワーを浴びた。朝食の用意があるので私が先だ。今日は目玉焼きを焼いてサンドイッチにしよう。昨日のミネストローネが残ってるからそれも温めておかなくちゃ。
「美味しいです」
「それはよかったです」
幸せだなと思った。パーシヴァルさんはいつだって私の料理を美味しいと言って食べてくれる。こんな瞬間を積み重ねていけたらきっとずっと幸せでいられる。この人とならそれが可能だろうとも思った。結婚の約束もしたことだし、これからもきっとこんな穏やかな日々が続いていくのだろうと思って笑みが零れた。
「ミナーヴァ、どうかしましたか」
「いえ幸せだなって思ったんです」
「俺も幸せです」
そう言って微笑んだパーシヴァルさんの笑みはそれはそれは美しく幸せそうだった。今の私もきっと同じような顔をしていることだろう。幸せがなにかの形を取るとしたらきっと今の食卓の光景になるのだろうと思って、この幸せが壊れないように、ずっと続くように努力をしようと思った。
「愛してます。パーシヴァルさん」
パーシヴァルさんは一瞬目を見開いてそれから口を開いた。
「俺も愛していますよ。ミナーヴァ」
不意に体に腕が絡みついて離れていた体の距離がゼロになる。
「おはようございます。パーシヴァルさん」
「ミナーヴァ、おはようございます」
「……今日はベッドにいてくれたんですね」
「……恥ずかしいですけど我慢しました」
つむじに唇が触れた気配がした。
「あなたは本当に可愛らしい」
いつにも増して甘い声音でそんなことを言われて私は真っ赤になった。
「……ミナーヴァ、こちらを向いてください」
「今は無理です」
「首筋が赤くなっていますよ」
赤くなっているのがバレていると知らされてさらに顔が熱くなった。
「耳も赤いですね」
そんな冷静に実況しないでほしいと心の底から思った。
「ほら、こちらを向いてください」
無理だと私は顔を左右に振る。
「赤くなっていることは分かっているんですからいいじゃありませんか」
どこか拗ねたような声でそう言うものだから、パーシヴァルさんが今どんな表情をしているのか見たくなった。
意を決して振り向けば額に口付けられた。パーシヴァルさんは微笑んでいた。
「ミナーヴァ、今日は忙しいですよ。教会に行って結婚式を頼まなければいけないんですから」
「やっぱり大安がいいとかこの世界にもあるんでしょうかね」
「大安?」
「私の世界の結婚式にいい日です」
「ジューンブライドみたいなものですか?」
「いえ、大安はただの縁起がいい日なので別に大安に式を挙げたからって幸せになれるという言い伝えはありません。というかパーシヴァルさんの世界にもジューンブライドってあるんですね」
「はい。俺も正直ジューンブライドがミナーヴァに伝わるとは思ってませんでした。あとはサムシングフォーですね。これは用意できないか」
「古いものと新しいものと借りたものと青いものですっけ?」
「はい」
「古いものが無理ですね。祖母や母から受け継いだものを身に着けるんですよね? 確か」
「そうです。せめて、式は六月にしましょうか」
「別にいつでも大丈夫ですけど今は三月ですし丁度いいかもしれないですね」
「ではそうしましょう」
それから二人で順番にシャワーを浴びた。朝食の用意があるので私が先だ。今日は目玉焼きを焼いてサンドイッチにしよう。昨日のミネストローネが残ってるからそれも温めておかなくちゃ。
「美味しいです」
「それはよかったです」
幸せだなと思った。パーシヴァルさんはいつだって私の料理を美味しいと言って食べてくれる。こんな瞬間を積み重ねていけたらきっとずっと幸せでいられる。この人とならそれが可能だろうとも思った。結婚の約束もしたことだし、これからもきっとこんな穏やかな日々が続いていくのだろうと思って笑みが零れた。
「ミナーヴァ、どうかしましたか」
「いえ幸せだなって思ったんです」
「俺も幸せです」
そう言って微笑んだパーシヴァルさんの笑みはそれはそれは美しく幸せそうだった。今の私もきっと同じような顔をしていることだろう。幸せがなにかの形を取るとしたらきっと今の食卓の光景になるのだろうと思って、この幸せが壊れないように、ずっと続くように努力をしようと思った。
「愛してます。パーシヴァルさん」
パーシヴァルさんは一瞬目を見開いてそれから口を開いた。
「俺も愛していますよ。ミナーヴァ」
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