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第三十二話 巻き込み合戦
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階段を登って、私達は2階にたどり着く。
面倒なことに階段は別々にあって、一気に駆け上ることはできなくなっている。
「よし、ここからはステルスを使っていこう」
ライヴ先輩の提案に沿って、私達はステルスを発動する。
といっても、ステルスは消費魔力が多いので、人が来た時のみだ。
早速巡回中の兵士がやってきたので、ステルスを使う。
「急げ。どうやら地下にいた魔物が脱走したらしい」
「全部か?」
「最悪なことにな」
「まだ死にたかねぇよ……」
兵士達が見えなくなった後、ステルスを解く。
そんな会話をしながら去って行ったので、私達は不審に思った。
「魔物って……あの、物語の中の?」
物語で登場する魔物は、神様と同じく架空の存在として扱われている。
魔の者の使いとしてやってきて、人間に攻撃するんだとか。
そんなものが、王宮の地下にいたなんて。
「確か、地下には地下牢があったはず……」
「私は聞いたことがあるわ」
そう言い出したのはアンちゃんだった。
「地下牢には、『治癒魔法』の実験体であった動物が閉じ込められていて、研究の末に普通の動物とは比べ物にならないくらいの力を手にしたんだって」
「そんな実験が……」
「研究は、王家が代々後ろ盾を勤めてきたからね」
そう言った時だった。
「わぁあああああっ!?」
「!?」
少年のような、青年のような、野太い悲鳴。
その声には聞き覚えがあった。
「ベークリフトお兄様……」
「ベークリフト様、お下がりください! ここは私達が引き受けます!」
続けて聞こえてくる、兵士の勇ましい声。
この声は、すぐ近くの部屋から聞こえてくる。
「……無視しちゃダメか?」
そうレオナルドが聞いてきたので、私は躊躇いながら答える。
「多分無視したら、一生後悔する」
「そうか。わかった」
そう返事した瞬間、レオナルドがその部屋に飛び込んだ。
私達も後に続く。
「おっ、お前……!? イリーシャ!? 何でここに!?」
「お父様を治しに来ました」
ベークリフトお兄様は、私が来たことにとても驚いている。
でもごめんなさい。
お兄様に構っている余裕はないの。
「あれは……」
大型の熊がヨダレを垂らし、こちらを睨んでいる。
床が破壊されているところ、地下から突っ切ってきたのだろう。
「こんなことってあり得るのかよ……」
レオナルドが冷や汗をかきつつ、口元に笑みを浮かべる。
実際に目の前で起きていることが信じられないのだろう。
「がぁああああああっ!!」
熊が雄叫びを上げ、兵士達を蹴散らした。
グラグラと地面が揺れて、このままじゃ床が底ぬけてしまうことがわかる。
と、その時。
キュボッ!!
空気が擦り切れる音と共に、ライヴ先輩が熊に蹴りを入れた。
熊が壁を壊し、瓦礫と共に外へ吹っ飛ぶ。
「………」
「はぇ……?」
その光景を、兵士達やベークリフトお兄様はポカンと見つめた。
ライヴ先輩は感触を確かめるように、何度もその場で足踏みをする。
「な、何なんだ……イリーシャ王女の護衛か?」
「いや、あの姿見たことあるぞ。ネアル様の従者じゃないか?」
兵士達がヒソヒソと会話する中、ベークリフトお兄様が我に返って私に叫ぶ。
「み、ミリスが!! ミリスが死ぬ!!」
「え? ミリスお姉様が?」
「ほら!!」
ベークリフトお兄様の近くには、頭から血を流したミリスお姉様が寝そべっている。
それを見てサーッと私は顔を青くした。
「ミリスを助けてくれ!! このままじゃっ、死んじゃっ」
「リア。『治癒魔法』は使うなよ」
「レオナルド……」
横から出てきたのはレオナルドであった。
レオナルドの言ったことに、ベークリフトお兄様は目つきを鋭くした。
「お前っ、ミリスを見殺しにするのか!! この人殺し!!」
「俺達を殺そうとしただろ。この人殺し」
「っ……」
それにはぐうの音も出ないらしく、ベークリフトお兄様は言葉に詰まる。
「安心しろ」とレオナルドはぶっきらぼうに言った。
「気絶してるだけだ」
「え?」
ガッとレオナルドがミリスお姉様の胸ぐらを掴んだかと思えば、お姉様に何度かビンタした。
それを見たアンちゃんが「うわぁ」と声を上げる。
「な、何するんだお前ーーっ!?」
「いったあぁあい!!」
ベークリフトお兄様が叫んだのと同時に、ミリスお姉様が絶叫して飛び起きた。
そして私を見るや否や、ポカンとする。
「え……? イリーシャ? あれ、待って、どうなって?」
「お前、大丈夫なのか?」
「え? あ、熊は!?」
「吹っ飛ばした」
ミリスお姉様に答えるレオナルド。
レオナルドを見て、ミリスお姉様は「あーっ!」と指を差した。
「この前の美少年!!」
「静かにしろ。脳震盪を起こしてたんだぞ」
「は? あ、ちょっとクラクラしてきた」
ミリスお姉様とベークリフトお兄様は大丈夫そうだ。
私は兵士に声をかける。
「兵士の皆さん。お兄様とお姉様を頼みます」
