27 / 55
第二十話 無事でよかった
しおりを挟む
「ーーはっ」
目覚めた場所は、レオナルドのベッドの上。
慌てて起き上がれば、アンちゃんと目が合った。
「……リア」
「あ、アンちゃん~」
良かった、生きてる。
アンちゃんが生きてる。
そのことに安心して、私は思わず脱力した。
アンちゃんが心配げに私に駆け寄ってきた。
「大丈夫? どこか痛いところは……あるよね。あれだけの戦闘だもん。擦り傷切り傷は多いけど、目立った外傷はないかな」
「え、あ、アンちゃん。お腹の傷は」
すると、突然アンちゃんがペロンと服を捲る。
そこには綺麗な肌しかなかった。
あの痛々しい裂傷はどこにも存在しない。
「ど、どうして」
「どうしてって……リアが治してくれたじゃない」
「え?」
「だから、リアが私の傷を治してくれたの。痛みもないからびっくりした。体はちょっとダルいけどね」
ケロッとして言うアンちゃんに、私は戸惑いを隠せない。
私が治したって、どういうこと?
でもアンちゃんは、当然って顔してるし。
そう言えば……アンちゃんがカナリアに刺されてからのこと、よく覚えてない。
「あれ……私、何して」
「リア」
「レオナルド」
レオナルドが水を持ってきてくれた。
コップを受け取り水を飲むと、乾いた喉が潤される。
レオナルドは心配げに私を覗き込んだ。
「その、大丈夫か?」
「うん。平気」
「よかった。お前に何かあったら、どうしようかと……」
それを一概に「大袈裟だよ」と笑い飛ばすことはできなかった。
あの時のことを思い出せば、まるで背筋が凍るような思いがある。
死と隣り合わせとは、これほど恐ろしいものなのか。
「……あ、ライヴ先輩」
気づけばライヴ先輩も来ていた。
私が声をかけると、ライヴ先輩はおずおずと私のほうを見る。
「その……今の君は、リアちゃん?」
「?」
どういう意味なんだろう。
キョトンとする私に、「そっか」とだけ言って、ライヴ先輩は穏やかな微笑を浮かべる。
「いや、リアちゃん! よかったよ。君は本当に大変だね」
「あはは……」
苦笑いをする私に、まったくだとばかりにレオナルドとアンちゃんが頷く。
ふと、私の頭にミリスお姉様とべークリフトお兄様のことが浮かんだ。
「そうだった! ミリスお姉様と、べークリフトお兄様は!?」
私の質問に答えてくれたのはライヴ先輩だった。
「王位争いの席から外れたんじゃないかな。リアちゃんに負けたんだからね」
「そうですか……」
「これであの二人が襲ってくることはなくなった。カナリアとボアもね」
二人が外れたとあれば、刺客が来る回数も大分減るだろう。
残りは、アリエルお姉様、リュドミラお兄様、ネアルお兄様だ。
ユーグお兄様は辞退したと聞いているし。
アリエルお姉様は……きっと襲ってはこない。
ネアルお兄様はまず無い。
リュドミラお兄様は、よくわからない。
彼は読めない人だった。
物静かで、あまり喋らない。
だから彼のことは理解できないままである。
「それはそうと、リア。これを」
レオナルドから渡されたのは、例の水時計だった。
それは相変わらず汚れていて、せっかくの水時計が台無しである。
「このゴミを退かしてみろ」
「えぇ?」
つい最近までできなかったから、できないままだと思うんだけど。
それでもレオナルドは水時計を押し付けてくるので、私はゴミを取り出そうと集中してみた。
「!」
驚くことに、私には水時計の状態がすんなりとわかってしまった。
事細かに溢れてくる情報で、頭が痛くなる。
でも、わかってしまえば簡単だ。
無属性魔法で、そのゴミを小さく固める。
もっと小さく。圧縮して。
すると、水は瞬く間に綺麗になった。
「わぁ……」
「リア、凄い!」
ライヴ先輩が感嘆の声を上げ、アンちゃんはまるで自分のことのように喜んでくれた。
レオナルドはその結果に満足したようで、力強く頷く。
「よし。リア、お前……〔全知〕ができるようになってるな」
「でも、何で急に」
「アンナの傷を治したこと、覚えてないのか?」
そう言われても、全く思い出せない。
私がアンちゃんの傷を治した?
どうやって?
