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留年回避編
第九十六話 長い日々のはじまり
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朝である。
アレクが超大規模依頼を機にもらった屋敷で迎える朝は、寮で迎えるものとは雰囲気が違う。
「むまーっ!」
「おはよう、お兄さん」
おおかたアリスと、屋敷に住み着いている「ムマ」という妖精がいるからだろう。
「おはよう、アリス、ムマ」
「朝ご飯できてるよ」
「むまっ!」
ベッドから這い上がり、洗面所へと向かう。
朝からなにか足りないと思えば、そういえば今日から、ガディとエルルがいない。
二人共、生徒会室に寝泊まりしているからである。
昨日からアレクに接触禁止命令を出された二人は、問答無用で抵抗にかかった。
『ふざけるなアレクと離されてたまるか』
『アレク~~っ! お姉ちゃん寂しい!』
『二人共、行かないと無視するからね』
『行ってまいります』
『お元気で』
鮮やかすぎる手のひら返しで、二人はしくしく泣きながら生徒会室へと向かっていった。
そんな二人の背中を思い出しつつ、朝食に出されたパンを食べる。
「お兄さんお兄さん」
「なに?」
「私、今日からティファンの行方を探してみるね」
「え、大丈夫なの? 一人なんだよ?」
「平気。私お姉さんだもの」
「そう……?」
ちなみにアレクは、アリスが自身より年上だということを知らない。
アリスはとっとと身支度を終えると、椅子から降りて手を振った。
「いってきます」
「あ、いってらっしゃい」
アリスを見送り、アレクも自身の寝巻き姿を見下ろす。
「僕も着替えなきゃな」
◆ ◆ ◆
「みんなおはよー」
「おはようアレク君!」
「え」
教室に入り、挨拶を返してくれたシオンを見て、アレクはポカンと口を開けた。
シオンの手にはダンベルがある。
「な、なんでダンベル?」
「次までに、体育のテストで、満点、とらなきゃいけないから」
「そ、そう……」
息切れしながら答えるシオンに、アレクは少し気後れしながら返事をする。
「筋肉……うっ頭が」
「大丈夫? ユリーカ」
「なんでもない……」
ユリーカといえば、シオンの筋トレする姿にトラウマがある。
視界に入れないように、そっと教科書でシオンの姿を隠していた。
「ライアンは何やってるの?」
「授業の予習っ! 俺、百点とらなきゃいけないから……あーでも頭痛くなってきた」
「僕で教えられるところなら教えるよ」
「マジでか!? じゃあここ頼む!」
ライアンに求められ、アレクは内容の解説を始める。
しかし、流石は英雄学園。
アレクが実家にいた頃、暇を持て余して勉強していなかったら、今頃ついていけていたのだろうか。
「あっ、そういえばアレク君。これ、もらってくれない?」
「演劇部のチケット?」
「私の課題、三千人集めることだから」
「学園長先生も無茶言うよね……」
アレクがチケットを受け取ったところで、変わらずボサボサの髪を、持て余すようにしてアリーシャがやってくる。
「おはようみんな~。今日も授業はじめるぞ~」
「アリーシャ先生、相変わらず眠そうね」
「おっ、アレク君達、久しぶりじゃん。ついに学園長先生に怒られたんだって?」
「うっ」
恥ずかしそうにうつむく四人に、アリーシャはカラカラと笑った。
「まあ気になさるなって。なんとかなるから。はいみんな、教科書の百五ページ開いて」
アリーシャの一声によって、授業が始まる。
アリーシャは担任であると同時に、歴史学の教師であった。
朝から歴史はなかなかにキツイ。
気合いを入れ、アレク達は授業に集中した。
計六時間をこなし、一日が終わる。
本来なら授業が終わった時点で、委員会に行ったり、帰宅したりするものだが、今日からは様子が違う。
アレクは先生の雑用である。
「というわけで、今日は私の雑用をしてもらいますっ」
「よろしくお願いします!」
今日はアリーシャの雑用だ。
授業後の彼女には生気が感じられない。
もしかしてミイラだったりするのだろうか。
「いやもう疲れた帰りたい」
「帰れないんですね」
「教師だから……」
ぶつくさと呟くアリーシャを宥めつつ、職員室へと足を運ぶ。
「アレク君には、私の机の掃除をお願いしようかな」
「うわ」
アリーシャの机の汚さに、アレクは一歩引いてしまう。
「これ……いつのですか?」
異臭を放つエナジードリンクを片目に、アリーシャはレポートを取り出す。
「ごめんちょっと今授業内容を考えるので忙しくて」
「アリーシャ先生? これ、人としてどうなんですか?」
「ごめんじゃあよろしく」
逃げやがった。
とっとと姿を消したアリーシャに呆れつつ、アレクは机の掃除を始める。
「酷いぞこれは……」
食べかけのナッツやら、酒の瓶やらが出てきて、アレクは顔を顰めるばかりだ。
すると、横から誰かの手が伸びてきて、アレクにマスクを差し出した。
「これどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「お久しぶりですね。ハンナで~す」
「ハンナ先生!」
英雄学園の保健室の先生、ハンナである。
アレクも会ったのは久々であり、どことなく懐かしさを感じた。
「アリー先輩の机、いつ見ても酷いですねえ」
「いつもこんな感じなんですか?」
「はい。他の先生からは「教師として生きてていいのか」とか言われてますよ」
