195 / 227
アルスフォード編
第八十九話 スレスレ
しおりを挟む
「道徳の授業だ。勉強は嫌いか?」
「嫌いッス!!」
「そうか。続けるぞ」
「なんで聞いたんスか」
容赦のない開始宣言に、ライアンは不満げな顔をする。
しかしルイーズは構わず言った。
「命の創造の実験には、ニパターンある。一パターン目が、無から有を生み出す実験。これは成功した者がいない実験として有名だな」
「成功しないんですか?」
「ああ。紙がなければ教科書も作れないだろ? それと同じだ」
「なるほど」
「だからこの実験はそうそうに諦め、捨てられるのが基本だ。次に、元ある物質から、別の物質に変異させるなどして、目的の物質を生み出す実験。こちらは非常にポピュラーだな」
「禁忌なのにポピュラーとか言っちゃうんですね」
「まあ命の実験の他にも、普通に運用されているものだからな」
ボードを叩くと、ルイーズはどこか遠くを見つめる。
「奴はグラフィールの科学者だった。詳細はよくわからん。だが、間違いなく腕の立つ奴だった。そこが余計に面倒なんだが」
「その人に会えないんですか」
「ああ。少し前に行方をくらませた」
どうやらミメームを生み出した科学者には、もう会えないらしい。
それを惜しく思いつつ、ルイーズ本人の見解へと迫る。
「私はな、この植物の研究に二年は費やした。寄生能力があることと、再生能力があること。これが大きな特徴だ」
「……魔法が効かなかったんですけど」
「ああ、凄まじい再生速度を誇っているだけだ。実際焼けたり凍ったりしているが、植物は構うことなく再生を繰り返す」
未だにミメームは、物を言わぬまま鎮座していた。
それを厄介者を見るような目をして、ルイーズは眺めている。
「私はこれをキメラと断定する」
「キメラ?」
「合成獣だ。こいつは生きている。植物の他に何かが組み合わされ、結果的に形を成したのだろう。命を捻じ曲げる実験……これこそタブーだな」
ニヤリと笑い、ルイーズは植物に愉快げに手を伸ばす。
「あっ!」と叫んだのは誰だったか。
即座に植物は反撃を繰り出したが、伸ばされた茎をルイーズは掴み取った。
「だ、大丈夫なのか!?」
「私はな。昔から毒に耐性がある。こいつの棘からは毒が生じる。触るなよ、溶けるぞ」
「うわあ」
植物は動きを封じられたことで、まるで怒りを表すように揺れている。
それらを見るルイーズの目は愉悦に満ちていた。
「我が先祖、ガーベラが行ったのは、魔石を元に生命活動をさせる実験。今の倫理でスレスレセーフと言ったところか。また面倒な権利問題が絡まねばいいのだが」
「……弱点とかないんですか?」
素直にユリーカが聞けば、「ふん」とルイーズは鼻を鳴らす。
「本当は、これが分解できたなら話が早い。それができないなら、殺し続けるまでよ」
拘束していた茎を振り解くと、ルイーズはライアン達に向き直った。
「ただし、こいつは一つだけじゃない。もっとたくさんいる。即座の対処法を私は掴みたいのだ。人類の発展のためにな」
「さっき言った、殺し続けるっていうのは」
「手間がかかりすぎる。却下だ。こいつが人類を支配しようとのさばった時、私達は負けることになる」
結局、手掛かりらしい手掛かりは見つからなかった。
分解の魔法など、ライアン達は知らない。
即座の対処法もわからない。
「どーすっかな」
「………」
「アリスちゃん?」
黙ったままであったアリスが前に出て、再び姿を変える。
「アシッドボム」
アリスがポツリと呟く。
アリスの手から紫色の球体が飛び出し、植物に被った。
『キェエエエエエエエッ!!』
「きゃっ!?」
「うわっ!」
途端、植物から奇声が上がった。
悶え苦しむようにジタバタと動き続けるのを、アリスは嫌そうな顔をして見ている。
そんなアリスに、シオンは恐る恐る尋ねた。
「な、なにしたの?」
「……毒魔法使った」
「毒?」
聞き覚えのない属性である。
首を捻るシオンに、アリスはこんな言葉を零す。
「人間は毒魔法使えないもんね。でも、継続ダメージを与えるなら、これが一番だよ」
『ギャアアアアッ!』
植物の断末魔が響いた。
やがて植物は枯れ、物言わぬ姿へと変貌する。
「みんな、毒魔法使えたらいいのに」
「……魔族すげー」
ライアンが「魔族」と言ったのに、ルイーズが食いついた。
「やはり! お前魔族か!」
「うえっ」
打って変わって目の輝きを取り戻したルイーズに、アリスはたじろぐ。
「伝説の種族には興味がある! 実験させろ!」
「や、やだ!」
「アレクに並んでお前も私の材料となれ! 人類の発展のために!」
「絶対やだ~っ!」
逃げ回るアリスと、追うルイーズ。
ひとまず三人は、それを止めることを決めた。
「嫌いッス!!」
「そうか。続けるぞ」
「なんで聞いたんスか」
容赦のない開始宣言に、ライアンは不満げな顔をする。
しかしルイーズは構わず言った。
「命の創造の実験には、ニパターンある。一パターン目が、無から有を生み出す実験。これは成功した者がいない実験として有名だな」