考えていると、突然くらりと目眩がした。
「っ……」
「リアちゃん?」
ライヴ先輩の気遣う声。
そこに、レオナルドの声が重なる。
「きっと魔力消費が大きかったからだろう。〔全知〕はその名の通り、全てを知ることができる魔法だからな。リアは魔力量が多いから、魔力切れなんて起こしたことないだろ」
「う、うん」
「慣れておけ。必要なことだ」
レオナルドに言われて、私は「わかった」と返事をした。
また、無自覚に治したみたい。
レオナルドの時もそうだったみたいだし。
考え込んでいると、アンちゃんが私に笑いかけてくれる。
「リア、お腹減ってない? 何か食べれるもの持ってこようか?」
「あ、お願いしようかな……」
「うん」
アンちゃんが振り返った時、トン、と体がライヴ先輩とぶつかった。
あ、マズいかも。
アンちゃん、男性恐怖症なのに。
「………あれ?」
「あ、ごめんね、アンナさん。触れちゃった」
「待ってください」
離れようとするライヴ先輩の手を、アンちゃんはがしりと掴む。
その対応に私達は目を剥いた。
まさか、男性恐怖症のアンちゃんが。
ライヴ先輩に触れてるだなんて!
「だ、男性恐怖症、治ったんじゃない!?」
「ライオネル様に触れても全然嫌じゃない……」
「じゃあレオナルドは?」
試しにレオナルドの手に触れてみれば、途端にアンちゃんは青くなる。
「ひぃいいっ! ち、近寄らないで!」
「………」
何だかレオナルドは複雑そうな顔。
そりゃあ、雑菌みたいな扱いをされたからだろう。
「どういうこと?」
「ライオネル様だけ、平気です」
ペタ、ペタ、と面白そうにアンちゃんはライヴ先輩を触りまくる。
どうやら神秘の泉は少しだけ願いを叶えてくれたみたいだ。
「……あ」
そこで私は思いついた。
「神秘の泉に行けば、何か思い出せるかも」
目覚めた場所は、レオナルドのベッドの上。
慌てて起き上がれば、アンちゃんと目が合った。
「……リア」
「あ、アンちゃん~」
良かった、生きてる。
アンちゃんが生きてる。
そのことに安心して、私は思わず脱力した。
アンちゃんが心配げに私に駆け寄ってきた。
「大丈夫? どこか痛いところは……あるよね。あれだけの戦闘だもん。擦り傷切り傷は多いけど、目立った外傷はないかな」
「え、あ、アンちゃん。お腹の傷は」
すると、突然アンちゃんがペロンと服を捲る。
そこには綺麗な肌しかなかった。
あの痛々しい裂傷はどこにも存在しない。
「ど、どうして」
「どうしてって……リアが治してくれたじゃない」
「え?」
「だから、リアが私の傷を治してくれたの。痛みもないからびっくりした。体はちょっとダルいけどね」
ケロッとして言うアンちゃんに、私は戸惑いを隠せない。
私が治したって、どういうこと?
でもアンちゃんは、当然って顔してるし。
そう言えば……アンちゃんがカナリアに刺されてからのこと、よく覚えてない。
「あれ……私、何して」
「リア」
「レオナルド」
レオナルドが水を持ってきてくれた。
コップを受け取り水を飲むと、乾いた喉が潤される。
レオナルドは心配げに私を覗き込んだ。
「その、大丈夫か?」
「うん。平気」
「よかった。お前に何かあったら、どうしようかと……」
それを一概に「大袈裟だよ」と笑い飛ばすことはできなかった。
あの時のことを思い出せば、まるで背筋が凍るような思いがある。
死と隣り合わせとは、これほど恐ろしいものなのか。
「……あ、ライヴ先輩」
気づけばライヴ先輩も来ていた。
私が声をかけると、ライヴ先輩はおずおずと私のほうを見る。
「その……今の君は、リアちゃん?」
「?」
どういう意味なんだろう。
キョトンとする私に、「そっか」とだけ言って、ライヴ先輩は穏やかな微笑を浮かべる。
「いや、リアちゃん! よかったよ。君は本当に大変だね」
「あはは……」
苦笑いをする私に、まったくだとばかりにレオナルドとアンちゃんが頷く。
ふと、私の頭にミリスお姉様とべークリフトお兄様のことが浮かんだ。
「そうだった! ミリスお姉様と、べークリフトお兄様は!?」
私の質問に答えてくれたのはライヴ先輩だった。
「王位争いの席から外れたんじゃないかな。リアちゃんに負けたんだからね」
「そうですか……」
「これであの二人が襲ってくることはなくなった。カナリアとボアもね」
二人が外れたとあれば、刺客が来る回数も大分減るだろう。
残りは、アリエルお姉様、リュドミラお兄様、ネアルお兄様だ。
