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留年回避編
第百七話 双子ボイコット
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時の流れは早いもので、とうとうテスト前日に迫った。
アレクは雑用で干からびていたし、それは他の三人も同様であった。
ユリーカは演技の練習で忙しそうであったし、シオンは相変わらず体力づくり。
ライアンは、担任のアリーシャとワンツーマンである。
ユリーカはテストの次の日に上演会なのだから、たまったものではないだろう。
そんな中ーー学園に出席したアレクだが、なんだか朝から様子がおかしい。
教室にいたアレクの元に、半泣きのキノロンが飛び込んでくる。
「あ、アレクくぅん!」
「キノロンさん?」
「もう無理! 助けて!」
「な、なにがあったんですか」
「会長と副会長が!」
その時点で察した。
また双子が何かやらかしたのだろう。
あと二日なのだから我慢してほしい。
「兄様と姉様がどうしたんですか」
「ボイコットに!」
「ボイコット……?」
キノロンに連れられ、アレクは生徒会室へ向かう。
そこには生徒会室に立て篭もり、全力で叫ぶ二人がいた。
『いい加減仕事地獄やめろー!』
『私達を解放しなさい。さもなくば殺します』
「こわ……」
『こっちはもう余裕がないんだよ』
『アレク不足で死ぬ』
わざわざメガホンまで使っている。
生徒会室の前には人混みができていて、生徒会メンバーが最前列で呻いていた。
「会長ぅうううう、仕事してくださいぃ」
「これで最後なんです! 最後なんですぅ!」
必死の訴えも二人には通じない。
頑なに閉ざされた扉に、アレクは思い切りため息をついた。
「キノロンさん。メガホンってあります?」
「え? 演劇部の小道具を借りれば」
「わざわざ借りに行くのもあれですね……」
スタスタと歩いて前に出ると、一気に人の波が割れる。
アレクも有名人であり、彼らの弟だ。
周りの人混みは、アレクの一挙一動に注目していた。
「兄様、姉様」
ピタリと二人の抗議が止んだ。
『アレクなのか……?』
『アレク! お姉ちゃんに顔を見せて!』
「二人共、約束守らないと嫌いになるって言ったよね?」
怒りで上擦った声を隠しもせず、アレクは淡々と二人に告げた。
「しばらく屋敷に帰ってこないで」
双子に凄まじい衝撃が降りた。
今すぐ飛び出して謝りたいところだが、留年したくなければ一ヶ月は会うな、というのが学園長との取り決めである。
しかしアレクに会わねば、謝罪の余地などない。
迷った末にキャパオーバーになり、双子は倒れた。
「よし! 会長と副会長が倒れた!」
「回収しろ! 生徒会室を取り戻せ!」
「あの化け物達いつ起きるかわからんぞ」
「取り押さえろ!」
まるで魔物の討伐である。
生徒会メンバーは、鬼気迫る勢いで生徒会室に飛び込んだ。
しかし実際、二人はもう抜け殻である。
アレクはキノロンに向き直ると、しっかりと頭を下げた。
「ごめんなさい、二人をよろしくお願いします」
「アレク君……わ、わかったよ」
「また何かあったら呼んでください。懲らしめますんで」
この時キノロンは、この先のアレクとの付き合いの長さも考慮し、決してアレクを怒らせまいと心の中で誓った。
◆ ◆ ◆
そして、テスト当日。
筆記テストが終わった後、アレクは気になっていたライアンの元へと急ぐ。
「どうだった? 手応え」
「………」
「ライアン?」
「神様アリーシャ様お願いします俺留年だけは嫌っスどうか」
「祈ってる……」
両の手を擦り合わせつつ、神に祈ることなどしないであろうライアンが祈っている。
その異常性と必死さにアレクは気遣いの念を覚え、そっとしておくことにした。
「アレク君、ライアン。次、体力テストよ」
「そうだった」
「それなら俺行ける!」
「復活した」
露骨に元気になったライアンだったが、逆にシオンは不安そうだった。
「満点……いけるかな……」
「シオンなら大丈夫だよ! ジン先生に特訓つけてもらったじゃん」