「成功しないんですか?」
「ああ。紙がなければ教科書も作れないだろ? それと同じだ」
「なるほど」
「だからこの実験はそうそうに諦め、捨てられるのが基本だ。次に、元ある物質から、別の物質に変異させるなどして、目的の物質を生み出す実験。こちらは非常にポピュラーだな」
「禁忌なのにポピュラーとか言っちゃうんですね」
「まあ命の実験の他にも、普通に運用されているものだからな」
ボードを叩くと、ルイーズはどこか遠くを見つめる。
「奴はグラフィールの科学者だった。詳細はよくわからん。だが、間違いなく腕の立つ奴だった。そこが余計に面倒なんだが」
「その人に会えないんですか」
「ああ。少し前に行方をくらませた」
どうやらミメームを生み出した科学者には、もう会えないらしい。
それを惜しく思いつつ、ルイーズ本人の見解へと迫る。
「私はな、この植物の研究に二年は費やした。寄生能力があることと、再生能力があること。これが大きな特徴だ」
「……魔法が効かなかったんですけど」
「ああ、凄まじい再生速度を誇っているだけだ。実際焼けたり凍ったりしているが、植物は構うことなく再生を繰り返す」
未だにミメームは、物を言わぬまま鎮座していた。
それを厄介者を見るような目をして、ルイーズは眺めている。
「私はこれをキメラと断定する」
「キメラ?」
「合成獣だ。こいつは生きている。植物の他に何かが組み合わされ、結果的に形を成したのだろう。命を捻じ曲げる実験……これこそタブーだな」
ニヤリと笑い、ルイーズは植物に愉快げに手を伸ばす。
「あっ!」と叫んだのは誰だったか。
即座に植物は反撃を繰り出したが、伸ばされた茎をルイーズは掴み取った。
「だ、大丈夫なのか!?」
「私はな。昔から毒に耐性がある。こいつの棘からは毒が生じる。触るなよ、溶けるぞ」
「うわあ」
植物は動きを封じられたことで、まるで怒りを表すように揺れている。
それらを見るルイーズの目は愉悦に満ちていた。
「我が先祖、ガーベラが行ったのは、魔石を元に生命活動をさせる実験。今の倫理でスレスレセーフと言ったところか。また面倒な権利問題が絡まねばいいのだが」
「……弱点とかないんですか?」
素直にユリーカが聞けば、「ふん」とルイーズは鼻を鳴らす。
「本当は、これが分解できたなら話が早い。それができないなら、殺し続けるまでよ」
拘束していた茎を振り解くと、ルイーズはライアン達に向き直った。
「ただし、こいつは一つだけじゃない。もっとたくさんいる。即座の対処法を私は掴みたいのだ。人類の発展のためにな」
「さっき言った、殺し続けるっていうのは」
「手間がかかりすぎる。却下だ。こいつが人類を支配しようとのさばった時、私達は負けることになる」
結局、手掛かりらしい手掛かりは見つからなかった。
分解の魔法など、ライアン達は知らない。
即座の対処法もわからない。
「どーすっかな」
「………」
「アリスちゃん?」
黙ったままであったアリスが前に出て、再び姿を変える。
「アシッドボム」
アリスがポツリと呟く。
アリスの手から紫色の球体が飛び出し、植物に被った。
『キェエエエエエエエッ!!』
「きゃっ!?」
「うわっ!」
途端、植物から奇声が上がった。
悶え苦しむようにジタバタと動き続けるのを、アリスは嫌そうな顔をして見ている。
そんなアリスに、シオンは恐る恐る尋ねた。
「な、なにしたの?」
「……毒魔法使った」
「毒?」
聞き覚えのない属性である。
首を捻るシオンに、アリスはこんな言葉を零す。
「人間は毒魔法使えないもんね。でも、継続ダメージを与えるなら、これが一番だよ」
『ギャアアアアッ!』
植物の断末魔が響いた。
やがて植物は枯れ、物言わぬ姿へと変貌する。
「みんな、毒魔法使えたらいいのに」
「……魔族すげー」
ライアンが「魔族」と言ったのに、ルイーズが食いついた。
「やはり! お前魔族か!」
「うえっ」
打って変わって目の輝きを取り戻したルイーズに、アリスはたじろぐ。
「伝説の種族には興味がある! 実験させろ!」
「や、やだ!」
「アレクに並んでお前も私の材料となれ! 人類の発展のために!」
「絶対やだ~っ!」
逃げ回るアリスと、追うルイーズ。
ひとまず三人は、それを止めることを決めた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~
夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。
全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった!
ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。
一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。
落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。