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特別話 イリスとレオン
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俺は、ただ真っ白な空間であいつの人生を見守っていた。
今世のあいつは十六歳でイリスの生まれ変わりを見つけ出し、王位争いとかいうよくわからないものに巻き込まれつつ、イリスの生まれ変わりを自分のものにしてみせた。
あいつはイリスを助けられなかった負い目があり、イリスの生まれ変わりに想いを伝えることを最初はしなかった。
しかしイリスの生まれ変わりがあいつを好きになり、恋人となった。
ーーその一連のことを眺め、俺はあいつが羨ましいと思う。
恋人とそうしてそばにいることができるのだから。
俺はイリスの生まれ変わりーーイリーシャの中にいるイリスに触れられないというのに。
そう思ってたのは、つい最近までだった。
イリーシャが1年越しに目覚め、一週間経った頃。
突然俺の元へイリスがやってきたのだ。
「レオン」
「……イリス?」
「待たせてしまってごめんなさい。でも、あの子はもう、私がいなくても大丈夫みたい」
イリスはそう言って微笑んだ。
俺もつられてフッと笑い、「遅い」とイリスに言う。
「どれだけ待たせるんだ。待ちくたびれたぞ」
「それでも、こうしてまた会えた」
「……ふん」
イリスは俺の頬にそっと手を当てると、ツゥッと涙を流した。
その涙はなぜか、拭う気にはなれなかった。
イリスは泣きながら、俺にしがみつく。
「また、会えた……ありがとう。私を見つけ出してくれて、ありがとう」
「ああ。たとえもう一度離れ離れになっても、俺はお前を見つけるさ」
「うん。わかってる。私も、どれだけ経ってもあなたが好きよ」
さて、俺達はもう現世のあいつらには不必要な存在だ。
厄介者は早々に退場しよう。
「イリス。俺もそろそろ行くとするよ」
「そうね。そろそろ、帰る時ね」
俺達は帰らなければならない。
あの天の世界に。
イリスを殺したあの世界だが、紛れもない俺達の故郷。
「今度は絶対、あんな目には合わせない」
「私も十分気をつけなきゃね。マリンとような神が現れたら厄介だし」
神界に戻るための禊は終了した。
禊というのは……世界を救うこと。
イリーシャは自分の父親を『治癒魔法』で治し、この国の混乱を沈めた。
だからもう俺達は帰るのだ。
あの、懐かしき世界に。
「……ねえ、レオン」
「何だ」
「私達、間違ってたかしら」
自信なさげにそう、ポツリと零す。
思わず出た言葉なのだろう。
言うつもりはなかったとばかりに、イリスは自分の口を塞ぐ。
「……俺達は大罪人だ。現世の俺達に辛い思いをさせてしまった」
「そうね。イリーシャ、泣いてたわ」
「それと同時に、あいつらに感謝している。あいつらのお陰で、俺はお前に会えた」
「………」
「素直に、感謝しておけ」
「そう、ね。私達にとって、あの子達は我が子みたいなものだものね」
あながち間違ってはいない表現だ。
生まれ変わりの、我が子の幸せを願いつつ、俺達は旅立つ。
イリスの笑い方は、もう悲壮感を含んだ笑みではなくなっていた。
今世のあいつは十六歳でイリスの生まれ変わりを見つけ出し、王位争いとかいうよくわからないものに巻き込まれつつ、イリスの生まれ変わりを自分のものにしてみせた。
あいつはイリスを助けられなかった負い目があり、イリスの生まれ変わりに想いを伝えることを最初はしなかった。
しかしイリスの生まれ変わりがあいつを好きになり、恋人となった。
ーーその一連のことを眺め、俺はあいつが羨ましいと思う。
恋人とそうしてそばにいることができるのだから。
俺はイリスの生まれ変わりーーイリーシャの中にいるイリスに触れられないというのに。
そう思ってたのは、つい最近までだった。
イリーシャが1年越しに目覚め、一週間経った頃。
突然俺の元へイリスがやってきたのだ。
「レオン」
「……イリス?」
「待たせてしまってごめんなさい。でも、あの子はもう、私がいなくても大丈夫みたい」
イリスはそう言って微笑んだ。
俺もつられてフッと笑い、「遅い」とイリスに言う。
「どれだけ待たせるんだ。待ちくたびれたぞ」
「それでも、こうしてまた会えた」
「……ふん」
イリスは俺の頬にそっと手を当てると、ツゥッと涙を流した。
その涙はなぜか、拭う気にはなれなかった。
イリスは泣きながら、俺にしがみつく。
「また、会えた……ありがとう。私を見つけ出してくれて、ありがとう」
「ああ。たとえもう一度離れ離れになっても、俺はお前を見つけるさ」
「うん。わかってる。私も、どれだけ経ってもあなたが好きよ」
さて、俺達はもう現世のあいつらには不必要な存在だ。
厄介者は早々に退場しよう。
「イリス。俺もそろそろ行くとするよ」
「そうね。そろそろ、帰る時ね」
俺達は帰らなければならない。
あの天の世界に。
イリスを殺したあの世界だが、紛れもない俺達の故郷。
「今度は絶対、あんな目には合わせない」
「私も十分気をつけなきゃね。マリンとような神が現れたら厄介だし」
神界に戻るための禊は終了した。
禊というのは……世界を救うこと。
イリーシャは自分の父親を『治癒魔法』で治し、この国の混乱を沈めた。
だからもう俺達は帰るのだ。
あの、懐かしき世界に。
「……ねえ、レオン」
「何だ」
「私達、間違ってたかしら」
自信なさげにそう、ポツリと零す。
思わず出た言葉なのだろう。
言うつもりはなかったとばかりに、イリスは自分の口を塞ぐ。
「……俺達は大罪人だ。現世の俺達に辛い思いをさせてしまった」
「そうね。イリーシャ、泣いてたわ」
「それと同時に、あいつらに感謝している。あいつらのお陰で、俺はお前に会えた」
「………」
「素直に、感謝しておけ」
「そう、ね。私達にとって、あの子達は我が子みたいなものだものね」
あながち間違ってはいない表現だ。
生まれ変わりの、我が子の幸せを願いつつ、俺達は旅立つ。
イリスの笑い方は、もう悲壮感を含んだ笑みではなくなっていた。
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