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アルスフォード編
第七十ニ話 魔石爺と気苦労
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〔追跡〕で気配を追っていけば、それは人里離れた山の中に反応した。
山までおよそ三日程かけて到着すれば、そこは何だか異様な雰囲気を放っている。
エルルは少し笑ってしまう。
「こういう人って、普通の街に住めない決まりでもあるのかしら」
「さあな。あのポルカの知り合いだぞ」
「訳あり……でしょうね」
そんなやり取りをしつつ、山へと入る。
しばらく進んでいれば、突然突き刺すような殺気が飛んでくる。
「!」
飛んできたものを叩き落として、ガディは目を見開く。
「矢……」
「何者だ貴様ぁ!」
上を向けば、一人の少女がこちらを睨みつけている。
その容姿に二人は大きな既視感を覚える。
「不法侵入か! この山はっ、お爺様のものだぞ!」
「違う。待て」
「待つかあ!」
問答無用とばかりに矢を放ってくる少女だが、このくらい二人にとってどうってことはない。
矢を素早く交わし、ガディが少女の手を掴む。
「聞け」
「う……」
至近距離で見つめられ、顔を赤くした少女がうつむいた。
「わ、私は絶対、口を割らないからな!」
「何にだ」
「離せ、ハレンチ男! その顔で籠絡しようったって、そうはいかないからな!」
「破廉恥……」
「ガディ最低ね。女の子から破廉恥ですって」
「おい。やめろ。ふざけるな」
少女は緩んだガディの手を振り解くと、じっと二人を見つめる。
「何の了見でここに来た」
「魔石爺に会いに来たのよ。ポルカの紹介よ」
エルルが持っているネックレスを少女に見せれば、少女は慌ててそれを奪い取る。
「こ、これは紛れもないっ……お爺様が作ったネックレス! それにこれは、ポルカ様のものだ」
一人でに頷いた少女が、二人に向かって力強く言った。
「来い! 案内してやるっ」
背を向けて歩き出したので、そのまま二人は少女についていく。
木々を掻き分けた先には、ログハウスが一軒だけ建っている。
「お爺様ー! お爺様、どこー!」
「なんじゃうるさい! 儂はここじゃあ!」
「あ、お爺様!」
ログハウスの裏から、斧を持った一人の男性が現れる。
明らかにお爺様と呼ばれるような容姿ではない。
透き通ったような白い肌に、金の糸の髪。
嵌め込まれた宝石のような緑の瞳は、学園長の本来の姿に酷似している。
「お前ら、エルフだろ」
「……何じゃこの不届きものは」
「お爺様! ポルカ様からのお客さんだよっ!」
「なにぃ! あのポルカからか!」
大股でこちらに歩み寄ると、男性は少女の手の中にあるネックレスを掴む。
「久しぶりじゃの……そうか。貴様ら、これの気配を追ってきたな?」
「そうよ」
「名を名乗れ」
「ガディ」
「エルル」
「似ておるのぉ……双子か」
「エルフには双子って珍しいのかしら」
「人間のような頻度では生まれん。レア中のレアじゃ」
そのままネックレスをエルルの手元に返すと、男性は胸を張って自己紹介する。
「儂は魔石爺。こいつは孫娘のリリカじゃ」
「よろしく、お二人さん!」
先程まで敵意剥き出しだったのに、とんだ代わりようである。
それはさておき、早速ガディは本題に移る。
「これを磨いてくれないか」
「む?」
差し出された魔石を受け取り、興味深げに魔石爺はジロジロ眺める。
「ポルカめ……面白いものを寄越す」
「やってくれるか」
「やってもいいが、条件がある」
「何だ」
「金を寄越せ。金貨百枚くらい」
こんなに都合の良いことがあるのだろうか。
魔法書のためと用意したのが、ちょうど金貨百枚だ。
早速二人は、持っていた金貨百枚を差し出した。
「ほら」
「おお。もしかして貴様ら、金持ちか?」
「まあそうかもしれない……というか、エルフって金いるんだな」
「当たり前じゃろ。エルフに作れないものなどいくらでもある」
金を受け取った魔石爺は、そのまま魔石も受け取る。
「儂がこいつを、立派な美人さんへと育ててみせよう。貴様ら二人で分けるのだろ? 加工もしてみせよう」
「頼んだ」
魔石爺がログハウスに引っ込むと、孫娘のリリスが話しかけてくる。
「なあなあ! ポルカ様とどういう関係だ?」
「客と商人」
「まあそうだろうな! にしても、ポルカ様に頼めるなんてどんなツテなんだ」
「ラフテルってわかるかしら」
「ラフテル……ラフテル……?」
「ラフテル・アインバイル」
「ああ! アインバイル家の次期当主!」
納得のいったようで、ポンと手をついてリリカは笑った。
「あの子供の紹介か! どこで知り合ったんだ、あの偏屈小僧に」
「超大規模依頼でちょっと」
「チョーダイキボイライ? なんだそれは」
一つ一つ、紐解くように説明していけば、リリカは目を輝かせて話を聞いた。
やがて全てを聞き終えた後、リリカは感嘆のため息を溢す。
