204 / 227
留年回避編
第九十八話 見出した適正
しおりを挟む
一時間ほどで作業が終了し、残りの時間でポーション造りをすることになった。
「まずは薬草をすり潰しま~す。はいっ、どうぞ」
ハンナに言われるがまま、ポーションの元となる薬草をすり潰す。
薬草独特の匂いが鼻を突いて、その青臭さにアレクは顔を顰める。
「ふふ、少しキツめの匂いでしょう? こういうのがよく効くんです」
「な、なるほど……」
「次に、すり潰した薬草をこして、汁を抽出します」
ガーゼを張った瓶を差し出され、アレクは潰した薬草をガーゼの上に乗せた。
そのままスプーンで押し潰すようにして押し込めば、汁が瓶へと溜まっていく。
「あとはこの汁を聖水と混ぜて、煮詰めていきまーす」
聖水の瓶を渡され、アレクはその蓋を取り外す。
ここで純粋な疑問が湧いた。
「この聖水って、どうやって作ってるんですか?」
「……知らないんですか?」
あまりに当たり前すぎて、一般常識として疑われることのない知識だ。
それをアレクが聞いてきたものだから、ハンナはポカンと口を開ける。
こういうことは最近少なかったが、まだまだアレクは知らないことが多い。
素直に頷けば、少々困惑しつつも説明してくれた。
「聖水って、教会で作るんです。聖職者さんが祈りを込めて、教会から祝福を得る。そうすれば、聖水は完成します。この聖水はこうやってポーションにも使えますし、魔物祓いにも使えます」
「魔物祓い?」
「はい。まあ、寄ってこさせないようにするだけだったり、直接ダメージを与えたり、作る人によってまちまちですけどね」
ハンナの解説を聞きつつ、聖水を薬草の汁と混ぜ合わせる。
それらが混ざってマーブル色になるのを、アレクはドキドキしながら見守った。
やがて、透き通った薄い青緑になると、ハンナが瓶の中身を鍋へと移してくれた。
「これを火にかけるんですけど、火加減が大事なんです! ゆっくり一定のスピードで、ぐーるぐーる混ぜるんですよ」
「こうですか?」
「そう! 上手ですね」
鍋を混ぜ合わせること十分、中身が煮立つ前に、とろみが出た段階で火から下す。
「最後に治癒魔法をかけて完成です」
「聖属性を待ってなきゃ作れないんですね」
「はい。ポーションって、消毒の効果もかねて利用する人も多いですからね。この液体が傷を癒しつつ、魔法の効果を押し留めてくれるんですよ。その分早く劣化しやすいんですけどね……」
アレクは鍋の液体に向かって、軽く治癒魔法をかけた。
治癒魔法は、聖属性を持っていなければ使えない。
今まで特に疑問など抱いていなかったのだが、ひょっとしてこの属性は、天族が使っていた元来の魔法と近いものなんだろうか。
(名前に聖ってついてるしなぁ)
「できました! どうですか? ハンナ先生」
できあがったポーションをハンナに見せる。
反応がないため、失敗してしまったかと不安に思った。
しかし、それはどうやら違ったらしい。
「す、素晴らしいですよこれ! アレク君、才能あり……いや、天才です!」
ポーションを抱えて喜ぶハンナの姿に、アレクはほっと胸を撫で下ろす。
なんとなく自分はこういうものが向いていると思っていたが、ハズレではなかったらしい。
「将来、調合師になるといいですよ。大成します。私が保証します」
「か、考えておきます!」
圧が凄い。
瞳孔ガン開きだ。
逃げるようにしてアレクは保健室を出た。
カーン、カーン、カーン
「あ」
ここで鐘の音が耳に届く。
授業開始の合図である。
「アリーシャ先生に怒られる……」
こういう時に限って寝坊しないのが彼女だ。
アレクは急いで教室へと向かう。
その時だった。
「そこの君! 廊下は走らない!」
「は、はいっ!」
ぴしゃりと叱られ、思わずその場で足を止める。
恐る恐る顔を上げると、そこには厳しげな表情を浮かべた男性がいた。
「君は……アレク・サルト君だね?」
「そうですけど」
「やはり! なるほど!」
何やら大声を出して、男性は一人で納得していた。
アレクの肩をがしりと掴み、男性はアレクに告げる。
「君の性根も叩き直してやる」
「え?」
「授業が終わったら職員室に来なさい。私の名はジンだ」
「じゃあ!」と背中を勢いよく叩かれ、ジンと名乗った職員は去っていった。
思わずその去り姿を、アレクは食い入るように見つめる。
「…………性根?」
僕、そんな悪いことしたっけ。
冷や汗をかきつつ、アレクは自身の行動を振り返った。