「うん……そうだよねっ」
シオンはぐ、と自身で握り拳を作ると、思い切り前を向いた。
アレクは雑用で干からびていたし、それは他の三人も同様であった。
ユリーカは演技の練習で忙しそうであったし、シオンは相変わらず体力づくり。
ライアンは、担任のアリーシャとワンツーマンである。
ユリーカはテストの次の日に上演会なのだから、たまったものではないだろう。
そんな中ーー学園に出席したアレクだが、なんだか朝から様子がおかしい。
教室にいたアレクの元に、半泣きのキノロンが飛び込んでくる。
「あ、アレクくぅん!」
「キノロンさん?」
「もう無理! 助けて!」
「な、なにがあったんですか」
「会長と副会長が!」
その時点で察した。
また双子が何かやらかしたのだろう。
あと二日なのだから我慢してほしい。
「兄様と姉様がどうしたんですか」
「ボイコットに!」
「ボイコット……?」
キノロンに連れられ、アレクは生徒会室へ向かう。
そこには生徒会室に立て篭もり、全力で叫ぶ二人がいた。
『いい加減仕事地獄やめろー!』
『私達を解放しなさい。さもなくば殺します』
「こわ……」
『こっちはもう余裕がないんだよ』
『アレク不足で死ぬ』
わざわざメガホンまで使っている。
生徒会室の前には人混みができていて、生徒会メンバーが最前列で呻いていた。
「会長ぅうううう、仕事してくださいぃ」
「これで最後なんです! 最後なんですぅ!」
必死の訴えも二人には通じない。
頑なに閉ざされた扉に、アレクは思い切りため息をついた。
「キノロンさん。メガホンってあります?」
「え? 演劇部の小道具を借りれば」
「わざわざ借りに行くのもあれですね……」
スタスタと歩いて前に出ると、一気に人の波が割れる。
アレクも有名人であり、彼らの弟だ。
周りの人混みは、アレクの一挙一動に注目していた。
「兄様、姉様」
ピタリと二人の抗議が止んだ。
『アレクなのか……?』
『アレク! お姉ちゃんに顔を見せて!』
「二人共、約束守らないと嫌いになるって言ったよね?」
怒りで上擦った声を隠しもせず、アレクは淡々と二人に告げた。
「しばらく屋敷に帰ってこないで」
双子に凄まじい衝撃が降りた。
今すぐ飛び出して謝りたいところだが、留年したくなければ一ヶ月は会うな、というのが学園長との取り決めである。
しかしアレクに会わねば、謝罪の余地などない。
迷った末にキャパオーバーになり、双子は倒れた。
「よし! 会長と副会長が倒れた!」
「回収しろ! 生徒会室を取り戻せ!」
「あの化け物達いつ起きるかわからんぞ」
「取り押さえろ!」
まるで魔物の討伐である。
生徒会メンバーは、鬼気迫る勢いで生徒会室に飛び込んだ。
しかし実際、二人はもう抜け殻である。
アレクはキノロンに向き直ると、しっかりと頭を下げた。
「ごめんなさい、二人をよろしくお願いします」
「アレク君……わ、わかったよ」
「また何かあったら呼んでください。懲らしめますんで」
この時キノロンは、この先のアレクとの付き合いの長さも考慮し、決してアレクを怒らせまいと心の中で誓った。
◆ ◆ ◆
そして、テスト当日。
筆記テストが終わった後、アレクは気になっていたライアンの元へと急ぐ。
「どうだった? 手応え」
「………」
「ライアン?」
「神様アリーシャ様お願いします俺留年だけは嫌っスどうか」
「祈ってる……」
両の手を擦り合わせつつ、神に祈ることなどしないであろうライアンが祈っている。
その異常性と必死さにアレクは気遣いの念を覚え、そっとしておくことにした。
「アレク君、ライアン。次、体力テストよ」
「そうだった」
「それなら俺行ける!」
「復活した」
露骨に元気になったライアンだったが、逆にシオンは不安そうだった。
「満点……いけるかな……」
「シオンなら大丈夫だよ! ジン先生に特訓つけてもらったじゃん」
「うん……そうだよねっ」
シオンはぐ、と自身で握り拳を作ると、思い切り前を向いた。
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