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第三十一話 憎しみの炎
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私が『治癒魔法』の使い方がわかったことを説明すれば、アンちゃんとライヴ先輩はとても喜んでくれた。
そして、その次に潜む危険性も充分に理解している。
私は王族であるのだけど、王妃がお父様を治すために出て行った私をそう簡単にお父様に会わせてくれるわけがない。
病がうつるとか何とか言われて、お父様に近づくことすらできないだろう。
私達は、どうするべきか頭を悩ませた。
現在は話し合うために、寮の外に出ている。
「どうすればいいんだろう……」
「物資の運搬に潜り込むとかは?」
「すぐバレるよ。荷物のチェックがあるから」
「じゃあ、ステルスを使うのは」
「魔法の反応でバレるよ」
「……いい考えは、あるよ」
「え?」
そう言い出したのは、アンちゃんであった。
そのいい考えとは、アビさんの協力を仰ぐこと。
アビさんは元『治癒魔法』の研究員であり『治癒魔法』の研究者は王宮と繋がっていたから、王宮に入るための身分証があるらしい。
それを利用すれば、王宮に入ることができる。
ただ、それを実行するならば、アビさんを巻き込むことになってしまう。
「そういうわけにはいかないんじゃないかな。アビさんはもう、研究員じゃないんだし」
「俺がァ、何だってェ?」
「あ、アビさんっ!?」
ここ、寮の外とはいっても学院の敷地内だよ!?
何でここに? と問いかける前に、オルガ君が顔を出す。
「あのね、お仕事だ!」
「お仕事?」
「そーだ! アビ先生、いろんなところに薬売ってる!」
「学院にも薬を売っててなァ。ちょうど通りかかったら、お前らが見えたってわけだァ」
ボリボリと頭をかいて、アビさんは私達をジロリと睨む。
「でぇ? 何のために王宮にィ?」
「……お父様を治すためです。でも、私は自分から王宮を出て行った身ですし、王妃がそう簡単にお父様に会わせてくれるわけがありませんから」
「それでェ、俺への協力を仰ごうとしたってわけかァ」
「ご、ごめんなさい!」
思わず謝れば、オルガ君がアビさんに予想外なことを口にする。
「手伝ってあげようよ!」
「オルガァ?」
「オルガねっ、イリーシャ様のこと好きだよ! レオナルドさんも! だからね、助けたい。オルガは力になるよ!」
「……しゃーねぇなァ」
「いいんですか?」
「まぁいいよォ」
これで私達は、アビさんの連れとして潜り込むことになった。
驚いたのが、何とオルガ君も連れていくということだ。
「えぇえっ!?」
「そんな小さい子が……?」
ポカンとする私とアンちゃんだが、レオナルドとライヴ先輩は何かわかっているようだ。
アビさんがオルガ君に、その辺に落ちている石を差し出す。
「?」
「これ、割ってみろ」
「わかったー。ふんっ」
ギュッとオルガ君が石を握れば、バキッ! と石が割れる。
大人でもあり得ないような握力に、私達は呆然とする。
「……何となくそうじゃないかって思ってたんだよねー」
「だな」
が、ライヴ先輩とレオナルドはどうしてか、うんうんと頷いている。
「じゃあ、明日の朝に乗り込むぞ。学院は休めェ」
◆ ◆ ◆
次の日。
姿を隠すフード付きのマントを見に纏い、俯きながらアビさんについていく。
「王宮……」
王宮に来るのは久しぶりだった。
そこから漂う圧を感じて、私はゴクリと唾を飲む。
「待て! 止まれ!」
兵士の声が聞こえてきて、私達は歩みを止める。
「何者だ」
「……極秘計画の参加者。身分証だァ」
それを聞いて、兵士は緊張で顔をこわばらせる。
アビさんの差し出した身分証をじっくりと確認し、それを返す。
「わ、わかりました。お通りください」
『治癒魔法』の研究者が向かうとすれば、地下の研究室。
牢屋の近くにあるそこは、研究者以外は滅多に近づかない場所だ。
お父様は、王宮の一番上の部屋で寝込んでいる。
階段にたどり着いて、アビさんはくるりと私達に振り返る。
「俺達が連れてきてやれるのはここまでだァ。怪しまれるからなァ。隠れていけェ」
「頑張って! イリーシャ様!」
「うん……オルガ君、それにアビさん。本当に、ありがとうございました」
礼を言って、私達は階段に一歩踏み出した。
◆ ◆ ◆
王妃side
『治癒魔法』の研究者として、見慣れぬ者が王宮に入った。
そう報告を受け、その者の名前を尋ねる。
兵士はその研究者を、「アビ・ユートルア」と言っていた。
アビ・ユートルア。
確か、数年前に研究者を辞めたはず。
そこで私は、アビ・ユートルアの連れにイリーシャが紛れ込んでいることを確信した。
「おのれっ……イリーシャ……」
ああ、憎い子。
許せないという思いが、募りに募っていく。
このまま簡単にあの方を治させてしまうものか。
私は『治癒魔法』の研究者の代表を呼びつける。
「『治癒魔法』の過程でできた、失敗作があるでしょう」
「……尋常ではない力を手にした、実験動物のことですか」
「あれを解放しなさい」
「で、ですが、解放してしまえば他の王宮内の者にも甚大な被害が」
「早くしなさいっ!!」
そう叫べば、研究者は走り出す。
そうよ、このまま何もかも滅んでしまえばいいんだわ。
あの女の娘なんて認めない。
「このまま私が泥を啜るくらいなら、壊してやる」
私の耳に、解き放たれた猛獣の叫び声がこだました。
そして、その次に潜む危険性も充分に理解している。
私は王族であるのだけど、王妃がお父様を治すために出て行った私をそう簡単にお父様に会わせてくれるわけがない。
病がうつるとか何とか言われて、お父様に近づくことすらできないだろう。
私達は、どうするべきか頭を悩ませた。
現在は話し合うために、寮の外に出ている。
「どうすればいいんだろう……」
「物資の運搬に潜り込むとかは?」
「すぐバレるよ。荷物のチェックがあるから」
「じゃあ、ステルスを使うのは」
「魔法の反応でバレるよ」
「……いい考えは、あるよ」
「え?」
そう言い出したのは、アンちゃんであった。
そのいい考えとは、アビさんの協力を仰ぐこと。
アビさんは元『治癒魔法』の研究員であり『治癒魔法』の研究者は王宮と繋がっていたから、王宮に入るための身分証があるらしい。
それを利用すれば、王宮に入ることができる。
ただ、それを実行するならば、アビさんを巻き込むことになってしまう。
「そういうわけにはいかないんじゃないかな。アビさんはもう、研究員じゃないんだし」
「俺がァ、何だってェ?」
「あ、アビさんっ!?」
ここ、寮の外とはいっても学院の敷地内だよ!?
