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アルスフォード編
第八十九話 スレスレ
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「道徳の授業だ。勉強は嫌いか?」
「嫌いッス!!」
「そうか。続けるぞ」
「なんで聞いたんスか」
容赦のない開始宣言に、ライアンは不満げな顔をする。
しかしルイーズは構わず言った。
「命の創造の実験には、ニパターンある。一パターン目が、無から有を生み出す実験。これは成功した者がいない実験として有名だな」
「成功しないんですか?」
「ああ。紙がなければ教科書も作れないだろ? それと同じだ」
「なるほど」
「だからこの実験はそうそうに諦め、捨てられるのが基本だ。次に、元ある物質から、別の物質に変異させるなどして、目的の物質を生み出す実験。こちらは非常にポピュラーだな」
「禁忌なのにポピュラーとか言っちゃうんですね」
「まあ命の実験の他にも、普通に運用されているものだからな」
ボードを叩くと、ルイーズはどこか遠くを見つめる。
「奴はグラフィールの科学者だった。詳細はよくわからん。だが、間違いなく腕の立つ奴だった。そこが余計に面倒なんだが」
「その人に会えないんですか」
「ああ。少し前に行方をくらませた」
どうやらミメームを生み出した科学者には、もう会えないらしい。
それを惜しく思いつつ、ルイーズ本人の見解へと迫る。
「私はな、この植物の研究に二年は費やした。寄生能力があることと、再生能力があること。これが大きな特徴だ」
「……魔法が効かなかったんですけど」
「ああ、凄まじい再生速度を誇っているだけだ。実際焼けたり凍ったりしているが、植物は構うことなく再生を繰り返す」
未だにミメームは、物を言わぬまま鎮座していた。
それを厄介者を見るような目をして、ルイーズは眺めている。
「私はこれをキメラと断定する」
「キメラ?」
「合成獣だ。こいつは生きている。植物の他に何かが組み合わされ、結果的に形を成したのだろう。命を捻じ曲げる実験……これこそタブーだな」
ニヤリと笑い、ルイーズは植物に愉快げに手を伸ばす。
「あっ!」と叫んだのは誰だったか。
即座に植物は反撃を繰り出したが、伸ばされた茎をルイーズは掴み取った。
「だ、大丈夫なのか!?」
「私はな。昔から毒に耐性がある。こいつの棘からは毒が生じる。触るなよ、溶けるぞ」
「うわあ」
植物は動きを封じられたことで、まるで怒りを表すように揺れている。
それらを見るルイーズの目は愉悦に満ちていた。
「我が先祖、ガーベラが行ったのは、魔石を元に生命活動をさせる実験。今の倫理でスレスレセーフと言ったところか。また面倒な権利問題が絡まねばいいのだが」
「……弱点とかないんですか?」
素直にユリーカが聞けば、「ふん」とルイーズは鼻を鳴らす。
「本当は、これが分解できたなら話が早い。それができないなら、殺し続けるまでよ」
拘束していた茎を振り解くと、ルイーズはライアン達に向き直った。
「ただし、こいつは一つだけじゃない。もっとたくさんいる。即座の対処法を私は掴みたいのだ。人類の発展のためにな」
「さっき言った、殺し続けるっていうのは」
「手間がかかりすぎる。却下だ。こいつが人類を支配しようとのさばった時、私達は負けることになる」
結局、手掛かりらしい手掛かりは見つからなかった。
分解の魔法など、ライアン達は知らない。
即座の対処法もわからない。
「どーすっかな」
「………」
「アリスちゃん?」
黙ったままであったアリスが前に出て、再び姿を変える。
「アシッドボム」
アリスがポツリと呟く。
アリスの手から紫色の球体が飛び出し、植物に被った。
『キェエエエエエエエッ!!』
「きゃっ!?」
「うわっ!」
途端、植物から奇声が上がった。
悶え苦しむようにジタバタと動き続けるのを、アリスは嫌そうな顔をして見ている。
そんなアリスに、シオンは恐る恐る尋ねた。
「な、なにしたの?」
「……毒魔法使った」
「毒?」
聞き覚えのない属性である。
首を捻るシオンに、アリスはこんな言葉を零す。
「人間は毒魔法使えないもんね。でも、継続ダメージを与えるなら、これが一番だよ」
『ギャアアアアッ!』
植物の断末魔が響いた。
やがて植物は枯れ、物言わぬ姿へと変貌する。
「みんな、毒魔法使えたらいいのに」
「……魔族すげー」
ライアンが「魔族」と言ったのに、ルイーズが食いついた。
「やはり! お前魔族か!」
「うえっ」
打って変わって目の輝きを取り戻したルイーズに、アリスはたじろぐ。
「伝説の種族には興味がある! 実験させろ!」
「や、やだ!」
「アレクに並んでお前も私の材料となれ! 人類の発展のために!」
