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アルスフォード編
第六十六話 かつての思い出
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「サファ! 回れ!」
『あいあーい!』
ティファンが放った炎魔法を、サファが上へ飛び退くことで避ける。
その瞬間リルが牙を剥き出し、ティファンに向かって飛びかかった。
「ガァるるるるるっ!」
「……!」
肩口に思い切り噛みつけば、ティファンが痛みに顔を歪める。
その表情を見たクリアが、躊躇うように動きを止めた。
『えーい!』
サファが氷の矢を作り出し、ティファンに攻撃する。
ティファンはリルに向かって引き続き炎魔法を繰り出すが、リルは圧倒的なスピードで後ろへ避ける。
氷の矢がティファンに直撃した。
「っ……!」
これ以上見ていられない、とばかり、クリアが目を背けた。
そんなクリアにリルが叫ぶ。
「何をしている! こやつを本気で止めたいなら、殺す気でかかれ!」
「わかってる……わかってるけど……」
「舐めるな! こやつは立派な脅威だ。放っておけば、必ず主人の害になる!」
鋭く吠えるリルに、クリアは割り切れないとばかりに顔を上げる。
ティファンは自身に治癒魔法をかけ、傷を癒す。
「痛いな……酷いことするよ」
「ほざけ。天族なら、このくらいの傷はどうってことあるまい」
「そうか。君達フェンリルは、長年歴史を見守ってきた種族だったね。あまりに姿を見せないから忘れていたよ」
スッとティファンが目を細める。
地面を抉るようにして、大きな木の根が出現した。
それらに怯む三人に、ティファンが楽しげに声を張り上げる。
「君達の主人も木の魔法が得意だよね! 僕もそれに模倣してみることにするよ!」
「チッ……サファ!」
『りょーかいっ!』
リルがサファに呼び掛ければ、サファが飛び出して体を大きく変貌させる。
その有り様にティファンが大きく目を見開いた。
『くらえーっ!』
蠢き向かってくる木の根を躱し、サファがツノでティファンを突こうとする。
しかし、ティファンはそれを片手で受け止めてしまった。
『うえ!?』
「ユニコーンはこんなことができるんだね。非常に興味深いよ」
『あ~!』
そのまま空中に放り出されたのを、リルが地面を蹴り上げて回収する。
しかし着地する寸前に木の根が二匹に巻き付いた。
「くっ」
『リルッ! リルッ、どうしよ!?』
「騒ぐでない小僧っ!」
リルは体の毛を逆立てさせると、力のまま木の根をむしり取った。
「はは! 流石フェンリル! こんなもの効かないか!」
「ほざけ。当たり前であろう。歴史で神獣と讃えられる者には、それ相応の理由があるのだ。この小僧はさておきな」
『ふみゅ~』
「腑抜けるなサファ」
『でも、何だか力が抜けるよう』
「力が抜ける? 何を言って……」
そこでリルは気がついた。
急いでサファの首根っこを掴み、木の根が張っていない足場へと飛び退く。
ティファンはリルの行動を見て目を細めた。
「貴様……魔力を吸い取っていたな」
「ご明察。そっちのユニコーンの動きは封じれたみたいだね」
『ご、ごめんなさい……』
申し訳なさそうにしょもくれるサファに、「構うまい」とリルが返す。
ティファンは二匹を一瞥すると、クリアへと視線を移した。
「ねえ、クリア。僕のこと手伝ってよ」
「は……?」
「僕はただ、アレクに傷ついてほしくないだけなんだ」
「あなたの言ってること、ウンディーネとまるで一緒だわ。反吐が出る」
「そういえば君達、水の精霊と仲が悪かったよね。氷と水って相性良さそうなのになあ」
ティファンがクリアのほうへと飛んだ。
クリアはすぐさま氷の盾を作ったが、ティファンは呆気なく突破してくる。
ティファンの放った爆撃が、クリアを直撃した。
「クリアーッ!!」
『く、クリアが……』
リルがクリアの元へと駆け寄ろうとするも、木の根が邪魔をして通れない。
「くそっ、どけ!」と苛立ちを見せながら、纏わり付いてくる木の根を剥がしていく。
「ねえ、クリア。僕が君を殺さないとでも思ったのかな」
「かひゅ……」
「僕はもう、覚悟を決めてるんだよ」
