上 下
152 / 227
アルスフォード編

第四十六話 小島への道標

しおりを挟む
「超大規模依頼が終了した……? そんな知らせ、入ってないぞ」
「それは、そうだな。今回の依頼に参加したメンバー、全員精神的に参っててな。弱っているところをつけいられるかもしれないから、しばらく大手を振って終了の合図は出さないことにしたんだ」
「っ、兄様と姉様はっ」

そこで、アレクが前に出る。
大きな瞳に涙の膜が張られ、零れ落ちそうであった。

「二人は、大丈夫なんですか……!?」
「……アイツらが一番酷い。見てられねえよ。惨すぎる」
「っ!」

とうとう耐えきれなくなり泣き出したアレクを後ろへ押し込むと、ラフテルは二人の行く先を聞いた。

「二人はどこの依頼に行ったんだ」
「……ミル島の、魔物を討伐しに行ったよ。最近はミーシャさんの埋め合わせが多かったが、今日はまともな依頼らしい」
「ミル島だな、わかった。ありがとう」

ラフテルはアレクの手を掴むと、ギルドをそのまま飛び出した。
すぐさまナオに跨り、ハンドルを握ってエンジンをかける。

『ご主人様、どうでしたか?』
「二人はミル島にいるらしい。そこで魔物の討伐をしてる」
『ミル島……幸い、ここからそう遠くはないですね。確か、この近くの町に港があったはず。そこから向かいましょう』
「ああ」

人通りの少ない道を縫うようにして、ナオで走り進めた。
町の者達は初めて見る乗り物に、ポカンと口を開けている。
しかし人目を気にするほどの余裕はない。

(アレクの手が、冷たい)

自身の腰に添えられた手を握り返してみれば、氷のような冷たさが伝わってくる。
加えて先程と違い力も弱い。
ラフテルはアレクに声をかけた。

「アレク! 大丈夫か!」
「……ラフテル」
「気をしっかり持て! お前が兄と姉を励ますんだ!」

ラフテルの激励に、アレクはゆっくりと頷いた。
ナハールの町を出て、そこからしばらく進む。
いくつかの町を越えて港町へと辿り着くと、ラフテルは急いで港の案内人に声をかけた。

「ミル島に行きたい。許可証をくれ」
「ミル島ってあんた……今、避難命令が出てるところじゃないか。危険だ、子供を行かせるわけには」
「俺達の前に子供が来ただろ!」

ガディとエルルのことを口にすれば、案内人に動揺が走る。

「彼らは……特別だ。普通の子供じゃない」
「っ、普通ってなんだ。俺達は二人を助けに行くんだ」
「ギルドSSSランク保持者なんて、もはや化け物だぞ」

案内人の言葉に、ラフテルの頭に血が登った。
恐れるような、蔑むような目線が、神経を逆撫でしてくる。
するとバイクフォルムから戻ったナオが、ラフテル達の前に出た。

「すみません、通してください。私達、英雄家の者です」
「英雄家……?」
「はい。所属はムーンオルトとアインバイル。武力系の英雄家です」

ナオの一言で、案内人の顔色が変わる。
あれだけ頑なだったのが打って変わって、許可証をあっさりと差し出した。

「どうぞ、お通りください」
「………」

アレクは案内人の態度に対して、不気味さを強く感じた。
アレクにとって、家の敷地の周りから出た初めての日である。
しかしそれは、あまりいい気分のする経験ではなかった。
ナオが今度は水上バイクへと姿を変えて、アレク達に乗るように促す。

『許可証貰えたし、行きましょう』
「……ああ」

ラフテルと共に乗り、アレクはミル島へと向かう。
遠ざかっていく二人の背中を案内人が眺めていれば、慌てた様子で同業者が話しかけてくる。

「おいっ、子供がミル島方面へ向かったぞ。あれほど危険だから止めろと……」
「英雄家の奴らだったよ」

案内人の一言で、同業者の追撃が止む。

「俺は……あんな子供が、平気で危険地帯へと足を運ぶのが恐ろしい」
「そりゃそうだ。あいつらは化け物だぞ。英雄家の奴らは、その強さで地位を維持してるんだからな。得体の知らない奴らさ」

世間一般の評価からすれば、案内人達の態度は最もであった。
過去栄光を讃えられた英雄家は、今や国ごとの顔のような役割を果たしている。
しかしその現状は謎に包まれており、栄光も昔のことすぎて、人々は覚えていない。
しかし英雄家は変わらず強者を出し続ける上、子供もこうやって魔物に向かっていくのだ。

「ほんと、気味が悪い連中だよ」

案内人の言葉は、皮肉にも悪意など篭っていなかった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。