ユーグお兄様は辞退したと聞いているし。
アリエルお姉様は……きっと襲ってはこない。
ネアルお兄様はまず無い。
リュドミラお兄様は、よくわからない。
彼は読めない人だった。
物静かで、あまり喋らない。
だから彼のことは理解できないままである。
「それはそうと、リア。これを」
レオナルドから渡されたのは、例の水時計だった。
それは相変わらず汚れていて、せっかくの水時計が台無しである。
「このゴミを退かしてみろ」
「えぇ?」
つい最近までできなかったから、できないままだと思うんだけど。
それでもレオナルドは水時計を押し付けてくるので、私はゴミを取り出そうと集中してみた。
「!」
驚くことに、私には水時計の状態がすんなりとわかってしまった。
事細かに溢れてくる情報で、頭が痛くなる。
でも、わかってしまえば簡単だ。
無属性魔法で、そのゴミを小さく固める。
もっと小さく。圧縮して。
すると、水は瞬く間に綺麗になった。
「わぁ……」
「リア、凄い!」
ライヴ先輩が感嘆の声を上げ、アンちゃんはまるで自分のことのように喜んでくれた。
レオナルドはその結果に満足したようで、力強く頷く。
「よし。リア、お前……〔全知〕ができるようになってるな」
「でも、何で急に」
「アンナの傷を治したこと、覚えてないのか?」
そう言われても、全く思い出せない。
私がアンちゃんの傷を治した?
どうやって?
考えていると、突然くらりと目眩がした。
「っ……」
「リアちゃん?」
ライヴ先輩の気遣う声。
そこに、レオナルドの声が重なる。
「きっと魔力消費が大きかったからだろう。〔全知〕はその名の通り、全てを知ることができる魔法だからな。リアは魔力量が多いから、魔力切れなんて起こしたことないだろ」
「う、うん」
「慣れておけ。必要なことだ」
レオナルドに言われて、私は「わかった」と返事をした。
また、無自覚に治したみたい。
レオナルドの時もそうだったみたいだし。
考え込んでいると、アンちゃんが私に笑いかけてくれる。
「リア、お腹減ってない? 何か食べれるもの持ってこようか?」
「あ、お願いしようかな……」
「うん」
アンちゃんが振り返った時、トン、と体がライヴ先輩とぶつかった。
あ、マズいかも。
アンちゃん、男性恐怖症なのに。
「………あれ?」
「あ、ごめんね、アンナさん。触れちゃった」
「待ってください」
離れようとするライヴ先輩の手を、アンちゃんはがしりと掴む。
その対応に私達は目を剥いた。
まさか、男性恐怖症のアンちゃんが。
ライヴ先輩に触れてるだなんて!
「だ、男性恐怖症、治ったんじゃない!?」
「ライオネル様に触れても全然嫌じゃない……」
「じゃあレオナルドは?」
試しにレオナルドの手に触れてみれば、途端にアンちゃんは青くなる。
「ひぃいいっ! ち、近寄らないで!」
「………」
何だかレオナルドは複雑そうな顔。
そりゃあ、雑菌みたいな扱いをされたからだろう。
「どういうこと?」
「ライオネル様だけ、平気です」
ペタ、ペタ、と面白そうにアンちゃんはライヴ先輩を触りまくる。
どうやら神秘の泉は少しだけ願いを叶えてくれたみたいだ。
「……あ」
そこで私は思いついた。
「神秘の泉に行けば、何か思い出せるかも」
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

剣の世界のβテスター~異世界に転生し、力をつけて気ままに生きる~
島津穂高
ファンタジー
社畜だった俺が、βテスターとして異世界に転生することに!!
神様から授かったユニークスキルを軸に努力し、弱肉強食の異世界ヒエラルキー頂点を目指す!?
これは神様から頼まれたβテスターの仕事をしながら、第二の人生を謳歌する物語。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

念動力ON!〜スキル授与の列に並び直したらスキル2個貰えた〜
ばふぉりん
ファンタジー
こんなスキルあったらなぁ〜?
あれ?このスキルって・・・えい〜できた
スキル授与の列で一つのスキルをもらったけど、列はまだ長いのでさいしょのすきるで後方の列に並び直したらそのまま・・・もう一個もらっちゃったよ。
いいの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる