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ユニコーン編

第百十三話 高位悪魔

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「嫌だ! 俺も行く!」
「待ちなさい!」

アレク達が洞穴に行くとわかった瞬間、少年がついて行くと暴れ出す。
村人達は必死に少年を押さえようとするも、少年の勢いは止まらなかった。
気遣いながらも、シオンが尋ねる。

「ちなみに君、戦える……?」
「いけませんぜお嬢さん。こいつじゃ太刀打ちできない」
「うるせーっ! やるっつったらやるんだよぉ!」

そろそろ村人が力づくで止めようと決めたが、アリスが少年の前に立つ。

「君……死ぬ覚悟、ある?」
「え?」
「その女、強かったんでしょ。君死ぬよ。それでもいいならいいけど」
「……おう!」

少年が力強く頷いた。
村人達は、顔を真っ青にして否定する。

「無茶だ! やめなさい!」
「お前まで死ぬ気か!」

そんな村人達に、少年は睨みを利かせて言う。

「父ちゃんが殺されてんだよ……! 仇を討ちたい!」

少年は槍を握りしめて、振り切るようにして外に走って行く。
村人達の言葉に耳を貸すつもりはないらしい。
アレクはアリスの横に並び、アリスに笑いかける。

「珍しいね、こんなこと言い出すの」
「……別に。ただ、似てたから」

素っ気ないアリスの返答に、照れていることが伝わってくる。
アレクがアリスの頭を撫でれば、「やめてお兄さん」と更にぶっきらぼうに言われた。
そんなアレクに、村人の一人が話しかけてくる。

「旅のお方……お願いです。あの子をお守りください。村の者は、皆家族なのです」
「はい、任せてください。僕が責任持って連れ帰ります」

アレクの宣言に、村人達は胸を撫で下ろす。
建物を出ると、少年がアレク達のことを待っていた。

「早く行くぞ! 案内する!」
「偉そう……」
「そこのチビ、うるさいぞ!」

アリスが呟いたことで、少年が喧嘩を売る。
どうやらカチンときたようで、アリスはアレクの手を握って言う。

「私、こいつ嫌い」
「あはは……」

先行きが不安である。
村から離れ、開かれた道を歩いていけば、洞穴が見えてきた。
そこで、少年がアレク達のほうへと体を向けた。

「ここから先は魔物が出てくる。注意しろ」

少年の一言をきっかけに、アリスが前に出た。

「呼びかけられるかやってみる」

自身のツノをギュッと握り、アリスが目を瞑る。
しばらくすると、弾かれたように顔を上げた。

「ダメ……主導権が奪われてる」
「それって」
「この奥にいるのはきっと、本当に高位の悪魔。私の呼びかけに答えてくれないほどに、魔物達が支配されてる」

全体に緊張が走る。
ライアンが落ちていた木の棒を拾うと、炎魔法を使って火をつける。

「俺が先に行く! みんな、ついてきてくれ!」
「わかった!」
「任せたわよ」

ライアンを先頭に、アレク達が一列になって洞窟に足を踏み入れる。
ひんやりとした冷気が肌を撫で、水の滴る音が聞こえてきた。
そこから十分ほど歩き、アレクが口を開く。

「ねえ……この洞窟って、どれくらいの広さなの?」

その質問に、少年が答えた。

「ユニコーン様が祀られている神棚はもっと奥だ。ここは俺達の、成人の儀の場所でもある」
「成人の儀?」
「魔物が出てくるだろ。魔物を切り抜けて、ユニコーン様の神棚にお供えができれば、立派な一人前として認められるんだ」

その時、暗闇から魔物が飛び出してきた。

「うわぁっ!?」

突然のことで驚き、ライアンが松明を落とす。
炎が下に落ちたことで、洞窟全体を明るく照らした。

「ぎゃぎゃっ!」
「ライアン伏せて!」

ユリーカが魔物に向かって、風魔法を放つ。
魔物を撃退するも、次から次へと湧いてきた。

「うおおお! やるぞ!」
「うぅ、多いよぉ」
「みんな離れないで!」

アレク達が魔物を振り払いながら進んでいくが、少年がここで違和感を訴え出す。

「おかしい! こんなに魔物の数が多いのも……それに強いのも!」
「つまり!?」
「異常事態だ! 洞穴の長さも長すぎる!」

アリスはどうやら心当たりがあるらしく、少し考え伏せっていた。

「長さを変える……空間……それに、高位悪魔」
「なにブツブツ言ってるんだ!」

少年が怒鳴るもので、柄にもなく「うるさい!」とアリスは声を荒げる。

「本当にアイツなら……ここに来て最悪のカードを引いたわ!」
「さ、最悪って」

アリスの発言に、シオンは怯え気味に洞穴の奥を見つめた。
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