2 / 2
出てってやるよっ、こんなとこ!!(ヤケクソ)
しおりを挟む
「アサヒ様もお稽古ですか? 熱心ですね。ツクト様についていけないというのに」
「欠陥品だからしょうがないさ……っと、すみません」
ボソボソ言うな、そこ。
聞こえてるんだよ。
ギロリと睨めば、「おお怖い」とわざとらしく肩をすくめられる。
怖いとか思ってないだろ。
アサヒは不機嫌であった。
こんなことを心の中でブツブツと呟くくらいには。
「アサヒー!」
その時、ツクトがアサヒに駆け寄ってきた。
「アサヒお疲れ! もうちょっと頑張ろうね!」
「マジかよ」
「うん! だってアサヒ弱いし」
「うるせぇ」
ズバズバと意見を言ってくるツクトには気が滅入る。
こいつ俺のこと嫌いなのか? とまで思えてきた。
でもニコニコしているし、悪気はないんだろう。
召喚されて一週間。
アサヒは何とか勇者の相棒として食い繋いでいた。
ネームバリューが大変お役立ちなこともあり、追い出されるような真似はされていない。
だが、冷遇っぷりがあまりに酷い。
ここまでするかというレベルのものだ。
全ては役立たずのアサヒへの期待外れの当て付けと、勇者ツクトという膨大な存在を手に入れたことの浮かれから来ているのだろう。
ツクト自身は何とも思っていないようだが、アサヒはもうこりごりだった。
「ツクト……」
「なぁに?」
「お前、これから稽古して……本当に世界を救うのか」
魔王とかに立ち向かって。
そう尋ねれば、「うん」としっかりとした返事が返ってくる。
「いいのか。死ぬかもしれないんだぞ」
「……苦しんでる人がいるなら、私が助けたいよ。私が勇者に選ばれたのならそうしたい」
別にアサヒはツクトのことが嫌いではない。
寧ろ好いている部類に入るのだろう。
しかし何度も言うがアサヒは、もう勇者の相棒としてやっていける気がしないのだ。
「そうか。頑張れよ」
「うん!」
それだけ言い残して。
アサヒは王宮から出ることを決めた。
◆ ◆ ◆
「俺は役立たずです。何もできません。ですので、ここに厄介になるのも迷惑です。王宮を出ようと思います」
国王に謁見し、ひたすらに頭を低くしてそう述べれば、「そうか」とどこか気の抜けた返答をされた。
「ならば商人を紹介しよう。その商人の弟子となり、商人として生きていくといい」
「ありがとうございます」
これはアサヒにとってありがたい話である。
もういっそ着の身着のまま出て行ってやろうとも考えていたが、この申し出を受けない理由はない。
国王が何かを合図すると、傍らで控えていた臣下の一人が書状のようなものを持ってきた。
それにサラサラとペンを走らせ、臣下に返す。
すると臣下がアサヒに書状を手渡してきた。
「そちらの書状があれば、商人の方が受け入れてくれるでしょう。ヘルドという街に住む、アンドリアを訪ねるといい」
書状を受け取り、アサヒは玉座の間を出た。
旅荷物は既にまとめてある。
王宮を出て、改めて見上げてみれば、立派なものだった。
中世のヨーロッパ風の、想像していた異世界の造りそのものだ。
「地図貰ったけど、読みづらいな……」
『ヘルドの街へナビを開始しますか』
「あー、うん。よろしく頼ーー」
何だこの声。
ポカンとして開いた口が塞がらない。
どこからか聞こえてきた謎の声は、続けた。
『スキル『取得』と申します。どうぞお役立てください』
「欠陥品だからしょうがないさ……っと、すみません」
ボソボソ言うな、そこ。
聞こえてるんだよ。
ギロリと睨めば、「おお怖い」とわざとらしく肩をすくめられる。
怖いとか思ってないだろ。
アサヒは不機嫌であった。
こんなことを心の中でブツブツと呟くくらいには。
「アサヒー!」
その時、ツクトがアサヒに駆け寄ってきた。
「アサヒお疲れ! もうちょっと頑張ろうね!」
「マジかよ」
「うん! だってアサヒ弱いし」
「うるせぇ」
ズバズバと意見を言ってくるツクトには気が滅入る。
こいつ俺のこと嫌いなのか? とまで思えてきた。
でもニコニコしているし、悪気はないんだろう。
召喚されて一週間。
アサヒは何とか勇者の相棒として食い繋いでいた。
ネームバリューが大変お役立ちなこともあり、追い出されるような真似はされていない。
だが、冷遇っぷりがあまりに酷い。
ここまでするかというレベルのものだ。
全ては役立たずのアサヒへの期待外れの当て付けと、勇者ツクトという膨大な存在を手に入れたことの浮かれから来ているのだろう。
ツクト自身は何とも思っていないようだが、アサヒはもうこりごりだった。
「ツクト……」
「なぁに?」
「お前、これから稽古して……本当に世界を救うのか」
魔王とかに立ち向かって。
そう尋ねれば、「うん」としっかりとした返事が返ってくる。
「いいのか。死ぬかもしれないんだぞ」
「……苦しんでる人がいるなら、私が助けたいよ。私が勇者に選ばれたのならそうしたい」
別にアサヒはツクトのことが嫌いではない。
寧ろ好いている部類に入るのだろう。
しかし何度も言うがアサヒは、もう勇者の相棒としてやっていける気がしないのだ。
「そうか。頑張れよ」
「うん!」
それだけ言い残して。
アサヒは王宮から出ることを決めた。
◆ ◆ ◆
「俺は役立たずです。何もできません。ですので、ここに厄介になるのも迷惑です。王宮を出ようと思います」
国王に謁見し、ひたすらに頭を低くしてそう述べれば、「そうか」とどこか気の抜けた返答をされた。
「ならば商人を紹介しよう。その商人の弟子となり、商人として生きていくといい」
「ありがとうございます」
これはアサヒにとってありがたい話である。
もういっそ着の身着のまま出て行ってやろうとも考えていたが、この申し出を受けない理由はない。
国王が何かを合図すると、傍らで控えていた臣下の一人が書状のようなものを持ってきた。
それにサラサラとペンを走らせ、臣下に返す。
すると臣下がアサヒに書状を手渡してきた。
「そちらの書状があれば、商人の方が受け入れてくれるでしょう。ヘルドという街に住む、アンドリアを訪ねるといい」
書状を受け取り、アサヒは玉座の間を出た。
旅荷物は既にまとめてある。
王宮を出て、改めて見上げてみれば、立派なものだった。
中世のヨーロッパ風の、想像していた異世界の造りそのものだ。
「地図貰ったけど、読みづらいな……」
『ヘルドの街へナビを開始しますか』
「あー、うん。よろしく頼ーー」
何だこの声。
ポカンとして開いた口が塞がらない。
どこからか聞こえてきた謎の声は、続けた。
『スキル『取得』と申します。どうぞお役立てください』
0
お気に入りに追加
27
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました
ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。
大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。
ー---
全5章、最終話まで執筆済み。
第1章 6歳の聖女
第2章 8歳の大聖女
第3章 12歳の公爵令嬢
第4章 15歳の辺境聖女
第5章 17歳の愛し子
権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。
おまけの後日談投稿します(6/26)。
番外編投稿します(12/30-1/1)。
作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる