200 / 227
アルスフォード編
第九十四話 留年の危機
しおりを挟む
その後、アレク達はトリティカーナへと帰宅することになった。
帰りはナオに風魔で送っていってもらう予定である。
ラフテルもついていこうとしたが、どうやら仕事があるらしい。
姉であるルイーズに引き留められ、渋々といった表情でアレクを見ている。
「もう行くのか。あとちょっとでもいればいい」
「ううん、行くよ。長い間いすぎた気もするしね」
アレクが首を横に振ると、寂しそうにしょも、と眉を下げる。
こういうところがなんだか可愛く思えて、アレクはラフテルの手を握った。
「また絶対会おう。約束だから」
「……ああ。いつでも遊びに来てくれ。いや、俺からも行っていいか?」
「うん!」
ラフテルの手を離し、アレクは風魔に乗り込む。
ルイーズがこちらに向けてニヤリと笑った。
「実験体になる気になったらいつでも来い。可愛がってやる」
そんなルイーズに答えたのは、アレクではなく横のガディだった。
「アレクはやらん! 変態め」
そうして風魔が飛びだち、アルスフォードが遠くなっていく。
「兄様、姉様。短剣作れてよかったね」
「ああ。武器があるとこうも安心感が違うんだな」
「あるべきものが戻ってきたって感じだわ」
短剣を大事そうに撫でる二人に、アレクもほっとした。
しかし、生まれた課題は多い。
「クリア達を取り戻さないと……」
ティファンによって、クリア達は連れ去られた。
アルスフォードを出る際に、ポルカがアレクにこんな助言を残してくれた。
『ティファンは、自身の基地をいくつも持っていてのぅ。各地にあの子の居場所がある。そこを巡っていけば、クリア達を取り戻せるやもしれん』
「待っててね……」
アレクの契約した、召喚獣達。
もはやアレクにとっては、友達であり、頼れる家族のようなものだ。
助け出すという決意は固い。
せめて無事であることを今は祈り、トリティカーナへと戻ろう。
「アレク様」
声をかけてきたのは、ナオだった。
風魔は操縦を必要とはするものの、常に見張っていなければいけないわけではない。
だからこうして、操縦席をナオは離れたのだろう。
「どうしたの?」
「あ、いえ。大したことではないんですけど」
ナオは少したじろいでから、アレクに頭を下げた。
「お願いです。ご主人様の力になってあげてください」
「ラフテルの力に……?」
「はい。将来、ご主人様は、アインバイル家を背負うお方。そんなご主人様の、友達でいてあげてほしいんです。それだけで、私はーー」
そこから先の言葉は、飲み込まれた。
こうやってナオが頭を下げる分、なにか理由はあるのだろう。
しかし、アレクはそれを問うことはしなかった。
「大丈夫。僕とラフテルは、ずっと友達だよ」
「……! ありがとうございますっ! ご主人様、友達が少ないから心配で」
「あはは」
アレクとナオが談笑する横で、アリスは静かに地面を見下ろしていた。
風魔から見えるのは、人々、動物、魔物。
隔たれた場所に住む魔物達を見て、アリスは故郷を思い出す。
『いいかアリス。私達は、この世界の統率者だ。私の後継ぎとして、頼んだぞ』
「魔族も人間も変わらないんだ……」
面倒なしがらみがあるのは、どこも同じらしい。
ため息をつくと、アリスは風魔の屋内へと引っ込んでいった。
◆ ◆ ◆
ナオに風魔を降ろしてもらい、アレク達は英雄学園へと戻ってきた。
「俺いっちばーん!」
ライアンがいの一番に飛び出し、ユリーカは「元気ねえ」と呆れ気味に呟く。
そんなアレク達のところに、老人が駆け足でやってきた。
「や~っと帰ってきたぁあ!!」
「え」
「遅いよ!! 本当に!!」
大声でそう言ってくるため、周りの生徒の注目も集まってくる。
「もしかして、学園長先生?」
「いかにも! これが儂の今日の姿じゃな」
学園長の変身体質は健在で、姿が毎日変わるため、一目見ただけでは誰かがわかりづらい。
そんな学園長は普段、学園長室にいるのだが、今日はわけが違うらしい。
「どうしたんですか」
「君達を待ってたんだよ! いいから、ほら! ついてきて!」
学園長に連れられ、アレク達は歩き出す。
「どうしたんだろ」
不思議そうにするアレクに、アリスが訝しげに尋ねる。
「お兄さん、何かやったの?」
「なんで僕!?」
「だって、怒られてそう」
「なにもやってないよ!」
しかし、学園長が連れて行った教室の名前を見て、アレクは絶句する。
「進路指導部……」
問題のある生徒のみが通される場所だ。
恐る恐る入れば、そこには色々な書類が重なって置いてある。
「さてと……今日、君達をここに呼んだのは、とある理由があるからですね」
くわっと目を見開き、学園長が叫ぶ。
「君達、留年の危機です!!」
「「「……えええ~~~~っ!?」」」
帰りはナオに風魔で送っていってもらう予定である。
ラフテルもついていこうとしたが、どうやら仕事があるらしい。
姉であるルイーズに引き留められ、渋々といった表情でアレクを見ている。
「もう行くのか。あとちょっとでもいればいい」
「ううん、行くよ。長い間いすぎた気もするしね」
アレクが首を横に振ると、寂しそうにしょも、と眉を下げる。
こういうところがなんだか可愛く思えて、アレクはラフテルの手を握った。
「また絶対会おう。約束だから」
「……ああ。いつでも遊びに来てくれ。いや、俺からも行っていいか?」
「うん!」
ラフテルの手を離し、アレクは風魔に乗り込む。
ルイーズがこちらに向けてニヤリと笑った。
「実験体になる気になったらいつでも来い。可愛がってやる」
そんなルイーズに答えたのは、アレクではなく横のガディだった。
「アレクはやらん! 変態め」
