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第十一話 レガリアの魔法

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『お前は、なぜそこまで人間を好いている?』

顔を上げれば、誰かが立っていた。
その誰かはとても嫌そうな顔をして、私を見ている。
どういうこと? と尋ねようとすれば、口が勝手に動いた。

『人間が好きなんですよ』
『人間は醜いのにも関わらず?』
『ええ。私はあの生き物が好き。生きるためにもがいていけるから』
『……物好きだな』

誰かはそう言うと、くるりと背を向け、そのまま去っていく。
なぜか早く追いかけなきゃ、と思った。
追いかけなきゃ、会えなくなっちゃう。
彼を見失えば、もう二度とーー

「リア!!」

名前を呼ばれて、パチリと目を開けた。
目の前には心配げな顔をしたレオナルドがいる。

「レオナルーードッ」

頭を起こした瞬間、彼のおでこと私のおでこがぶつかった。
どうやら私は、彼に膝枕されていたみたい。
レオナルドは私に早口で質問を重ねる。

「痛いところはないか? 魔力切れを起こしていないか? 大丈夫か?」
「……強いて言うなら、おでこが痛い」
「なら大丈夫だな」

私は起き上がると周囲を見回した。
ここはどうやら学院の中のようだ。
しかも……医務室?

「あれっ? 私、刺客に向かってあの魔法を唱えて……」
「説明すると、リアが魔法を唱えた後気絶して、山が噴火した」
「えっ!?」
「先生達も驚いてたよ。噴火する時期じゃないってな」
「………」
「でも怪我人は幸い誰一人としていなくて。リアは気絶してたから、俺が付き添って医務室に行ったってわけ」

なぜベッドがあるのに膝枕なのか、どれくらい寝ていたのか、色々言いたいことはある。
でも、レオナルドが深刻そうな顔をして言った次の言葉で、私の頭は真っ白になった。

「お前が、俺に『治癒魔法』を使った」
「………え」
「もう一度言おうか? 俺の背中の傷に、『治癒魔法』を使ったんだ」
「えぇえええええっ!?」

驚きのあまり、私は大声で叫んだ。
無意識に『治癒魔法』が使えたということ?
つまり使いこなすことができれば、お父様を治せる!?

「証拠を見せる」

レオナルドはそう言って、上の服を脱ぎ出した。
ちょ、ちょっと恥ずかしい。

「ほら」
「本当だ……」

確かに、彼の背中には大きな裂傷があったはずなのに、綺麗さっぱり治っていた。
服を着ながら彼は説明する。

「治ったといっても、失われた血が元に戻ったわけじゃない。完璧に治ったわけじゃないんだ。だからやっぱり、今の目標は〔全知〕を習得することだよ」
「……うん」

無自覚と言えど、一度は使えたのだ。
絶対に無理という確証はなくなった。
これで少しは希望を持てたのかな。

「ところでさ、あの呪文にはどんな効果があったわけ?」
「あっ……」

そういえば、あれを唱えたんだった。
あれは禁術だ。
言葉にするなら、災厄。

「あれは……私の魔力の6割と引き換えに、その場で起こりうる最も最悪なことを、対象に引き出すことができる魔法だよ」
「つまりあの二人をツタが捕まえて、地鳴りがしたと思ったら山が噴火って……想定しうる最悪の事態ってこと?」
「そういうこと」

0であったはずの可能性を、100にしてしまう魔法。
これは私の最終手段。
魔法を使った後はなぜか気絶してしまうし、何より大勢の人を巻き込みかねない。
対象のみに効果を振り絞っているとはいえ、油断はできないのだ。

「とにかく、みんなに何もなかったのなら良かった……」
「……リア。できるだけその魔法は控えろよ」
「わかってる」
「お前だけじゃなく、周りにも被害を及ぼしかねない危険な魔法だ。いざという時の切り札にはなるがな」
「うん……」

やっぱり、浅はかだったのかな。
今回は運が良かっただけなのかもしれない。
本当に怪我人が出ていて、私は責任を取れたの?

「……ごめんな……さい」
「でも、お前にできる最善を尽くしたんだろう」

レオナルドはそう言って、私の頭にポンと手を置いた。

「頑張ったよ、お前は。頑張った」
「……………ありがとう」

控えめな声量でそれを伝えれば、レオナルドが優しく笑った。
やはり私は未熟だ。
王宮を飛び出しただけで、何も変わっていない。
変わりたい。
そう強く思った。

「レオナルド……」
「……何?」
「もっと、厳しくして。早くステルスを覚えて、〔全知〕を覚えて……お父様を治したい。お父様の命は、あと1年も持たないの」
「いいのか? 血反吐を吐くことになるぞ?」
「いい」

そう言うと、レオナルドは私の頭をくしゃりと撫でた。
「覚悟しておけ」と低い声で言ってから、レオナルドは立ち上がる。

「とにかく今日は、寮に帰るぞ。体を休める」
「うん」

残り少ない時間。
絶対に『治癒魔法』を習得してみせる。
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