何でここに? と問いかける前に、オルガ君が顔を出す。
「あのね、お仕事だ!」
「お仕事?」
「そーだ! アビ先生、いろんなところに薬売ってる!」
「学院にも薬を売っててなァ。ちょうど通りかかったら、お前らが見えたってわけだァ」
ボリボリと頭をかいて、アビさんは私達をジロリと睨む。
「でぇ? 何のために王宮にィ?」
「……お父様を治すためです。でも、私は自分から王宮を出て行った身ですし、王妃がそう簡単にお父様に会わせてくれるわけがありませんから」
「それでェ、俺への協力を仰ごうとしたってわけかァ」
「ご、ごめんなさい!」
思わず謝れば、オルガ君がアビさんに予想外なことを口にする。
「手伝ってあげようよ!」
「オルガァ?」
「オルガねっ、イリーシャ様のこと好きだよ! レオナルドさんも! だからね、助けたい。オルガは力になるよ!」
「……しゃーねぇなァ」
「いいんですか?」
「まぁいいよォ」
これで私達は、アビさんの連れとして潜り込むことになった。
驚いたのが、何とオルガ君も連れていくということだ。
「えぇえっ!?」
「そんな小さい子が……?」
ポカンとする私とアンちゃんだが、レオナルドとライヴ先輩は何かわかっているようだ。
アビさんがオルガ君に、その辺に落ちている石を差し出す。
「?」
「これ、割ってみろ」
「わかったー。ふんっ」
ギュッとオルガ君が石を握れば、バキッ! と石が割れる。
大人でもあり得ないような握力に、私達は呆然とする。
「……何となくそうじゃないかって思ってたんだよねー」
「だな」
が、ライヴ先輩とレオナルドはどうしてか、うんうんと頷いている。
「じゃあ、明日の朝に乗り込むぞ。学院は休めェ」
◆ ◆ ◆
次の日。
姿を隠すフード付きのマントを見に纏い、俯きながらアビさんについていく。
「王宮……」
王宮に来るのは久しぶりだった。
そこから漂う圧を感じて、私はゴクリと唾を飲む。
「待て! 止まれ!」
兵士の声が聞こえてきて、私達は歩みを止める。
「何者だ」
「……極秘計画の参加者。身分証だァ」
それを聞いて、兵士は緊張で顔をこわばらせる。
アビさんの差し出した身分証をじっくりと確認し、それを返す。
「わ、わかりました。お通りください」
『治癒魔法』の研究者が向かうとすれば、地下の研究室。
牢屋の近くにあるそこは、研究者以外は滅多に近づかない場所だ。
お父様は、王宮の一番上の部屋で寝込んでいる。
階段にたどり着いて、アビさんはくるりと私達に振り返る。
「俺達が連れてきてやれるのはここまでだァ。怪しまれるからなァ。隠れていけェ」
「頑張って! イリーシャ様!」
「うん……オルガ君、それにアビさん。本当に、ありがとうございました」
礼を言って、私達は階段に一歩踏み出した。
◆ ◆ ◆
王妃side
『治癒魔法』の研究者として、見慣れぬ者が王宮に入った。
そう報告を受け、その者の名前を尋ねる。
兵士はその研究者を、「アビ・ユートルア」と言っていた。
アビ・ユートルア。
確か、数年前に研究者を辞めたはず。
そこで私は、アビ・ユートルアの連れにイリーシャが紛れ込んでいることを確信した。
「おのれっ……イリーシャ……」
ああ、憎い子。
許せないという思いが、募りに募っていく。
このまま簡単にあの方を治させてしまうものか。
私は『治癒魔法』の研究者の代表を呼びつける。
「『治癒魔法』の過程でできた、失敗作があるでしょう」
「……尋常ではない力を手にした、実験動物のことですか」
「あれを解放しなさい」
「で、ですが、解放してしまえば他の王宮内の者にも甚大な被害が」
「早くしなさいっ!!」
そう叫べば、研究者は走り出す。
そうよ、このまま何もかも滅んでしまえばいいんだわ。
あの女の娘なんて認めない。
「このまま私が泥を啜るくらいなら、壊してやる」
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