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アルスフォード編

第九十四話 留年の危機

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その後、アレク達はトリティカーナへと帰宅することになった。
帰りはナオに風魔で送っていってもらう予定である。
ラフテルもついていこうとしたが、どうやら仕事があるらしい。
姉であるルイーズに引き留められ、渋々といった表情でアレクを見ている。

「もう行くのか。あとちょっとでもいればいい」
「ううん、行くよ。長い間いすぎた気もするしね」

アレクが首を横に振ると、寂しそうにしょも、と眉を下げる。
こういうところがなんだか可愛く思えて、アレクはラフテルの手を握った。

「また絶対会おう。約束だから」
「……ああ。いつでも遊びに来てくれ。いや、俺からも行っていいか?」
「うん!」

ラフテルの手を離し、アレクは風魔に乗り込む。
ルイーズがこちらに向けてニヤリと笑った。

「実験体になる気になったらいつでも来い。可愛がってやる」

そんなルイーズに答えたのは、アレクではなく横のガディだった。

「アレクはやらん! 変態め」

そうして風魔が飛びだち、アルスフォードが遠くなっていく。

「兄様、姉様。短剣作れてよかったね」
「ああ。武器があるとこうも安心感が違うんだな」
「あるべきものが戻ってきたって感じだわ」

短剣を大事そうに撫でる二人に、アレクもほっとした。
しかし、生まれた課題は多い。

「クリア達を取り戻さないと……」

ティファンによって、クリア達は連れ去られた。
アルスフォードを出る際に、ポルカがアレクにこんな助言を残してくれた。

『ティファンは、自身の基地をいくつも持っていてのぅ。各地にあの子の居場所がある。そこを巡っていけば、クリア達を取り戻せるやもしれん』

「待っててね……」

アレクの契約した、召喚獣達。
もはやアレクにとっては、友達であり、頼れる家族のようなものだ。
助け出すという決意は固い。
せめて無事であることを今は祈り、トリティカーナへと戻ろう。

「アレク様」

声をかけてきたのは、ナオだった。
風魔は操縦を必要とはするものの、常に見張っていなければいけないわけではない。
だからこうして、操縦席をナオは離れたのだろう。

「どうしたの?」
「あ、いえ。大したことではないんですけど」

ナオは少したじろいでから、アレクに頭を下げた。

「お願いです。ご主人様の力になってあげてください」
「ラフテルの力に……?」
「はい。将来、ご主人様は、アインバイル家を背負うお方。そんなご主人様の、友達でいてあげてほしいんです。それだけで、私はーー」

そこから先の言葉は、飲み込まれた。
こうやってナオが頭を下げる分、なにか理由はあるのだろう。
しかし、アレクはそれを問うことはしなかった。

「大丈夫。僕とラフテルは、ずっと友達だよ」
「……! ありがとうございますっ! ご主人様、友達が少ないから心配で」
「あはは」

アレクとナオが談笑する横で、アリスは静かに地面を見下ろしていた。
風魔から見えるのは、人々、動物、魔物。
隔たれた場所に住む魔物達を見て、アリスは故郷を思い出す。

『いいかアリス。私達は、この世界の統率者だ。私の後継ぎとして、頼んだぞ』

「魔族も人間も変わらないんだ……」

面倒なしがらみがあるのは、どこも同じらしい。
ため息をつくと、アリスは風魔の屋内へと引っ込んでいった。

◆ ◆ ◆

ナオに風魔を降ろしてもらい、アレク達は英雄学園へと戻ってきた。

「俺いっちばーん!」

ライアンがいの一番に飛び出し、ユリーカは「元気ねえ」と呆れ気味に呟く。
そんなアレク達のところに、老人が駆け足でやってきた。

「や~っと帰ってきたぁあ!!」
「え」
「遅いよ!! 本当に!!」

大声でそう言ってくるため、周りの生徒の注目も集まってくる。

「もしかして、学園長先生?」
「いかにも! これが儂の今日の姿じゃな」

学園長の変身体質は健在で、姿が毎日変わるため、一目見ただけでは誰かがわかりづらい。
そんな学園長は普段、学園長室にいるのだが、今日はわけが違うらしい。

「どうしたんですか」
「君達を待ってたんだよ! いいから、ほら! ついてきて!」

学園長に連れられ、アレク達は歩き出す。

「どうしたんだろ」

不思議そうにするアレクに、アリスが訝しげに尋ねる。

「お兄さん、何かやったの?」
「なんで僕!?」
「だって、怒られてそう」
「なにもやってないよ!」

しかし、学園長が連れて行った教室の名前を見て、アレクは絶句する。

「進路指導部……」

問題のある生徒のみが通される場所だ。
恐る恐る入れば、そこには色々な書類が重なって置いてある。

「さてと……今日、君達をここに呼んだのは、とある理由があるからですね」

くわっと目を見開き、学園長が叫ぶ。

「君達、留年の危機です!!」
「「「……えええ~~~~っ!?」」」
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