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アルスフォード編

第八十七話 ドクター、ドクター

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渡された植物は、一見なんの変哲もないものに見える。
テーブルの上に置かれたポットを眺め、「これは?」とユリーカが尋ねた。

「とある実験者が生み出した産物だ」
「ルイーズさんが作ったのではないんですね」
「誰がこんなゲテモノ作るか」

気になったのか、ライアンが植物に手を伸ばす。
それを間一髪で防いだのはアリスだった。

「ダメ!!」
「へっ?」

鋭い静止の声と共に、アリスがライアンを突き飛ばす。
その瞬間植物は葉を伸ばし、ライアンの元いた場所を突き刺した。

「っぶねー……」
「ああ、言い忘れていたが、それは非常に凶暴でな。油断すれば寄生されるぞ」
「なんでこんなこと言い忘れてるんスか!」

ぎゃんっとライアンが文句を叫ぶ。
しかし、不思議そうな顔をしてルイーズは言った。

「助かったのだしいいだろう? よく気づいたな、小娘」
「………」

この人イかれてる。
人生であまり関わりたくないタイプの人間だ。
シオンは身を竦ませ、アリスを己の後ろへと隠した。

「もう一度言う。これを殺してみせろ」

すると、すかさずアリスが噛み付いた。

「こんな危険なこと、この人達にやらせないで」
「……ほう? ならば小娘、お前一人で解決できるか?」
「やる」

アリスは植物の前に立った。
心配げにシオンがアリスを呼ぶ。

「アリスちゃん、無理しないで」
「……下がってて」
「何をする気かは知らないが、結界を張らせてもらうぞ」

ルイーズが持っていた起動ボタンを押す。
アリスと植物を取り囲むようにして、結界が出現した。

「……ふぅ」

息を吐く。
アリスが力を解放した瞬間、黒い火花が巻き起こった。

「うわっ!」
「アリスちゃん!」

アリスの背から、蝙蝠のような骨ばった翼が生える。
その光景を、ルイーズは興味深げに見ていた。
アリスの白目が黒く染まり、瞳は琥珀色に変化する。

「はぁーーっ!」

アリスが植物に向かって、手を振り下ろす。
刹那、雷が植物に直撃し、爆風が巻き起こった。

「あっ!」

張られていた結界が割れ、辺り一面が真っ黒な煙に覆われる。

「ど、どうしよう! アリスちゃん! 大丈夫!?」

慌ててシオンが飛び出して、煙の中をかき分けるようにしてアリスを探す。

「こ、ここ……」

弱々しい声が聞こえて、シオンはすぐさまアリスに飛びついた。

「アリスちゃん! 怪我してない?」
「大丈夫……平気」
「擦りむいてるよ! 治癒魔法使うから、じっとしてて」

アリスの擦りむいた膝小僧に、そっと治癒魔法をかける。
面倒見の良いところが彼女の美点の一つであった。
煙が晴れ、植物の姿が露わになる。

「うわ」

思わずユリーカが、引き気味な声を漏らす。
植物は非常に禍々しい姿に変化しており、目やら牙やらが見受けられる。
四方八方に伸ばされた棘付きの茎が、刺さると痛そうだ。

「あれが奴の真髄だ」

ルイーズは咳き込みながら、その植物を睨みつける。

「生物に寄生し、生きながらえ、その意志すらも奪う代物。おのれドクターめ、あんな厄介モノを押し付けてくるとは」
「あんなもん誰がよこしたんすか!」

ライアンが半泣きで聞けば、ルイーズは忌々しいとばかりに舌打ちをする。

「ドクター……本名は知らん。私ほどではなかったが、奴もそれなりに腕が立つ。なにやら怪しげな実験に加担していたようだがな。私のことも、イかれた集団に引き込もうとした」
「うへぇ。そんなやつの後処理任されてるんスか」
「うるさい。つべこべ言わずなんとかしろ。私はこれに迷惑されている」

ルイーズはそのままどこかに消えてしまった。
その場に残された四人は、思わず顔を見合わせる。

「どうしよっか、これ」
「……なんとかするしかないでしょ」

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