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ユエside
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私、ユエ・ウーランの人生は、奴隷として始まった。
生まれつき魔力を持たなかった私は、役立たずとしてある程度育てられ、売り飛ばされたのは怪しげな研究室。
そこではおぞましい人体実験が行われていた。
私ももちろん、それの餌食となった。
まあ、奴隷としての使い道があるとすれば、それだよね。
理解はしているが、簡単に片付けられるほどの苦痛ではなかった。
体が切り刻まれ、よくわからない無属性魔法の応用とやらでその傷が塞がれる。
気づけば私は、17になる頃には並外れた身体能力と、雷を纏う力を手にしていた。
雷を纏う力は魔法とは違うようだ。
なぜなら私は魔力を持っていないから。
以前私より小さな子が私と同じような状況に陥り暴走し、ある研究員に引き取られていった。
私の処分も確定していた。
私は貴族であるエリン家に、兵器として売り飛ばされた。
そこで任されたのは、アリエル様の護衛であった。
なぜこんな私がアリエル様に仕えられるのか最初はわからなかったが、なんとアリエル様が直訴したらしい。
「あなたを見て、とてもいい子だと思ったの」
そう言って、アリエル様は私に優しくしてくれた。
こんな対応、生まれて初めてだった。
私はアリエル様が大好きになった。
しかし、私を認めたのはアリエル様だけのためでないことを知る。
ある日、アリエル様の母君に呼び出された。
アリエル様に仕え始めて、3日目の時だった。
アリエル様の母君は、こんな説明をした。
「私はアリエルを王にしたいと考えています。現在、あの子の父親である国王様は、病に伏せっています」
「国王様が……」
「あなたは世間を知らないだろうから、わからなかったと思いますけどね」
少し馬鹿にしたような言い回し。
でも、私が万が一暴走した時に殺すため、母君の近くには何人もの兵士が待機していた。
そこまでしなくても、襲い掛かったりしないのに。
「今現在、王位争いの真っ最中です。第二王女のミリスと、第三王子のベークリフトは、早々に脱落しました。最も厄介なのは、王宮にいない、第四王女のイリーシャです」
「イリーシャ王女……」
その名前は、世間に疎い私にも聞き覚えがあった。
曰く、国王様と英雄の間に生まれた娘。
英雄の母はイリーシャ王女を生んだ後、風のように消えたらしい。
母君は続ける。
「アリエルには、王になってもらわねばいけません。だから……彼女の障害になるものは全て殺しなさい。兄弟殺しはご法度ですから、こっそりとね。彼女がもし王にならないと言ったのならーー少し、教育せねばなりませんね」
「っ!!」
その時ほど、母君を恐ろしく思ったことはないだろう。
その教育が、恐ろしい意味合いであると理解したから。
下手すればアリエル様は、殺されてしまうかもしれない。
「わ、わかりました。やります。やらせてください」
アリエル様を失うなんて、私には耐えきれなかった。
それを見越したように母君は笑う。
「頼んだわよ。あなたは我が家の最終兵器なのだから」
私には、べたりとした後ろめたい気持ちがついて回るようになった。
これも全て、アリエル様のため。
アリエル様には生きて、笑ってほしいから。
だから、そのためだったら、私はあなたの剣になる。
アリエル様は、知らなくていいから。
アリエル様がイリーシャ王女に会いに行った日の夜、私は早速行動に移る。
聞けばイリーシャ王女は国王様を治すために、『治癒魔法』とやらを研究しているのだとか。
『治癒魔法』は、私にとっては因縁のあるものだ。
だからイリーシャ王女を殺すことに、何の躊躇いもなかった。
昼に、アリエル様とイリーシャ王女が会うところを見るまでは。
アリエル様は、見たことがないほど幸せそうに笑っていた。
そこで私は悟ってしまう。
アリエル様にとって、イリーシャ王女は大切な妹なのだと。
考えればわかったことだ。わざと考えないようにしていただけ。
でも、わかってしまっても、イリーシャ王女は殺さなきゃならない。
アリエル様の邪魔をする者は、全て。
それが母君の命令だから。
私を取り押さえた男を雷の力で吹き飛ばし、イリーシャ王女に狙いを定めた。
この力は1分も使えばもう動けなくなる。
1分の間にイリーシャ王女を仕留める。
「私はっ、あなたを殺す!! アリエル様のために!! 障害は全て殺してみせる!!」
地面を大きく蹴り、雷を纏わせた拳をイリーシャ王女に振りかぶる。
その時、体全体に焼けるような痛みが走った。
だがそれを無視して拳を振り下ろす。
バチバチバチィッ!!