クリアの腹に穴が空いている。
氷の体から溶け出した水が、血の代わりに滴っていた。
「くっーー!」
クリアは無理やり体を起こすと、ティファンの首へと手をかけた。
ティファンはそのまま、抵抗することなく押し倒される。
「やりなよ」
「う……」
「ほら」
無防備に晒される首。
その細さに、クリアは涙が出そうになった。
力を入れようとするも、手は震えるばかりだ。
(ダメ、できないーー)
「それだから君は母様を助けられなかったんだよ」
「っ」
深い、深い後悔の傷。
それをエルミアの子供である彼にえぐられ、クリアはたじろぐ。
ティファンからは、泣き出す寸前の子供のような気配を感じた。
「だから……眠っていてね」
ティファンがある魔法を展開する。
それをクリアが食らった瞬間、閃光がその場に迸った。
「クリア……?」
その光景を見ていたリルが、呆然と呟く。
クリアの代わりに地面に落ちた、水色の球体。
ティファンは球体を拾い上げると、リルに向かって振り向いた。
「クリアは封じさせてもらったよ。君達もいてもらっちゃ厄介だ。同じようにさせてもらおう」
「……今すぐクリアを解放しろ!」
体を膨張させ、体に巻き付く木の根を一気に引きちぎる。
足の筋肉に力を入れ、リルはティファンに飛びかかった。
「ふっ!」
ティファンは咄嗟に木の根を使って剣を造形すると、リルに向かって突き刺した。
しかしリルは体が貫かれるのをものともせず、ティファンに思い切り噛み付く。
「っーーー!!」
ボタタ、と互いの血液が地面を真っ赤に染め上げる。
両者は見るまでもなく重症だ。
グルル、とリルは低く唸る。
「グァああっ!」
リルが雄叫びを上げると共に、ティファンに食い込ませた牙をそのまま深く突き立てる。
その牙がやがて骨まで砕こうとした瞬間、ティファンがクリアに向けた魔法と同じものを展開した。
カツン、と軽い音と共に、白色の球体が落ちた。
『り、リル……! クリア……!』
二人が封じ込められるのを見ていたサファは、弱々しく鳴いた。
ティファンはサファの元へと近づくと、地に臥すサファを見下ろす。
「君も、封じさせてもらうね」
『う……!』
(親さま……!!)
リルは声にならない叫びを、アレクに向かって上げた。
『あいあーい!』
ティファンが放った炎魔法を、サファが上へ飛び退くことで避ける。
その瞬間リルが牙を剥き出し、ティファンに向かって飛びかかった。
「ガァるるるるるっ!」
「……!」
肩口に思い切り噛みつけば、ティファンが痛みに顔を歪める。
その表情を見たクリアが、躊躇うように動きを止めた。
『えーい!』
サファが氷の矢を作り出し、ティファンに攻撃する。
ティファンはリルに向かって引き続き炎魔法を繰り出すが、リルは圧倒的なスピードで後ろへ避ける。
氷の矢がティファンに直撃した。
「っ……!」
これ以上見ていられない、とばかり、クリアが目を背けた。
そんなクリアにリルが叫ぶ。
「何をしている! こやつを本気で止めたいなら、殺す気でかかれ!」
「わかってる……わかってるけど……」
「舐めるな! こやつは立派な脅威だ。放っておけば、必ず主人の害になる!」
鋭く吠えるリルに、クリアは割り切れないとばかりに顔を上げる。
ティファンは自身に治癒魔法をかけ、傷を癒す。
「痛いな……酷いことするよ」
「ほざけ。天族なら、このくらいの傷はどうってことあるまい」
「そうか。君達フェンリルは、長年歴史を見守ってきた種族だったね。あまりに姿を見せないから忘れていたよ」
スッとティファンが目を細める。
地面を抉るようにして、大きな木の根が出現した。
それらに怯む三人に、ティファンが楽しげに声を張り上げる。
「君達の主人も木の魔法が得意だよね! 僕もそれに模倣してみることにするよ!」
「チッ……サファ!」
『りょーかいっ!』
リルがサファに呼び掛ければ、サファが飛び出して体を大きく変貌させる。
その有り様にティファンが大きく目を見開いた。
『くらえーっ!』
蠢き向かってくる木の根を躱し、サファがツノでティファンを突こうとする。
しかし、ティファンはそれを片手で受け止めてしまった。
『うえ!?』
「ユニコーンはこんなことができるんだね。非常に興味深いよ」
