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第十四話 終わっちゃいない

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「それはどういうことなんだい?」

ライヴ先輩が珍しく焦った様子でアンちゃんの肩を掴む。
「ヒェッ!?」と高い声を漏らし、アンちゃんはその手を払った。

「ふっ……触れないでくださぁい!」
「え?」
「私っ……男性恐怖症なんです!」

しかしここで意外な事実が発覚した。
アンちゃんは荒い息でライヴ先輩に叫ぶ。

「本当に無理なんです! 男性だけは! リアが二人の親戚だって知った時、より近づきがたくなるって思ったぐらいです!」

てっきり二人のことが気になって言っていたんだと思っていたが、違った。
アンちゃんはそんなことを思っていてくれたんだ。
……にしては不器用すぎない?

「あ、アンちゃん。教えてさっきの」
「あっ、うん。リアは今、王位に最も近いとされている王女だよ。王位争いを辞退しただなんて話、全く聞いてない」
「辞退できるの!?」

それは初耳だ。
アンちゃんは私の言葉を聞いてポカンとする。

「う、うん。第一王子のユーグ様は、魔力不足を理由に、勝ち目がないからって辞退したよ」
「!」

まさか辞退できたなんて。
こんなことだったら、辞退を宣言してから王宮を出ればよかった。
アンちゃんは少し暗い表情をして続ける。

「国王様は、公平な判断ができるとお思いになり、次期王を選ぶのをとある大臣に任せた。けど……その大臣は国王様が伏せって数日の間に濡れ衣を着せられ、投獄されてしまったわ」
「待って待って! 何でそこまでのことがわかるんだい? 君は一体、何者?」

ライヴ先輩が怪しむのも無理はない。
彼女は王族の事情を知りすぎている。
でも、私は彼女の素性を知っていた。

「大丈夫です、ライヴ先輩。アンちゃんは信頼できます。何せ彼女の実家であるリズリー家は……王家の天秤です」
「王家の、天秤?」
「はい。王族すら知り得ない情報を管理する、王家の闇を引き受けてきた名家です」
「そんな凄いところのご令嬢なのか……」

そう独りでに呟いたライヴ先輩がアンちゃんに手を伸ばすが、アンちゃんはビクついて離れてしまう。
アンちゃんはライヴ先輩とは距離を取りつつ説明を続けた。

「今、大臣の代わりとなっているのは、大臣の弟子なんだけど……彼は正妃にそそのかされてる。正妃は己の息子を王にしようとしているみたいだけど、息子である第一王子はとっくに辞退した。だから、娘である第二王女のミリア様に切り替えたご様子なの。第一王子とリア以外は、躍起になっている気がする」
「待ってアンちゃん。ネアルお兄様のことを知らない?」
「……それは私より、ライヴ様のほうが知ってるでしょ」
「!」

ライヴ先輩は驚きを隠しきれず、アンちゃんのことを凝視する。
何でそこまで知っているということが聞きたいのだろう。
アンちゃんはいたずらっぽくクスリと笑った。

「リズリー家の実力です。ライオネル様?」
「この子、やるね……ああ、そうだよ。僕はライオネル。ネアル様の従者だ。ネアル様も一応王位を目指しているよ。温厚派だけどね」
「あの、ライヴ先輩。これ以上の話は、レオナルドを交えた方がいいかと」

風邪で寝込んでいるレオナルド抜きにして話せば、レオナルドは混乱するに違いない。
ライヴ先輩は頷いてその場から立ち上がる。

「じゃあ、君達は積もる話もあるだろう。僕はこれで帰るよ」
「あっ、えと、すみません」
「いいんだよ」

ライヴ先輩はそのまま出ていった。
部屋には私とアンちゃんの二人になる。

「………」
「……あの、さ」

先に声を出したのはアンちゃんだった。

「私がフォレットって名字にしてる理由、話してもいいかな」
「! うん」

返事をすると、アンちゃんは安心するように笑った。

「あのね……さっき話した理由は、嘘。今、リズリー家は大変なことになってるの。王族のことを知りすぎちゃった。だから、もしかしたら……一族諸共、やられちゃうかも」
「え!?」
「王妃に、大臣みたいに罪を着せられて死んじゃうかもしれない。私はそれを危惧したお父様に学院に送られたんだ」
「そうだったんだ……」

アンちゃんは不安げな顔をして、私の手を握った。

「今まで散々いじめてごめんね。虫のいい話だってこと、わかってる。けど……お父様やお母様を助け出す力が、どうしても必要なの。だからお願い、いじわるしないで……」
「い、いじわるなんてしてないよ!?」
「でも、ステルス覚えろって」
「あ~、あれは無茶ぶりだけど本当に覚えたから」

そう言うと、アンちゃんはギョッとした。
確かに無属性魔法をろくに扱えない者が、急に無属性の上級を使うなど、正気の沙汰ではない。
アンちゃんは「信じれられない……」と呟く。

「あのさ、私よりレオナルドのほうが教えるの上手だからさ、レオナルドに頼んでみよう。私の特訓にいつも付き合ってもらってるんだ」
「いいのかな。私、リアに酷いことをずっと」
「いいの。私が許す。王女の命令よ」
「リア~……」

すっかり泣きべそをかくアンちゃんに、私は出会った当初のことを思い出す。
出会ったのは王宮の庭園で、何も知らない子供の時。
今とは全然違う大人しめな子だったけど、従者の一人だろうと思い、一緒に遊んだ。
後からそれぞれの身分はわかったけどね。
アンちゃんとはそれっきりだったけれど……会えて嬉しいことは変わりない。

「……今思ったけど、アンちゃんって本当に不器用だよね」
「よ、よく言われる」
「ポンコツとも言う」
「うう」

こうして私は、もう一人の味方を得たのだ。
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