済んでのところでイリーシャ王女と、王女の近くにいた男が避けて、私の攻撃は地面に当たる。
雷が轟いた。
目の前にフラッシュが焚かれているみたいに、チカチカする。
「嘘っ!?」
女の驚く声。
なるほど、さっきのは光魔法の攻撃か。
私には関係ない。
あのような痛みを味わったのだ、これくらいは耐えられる。
「木よ!!」
小さな木がいくつも私の足に巻きついてくる。
それを引きちぎり、再びイリーシャ王女に向かった。
男がイリーシャ王女から離れ、杖を振った瞬間、私の頭が水で覆われる。
それは雷で粉砕した。
「ーーっ!!」
届く、届く。
あと、もう少し。
時間がゆっくりに感じる。
イリーシャ王女の碧眼が、キラリと光に反射した。
それが、アリエル様と、重なって、見えて。
『ーーーーユエ』
アリエル様が、悲しげに名前を呼ぶ空耳が聞こえた。
そこで思わず動きを止めたら、私の体は何かによって捕まり、高いところに運ばれた。
「っ、これは」
イリーシャ王女の木の魔法だ。
雷で粉砕しようとしたが、時間切れ。
私の体は動かなくなってしまった。
生まれつき魔力を持たなかった私は、役立たずとしてある程度育てられ、売り飛ばされたのは怪しげな研究室。
そこではおぞましい人体実験が行われていた。
私ももちろん、それの餌食となった。
まあ、奴隷としての使い道があるとすれば、それだよね。
理解はしているが、簡単に片付けられるほどの苦痛ではなかった。
体が切り刻まれ、よくわからない無属性魔法の応用とやらでその傷が塞がれる。
気づけば私は、17になる頃には並外れた身体能力と、雷を纏う力を手にしていた。
雷を纏う力は魔法とは違うようだ。
なぜなら私は魔力を持っていないから。
以前私より小さな子が私と同じような状況に陥り暴走し、ある研究員に引き取られていった。
私の処分も確定していた。
私は貴族であるエリン家に、兵器として売り飛ばされた。
そこで任されたのは、アリエル様の護衛であった。
なぜこんな私がアリエル様に仕えられるのか最初はわからなかったが、なんとアリエル様が直訴したらしい。
「あなたを見て、とてもいい子だと思ったの」
そう言って、アリエル様は私に優しくしてくれた。
こんな対応、生まれて初めてだった。
私はアリエル様が大好きになった。
しかし、私を認めたのはアリエル様だけのためでないことを知る。
ある日、アリエル様の母君に呼び出された。
アリエル様に仕え始めて、3日目の時だった。
アリエル様の母君は、こんな説明をした。
「私はアリエルを王にしたいと考えています。現在、あの子の父親である国王様は、病に伏せっています」
「国王様が……」
「あなたは世間を知らないだろうから、わからなかったと思いますけどね」
少し馬鹿にしたような言い回し。
でも、私が万が一暴走した時に殺すため、母君の近くには何人もの兵士が待機していた。
そこまでしなくても、襲い掛かったりしないのに。
「今現在、王位争いの真っ最中です。第二王女のミリスと、第三王子のベークリフトは、早々に脱落しました。最も厄介なのは、王宮にいない、第四王女のイリーシャです」
「イリーシャ王女……」
その名前は、世間に疎い私にも聞き覚えがあった。
曰く、国王様と英雄の間に生まれた娘。
英雄の母はイリーシャ王女を生んだ後、風のように消えたらしい。
母君は続ける。
