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十六話 たまにはさ
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水時計を渡されて、一週間経った。
ステルスを初日で覚えてしまったアンちゃんは、水時計に余りが無いという理由から、わざと不純物を入れた水を完全に綺麗にする、という行為に及んでいた。
ステルスを1日で習得するなんてとても驚いたが、アンちゃんでも水を完全に綺麗にすることは難しいらしい。
私達同様、苦戦している。
一方、クラスで私にアンちゃんが突っかかってくることがなくなったせいか、周りのクラスメイトは不思議そうな顔をして私を見てくる。
まあ、恥ずかしいのか、アンちゃんは話しかけてはこないけどね。
レオナルドの部屋で練習する中、アンちゃんがふとこんな提案をした。
「たまにはさ、お出かけしてみたいわね」
「お出かけ?」
「そう。学院を出てさ、お買い物」
「お出かけか~、行ってみたいかも」
そう会話する私達に、レオナルドは「待て」をかける。
「外に出たら刺客がいるかもしれないぞ。迂闊に出るのは……」
「いいじゃないか」
しかし、それを宥めたのはライヴ先輩だった。
嫌そうにライヴ先輩を睨むレオナルドに、ライヴ先輩はにこやかに言う。
「羽を伸ばすことだって大切だ。緊張しっぱなしじゃあ、できることもできない」
「お前……」
レオナルドは低い声で、ライヴ先輩に何かを囁く。
すると、ライヴ先輩は「まぁね」と愉快げに肯定した。
「いいじゃないですか師匠」
「アンナ……」
「レオナルド。私、行ってみたい」
「リア……」
とうとうレオナルドは言い負け、明日の休日に学院の近くである、ユークリフの街に遊びに行くことにした。
◆ ◆ ◆
「……待って、1つ聞いていい?」
「なに?」
一足先に集合場所についた私とアンちゃんだったが、アンちゃんはなぜか冷や汗をかきながら私を凝視している。
「リア……私服は?」
「え? それが、学院に入ってからいらないと思って、持ってないの」
「王宮を出た時の服は?」
「足しになるから売っちゃった」
アンちゃんは可愛いワンピースで来たが、私は制服で来た。
お出かけなんてレオナルドと行ったアビさんの家が初めてだったし、レオナルドもその点に関しては特に何も言わなかった。
だから私服を買っていなかったのだが、アンちゃんは不満らしい。
私の手を掴んで、ずんずんと洋服屋に進んでいく。
「こういう日なんだから、学院のことなんて忘れましょうよ! 私が奢るから!」
「ええ~?」
あれよあれよという間に、私は可愛い洋服に身を包んでいた。
何だか凄く申し訳ない。
「あの~、ごめんね? アンちゃん」
謝ると、アンちゃんは軽快に笑って見せた。
「リアがそんな格好じゃ、いたたまれないものね。私からのプレゼントよ」
「あ、ありがとう!」
そうして集合場所に戻れば、ライヴ先輩とレオナルドはもうついていた。
「ごめんね、遅くなって」
「……おう」
「うん」
「師匠、ライヴ様、一言ぐらい何かないんですか」
アンちゃんがジト目でそう言うと、ライヴ先輩が真っ先に反応する。
「可愛いよ、2人共。可愛すぎてビックリした」
私は恥ずかしさのあまり、顔に熱が篭っていくのを感じた。
アンちゃんの視線はレオナルドに移る。
「師匠」
「……えっと、その……あー、その、服……」
そこで留まって、レオナルドは黙り込んでしまう。
見ればレオナルドの顔も真っ赤だ。
アンちゃんがボソリと「根性無し」とつぶやいたのが聞こえた。
ライヴ先輩は呆れたとばかりに、レオナルドに口を開く。
「あのさ。言いたいことは口に出さないと」
「……早く行くぞ」
「あ、うん」
レオナルドに手を引かれたので、私は頷く。
後ろから2人のため息が聞こえてきた。
「レオナルド、行くってどこに……?」
「わからない。が、適当に歩く」
その言葉通りに、スタスタと歩いていく。
