142 / 227
超大規模依頼編
第三十六話 依頼の報酬
しおりを挟む
超大規模依頼を終え、ギルドへ帰還したアレク達を待っていたのは、ギルドマスターからの感謝と労いだった。
「アレク君、ガディ君、エルルさん、それとラフテル君。今回は依頼達成、本当にありがとう!」
ギルドマスターは礼を言って頭を下げると、自身の目を擦った。
どうやら泣いているらしい。
「まさか、こんなに早く済むとは思っていなかった。おまけに犠牲者まで出さないとは……」
「アレクの功績だぞ」
「そうね」
「兄様、姉様。みんなが協力した結果だよ」
見事なブラコンっぷりを発揮する二人に、ギルドマスターは「それもそうだ」と笑って見せた。
すると、ラフテルは報酬の件をギルドマスターへ切り出す。
「ギルドマスター、今回の依頼料なんだが」
「ああ。国王様から許可は降りている。好きなものを望むといい」
「……保留ということにしてくれないだろうか」
「保留かい?」
「欲しいものが思いつかなくてな。ずっと考えていた優秀な魔法使いとのパイプ、というものは、既に手に入れられた」
ラフテルがアレク達のほうへ視線を移す。
優秀な魔法使いと暗に言ってくれているのだと理解し、アレクは頬を緩める。
「わかった。国王様に報告しておこう。ラフテル君は国に帰るのかね」
「そうさせてもらおう。姉が迎えに来ているらしいのでな」
「……アレク君達はどうするのかね」
ギルドマスターの問いに、アレクは少し考える。
アレクにも特に欲しいものが思いつかなかった。
「僕も考えさせてもらっていいですか?」
「わかった。ガディ君とエルルさんは?」
「俺らは……ふむ……」
「私はヤコペ氏に会う権利が欲しい」
「ヤコぺ氏?」
エルルが欲した権利にアレクが首を傾げると、ギルドマスターが興味深げに笑った。
「ヤコぺ氏か。これまた随分と大者だ。君の言うヤコぺ氏とは、高級ブランド店の社長のヤコぺ氏で合っているかね」
「ええ、そうよ」
「姉様。ヤコぺ氏って?」
「アクセサリーブランドの社長よ。ちょっと作って欲しいものがあって」
「へぇ~」
エルルも年頃の女性だ。
案外無頓着に見えて、身だしなみには気を遣っている。
特別なアクセサリーでも欲しかったんだろうか。
「ガディ君は?」
「俺はどうしような……特に欲しいものないし。別にどうでもいいものに使いたくないしな」
「まあ、困りどころではあるだろうな。君達ギルドランクSSS保持者は、無欲な者が多い」
「あれが無欲か?」
「生命力が強いのは事実だろうな」
あの死んでも死ななさそうな連中は、果たして無欲なものだろうか。
微妙な顔をするガディに、ギルドマスターは笑いかけた。
「君も欲しいものが決まるまで、権利は保留でいいんじゃないか」
「いや……ううん……わかった。そうする」
「はっきりしないわね」
ぼやけた意見の男性陣に、エルルは肩を竦めて見せる。
ガディは不満げにエルルに言った。
「お前みたいにポンポン決断できるもんじゃないんだよ」
「そう? こういうものは、確実に叶う時に叶えるべきよ」
「だけど欲しいもんないし」
「じゃあ私が使っていい?」
「駄目に決まってるだろ」
そんなやり取りを双子がしている間に、ラフテルがギルドマスターに挨拶を済ませて、ギルドから出ようとする。
それをアレクが呼び止めた。
「ラフテル! 待って!」
「……アレク」
ラフテルが振り返り、何だか寂しそうな顔をする。
アレクは、ラフテルが知っているであろう一年の空白期間を知りたかった。
「あのさ、兄様と姉様が剣を作りに行く時に、ついていっていいかな……!」
「……もちろんだ。アレク。その時に、思い出を話させてくれ」
「僕は、僕は……ラフテルと多分、仲良かったんだよね。でもっ、僕はっ」
「いいんだ。お前が忘れていても。俺は……覚えているから」
ラフテルが何度も強調するように繰り返すのは、覚えているの一言。
アレクは自身が覚えていないことが歯痒く、同時に薄情に思えていた。
「いつか……絶対、思い出すから!」