「そこまで言います?」
もらったマスクをありがたく着用し、アレクは掃除を進めた。
アレクが超大規模依頼を機にもらった屋敷で迎える朝は、寮で迎えるものとは雰囲気が違う。
「むまーっ!」
「おはよう、お兄さん」
おおかたアリスと、屋敷に住み着いている「ムマ」という妖精がいるからだろう。
「おはよう、アリス、ムマ」
「朝ご飯できてるよ」
「むまっ!」
ベッドから這い上がり、洗面所へと向かう。
朝からなにか足りないと思えば、そういえば今日から、ガディとエルルがいない。
二人共、生徒会室に寝泊まりしているからである。
昨日からアレクに接触禁止命令を出された二人は、問答無用で抵抗にかかった。
『ふざけるなアレクと離されてたまるか』
『アレク~~っ! お姉ちゃん寂しい!』
『二人共、行かないと無視するからね』
『行ってまいります』
『お元気で』
鮮やかすぎる手のひら返しで、二人はしくしく泣きながら生徒会室へと向かっていった。
そんな二人の背中を思い出しつつ、朝食に出されたパンを食べる。
「お兄さんお兄さん」
「なに?」
「私、今日からティファンの行方を探してみるね」
「え、大丈夫なの? 一人なんだよ?」
「平気。私お姉さんだもの」
「そう……?」
ちなみにアレクは、アリスが自身より年上だということを知らない。
アリスはとっとと身支度を終えると、椅子から降りて手を振った。
「いってきます」
「あ、いってらっしゃい」
アリスを見送り、アレクも自身の寝巻き姿を見下ろす。
「僕も着替えなきゃな」
◆ ◆ ◆
「みんなおはよー」
「おはようアレク君!」
「え」
教室に入り、挨拶を返してくれたシオンを見て、アレクはポカンと口を開けた。
シオンの手にはダンベルがある。
「な、なんでダンベル?」
「次までに、体育のテストで、満点、とらなきゃいけないから」
「そ、そう……」
息切れしながら答えるシオンに、アレクは少し気後れしながら返事をする。
「筋肉……うっ頭が」
「大丈夫? ユリーカ」
「なんでもない……」
ユリーカといえば、シオンの筋トレする姿にトラウマがある。
視界に入れないように、そっと教科書でシオンの姿を隠していた。
「ライアンは何やってるの?」
「授業の予習っ! 俺、百点とらなきゃいけないから……あーでも頭痛くなってきた」
「僕で教えられるところなら教えるよ」
「マジでか!? じゃあここ頼む!」
ライアンに求められ、アレクは内容の解説を始める。
しかし、流石は英雄学園。
アレクが実家にいた頃、暇を持て余して勉強していなかったら、今頃ついていけていたのだろうか。
「あっ、そういえばアレク君。これ、もらってくれない?」
「演劇部のチケット?」
「私の課題、三千人集めることだから」
「学園長先生も無茶言うよね……」
アレクがチケットを受け取ったところで、変わらずボサボサの髪を、持て余すようにしてアリーシャがやってくる。
「おはようみんな~。今日も授業はじめるぞ~」
「アリーシャ先生、相変わらず眠そうね」
「おっ、アレク君達、久しぶりじゃん。ついに学園長先生に怒られたんだって?」
「うっ」
恥ずかしそうにうつむく四人に、アリーシャはカラカラと笑った。
「まあ気になさるなって。なんとかなるから。はいみんな、教科書の百五ページ開いて」
アリーシャの一声によって、授業が始まる。
アリーシャは担任であると同時に、歴史学の教師であった。
朝から歴史はなかなかにキツイ。
気合いを入れ、アレク達は授業に集中した。
計六時間をこなし、一日が終わる。
本来なら授業が終わった時点で、委員会に行ったり、帰宅したりするものだが、今日からは様子が違う。
アレクは先生の雑用である。
「というわけで、今日は私の雑用をしてもらいますっ」
「よろしくお願いします!」
今日はアリーシャの雑用だ。
授業後の彼女には生気が感じられない。
もしかしてミイラだったりするのだろうか。
「いやもう疲れた帰りたい」
「帰れないんですね」
「教師だから……」
ぶつくさと呟くアリーシャを宥めつつ、職員室へと足を運ぶ。
「アレク君には、私の机の掃除をお願いしようかな」
「うわ」
アリーシャの机の汚さに、アレクは一歩引いてしまう。
「これ……いつのですか?」
異臭を放つエナジードリンクを片目に、アリーシャはレポートを取り出す。
「ごめんちょっと今授業内容を考えるので忙しくて」
「アリーシャ先生? これ、人としてどうなんですか?」
「ごめんじゃあよろしく」
逃げやがった。
とっとと姿を消したアリーシャに呆れつつ、アレクは机の掃除を始める。
「酷いぞこれは……」
食べかけのナッツやら、酒の瓶やらが出てきて、アレクは顔を顰めるばかりだ。
すると、横から誰かの手が伸びてきて、アレクにマスクを差し出した。
「これどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「お久しぶりですね。ハンナで~す」
「ハンナ先生!」
英雄学園の保健室の先生、ハンナである。
アレクも会ったのは久々であり、どことなく懐かしさを感じた。
「アリー先輩の机、いつ見ても酷いですねえ」
「いつもこんな感じなんですか?」
「はい。他の先生からは「教師として生きてていいのか」とか言われてますよ」
「そこまで言います?」
もらったマスクをありがたく着用し、アレクは掃除を進めた。
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