「アリエルには、王になってもらわねばいけません。だから……彼女の障害になるものは全て殺しなさい。兄弟殺しはご法度ですから、こっそりとね。彼女がもし王にならないと言ったのならーー少し、教育せねばなりませんね」
「っ!!」
その時ほど、母君を恐ろしく思ったことはないだろう。
その教育が、恐ろしい意味合いであると理解したから。
下手すればアリエル様は、殺されてしまうかもしれない。
「わ、わかりました。やります。やらせてください」
アリエル様を失うなんて、私には耐えきれなかった。
それを見越したように母君は笑う。
「頼んだわよ。あなたは我が家の最終兵器なのだから」
私には、べたりとした後ろめたい気持ちがついて回るようになった。
これも全て、アリエル様のため。
アリエル様には生きて、笑ってほしいから。
だから、そのためだったら、私はあなたの剣になる。
アリエル様は、知らなくていいから。
アリエル様がイリーシャ王女に会いに行った日の夜、私は早速行動に移る。
聞けばイリーシャ王女は国王様を治すために、『治癒魔法』とやらを研究しているのだとか。
『治癒魔法』は、私にとっては因縁のあるものだ。
だからイリーシャ王女を殺すことに、何の躊躇いもなかった。
昼に、アリエル様とイリーシャ王女が会うところを見るまでは。
アリエル様は、見たことがないほど幸せそうに笑っていた。
そこで私は悟ってしまう。
アリエル様にとって、イリーシャ王女は大切な妹なのだと。
考えればわかったことだ。わざと考えないようにしていただけ。
でも、わかってしまっても、イリーシャ王女は殺さなきゃならない。
アリエル様の邪魔をする者は、全て。
それが母君の命令だから。
私を取り押さえた男を雷の力で吹き飛ばし、イリーシャ王女に狙いを定めた。
この力は1分も使えばもう動けなくなる。
1分の間にイリーシャ王女を仕留める。
「私はっ、あなたを殺す!! アリエル様のために!! 障害は全て殺してみせる!!」
地面を大きく蹴り、雷を纏わせた拳をイリーシャ王女に振りかぶる。
その時、体全体に焼けるような痛みが走った。
だがそれを無視して拳を振り下ろす。
バチバチバチィッ!!
済んでのところでイリーシャ王女と、王女の近くにいた男が避けて、私の攻撃は地面に当たる。
雷が轟いた。
目の前にフラッシュが焚かれているみたいに、チカチカする。
「嘘っ!?」
女の驚く声。
なるほど、さっきのは光魔法の攻撃か。
私には関係ない。
あのような痛みを味わったのだ、これくらいは耐えられる。
「木よ!!」
小さな木がいくつも私の足に巻きついてくる。
それを引きちぎり、再びイリーシャ王女に向かった。
男がイリーシャ王女から離れ、杖を振った瞬間、私の頭が水で覆われる。
それは雷で粉砕した。
「ーーっ!!」
届く、届く。
あと、もう少し。
時間がゆっくりに感じる。
イリーシャ王女の碧眼が、キラリと光に反射した。
それが、アリエル様と、重なって、見えて。
『ーーーーユエ』
アリエル様が、悲しげに名前を呼ぶ空耳が聞こえた。
そこで思わず動きを止めたら、私の体は何かによって捕まり、高いところに運ばれた。
「っ、これは」
イリーシャ王女の木の魔法だ。
雷で粉砕しようとしたが、時間切れ。
私の体は動かなくなってしまった。
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