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アルスフォード編
第四十六話 小島への道標
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「超大規模依頼が終了した……? そんな知らせ、入ってないぞ」
「それは、そうだな。今回の依頼に参加したメンバー、全員精神的に参っててな。弱っているところをつけいられるかもしれないから、しばらく大手を振って終了の合図は出さないことにしたんだ」
「っ、兄様と姉様はっ」
そこで、アレクが前に出る。
大きな瞳に涙の膜が張られ、零れ落ちそうであった。
「二人は、大丈夫なんですか……!?」
「……アイツらが一番酷い。見てられねえよ。惨すぎる」
「っ!」
とうとう耐えきれなくなり泣き出したアレクを後ろへ押し込むと、ラフテルは二人の行く先を聞いた。
「二人はどこの依頼に行ったんだ」
「……ミル島の、魔物を討伐しに行ったよ。最近はミーシャさんの埋め合わせが多かったが、今日はまともな依頼らしい」
「ミル島だな、わかった。ありがとう」
ラフテルはアレクの手を掴むと、ギルドをそのまま飛び出した。
すぐさまナオに跨り、ハンドルを握ってエンジンをかける。
『ご主人様、どうでしたか?』
「二人はミル島にいるらしい。そこで魔物の討伐をしてる」
『ミル島……幸い、ここからそう遠くはないですね。確か、この近くの町に港があったはず。そこから向かいましょう』
「ああ」
人通りの少ない道を縫うようにして、ナオで走り進めた。
町の者達は初めて見る乗り物に、ポカンと口を開けている。
しかし人目を気にするほどの余裕はない。
(アレクの手が、冷たい)
自身の腰に添えられた手を握り返してみれば、氷のような冷たさが伝わってくる。
加えて先程と違い力も弱い。
ラフテルはアレクに声をかけた。
「アレク! 大丈夫か!」
「……ラフテル」
「気をしっかり持て! お前が兄と姉を励ますんだ!」
ラフテルの激励に、アレクはゆっくりと頷いた。
ナハールの町を出て、そこからしばらく進む。
いくつかの町を越えて港町へと辿り着くと、ラフテルは急いで港の案内人に声をかけた。
「ミル島に行きたい。許可証をくれ」
「ミル島ってあんた……今、避難命令が出てるところじゃないか。危険だ、子供を行かせるわけには」
「俺達の前に子供が来ただろ!」
ガディとエルルのことを口にすれば、案内人に動揺が走る。
「彼らは……特別だ。普通の子供じゃない」
「っ、普通ってなんだ。俺達は二人を助けに行くんだ」
「ギルドSSSランク保持者なんて、もはや化け物だぞ」
案内人の言葉に、ラフテルの頭に血が登った。
恐れるような、蔑むような目線が、神経を逆撫でしてくる。
するとバイクフォルムから戻ったナオが、ラフテル達の前に出た。
「すみません、通してください。私達、英雄家の者です」
「英雄家……?」
「はい。所属はムーンオルトとアインバイル。武力系の英雄家です」
ナオの一言で、案内人の顔色が変わる。
あれだけ頑なだったのが打って変わって、許可証をあっさりと差し出した。
「どうぞ、お通りください」
「………」
アレクは案内人の態度に対して、不気味さを強く感じた。
アレクにとって、家の敷地の周りから出た初めての日である。
しかしそれは、あまりいい気分のする経験ではなかった。
ナオが今度は水上バイクへと姿を変えて、アレク達に乗るように促す。
『許可証貰えたし、行きましょう』
「……ああ」
ラフテルと共に乗り、アレクはミル島へと向かう。
遠ざかっていく二人の背中を案内人が眺めていれば、慌てた様子で同業者が話しかけてくる。
「おいっ、子供がミル島方面へ向かったぞ。あれほど危険だから止めろと……」
「英雄家の奴らだったよ」
案内人の一言で、同業者の追撃が止む。
「俺は……あんな子供が、平気で危険地帯へと足を運ぶのが恐ろしい」
「そりゃそうだ。あいつらは化け物だぞ。英雄家の奴らは、その強さで地位を維持してるんだからな。得体の知らない奴らさ」
世間一般の評価からすれば、案内人達の態度は最もであった。
過去栄光を讃えられた英雄家は、今や国ごとの顔のような役割を果たしている。
しかしその現状は謎に包まれており、栄光も昔のことすぎて、人々は覚えていない。
しかし英雄家は変わらず強者を出し続ける上、子供もこうやって魔物に向かっていくのだ。
