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第二十三話 神秘の泉へ

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オーズンさんをアビさんとオルガ君、サリィちゃんに任せ、私達は神秘の泉へ赴く。
神秘の泉にたどり着いた時には、もうすっかり遅い時間であり、もう誰もいなかった。
アンちゃんはここでゆっくりと話してくれる。

「この場所で、私はナイフで腹を刺された。でも、それをリアが治したんだよ」
「私が……」
「確かにそれは塞いだだけで、後々輸血が必要だったけどね」

そう言われても、やっぱり全然思い出せない。
私が、アンちゃんの傷を?
すると、ライヴ先輩が強く訴えてきた。

「本当に覚えてない? 何も?」
「あ……えと……」
「ねえ、イリス……」

ーーイリス。
その言葉に、どくんと心臓が嫌な音をたてる。
イリスって誰なんだろう。
ライヴ先輩は、私と誰かを勘違いしてる?
でも、何でだろう。
その名前に、酷く悲しみを感じるのは。
それに、何で名前だとすぐにわかったのだろう。

「ーーリア」
「レオ、ナルド」

レオナルドに声をかけられ、パチンと私の思考は切れる。
レオナルドはゆっくりと近づき、私の頭を撫でた。

「ゆっくりで、ゆっくりでいいんだ」
「レオナルド……」
「国王様を、一刻も早く治したいという気持ちはわかるけど、リアが急ぎ過ぎれば疲れてしまう」

違う、違うの。
『治癒魔法』を早く覚えなきゃって思う反面、絶対覚えちゃダメと訴える自分がいる。
覚えれば後悔するぞ、や、あれを復活させてはならない、と、そう叫ぶ自分がいる。
私は、どうしていいのかわからない。

「リア。しっかりしろ。リアはどうしたいんだ?」
「……お父様を………治したい。元気に、なって、ほしい……」
「明確な目的があるじゃないか」
「で、でも。『治癒魔法』を習得しちゃ、ダメな気がする」

私の態度に、アンちゃんが困惑し、ライヴ先輩が苦々しい顔をしているのがわかった。
こんな曖昧な表現でごめんなさい。
でも、どうしてもそう思うの。
そんなよくわからないことを言う私に、レオナルドは強く言う。

「俺は、お前に聞いたんだぞ」
「え……?」
「お前は、どうしたい」

レオナルドは、他でもない私をじっと見てそう問いかけてくる。
私。わたし。
どの私に問い掛ければいい?
どうすればいいんだって。
あなたのしたいことは、何だって。

「………やっぱり、お父様を治したい。それは変わらない」
「そうか。なら、俺はその夢についていくよ」
「私も」
「僕もだ」

王宮を出てすぐは、私は誰にも頼れなかった。
それでも、今は頼りがいのある仲間がいる。
少しだけ。ほんの少しだけ、肩の力を抜いてもいいかもしれない。
きっと支えてくれるから。

「……私、頑張るよ」

そう言ったのを聞いて、満足そうに三人は頷いた。
結局、神秘の泉に行っても何もわからなかった。
それでも私は『治癒魔法』を求め続ける。
大好きな人を治したいから。

「……………」

この時、私達は気づかなかった。
私達を覗き見る、誰かがいることに。

◆ ◆ ◆

アリエルside

王位争いで、妹であるミリスと、弟であるべークリフトが早々に脱落した。
このことに王妃は苛立っている。
ミリスは王妃の娘だからだろう。
王妃はユーグ兄様を王にすることに決めたらしく、王位争いに参加させようと躍起になっている。

「王妃に実権を握らせたくないから王位争いに参加しているのだけど……私じゃなくても、ネアルやリュドミラ兄様がいるからいいかもね?」
「それはなりません、アリエル様」

振り向けば、気配を消して亜麻色の髪の少女が立っている。
この子は私の従者だ。
最初のうちは慣れずにびっくりしたが、今はどうってことはない。

「ユエ。もう帰ってきたの?」
「はい。少し下見の準備に手間取りましたが……大丈夫です。色々買ってきました」

ユエはそう言って、私がお願いしたものを目の高さまで掲げてみせる。
よし、これでいい。

「さあ! イリーシャに会いに行きましょう!」

父様を治すと言って、王宮を出ていったイリーシャ。
そのイリーシャの様子が、心配でたまらない。
怪我してないだろうか。嫌な思いはしてないだろうか。
……いや、あの二人が勝負を挑んだ時点で、あの子は既に傷ついているのだろう。
ならば、それを見るのは姉の私の役目だ。

「待ってて、イリーシャ」

お姉ちゃんが、すぐ行くから。
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