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超大規模依頼編

第三十七話 住み着く呪い?

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「ここかい!?」
「ギルドマスター、ここがどうかしたんですか?」

荒れ果て屋敷を選んだアリスに、ギルドマスターが仰天の声を上げる。
何も知らないアレクは首を傾げるが、対照的にギルドマスターは頭を抱えた。

「ここは荒れ果て屋敷と呼ばれる、通称呪われた屋敷でね……不吉な事故が相次ぐから、そんな風に呼ばれているそうだ。悪いことは言わない。別のところにしなさい」
「嫌! 私、ここしかないと思うの!」

アリスが意地を張るのでどうしたものかと思っていると、ガディとエルルが荒れ果て屋敷の物件情報を覗き込んだ。

「……呪いっていっても、アレク、呪い解除の魔法使えるだろう」
「? うん」
「じゃあアレクが魔法を使えば解決ね」
「それもそっか! ギルドマスター! ここにします!」
「本当に、ほんと~にここでいいのかね!?」
「はい!」
「……わかった。念押しするが、呪われた屋敷だぞ!?」
「大丈夫です!」

ニコッと笑いかけてくるアレクに、ギルドマスターは渋々了承の返事を下した。
そして様々な手続きの後、夜になる頃には荒れ果て屋敷の権利はアレクのものになった。
仮にも呪われた屋敷と呼ばれる荒れ果て屋敷は、夜に行くものではない。
しかしアレク達には、幽霊に対する恐れという感情はない。
特に気にしもせず、ズカズカと荒れ果て屋敷に突っ込んでいった。

「ここが荒れ果て屋敷ねえ……」
「もう呪い解除の魔法、使っちゃったほうがいいかな」
「待ってお兄さん」

魔法を使おうとするアレクを呼び止め、アリスは屋敷の地面に手を添えた。
何をするのかと三人で見守っていると、屋敷の澱んだ空気がアリスを中心にして一気に集まってくる。

「むまっ」
「むまっ、むまっ!」
「うわ」

謎の可愛らしい生物が現れたことで、ガディとエルルが顔を顰める。
可愛いものが嫌いなわけではないが、得体の知れなさが苦手だ。
謎の生物は何十匹もいるようで、アリスの周りを飛んだり跳ねたりしている。

「アリス、その子達は?」
「この屋敷の呪いの正体だよ。この子達は、屋敷にずっと住み着いてた……魔物? 妖精? そんな感じの、ちょっとあやふやな存在。持ち主がいなくなったから、住処を追い出されると思っていたずらしてたみたい」
「むまっ!」
「私達がここに住んでもいい?」
「むま~っ」
「ありがとう」

アリスはどうやら生き物達と意思疎通が取れるらしく、会話をした後生き物を離した。

「この子達の名前はムマ。私の言うことに従ってくれるから、魔物なのかな……?」
「住んでいいって言ってる?」
「うん。後、家事とかも手伝ってくれるって」
「よかった! 兄様と姉様も一緒に住む?」
「アレクがいるならな」
「そうしましょう。荷物を寮から持ってこなくちゃ」

そうして、アレクと双子の引っ越しと、アリスの住居が決定した。

◆ ◆ ◆

「というわけなんだ!」
「なるほど……つまり、この子達が解体業者を邪魔してたってことね」
「うん、そうなるかな」

ユリーカは納得したようで、頷きながらもムマへと視線を移した。

「こんなに可愛いのに、そんなことするのね」
「ま、まあまあ。もう人に危害は加えないよう、アリスが注意しておいてくれたから。ね? アリス」
「うん。この子達、もういたずらしないって」
「むま~っ」