「はぁ~~……いいなぁ……私も外で、めいいっぱい冒険したい」
「あなたは冒険者とかにならないの?」
「無理だよ。ここにはお爺様がいる。私はお爺様を守らなくちゃならないんだ」
山までおよそ三日程かけて到着すれば、そこは何だか異様な雰囲気を放っている。
エルルは少し笑ってしまう。
「こういう人って、普通の街に住めない決まりでもあるのかしら」
「さあな。あのポルカの知り合いだぞ」
「訳あり……でしょうね」
そんなやり取りをしつつ、山へと入る。
しばらく進んでいれば、突然突き刺すような殺気が飛んでくる。
「!」
飛んできたものを叩き落として、ガディは目を見開く。
「矢……」
「何者だ貴様ぁ!」
上を向けば、一人の少女がこちらを睨みつけている。
その容姿に二人は大きな既視感を覚える。
「不法侵入か! この山はっ、お爺様のものだぞ!」
「違う。待て」
「待つかあ!」
問答無用とばかりに矢を放ってくる少女だが、このくらい二人にとってどうってことはない。
矢を素早く交わし、ガディが少女の手を掴む。
「聞け」
「う……」
至近距離で見つめられ、顔を赤くした少女がうつむいた。
「わ、私は絶対、口を割らないからな!」
「何にだ」
「離せ、ハレンチ男! その顔で籠絡しようったって、そうはいかないからな!」
「破廉恥……」
「ガディ最低ね。女の子から破廉恥ですって」
「おい。やめろ。ふざけるな」
少女は緩んだガディの手を振り解くと、じっと二人を見つめる。
「何の了見でここに来た」
「魔石爺に会いに来たのよ。ポルカの紹介よ」
エルルが持っているネックレスを少女に見せれば、少女は慌ててそれを奪い取る。
「こ、これは紛れもないっ……お爺様が作ったネックレス! それにこれは、ポルカ様のものだ」
一人でに頷いた少女が、二人に向かって力強く言った。
「来い! 案内してやるっ」
背を向けて歩き出したので、そのまま二人は少女についていく。
木々を掻き分けた先には、ログハウスが一軒だけ建っている。
「お爺様ー! お爺様、どこー!」
「なんじゃうるさい! 儂はここじゃあ!」
「あ、お爺様!」
ログハウスの裏から、斧を持った一人の男性が現れる。
明らかにお爺様と呼ばれるような容姿ではない。
透き通ったような白い肌に、金の糸の髪。
嵌め込まれた宝石のような緑の瞳は、学園長の本来の姿に酷似している。
「お前ら、エルフだろ」
「……何じゃこの不届きものは」
「お爺様! ポルカ様からのお客さんだよっ!」
「なにぃ! あのポルカからか!」
大股でこちらに歩み寄ると、男性は少女の手の中にあるネックレスを掴む。
「久しぶりじゃの……そうか。貴様ら、これの気配を追ってきたな?」
「そうよ」
「名を名乗れ」
「ガディ」
「エルル」
「似ておるのぉ……双子か」
「エルフには双子って珍しいのかしら」
「人間のような頻度では生まれん。レア中のレアじゃ」
そのままネックレスをエルルの手元に返すと、男性は胸を張って自己紹介する。
「儂は魔石爺。こいつは孫娘のリリカじゃ」
「よろしく、お二人さん!」
先程まで敵意剥き出しだったのに、とんだ代わりようである。
それはさておき、早速ガディは本題に移る。
「これを磨いてくれないか」
「む?」
差し出された魔石を受け取り、興味深げに魔石爺はジロジロ眺める。
「ポルカめ……面白いものを寄越す」
「やってくれるか」
「やってもいいが、条件がある」
「何だ」
「金を寄越せ。金貨百枚くらい」
こんなに都合の良いことがあるのだろうか。
魔法書のためと用意したのが、ちょうど金貨百枚だ。
早速二人は、持っていた金貨百枚を差し出した。
「ほら」
「おお。もしかして貴様ら、金持ちか?」
「まあそうかもしれない……というか、エルフって金いるんだな」
「当たり前じゃろ。エルフに作れないものなどいくらでもある」
金を受け取った魔石爺は、そのまま魔石も受け取る。
「儂がこいつを、立派な美人さんへと育ててみせよう。貴様ら二人で分けるのだろ? 加工もしてみせよう」
「頼んだ」
魔石爺がログハウスに引っ込むと、孫娘のリリスが話しかけてくる。
「なあなあ! ポルカ様とどういう関係だ?」
「客と商人」
「まあそうだろうな! にしても、ポルカ様に頼めるなんてどんなツテなんだ」
「ラフテルってわかるかしら」
「ラフテル……ラフテル……?」
「ラフテル・アインバイル」
「ああ! アインバイル家の次期当主!」
納得のいったようで、ポンと手をついてリリカは笑った。
「あの子供の紹介か! どこで知り合ったんだ、あの偏屈小僧に」
「超大規模依頼でちょっと」
「チョーダイキボイライ? なんだそれは」
一つ一つ、紐解くように説明していけば、リリカは目を輝かせて話を聞いた。
やがて全てを聞き終えた後、リリカは感嘆のため息を溢す。
「はぁ~~……いいなぁ……私も外で、めいいっぱい冒険したい」
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