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第二十五話 背負わせた

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危なかった!!
アンちゃんの光魔法で全身が焼け焦げようと構わず進み、レオナルドの水魔法で頭を覆われようと、自分へとダメージを顧みずそれを雷で壊す。
彼女が私に殴りかかった寸前、彼女の動きが急に止まった。
私はありったけの魔力を込めて、大木を作り出して彼女を拘束した。
種がない攻撃だったから、魔力はほぼ底を尽きている。
もう魔法は使えない。
魔力不足でクラクラした。

「リア! 大丈夫!?」
「アンちゃん……」

アンちゃんの顔も、何だかぼやけて見えた。
魔力不足って、こんな感じなんだ。
生まれて初めて知る感覚に戸惑いながらも、杖で無理やり立ち上がる。

「ユエ、は……」
「大丈夫。リアの魔法で動けないみたい」

見上げてみれば、豆粒のような大きさになったユエが見える。
真上でユエが拘束されていた。
彼女はどうやらもがいてもいないらしい。

「リア」
「レオナルド」

レオナルドが私のほうに来て、確認を取る。

「あいつをどうする。殺すか」
「………」
「リア。リアの命を狙ってきたんだよ」

アンちゃんのユエを責めるような発言に、私の心は揺れる。
殺すか、殺さないか。
殺したくないなんて、甘い考えでいていいのか。
迷う私の耳に、声が聞こえた。

「やめて! ユエを、殺さないで!」
「アリエルお姉様!?」

やってきたのはアリエルお姉様だった。
驚く私達に、アリエルお姉様は早口で言う。

「私達、この近くのホテルに泊まっていたの。夜起きたらユエがいなくて……まさかと思ってここに来たら、やっぱり」
「アリエル王女。ユエは、俺らを襲ったんですよ。わざわざ寮全体に睡眠ガスを仕込んでまでね」

レオナルドの発言に、アリエルお姉様は「そうね……」と小さく呟く。
そして、勢いよく頭を下げた。

「私がユエの代わりに謝罪させていただきます。ごめんなさい。責任として……王位争いを、辞退します」
「アリエルお姉様!?」

アリエルお姉様が辞退?
アリエルお姉様は、王になりたいんじゃないの?
アリエルお姉様は小さく笑って、私の頭を撫でる。

「本当にごめんなさい。でも、今王位争いしているのは、私と、リュドミラ兄様と、イリーシャだけよ。王妃に実権を握らせたくないから、参加しただけ。いいのよ私は。とにかく、ユエを下ろしてあげて」
「……リアちゃん」
「ライヴ先輩」

ライヴ先輩がやってきて、「いい?」と私に尋ねる。
私は即座に首を縦に振った。
長いため息をついた後、ライヴ先輩は軽々と大木を登り、ユエを連れて帰ってきた。

「アリエル様……」

ユエはどうやらまともに立てないらしく、座り込んでアリエルお姉様を見上げた。
アリエルお姉様は険しい顔をして、ユエに芯の通った声で話す。

「ユエ。あなたは、重罪を犯しました。私の期待を裏切ったことです」
「っ……」
「私がいつ、イリーシャを殺せと言いましたか」
「ご、ごめんなさい……」

ユエは打って変わって、今にも泣き出しそうな表情となる。
アリエルお姉様は、ユエにスッと手を出す。
叩かれると思ったのか、ユエはびくりと震えて目を瞑る。
しかし、アリエルお姉様はユエの肩に手を置いただけだった。

「私はあなたの責任を取り、王位争いを離脱します」
「っ、そんな!! あ、アリエル様!! アリエル様が戦って負けない限り、あなたの負けではーー」
「私の従者はあなたです。王位など、あなたの命に比べれば軽いものです」
「そんなわけないでしょう!! 王を目指さなければっ、アリエル様はっ、母君に殺されーー」

そこまで言いかけて、ユエは慌てて口をつぐんだ。
きっとユエは、アリエルお姉様のために戦っていたのだ。
でも、私達を殺そうとした事実は変わることはない。

「……大丈夫です、ユエ。私はイリーシャに負けたのです。自分から負けたわけではありません」
「っ、え」
「元々私に戦う力はありませんから。あなたは私の代理だったんですよ」

アリエルお姉様の言葉に、ユエはじわりと涙を溜める。

「ご、ごめんなさっ、私のっ、せいでっ」
「王位にそこまで執着しているわけではありません。もう王妃が実権を握ることはできないのですから。それに、あなただけに背負わせた、私の責任でもあります」

ユエを背負って、アリエルお姉様は最後に再び謝罪をする。

「本当に、本当にごめんなさい。ここは、私が王位争いを脱落することで許してはもらえませんか」
「……甘いですよ、アリエル様」


ライヴ先輩は、不敬を承知でアリエルお姉様に冷たく当たる。
確かに、命を狙われたのに相手を許すなんて、甘いほかない。
でも。

「いいんです」
「リアちゃん!?」

私は、どうしても彼女達を憎むことはできなかった。

「アリエルお姉様。穏やかに暮らしてください。私がお父様を、絶対に治してみせるから」
「……ありがとう、イリーシャ。待ってるわ」

アリエルお姉様は、そのままユエと去っていった。



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