「まずは薬草をすり潰しま~す。はいっ、どうぞ」
ハンナに言われるがまま、ポーションの元となる薬草をすり潰す。
薬草独特の匂いが鼻を突いて、その青臭さにアレクは顔を顰める。
「ふふ、少しキツめの匂いでしょう? こういうのがよく効くんです」
「な、なるほど……」
「次に、すり潰した薬草をこして、汁を抽出します」
ガーゼを張った瓶を差し出され、アレクは潰した薬草をガーゼの上に乗せた。
そのままスプーンで押し潰すようにして押し込めば、汁が瓶へと溜まっていく。
「あとはこの汁を聖水と混ぜて、煮詰めていきまーす」
聖水の瓶を渡され、アレクはその蓋を取り外す。
ここで純粋な疑問が湧いた。
「この聖水って、どうやって作ってるんですか?」
「……知らないんですか?」
あまりに当たり前すぎて、一般常識として疑われることのない知識だ。
それをアレクが聞いてきたものだから、ハンナはポカンと口を開ける。
こういうことは最近少なかったが、まだまだアレクは知らないことが多い。
素直に頷けば、少々困惑しつつも説明してくれた。
「聖水って、教会で作るんです。聖職者さんが祈りを込めて、教会から祝福を得る。そうすれば、聖水は完成します。この聖水はこうやってポーションにも使えますし、魔物祓いにも使えます」
「魔物祓い?」
「はい。まあ、寄ってこさせないようにするだけだったり、直接ダメージを与えたり、作る人によってまちまちですけどね」
ハンナの解説を聞きつつ、聖水を薬草の汁と混ぜ合わせる。
それらが混ざってマーブル色になるのを、アレクはドキドキしながら見守った。
やがて、透き通った薄い青緑になると、ハンナが瓶の中身を鍋へと移してくれた。
「これを火にかけるんですけど、火加減が大事なんです! ゆっくり一定のスピードで、ぐーるぐーる混ぜるんですよ」
「こうですか?」
「そう! 上手ですね」
鍋を混ぜ合わせること十分、中身が煮立つ前に、とろみが出た段階で火から下す。
「最後に治癒魔法をかけて完成です」
「聖属性を待ってなきゃ作れないんですね」
「はい。ポーションって、消毒の効果もかねて利用する人も多いですからね。この液体が傷を癒しつつ、魔法の効果を押し留めてくれるんですよ。その分早く劣化しやすいんですけどね……」
アレクは鍋の液体に向かって、軽く治癒魔法をかけた。
治癒魔法は、聖属性を持っていなければ使えない。
今まで特に疑問など抱いていなかったのだが、ひょっとしてこの属性は、天族が使っていた元来の魔法と近いものなんだろうか。
(名前に聖ってついてるしなぁ)
「できました! どうですか? ハンナ先生」
できあがったポーションをハンナに見せる。
反応がないため、失敗してしまったかと不安に思った。
しかし、それはどうやら違ったらしい。
「す、素晴らしいですよこれ! アレク君、才能あり……いや、天才です!」
ポーションを抱えて喜ぶハンナの姿に、アレクはほっと胸を撫で下ろす。
なんとなく自分はこういうものが向いていると思っていたが、ハズレではなかったらしい。
「将来、調合師になるといいですよ。大成します。私が保証します」
「か、考えておきます!」
圧が凄い。
瞳孔ガン開きだ。
逃げるようにしてアレクは保健室を出た。
カーン、カーン、カーン
「あ」
ここで鐘の音が耳に届く。
授業開始の合図である。
「アリーシャ先生に怒られる……」
こういう時に限って寝坊しないのが彼女だ。
アレクは急いで教室へと向かう。
その時だった。
「そこの君! 廊下は走らない!」
「は、はいっ!」
ぴしゃりと叱られ、思わずその場で足を止める。
恐る恐る顔を上げると、そこには厳しげな表情を浮かべた男性がいた。
「君は……アレク・サルト君だね?」
「そうですけど」
「やはり! なるほど!」
何やら大声を出して、男性は一人で納得していた。
アレクの肩をがしりと掴み、男性はアレクに告げる。
「君の性根も叩き直してやる」
「え?」
「授業が終わったら職員室に来なさい。私の名はジンだ」
「じゃあ!」と背中を勢いよく叩かれ、ジンと名乗った職員は去っていった。
思わずその去り姿を、アレクは食い入るように見つめる。
「…………性根?」
僕、そんな悪いことしたっけ。
冷や汗をかきつつ、アレクは自身の行動を振り返った。
0
お気に入りに追加
10,436
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。