「期待して待っとくよ」
ラフテルはそう言ってギルドを去っていった。
残されたアレクは、アリスのことが気がかりとなる。
アリスは教会にいる母のマリーヌに任せてあるが、長い間放置するわけにもいくまい。
未だにどうでもいい言い合いを続ける双子に、アレクが声をかけた。
「兄様、姉様! 教会に戻ろう!」
「あ……そうだったな」
「あいつを預けてたわね」
「僕、先に行くから!」
ギルドを飛び出し、アレクは教会へと走った。
アリスは不安がっていないだろうか。
そんなアレクの嫌な予感は、見事に的中することになる。
「あれ……アリス!?」
教会の中に入ってみれば、オロオロとするマリーヌの前でアリスが横たわっていた。
荒い息を繰り返すアリスを見て、アレクの血の気が引く。
「どうしたの母様!」
「わからないの……! 突然、倒れてしまって」
「う……」
パクパクとアリスが口を開け閉めする。
何かアレクに伝えたいようだ。
「アリス! 大丈夫?」
「……ここ、ムリ」
「え」
「外、連れ出して……」
アリスの搾り出すような声に従い、アレクはアリスを教会の外へ連れ出す。
すると、あっという間にアリスの体調不良は回復した。
「教会がダメだったのか……悪魔だからかな」
「お兄さん、私、ここムリだと思う」
「そっか」
アレクが学園に通う間、アリスを教会に預けようと思っていたが、不可能なようである。
「悪いわね……」とマリーヌが眉を下げて謝るため、アレクは安心させるように微笑んだ。
「そんなことないよ。アリスの体質に合わなかっただけ。……あ、そっか」
ここでアレクは妙案を思いつく。
家を貰おう。
アレクはその後双子と合流し、再びギルドへ戻った。
欲しいものを何でも、の答えにアレクが家と答えると、すぐさまギルドマスターはあらゆる物件を手配してくれた。
しかしどの家もアリスはお気に召さないらしく、途方に暮れていたが。
「ここ……凄くいい!」
アリスが唯一反応を示したのが、例の荒れ果て屋敷であった。
「アレク君、ガディ君、エルルさん、それとラフテル君。今回は依頼達成、本当にありがとう!」
ギルドマスターは礼を言って頭を下げると、自身の目を擦った。
どうやら泣いているらしい。
「まさか、こんなに早く済むとは思っていなかった。おまけに犠牲者まで出さないとは……」
「アレクの功績だぞ」
「そうね」
「兄様、姉様。みんなが協力した結果だよ」
見事なブラコンっぷりを発揮する二人に、ギルドマスターは「それもそうだ」と笑って見せた。
すると、ラフテルは報酬の件をギルドマスターへ切り出す。
「ギルドマスター、今回の依頼料なんだが」
「ああ。国王様から許可は降りている。好きなものを望むといい」
「……保留ということにしてくれないだろうか」
「保留かい?」
「欲しいものが思いつかなくてな。ずっと考えていた優秀な魔法使いとのパイプ、というものは、既に手に入れられた」
ラフテルがアレク達のほうへ視線を移す。
優秀な魔法使いと暗に言ってくれているのだと理解し、アレクは頬を緩める。
「わかった。国王様に報告しておこう。ラフテル君は国に帰るのかね」
「そうさせてもらおう。姉が迎えに来ているらしいのでな」
「……アレク君達はどうするのかね」
ギルドマスターの問いに、アレクは少し考える。
アレクにも特に欲しいものが思いつかなかった。
「僕も考えさせてもらっていいですか?」
「わかった。ガディ君とエルルさんは?」
「俺らは……ふむ……」
「私はヤコペ氏に会う権利が欲しい」
「ヤコぺ氏?」
エルルが欲した権利にアレクが首を傾げると、ギルドマスターが興味深げに笑った。
「ヤコぺ氏か。これまた随分と大者だ。君の言うヤコぺ氏とは、高級ブランド店の社長のヤコぺ氏で合っているかね」
「ええ、そうよ」
「姉様。ヤコぺ氏って?」
「アクセサリーブランドの社長よ。ちょっと作って欲しいものがあって」
「へぇ~」
エルルも年頃の女性だ。
案外無頓着に見えて、身だしなみには気を遣っている。