「い、イリーシャ様はどうなさるので?」
「お父様を助けに行きます」
私達は急いでその場を後にした。
面倒なことに階段は別々にあって、一気に駆け上ることはできなくなっている。
「よし、ここからはステルスを使っていこう」
ライヴ先輩の提案に沿って、私達はステルスを発動する。
といっても、ステルスは消費魔力が多いので、人が来た時のみだ。
早速巡回中の兵士がやってきたので、ステルスを使う。
「急げ。どうやら地下にいた魔物が脱走したらしい」
「全部か?」
「最悪なことにな」
「まだ死にたかねぇよ……」
兵士達が見えなくなった後、ステルスを解く。
そんな会話をしながら去って行ったので、私達は不審に思った。
「魔物って……あの、物語の中の?」
物語で登場する魔物は、神様と同じく架空の存在として扱われている。
魔の者の使いとしてやってきて、人間に攻撃するんだとか。
そんなものが、王宮の地下にいたなんて。
「確か、地下には地下牢があったはず……」
「私は聞いたことがあるわ」
そう言い出したのはアンちゃんだった。
「地下牢には、『治癒魔法』の実験体であった動物が閉じ込められていて、研究の末に普通の動物とは比べ物にならないくらいの力を手にしたんだって」
「そんな実験が……」
「研究は、王家が代々後ろ盾を勤めてきたからね」
そう言った時だった。
「わぁあああああっ!?」
「!?」
少年のような、青年のような、野太い悲鳴。
その声には聞き覚えがあった。
「ベークリフトお兄様……」
「ベークリフト様、お下がりください! ここは私達が引き受けます!」
続けて聞こえてくる、兵士の勇ましい声。
この声は、すぐ近くの部屋から聞こえてくる。
「……無視しちゃダメか?」
そうレオナルドが聞いてきたので、私は躊躇いながら答える。
「多分無視したら、一生後悔する」
「そうか。わかった」
そう返事した瞬間、レオナルドがその部屋に飛び込んだ。
私達も後に続く。
「おっ、お前……!? イリーシャ!? 何でここに!?」
「お父様を治しに来ました」
ベークリフトお兄様は、私が来たことにとても驚いている。
でもごめんなさい。
お兄様に構っている余裕はないの。
「あれは……」
大型の熊がヨダレを垂らし、こちらを睨んでいる。
床が破壊されているところ、地下から突っ切ってきたのだろう。
「こんなことってあり得るのかよ……」
レオナルドが冷や汗をかきつつ、口元に笑みを浮かべる。
実際に目の前で起きていることが信じられないのだろう。
「がぁああああああっ!!」
熊が雄叫びを上げ、兵士達を蹴散らした。
グラグラと地面が揺れて、このままじゃ床が底ぬけてしまうことがわかる。
と、その時。
キュボッ!!
空気が擦り切れる音と共に、ライヴ先輩が熊に蹴りを入れた。
熊が壁を壊し、瓦礫と共に外へ吹っ飛ぶ。
「………」
「はぇ……?」
その光景を、兵士達やベークリフトお兄様はポカンと見つめた。
ライヴ先輩は感触を確かめるように、何度もその場で足踏みをする。
「な、何なんだ……イリーシャ王女の護衛か?」
「いや、あの姿見たことあるぞ。ネアル様の従者じゃないか?」
兵士達がヒソヒソと会話する中、ベークリフトお兄様が我に返って私に叫ぶ。
「み、ミリスが!! ミリスが死ぬ!!」
「え? ミリスお姉様が?」
「ほら!!」
ベークリフトお兄様の近くには、頭から血を流したミリスお姉様が寝そべっている。
それを見てサーッと私は顔を青くした。
「ミリスを助けてくれ!! このままじゃっ、死んじゃっ」
「リア。『治癒魔法』は使うなよ」
「レオナルド……」
横から出てきたのはレオナルドであった。
レオナルドの言ったことに、ベークリフトお兄様は目つきを鋭くした。
「お前っ、ミリスを見殺しにするのか!! この人殺し!!」
「俺達を殺そうとしただろ。この人殺し」
「っ……」
それにはぐうの音も出ないらしく、ベークリフトお兄様は言葉に詰まる。
「安心しろ」とレオナルドはぶっきらぼうに言った。
「気絶してるだけだ」
「え?」
ガッとレオナルドがミリスお姉様の胸ぐらを掴んだかと思えば、お姉様に何度かビンタした。
それを見たアンちゃんが「うわぁ」と声を上げる。
「な、何するんだお前ーーっ!?」
「いったあぁあい!!」
ベークリフトお兄様が叫んだのと同時に、ミリスお姉様が絶叫して飛び起きた。
そして私を見るや否や、ポカンとする。
「え……? イリーシャ? あれ、待って、どうなって?」
「お前、大丈夫なのか?」
「え? あ、熊は!?」
「吹っ飛ばした」
ミリスお姉様に答えるレオナルド。
レオナルドを見て、ミリスお姉様は「あーっ!」と指を差した。
「この前の美少年!!」
「静かにしろ。脳震盪を起こしてたんだぞ」
「は? あ、ちょっとクラクラしてきた」
ミリスお姉様とベークリフトお兄様は大丈夫そうだ。
私は兵士に声をかける。
「兵士の皆さん。お兄様とお姉様を頼みます」
「い、イリーシャ様はどうなさるので?」
「お父様を助けに行きます」
私達は急いでその場を後にした。
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