『あ~!』
そのまま空中に放り出されたのを、リルが地面を蹴り上げて回収する。
しかし着地する寸前に木の根が二匹に巻き付いた。
「くっ」
『リルッ! リルッ、どうしよ!?』
「騒ぐでない小僧っ!」
リルは体の毛を逆立てさせると、力のまま木の根をむしり取った。
「はは! 流石フェンリル! こんなもの効かないか!」
「ほざけ。当たり前であろう。歴史で神獣と讃えられる者には、それ相応の理由があるのだ。この小僧はさておきな」
『ふみゅ~』
「腑抜けるなサファ」
『でも、何だか力が抜けるよう』
「力が抜ける? 何を言って……」
そこでリルは気がついた。
急いでサファの首根っこを掴み、木の根が張っていない足場へと飛び退く。
ティファンはリルの行動を見て目を細めた。
「貴様……魔力を吸い取っていたな」
「ご明察。そっちのユニコーンの動きは封じれたみたいだね」
『ご、ごめんなさい……』
申し訳なさそうにしょもくれるサファに、「構うまい」とリルが返す。
ティファンは二匹を一瞥すると、クリアへと視線を移した。
「ねえ、クリア。僕のこと手伝ってよ」
「は……?」
「僕はただ、アレクに傷ついてほしくないだけなんだ」
「あなたの言ってること、ウンディーネとまるで一緒だわ。反吐が出る」
「そういえば君達、水の精霊と仲が悪かったよね。氷と水って相性良さそうなのになあ」
ティファンがクリアのほうへと飛んだ。
クリアはすぐさま氷の盾を作ったが、ティファンは呆気なく突破してくる。
ティファンの放った爆撃が、クリアを直撃した。
「クリアーッ!!」
『く、クリアが……』
リルがクリアの元へと駆け寄ろうとするも、木の根が邪魔をして通れない。
「くそっ、どけ!」と苛立ちを見せながら、纏わり付いてくる木の根を剥がしていく。
「ねえ、クリア。僕が君を殺さないとでも思ったのかな」
「かひゅ……」
「僕はもう、覚悟を決めてるんだよ」
クリアの腹に穴が空いている。
氷の体から溶け出した水が、血の代わりに滴っていた。
「くっーー!」
クリアは無理やり体を起こすと、ティファンの首へと手をかけた。
ティファンはそのまま、抵抗することなく押し倒される。
「やりなよ」
「う……」
「ほら」
無防備に晒される首。
その細さに、クリアは涙が出そうになった。
力を入れようとするも、手は震えるばかりだ。
(ダメ、できないーー)
「それだから君は母様を助けられなかったんだよ」
「っ」
深い、深い後悔の傷。
それをエルミアの子供である彼にえぐられ、クリアはたじろぐ。
ティファンからは、泣き出す寸前の子供のような気配を感じた。
「だから……眠っていてね」
ティファンがある魔法を展開する。
それをクリアが食らった瞬間、閃光がその場に迸った。
「クリア……?」
その光景を見ていたリルが、呆然と呟く。
クリアの代わりに地面に落ちた、水色の球体。
ティファンは球体を拾い上げると、リルに向かって振り向いた。
「クリアは封じさせてもらったよ。君達もいてもらっちゃ厄介だ。同じようにさせてもらおう」
「……今すぐクリアを解放しろ!」
体を膨張させ、体に巻き付く木の根を一気に引きちぎる。
足の筋肉に力を入れ、リルはティファンに飛びかかった。
「ふっ!」
ティファンは咄嗟に木の根を使って剣を造形すると、リルに向かって突き刺した。
しかしリルは体が貫かれるのをものともせず、ティファンに思い切り噛み付く。
「っーーー!!」
ボタタ、と互いの血液が地面を真っ赤に染め上げる。
両者は見るまでもなく重症だ。
グルル、とリルは低く唸る。
「グァああっ!」
リルが雄叫びを上げると共に、ティファンに食い込ませた牙をそのまま深く突き立てる。
その牙がやがて骨まで砕こうとした瞬間、ティファンがクリアに向けた魔法と同じものを展開した。
カツン、と軽い音と共に、白色の球体が落ちた。
『り、リル……! クリア……!』
二人が封じ込められるのを見ていたサファは、弱々しく鳴いた。
ティファンはサファの元へと近づくと、地に臥すサファを見下ろす。
「君も、封じさせてもらうね」
『う……!』
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