特別なアクセサリーでも欲しかったんだろうか。
「ガディ君は?」
「俺はどうしような……特に欲しいものないし。別にどうでもいいものに使いたくないしな」
「まあ、困りどころではあるだろうな。君達ギルドランクSSS保持者は、無欲な者が多い」
「あれが無欲か?」
「生命力が強いのは事実だろうな」
あの死んでも死ななさそうな連中は、果たして無欲なものだろうか。
微妙な顔をするガディに、ギルドマスターは笑いかけた。
「君も欲しいものが決まるまで、権利は保留でいいんじゃないか」
「いや……ううん……わかった。そうする」
「はっきりしないわね」
ぼやけた意見の男性陣に、エルルは肩を竦めて見せる。
ガディは不満げにエルルに言った。
「お前みたいにポンポン決断できるもんじゃないんだよ」
「そう? こういうものは、確実に叶う時に叶えるべきよ」
「だけど欲しいもんないし」
「じゃあ私が使っていい?」
「駄目に決まってるだろ」
そんなやり取りを双子がしている間に、ラフテルがギルドマスターに挨拶を済ませて、ギルドから出ようとする。
それをアレクが呼び止めた。
「ラフテル! 待って!」
「……アレク」
ラフテルが振り返り、何だか寂しそうな顔をする。
アレクは、ラフテルが知っているであろう一年の空白期間を知りたかった。
「あのさ、兄様と姉様が剣を作りに行く時に、ついていっていいかな……!」
「……もちろんだ。アレク。その時に、思い出を話させてくれ」
「僕は、僕は……ラフテルと多分、仲良かったんだよね。でもっ、僕はっ」
「いいんだ。お前が忘れていても。俺は……覚えているから」
ラフテルが何度も強調するように繰り返すのは、覚えているの一言。
アレクは自身が覚えていないことが歯痒く、同時に薄情に思えていた。
「いつか……絶対、思い出すから!」
「期待して待っとくよ」
ラフテルはそう言ってギルドを去っていった。
残されたアレクは、アリスのことが気がかりとなる。
アリスは教会にいる母のマリーヌに任せてあるが、長い間放置するわけにもいくまい。
未だにどうでもいい言い合いを続ける双子に、アレクが声をかけた。
「兄様、姉様! 教会に戻ろう!」
「あ……そうだったな」
「あいつを預けてたわね」
「僕、先に行くから!」
ギルドを飛び出し、アレクは教会へと走った。
アリスは不安がっていないだろうか。
そんなアレクの嫌な予感は、見事に的中することになる。
「あれ……アリス!?」
教会の中に入ってみれば、オロオロとするマリーヌの前でアリスが横たわっていた。
荒い息を繰り返すアリスを見て、アレクの血の気が引く。
「どうしたの母様!」
「わからないの……! 突然、倒れてしまって」
「う……」
パクパクとアリスが口を開け閉めする。
何かアレクに伝えたいようだ。
「アリス! 大丈夫?」
「……ここ、ムリ」
「え」
「外、連れ出して……」
アリスの搾り出すような声に従い、アレクはアリスを教会の外へ連れ出す。
すると、あっという間にアリスの体調不良は回復した。
「教会がダメだったのか……悪魔だからかな」
「お兄さん、私、ここムリだと思う」
「そっか」
アレクが学園に通う間、アリスを教会に預けようと思っていたが、不可能なようである。
「悪いわね……」とマリーヌが眉を下げて謝るため、アレクは安心させるように微笑んだ。
「そんなことないよ。アリスの体質に合わなかっただけ。……あ、そっか」
ここでアレクは妙案を思いつく。
家を貰おう。
アレクはその後双子と合流し、再びギルドへ戻った。
欲しいものを何でも、の答えにアレクが家と答えると、すぐさまギルドマスターはあらゆる物件を手配してくれた。
しかしどの家もアリスはお気に召さないらしく、途方に暮れていたが。
「ここ……凄くいい!」
アリスが唯一反応を示したのが、例の荒れ果て屋敷であった。
0
お気に入りに追加
10,435
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。