「絶対やだ~っ!」
逃げ回るアリスと、追うルイーズ。
ひとまず三人は、それを止めることを決めた。
「嫌いッス!!」
「そうか。続けるぞ」
「なんで聞いたんスか」
容赦のない開始宣言に、ライアンは不満げな顔をする。
しかしルイーズは構わず言った。
「命の創造の実験には、ニパターンある。一パターン目が、無から有を生み出す実験。これは成功した者がいない実験として有名だな」
「成功しないんですか?」
「ああ。紙がなければ教科書も作れないだろ? それと同じだ」
「なるほど」
「だからこの実験はそうそうに諦め、捨てられるのが基本だ。次に、元ある物質から、別の物質に変異させるなどして、目的の物質を生み出す実験。こちらは非常にポピュラーだな」
「禁忌なのにポピュラーとか言っちゃうんですね」
「まあ命の実験の他にも、普通に運用されているものだからな」
ボードを叩くと、ルイーズはどこか遠くを見つめる。
「奴はグラフィールの科学者だった。詳細はよくわからん。だが、間違いなく腕の立つ奴だった。そこが余計に面倒なんだが」
「その人に会えないんですか」
「ああ。少し前に行方をくらませた」
どうやらミメームを生み出した科学者には、もう会えないらしい。
それを惜しく思いつつ、ルイーズ本人の見解へと迫る。
「私はな、この植物の研究に二年は費やした。寄生能力があることと、再生能力があること。これが大きな特徴だ」
「……魔法が効かなかったんですけど」
「ああ、凄まじい再生速度を誇っているだけだ。実際焼けたり凍ったりしているが、植物は構うことなく再生を繰り返す」
未だにミメームは、物を言わぬまま鎮座していた。
それを厄介者を見るような目をして、ルイーズは眺めている。
「私はこれをキメラと断定する」
「キメラ?」
「合成獣だ。こいつは生きている。植物の他に何かが組み合わされ、結果的に形を成したのだろう。命を捻じ曲げる実験……これこそタブーだな」
ニヤリと笑い、ルイーズは植物に愉快げに手を伸ばす。
「あっ!」と叫んだのは誰だったか。
即座に植物は反撃を繰り出したが、伸ばされた茎をルイーズは掴み取った。
「だ、大丈夫なのか!?」
「私はな。昔から毒に耐性がある。こいつの棘からは毒が生じる。触るなよ、溶けるぞ」
「うわあ」
植物は動きを封じられたことで、まるで怒りを表すように揺れている。
それらを見るルイーズの目は愉悦に満ちていた。
「我が先祖、ガーベラが行ったのは、魔石を元に生命活動をさせる実験。今の倫理でスレスレセーフと言ったところか。また面倒な権利問題が絡まねばいいのだが」
「……弱点とかないんですか?」
素直にユリーカが聞けば、「ふん」とルイーズは鼻を鳴らす。
「本当は、これが分解できたなら話が早い。それができないなら、殺し続けるまでよ」
拘束していた茎を振り解くと、ルイーズはライアン達に向き直った。
「ただし、こいつは一つだけじゃない。もっとたくさんいる。即座の対処法を私は掴みたいのだ。人類の発展のためにな」
「さっき言った、殺し続けるっていうのは」
「手間がかかりすぎる。却下だ。こいつが人類を支配しようとのさばった時、私達は負けることになる」
結局、手掛かりらしい手掛かりは見つからなかった。
分解の魔法など、ライアン達は知らない。
即座の対処法もわからない。
「どーすっかな」
「………」
「アリスちゃん?」
黙ったままであったアリスが前に出て、再び姿を変える。
「アシッドボム」
アリスがポツリと呟く。
アリスの手から紫色の球体が飛び出し、植物に被った。
『キェエエエエエエエッ!!』
「きゃっ!?」
「うわっ!」
途端、植物から奇声が上がった。
悶え苦しむようにジタバタと動き続けるのを、アリスは嫌そうな顔をして見ている。
そんなアリスに、シオンは恐る恐る尋ねた。
「な、なにしたの?」
「……毒魔法使った」
「毒?」
聞き覚えのない属性である。
首を捻るシオンに、アリスはこんな言葉を零す。
「人間は毒魔法使えないもんね。でも、継続ダメージを与えるなら、これが一番だよ」
『ギャアアアアッ!』
植物の断末魔が響いた。
やがて植物は枯れ、物言わぬ姿へと変貌する。
「みんな、毒魔法使えたらいいのに」
「……魔族すげー」
ライアンが「魔族」と言ったのに、ルイーズが食いついた。
「やはり! お前魔族か!」
「うえっ」
打って変わって目の輝きを取り戻したルイーズに、アリスはたじろぐ。
「伝説の種族には興味がある! 実験させろ!」
「や、やだ!」
「アレクに並んでお前も私の材料となれ! 人類の発展のために!」
「絶対やだ~っ!」
逃げ回るアリスと、追うルイーズ。
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