そうして風魔が飛びだち、アルスフォードが遠くなっていく。
「兄様、姉様。短剣作れてよかったね」
「ああ。武器があるとこうも安心感が違うんだな」
「あるべきものが戻ってきたって感じだわ」
短剣を大事そうに撫でる二人に、アレクもほっとした。
しかし、生まれた課題は多い。
「クリア達を取り戻さないと……」
ティファンによって、クリア達は連れ去られた。
アルスフォードを出る際に、ポルカがアレクにこんな助言を残してくれた。
『ティファンは、自身の基地をいくつも持っていてのぅ。各地にあの子の居場所がある。そこを巡っていけば、クリア達を取り戻せるやもしれん』
「待っててね……」
アレクの契約した、召喚獣達。
もはやアレクにとっては、友達であり、頼れる家族のようなものだ。
助け出すという決意は固い。
せめて無事であることを今は祈り、トリティカーナへと戻ろう。
「アレク様」
声をかけてきたのは、ナオだった。
風魔は操縦を必要とはするものの、常に見張っていなければいけないわけではない。
だからこうして、操縦席をナオは離れたのだろう。
「どうしたの?」
「あ、いえ。大したことではないんですけど」
ナオは少したじろいでから、アレクに頭を下げた。
「お願いです。ご主人様の力になってあげてください」
「ラフテルの力に……?」
「はい。将来、ご主人様は、アインバイル家を背負うお方。そんなご主人様の、友達でいてあげてほしいんです。それだけで、私はーー」
そこから先の言葉は、飲み込まれた。
こうやってナオが頭を下げる分、なにか理由はあるのだろう。
しかし、アレクはそれを問うことはしなかった。
「大丈夫。僕とラフテルは、ずっと友達だよ」
「……! ありがとうございますっ! ご主人様、友達が少ないから心配で」
「あはは」
アレクとナオが談笑する横で、アリスは静かに地面を見下ろしていた。
風魔から見えるのは、人々、動物、魔物。
隔たれた場所に住む魔物達を見て、アリスは故郷を思い出す。
『いいかアリス。私達は、この世界の統率者だ。私の後継ぎとして、頼んだぞ』
「魔族も人間も変わらないんだ……」
面倒なしがらみがあるのは、どこも同じらしい。
ため息をつくと、アリスは風魔の屋内へと引っ込んでいった。
◆ ◆ ◆
ナオに風魔を降ろしてもらい、アレク達は英雄学園へと戻ってきた。
「俺いっちばーん!」
ライアンがいの一番に飛び出し、ユリーカは「元気ねえ」と呆れ気味に呟く。
そんなアレク達のところに、老人が駆け足でやってきた。
「や~っと帰ってきたぁあ!!」
「え」
「遅いよ!! 本当に!!」
大声でそう言ってくるため、周りの生徒の注目も集まってくる。
「もしかして、学園長先生?」
「いかにも! これが儂の今日の姿じゃな」
学園長の変身体質は健在で、姿が毎日変わるため、一目見ただけでは誰かがわかりづらい。
そんな学園長は普段、学園長室にいるのだが、今日はわけが違うらしい。
「どうしたんですか」
「君達を待ってたんだよ! いいから、ほら! ついてきて!」
学園長に連れられ、アレク達は歩き出す。
「どうしたんだろ」
不思議そうにするアレクに、アリスが訝しげに尋ねる。
「お兄さん、何かやったの?」
「なんで僕!?」
「だって、怒られてそう」
「なにもやってないよ!」
しかし、学園長が連れて行った教室の名前を見て、アレクは絶句する。
「進路指導部……」
問題のある生徒のみが通される場所だ。
恐る恐る入れば、そこには色々な書類が重なって置いてある。
「さてと……今日、君達をここに呼んだのは、とある理由があるからですね」
くわっと目を見開き、学園長が叫ぶ。
「君達、留年の危機です!!」
「「「……えええ~~~~っ!?」」」
0
お気に入りに追加
10,441
あなたにおすすめの小説
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。
夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。
陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。
「お父様!助けてください!
私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません!
お父様ッ!!!!!」
ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。
ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。
しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…?
娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
貴方に側室を決める権利はございません
章槻雅希
ファンタジー
婚約者がいきなり『側室を迎える』と言い出しました。まだ、結婚もしていないのに。そしてよくよく聞いてみると、婚約者は根本的な勘違いをしているようです。あなたに側室を決める権利はありませんし、迎える権利もございません。
思い付きによるショートショート。
国の背景やらの設定はふんわり。なんちゃって近世ヨーロッパ風な異世界。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様に重複投稿。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。