最初にストップをかけたのはアンちゃんだった。
「あの~、何か小物が欲しいです。あそこの雑貨屋に行きましょう」
声をかけられ、私達は雑貨屋に移動する。
その中はまるで宝箱のようなキラキラとした店だった。
「わあ……!」
「リアは王女様だから、こういう店は知らない?」
「うん。入ったこと……ない」
王宮から抜け出して学院に入るまでは、万が一連れ戻される可能性に備えて、宿屋に篭もりっぱなしだったからなぁ。
こういうお店は新鮮だ。
私とアンちゃんは色々なものを見回した。
「このペン可愛い!」
「これ、メモ帳。凄く使いやすそう」
「あ! 置物綺麗!」
わかりやすく騒ぐ私達に対して、ライヴ先輩とレオナルドは別のところに行ってしまった。
何か探してるのかな。
「……あ」
ふと目にしたのは、ルビー色に輝く石のついたネックレス。
簡易な紐でぶら下がるそれは、レオナルドの瞳を想起させるものであった。
「あ、それ、ルビー?」
「アンちゃん」
ひょい、とネックレスを持ち上げ、石を確認するアンちゃん。
しばらくじっと見つめた後、残念そうに肩を落とす。
「残念。偽物だよ。でも……値段はお手ごろだし、綺麗だし、買うのはいいかもね」
「う、うん」
レオナルドにあげようかな。
そう考えて、私はネックレスを手に取った。
会計を済ませて、ラッピングをしてもらって、カバンの中に入れる。
日頃の感謝を込めての品だが、受け取って貰えるだろうか。
雑貨屋を出て、レオナルドとライヴ先輩と合流した。
「リアちゃん、それにアンナさん。行ってみたい場所があるんだけど、いい?」
そう言い出したのはライヴ先輩だった。
行ってみたいってどこなんだろう。
そう疑問に思った時、それはアンちゃんが聞いてくれた。
「どこですか?」
「このユークリフの街から少し離れたところに泉がある。神秘の泉と呼ばれていて、そこに硬貨を投げて願えば、願いが叶うらしいよ」
「素敵ですね! 行ってみたいです」
アンちゃんはパアッと目を輝かせる。
私も少し興味がある。
うん、と満足気に頷いて、ライヴ先輩は「こっち」と足を進めた。
ステルスを初日で覚えてしまったアンちゃんは、水時計に余りが無いという理由から、わざと不純物を入れた水を完全に綺麗にする、という行為に及んでいた。
ステルスを1日で習得するなんてとても驚いたが、アンちゃんでも水を完全に綺麗にすることは難しいらしい。
私達同様、苦戦している。
一方、クラスで私にアンちゃんが突っかかってくることがなくなったせいか、周りのクラスメイトは不思議そうな顔をして私を見てくる。
まあ、恥ずかしいのか、アンちゃんは話しかけてはこないけどね。
レオナルドの部屋で練習する中、アンちゃんがふとこんな提案をした。
「たまにはさ、お出かけしてみたいわね」
「お出かけ?」
「そう。学院を出てさ、お買い物」
「お出かけか~、行ってみたいかも」
そう会話する私達に、レオナルドは「待て」をかける。
「外に出たら刺客がいるかもしれないぞ。迂闊に出るのは……」
「いいじゃないか」
しかし、それを宥めたのはライヴ先輩だった。
嫌そうにライヴ先輩を睨むレオナルドに、ライヴ先輩はにこやかに言う。
「羽を伸ばすことだって大切だ。緊張しっぱなしじゃあ、できることもできない」
「お前……」
レオナルドは低い声で、ライヴ先輩に何かを囁く。
すると、ライヴ先輩は「まぁね」と愉快げに肯定した。
「いいじゃないですか師匠」
「アンナ……」
「レオナルド。私、行ってみたい」
「リア……」
とうとうレオナルドは言い負け、明日の休日に学院の近くである、ユークリフの街に遊びに行くことにした。
◆ ◆ ◆
「……待って、1つ聞いていい?」
「なに?」
一足先に集合場所についた私とアンちゃんだったが、アンちゃんはなぜか冷や汗をかきながら私を凝視している。
「リア……私服は?」
「え? それが、学院に入ってからいらないと思って、持ってないの」
「王宮を出た時の服は?」