「ほんと、気味が悪い連中だよ」
案内人の言葉は、皮肉にも悪意など篭っていなかった。
「それは、そうだな。今回の依頼に参加したメンバー、全員精神的に参っててな。弱っているところをつけいられるかもしれないから、しばらく大手を振って終了の合図は出さないことにしたんだ」
「っ、兄様と姉様はっ」
そこで、アレクが前に出る。
大きな瞳に涙の膜が張られ、零れ落ちそうであった。
「二人は、大丈夫なんですか……!?」
「……アイツらが一番酷い。見てられねえよ。惨すぎる」
「っ!」
とうとう耐えきれなくなり泣き出したアレクを後ろへ押し込むと、ラフテルは二人の行く先を聞いた。
「二人はどこの依頼に行ったんだ」
「……ミル島の、魔物を討伐しに行ったよ。最近はミーシャさんの埋め合わせが多かったが、今日はまともな依頼らしい」
「ミル島だな、わかった。ありがとう」
ラフテルはアレクの手を掴むと、ギルドをそのまま飛び出した。
すぐさまナオに跨り、ハンドルを握ってエンジンをかける。
『ご主人様、どうでしたか?』
「二人はミル島にいるらしい。そこで魔物の討伐をしてる」
『ミル島……幸い、ここからそう遠くはないですね。確か、この近くの町に港があったはず。そこから向かいましょう』
「ああ」
人通りの少ない道を縫うようにして、ナオで走り進めた。
町の者達は初めて見る乗り物に、ポカンと口を開けている。
しかし人目を気にするほどの余裕はない。
(アレクの手が、冷たい)
自身の腰に添えられた手を握り返してみれば、氷のような冷たさが伝わってくる。
加えて先程と違い力も弱い。
ラフテルはアレクに声をかけた。
「アレク! 大丈夫か!」
「……ラフテル」
「気をしっかり持て! お前が兄と姉を励ますんだ!」
ラフテルの激励に、アレクはゆっくりと頷いた。
ナハールの町を出て、そこからしばらく進む。
いくつかの町を越えて港町へと辿り着くと、ラフテルは急いで港の案内人に声をかけた。
「ミル島に行きたい。許可証をくれ」
「ミル島ってあんた……今、避難命令が出てるところじゃないか。危険だ、子供を行かせるわけには」
「俺達の前に子供が来ただろ!」
ガディとエルルのことを口にすれば、案内人に動揺が走る。
「彼らは……特別だ。普通の子供じゃない」
「っ、普通ってなんだ。俺達は二人を助けに行くんだ」
「ギルドSSSランク保持者なんて、もはや化け物だぞ」
案内人の言葉に、ラフテルの頭に血が登った。
恐れるような、蔑むような目線が、神経を逆撫でしてくる。
するとバイクフォルムから戻ったナオが、ラフテル達の前に出た。
「すみません、通してください。私達、英雄家の者です」
「英雄家……?」
「はい。所属はムーンオルトとアインバイル。武力系の英雄家です」
ナオの一言で、案内人の顔色が変わる。
あれだけ頑なだったのが打って変わって、許可証をあっさりと差し出した。
「どうぞ、お通りください」
「………」
アレクは案内人の態度に対して、不気味さを強く感じた。
アレクにとって、家の敷地の周りから出た初めての日である。
しかしそれは、あまりいい気分のする経験ではなかった。
ナオが今度は水上バイクへと姿を変えて、アレク達に乗るように促す。
『許可証貰えたし、行きましょう』
「……ああ」
ラフテルと共に乗り、アレクはミル島へと向かう。
遠ざかっていく二人の背中を案内人が眺めていれば、慌てた様子で同業者が話しかけてくる。
「おいっ、子供がミル島方面へ向かったぞ。あれほど危険だから止めろと……」
「英雄家の奴らだったよ」
案内人の一言で、同業者の追撃が止む。
「俺は……あんな子供が、平気で危険地帯へと足を運ぶのが恐ろしい」
「そりゃそうだ。あいつらは化け物だぞ。英雄家の奴らは、その強さで地位を維持してるんだからな。得体の知らない奴らさ」
世間一般の評価からすれば、案内人達の態度は最もであった。
過去栄光を讃えられた英雄家は、今や国ごとの顔のような役割を果たしている。
しかしその現状は謎に包まれており、栄光も昔のことすぎて、人々は覚えていない。
しかし英雄家は変わらず強者を出し続ける上、子供もこうやって魔物に向かっていくのだ。
「ほんと、気味が悪い連中だよ」
案内人の言葉は、皮肉にも悪意など篭っていなかった。
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