取り巻き令嬢Fの婚活

キマイラ

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 さて、前世の記憶を取り戻し現実を直視した私ことフェリシア・フォーテスキューの婚活は行き詰まっていた。始めたばかりなのになんで行き詰まるの? という疑問を抱いたそこの君、私の愚痴……じゃなくて話を聞いてくれ。

 現在私はグラント王国の王都にある学園に通っている。この学園というのは六年制で、丁度中学から高校までの期間だ。制服はなぜか前世でお馴染みのブレザー。普段はコルセットにドレスなのに不思議だよね。生徒は国中から集まった貴族が大半で、庶民も少しだけ居る。まあ庶民と言っても裕福な家の子供しか通えないのだけれど。私は四年生だから折り返し地点を過ぎている。

「ええ、目ぼしい人間にはもう相手が居るのですよ」

 ズバリ、出遅れたのだ。手堅い者達は入学当初から良さそうな相手を見繕って戦いを始めていた。この世界は乙女ゲームなだけあって自由恋愛推奨だから貴族でも子供の頃から婚約者が居る人はかなり少ない。そのためこの国における学園というのは言わば集団見合い会場なのだ。人間性も生活態度も分かるから将来的に失敗も少ない素敵なお見合いである。

「今ならまだどうにかできるんじゃないか」

「アンダーソンさん、私にロマンスの戦場で勝利する力が有る様に見えますか?」

 この頃よく話すようになった男はなんとも言えない表情で黙ってしまった。まあ面と向かって無いなんて言えないよね。我々の関係はせいぜい茶飲み友達だ。そこまで歯に衣着せぬ物言いができる程親しくはない。

「冗談はさておき略奪愛は遠慮したいな、と」

「……しかし早く手を打たないとますます大変になるぞ」

「分かってます! 分かってるんです! 年々相手が居なくなることは。でも、下手に妥協する訳にはいきません。私の結婚相手イコール未来の領主様ですもの。……というかアンダーソンさんかなり実感入ってませんか?」

「……別に選り好みした訳ではないんだ。ただ学生時代は特に相手を探す必要を感じていなかった。大人になってからでも遅くはないと思っていたんだ」

「それって、まさか……」

 なんとなく嫌な予感がしてゴクリと唾を飲んだ。男は重々しく頷いて続ける。

「たぶん、君の想像通りだと思うが続けるぞ。卒業したら、学生時代の知り合いは軒並み既婚者で、残っているのは色々と問題の有る人物ばかりだった。それに見合いの話も年々減っていく。この年まで独りなんてどこか問題の有る人間なのでは? とまともな親は考えるんだろうな」

 アンダーソンさんの年齢は27歳。前世なら全然結婚してなくてもおかしくない年齢だがこの世界ではかなりヤバいらしい。どこか遠い目をする男にかけるべき言葉は見つからなかった。それでも一縷の望みを託して問いかける。情けない事に声が震えてしまう。

「出会いは、無いのでしょうか……?」

「有るには有った。だが子守りのせいで別れた」

 沈黙が場を支配した。ここ数年で一番怖い話を聞いた気がする。しかも子守りって、アレックス様の事だよね。元取り巻きとしては良心が痛んだ。

「いや、あのすみません本当に。アレックス様をあちこち連れ出して」

「別に君のせいではない。謝らないでくれ」

「……アンダーソンさん」

「……とにかく急いだ方がいい。先達としてこれだけは言える」

「……頑張ります。いえ、頑張りましょう、アンダーソンさん。今ならまだギリギリ間に合います。手遅れになる前に相手を見付けるんです。これからの人生で一番若いのは今なんですよ。目指せ結婚、頑張ろう婚活、です」

「……目指せ結婚、頑張ろう婚活」

 復唱するも目が虚ろなまま。私の励まし程度では希望は見出だせないらしい。

「そうですよ、同年代がダメならもっと若い子を狙いましょう。さくっと既成事実を作って娶っちゃえばいいんですから」

「そのやり方はまずいだろう」

「無理矢理じゃなければ問題無いと思いますけど。責任取るなら大丈夫ですよ。……まあ既成事実は置いておいて年下狙いは結構良い案だと思うんですけど。学生相手なら私も協力しますよ」

 自然な出逢いイベントの演出とか相手のリサーチとかなら全然協力しますよ、うん。私は元取り巻きとしての罪悪感が消えるしアンダーソンさんにはチャンスが生まれる。いいこと尽くめだよね。

「君はなんというか豪胆だな」

「その、……いい人が居たらふん縛ってでも領地に連れて帰りなさいと言われて育ったものでつい」

「君の親御さんはすごいな」

「なかなか強烈でしょう?」

 どうやらアンダーソンさんも普段の調子に戻ったようだ。よかったよかった。

「しかし、無理矢理領地に連れて行っても逃げられないか?」

「そこはほら、私と結婚すれば領主様ですし」

「……君はそれで幸せになれるのか?」

「……まあ、連れて帰ってから私にメロメロにすればいいだけですから。本当はメロメロにしてから連れて帰るのが一番なんですけどね」

 胃袋を掴めばこっちのもんだってお母様も言ってたし、たぶんいける。……いける、よね? あ、ダメだ急に不安になってきた。私の暮らしている国って結構広くて東西南北で食文化が異なるの。他の地方の料理も一応作れるけど南部出身の私としてはそこまで自信が無い。南部料理だけでもいけるかしら? でも人間って食べ慣れたものが一番美味しいって言うし。

「そもそもターゲットが定まっていないのでそれ以前の問題です。狩りをするにも獲物を見つけないといけません。……というかそちらはどうなんです? 誰か居ないんですか? 気になる子とか好みの子とか」

 他人の恋バナって楽しいよね! ということでワクワクしながら話題を変える。

 「特には」

 居ないんですか? 本当に? え、アンダーソンさん、本当に高望みしてないんですよね? と聞けなかった私はただのチキンである。ただ自分よりもまずい状況の人間が居ると分かると途端に安心するのは何故だろうか。

 急に心に余裕ができた私は紅茶に口を付けた。ああ、やっぱりミルクティーって美味しいよね。……ちょっと冷めてるけど。
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