「足しになるから売っちゃった」
アンちゃんは可愛いワンピースで来たが、私は制服で来た。
お出かけなんてレオナルドと行ったアビさんの家が初めてだったし、レオナルドもその点に関しては特に何も言わなかった。
だから私服を買っていなかったのだが、アンちゃんは不満らしい。
私の手を掴んで、ずんずんと洋服屋に進んでいく。
「こういう日なんだから、学院のことなんて忘れましょうよ! 私が奢るから!」
「ええ~?」
あれよあれよという間に、私は可愛い洋服に身を包んでいた。
何だか凄く申し訳ない。
「あの~、ごめんね? アンちゃん」
謝ると、アンちゃんは軽快に笑って見せた。
「リアがそんな格好じゃ、いたたまれないものね。私からのプレゼントよ」
「あ、ありがとう!」
そうして集合場所に戻れば、ライヴ先輩とレオナルドはもうついていた。
「ごめんね、遅くなって」
「……おう」
「うん」
「師匠、ライヴ様、一言ぐらい何かないんですか」
アンちゃんがジト目でそう言うと、ライヴ先輩が真っ先に反応する。
「可愛いよ、2人共。可愛すぎてビックリした」
私は恥ずかしさのあまり、顔に熱が篭っていくのを感じた。
アンちゃんの視線はレオナルドに移る。
「師匠」
「……えっと、その……あー、その、服……」
そこで留まって、レオナルドは黙り込んでしまう。
見ればレオナルドの顔も真っ赤だ。
アンちゃんがボソリと「根性無し」とつぶやいたのが聞こえた。
ライヴ先輩は呆れたとばかりに、レオナルドに口を開く。
「あのさ。言いたいことは口に出さないと」
「……早く行くぞ」
「あ、うん」
レオナルドに手を引かれたので、私は頷く。
後ろから2人のため息が聞こえてきた。
「レオナルド、行くってどこに……?」
「わからない。が、適当に歩く」
その言葉通りに、スタスタと歩いていく。
最初にストップをかけたのはアンちゃんだった。
「あの~、何か小物が欲しいです。あそこの雑貨屋に行きましょう」
声をかけられ、私達は雑貨屋に移動する。
その中はまるで宝箱のようなキラキラとした店だった。
「わあ……!」
「リアは王女様だから、こういう店は知らない?」
「うん。入ったこと……ない」
王宮から抜け出して学院に入るまでは、万が一連れ戻される可能性に備えて、宿屋に篭もりっぱなしだったからなぁ。
こういうお店は新鮮だ。
私とアンちゃんは色々なものを見回した。
「このペン可愛い!」
「これ、メモ帳。凄く使いやすそう」
「あ! 置物綺麗!」
わかりやすく騒ぐ私達に対して、ライヴ先輩とレオナルドは別のところに行ってしまった。
何か探してるのかな。
「……あ」
ふと目にしたのは、ルビー色に輝く石のついたネックレス。
簡易な紐でぶら下がるそれは、レオナルドの瞳を想起させるものであった。
「あ、それ、ルビー?」
「アンちゃん」
ひょい、とネックレスを持ち上げ、石を確認するアンちゃん。
しばらくじっと見つめた後、残念そうに肩を落とす。
「残念。偽物だよ。でも……値段はお手ごろだし、綺麗だし、買うのはいいかもね」
「う、うん」
レオナルドにあげようかな。
そう考えて、私はネックレスを手に取った。
会計を済ませて、ラッピングをしてもらって、カバンの中に入れる。
日頃の感謝を込めての品だが、受け取って貰えるだろうか。
雑貨屋を出て、レオナルドとライヴ先輩と合流した。
「リアちゃん、それにアンナさん。行ってみたい場所があるんだけど、いい?」
そう言い出したのはライヴ先輩だった。
行ってみたいってどこなんだろう。
そう疑問に思った時、それはアンちゃんが聞いてくれた。
「どこですか?」
「このユークリフの街から少し離れたところに泉がある。神秘の泉と呼ばれていて、そこに硬貨を投げて願えば、願いが叶うらしいよ」
「素敵ですね! 行ってみたいです」
アンちゃんはパアッと目を輝かせる。
私も少し興味がある。
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