もうすっかりアリスに懐いたらしく、ムマはアリスの手に顔を擦り付ける。
そんな様子に和んでいると、ドアの開く音がして双子が帰ってきた。

「ただいま」
「おかえり! 生徒会の仕事はよかったの?」
「今日は早めに終わったの」

仕事は適当なものの、基本的にスペックの高い二人だ。
二人に生徒会を任せた学園長とリリーナの判断は、正しかったと言えよう。

「………」
「あれ、どうしたの?」
「いや、別に」
「あんた達、ゆっくりしてきなさいね」

エルルはユリーカ達に歓迎の言葉を残すと、ガディと一緒に部屋の奥へと消えていく。

「……何か兄様と姉様、変だなぁ」

アレクが二人の態度を怪しむ中、二人は廊下を歩きながらも屋敷の中を一周していた。

「……ガディ」
「何だ」
「アリスのこと、どう思ってる」
「危険人物である可能性が高い」
「やっぱり」

そう言い切ったガディに、エルルも眼光を鋭くした。

「そもそも、今回の依頼自体がきな臭いのよね。天気の魔物の時と比べて、民間人への被害状況はそう変わらなかったけど……」
「強さが断然違った。天気の魔物が強すぎたのか、俺らが強くなったのかはわからんが、いささか不可解だ」
「アリスも悪魔である時点で信用ならない」

ガディとエルルは、アリスへの警戒体制を解くつもりはなかった。
何か怪しい動きをすれば、すぐさま消すつもりだ。
しかしアレクが守りたいと言った矢先、簡単に消してしまうことは許されない。

「……どうするべきか」
「いちいち見張っているわけにもいかないし、ここはアレクを信じましょう。あの子はそんなに弱くないわ」

エルルの下した決断に、ガディはひとまず従うことにする。
アレクの意見を曲げてまで、行動するつもりはない。
しかし彼らは、可愛い弟のことがひたすら心配であった。

◆ ◆ ◆

「ミヤちゃ~ん、ミヤちゃあ~ん」
「………」
「ありゃま。溶けてら」

アレク達と別れた後、マルとティファンはミヤの回収へと動いていた。
しかしミヤはガディとの戦いに敗れたばかりである。
ティファンはため息を一つつくと、自身の魔力を練り上げた。

「おお~」

ティファンの魔力が空中に注がれ、マルの歓声の後にミヤが出現する。

「おっかえりミヤちゃん!」

マルがミヤの巨体へと抱きついた。
ミヤは憂鬱な気持ちを引きずったまま、ティファンのほうへと目を向ける。

「……ティファン様」
「ミヤ。君が負けるとは思ってなかったよ。僕の魔力を注げるだけ注いだから、精進しな」
「申し訳ありません……!」
「ねーねーミヤちゃん。誰に負けたの?」

マルの質問に、ミヤは悔しげな顔をした。

「ガディだ……あいつの水魔法にやられた」
「ミヤちゃん切り替え下手くそだもんね~。水魔法なんて天敵でしょ。だよね、ティファン様。……ティファン様?」

ティファンが見たこともないような形相をしてこちらを睨んでいたため、マルとミヤは跳ね上がる勢いで謝罪をした。

「もっ、申し訳ありません! 今後は決して負けません!」
「て、ティファン様。ミヤちゃん許してあげて。お願い」
「……ああ、ごめん。君達に怒っているわけじゃないさ」
「え……?」
「ガディ……それとエルル……アレクの兄と姉に収まり続ける奴ら……」

ティファンの魔力が蠢く。
獣のような形をして、双子への憎悪で牙を剥き出した。

「いつか必ず、仕留めてみせる……!」
「「………」」
「母様、待ってて……僕が、絶対アレクを……」

ブツブツと何かを呟いていたティファンの元に、鳥が一羽降り立つ。
その鳥を見て、マルは身を乗り出した。

「えーっ? 一匹しか帰ってこなかったの?」
「……あちらも馬鹿ではあるまい」
「五匹も放ったのにぃ」

マルとミヤが話し合っている間、ティファンは鳥へと耳を傾ける。

「……ほう。それは面白いことを聞いた」
「ティファン様?」
「アレク達は、アルスフォードへ向かうそうだ」
「アルスフォード!」
「遠いですな」
「そうだね……どう引っ掻き回してあげようか」

ティファンの腕に乗った鳥が、その場に似合わぬ間抜けな鳴き声で鳴いた。

「とぅとぅとぅ」
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