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超大規模依頼編
第三十一話 治癒と再生
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大悪魔の討伐を終えたメンバーは、町民の保護へと移った。
避難所を作り、怪我人をアレクが順々に治していく。
目の回る忙しさを目の当たりにして、ラフテルはアレクに声をかけた。
「アレク、俺に何かできることは……」
「ラフテルはじっとしてて! 君も病人なんだよ?」
「すまない」
親に叱られた幼子のように萎んでしまったラフテルに、アレクは大人びた笑みを浮かべる。
「でも気持ちは凄く嬉しい。ありがとう。町の病院に保管してある輸血パック届いたら呼ぶから」
「わかった」
アレクの言葉に頷き、ラフテルは地面に座り込み休憩を取るため丸まった。
「あなた、傷見せて」
「はい……」
「こんなに抉れて……痛かったでしょう」
「ありがとうございます……」
「これで治療は終了だ。しばらく安静にしてろよ」
アレクの横では、ガディとエルルも治癒魔法を使っている。
アレクに比べれば圧倒的に腕は劣るものの、二人の治癒魔法はアレクの負担を軽くしてくれた。
「兄様と姉様は大丈夫?」
「気にするな」
「アレクこそ。魔力は?」
「僕は大丈夫! こういう時こそ、僕の出番だから!」
ぐっと力拳を作って見せたアレクに、二人が情けないほどだらけた顔をしてニヤける。
ブラコンもここまでいくと、もはや清々しい。
「うわかわい……キッショ」
「レンカさん」
可愛い、と言いかけたレンカが何とか堪え、いつもの悪態に塗り替えた。
レンカはエルルが好き。
ハウンドからアレクはそう聞いている。
多分これは事実。
しかし、なぜ隠そうとするのだろうか。
「あんたら、効率悪いのにたらったらたらったら何やってんの」
「うるさいわねレンカ」
「お前なんもできないだろ」
そうこうしている内に言い合いに発展している。
アレクからすれば、レンカは何がしたいのか全くわからない。
(私のバカ~~っ!)
だがレンカからすれば、ただ緊張して上手く喋れないだけである。
好意的な言葉を与えたいのに、口から出るのは嫌味ばかりだ。
そこでアレクは、これ以上言い合いが続かないように話題を転換する。
「れ、レンカさんはどこに行ってたんですか?」
「どこって……どっかに落ちてる町の人いないか探してきてたのよ」
「落ちてるって」
言い方がおかしくアレクが思わず笑えば、レンカは気をよくしてアレクの頭を無造作に撫でる。
「あんた、可愛いわよね。弟に欲しい」
「「アレクはやらんぞ!!」」
「やかましいわ」
レンカからすればエルルと付き合うこと前提の台詞だったが、双子からすればレンカは愛しの弟を奪おうとする曲者。
おまけに自分達より強いので、どうにかして対抗しなければならない。
二人はより一層レンカへ警戒心を募らせた。
「レンカさん、あの」
「なによ」
「姉様鈍感? だから、もうちょっと優しくしたほうがいいと思う」
この場にユリーカがいれば、「アレク君がそれ言う?」とツッコミを入れたことだろう。
鈍感は血筋である。
レンカは顔を真っ赤にして、「よけーなお世話よ」と言った。
「アレクくぅん……」
「ハウンドさん」
「僕も治癒魔法してもらっていいですか? 黙ってたけど、結構痛いんですよ」
「もちろんです!」
ハウンドが泣きべそをかきながら、足に出来た青痣をアレクに見せる。
治癒魔法を当てると、傷は忽ち健康的な肌色へと戻った。
「ありがとうございます。本当にアレク君は治癒魔法が上手ですね」
「いや、それほどでも……でも、僕が誇れるところってそれくらいですし」
「大悪魔を倒した光魔法も凄かったです。君は大人になったら、有名なお城勤めとかになってそうですね」
「あはは……」
このまま順当に行けば、恐らくアレクは王女であるシルファと結婚し、この国を守護する魔法使いの一員となるのだろう。
アレクにはこの先の未来はわからないし、どうなるかもこの先次第だが。
「アレクの坊主! 今回はよくやってくれた!」
「ヨークさん!」
ヨークが破顔してこちらに近づいてくる。
こんなに嬉しそうなヨークを見るのは初めてだ。
「今回はお前なしでは成り立たない依頼だった! ラフテルの坊主も薬? かなんかで治しちまうし、事後処理もよくやってくれてる! 本当に助かった!」
「こちらこそ、お役に立てて嬉しいです!」
「……いい子だなお前!」
アレクが笑い返せば、ヨークは更に大口を開けて笑った。
大きくヨークの笑い声が響いた後、少しだけ寂しそうな顔をする。
「お前さんに、俺のガキと会わせたかったなあ」
「………」
「ミーシャとな、少し話してたんだ。この戦いが終わったなら、子供を作ろうって。きっとアレクの坊なら、可愛がってくれたろうな……悪い。こんな空気にするつもりじゃなかったんだ」
「僕も、ヨークさんのお子さん見たかったです」
しんみりとした空気が場を満たす。
それを打ち破ったのは、ハウンドの一言だった。
「町、どうします」
「どうしますって」
「今回の件で、めちゃくちゃになってしまいましたよ。修繕するにも、町の人達にはどこで暮らしてもらうか、考えなければなりません」
「僕が町を直します」
アレクがそう言い出したため、その場にいる全員が目を剥いた。
「直すって、おまっ、正気か?」
「はい。僕、再生の魔法が使えるんです」
「再生の魔法って……いくら使えても、魔法構築が複雑すぎて保たないわよ」
「大丈夫です。何とかなります」
「何とかって」
「アレクならできるぞ」
ラフテルの一言に、全員が思わず口をつぐむ。
「俺も昔、直してもらった」
「………」
アレクが失ったとされる、三年前の記憶。
空白の一年には、何があったのだろうか。
しかし今はそれどころではない。
「怪我人を集めてください。広範囲の治癒魔法を展開します」
「アレク、俺達も手伝う」
「兄様と姉様も?」
「少しばかりは助けになるわ」
「……ありがとう!」
そうしてアレクの前に、怪我人が集められた。
町というだけあって、怪我人の数はおよそ百人弱。
これでも被害が少ない方だと言えるのが恐ろしい状況だ。
「ハイパーエクストラヒール!」
アレクが展開した魔法に、ガディとエルルの治癒魔法が上乗せされる。
降り注ぐ癒しの魔法が、立ち所に怪我人の傷を塞いでいった。
「……こうして見ると、圧巻ですね」
「もしかしたら、ミーシャさんより治癒魔法得意なんじゃない」
「バカ言え」
「アレクは凄いだろ」
「何でお前が自慢げなんだよ」
四人がわいわいと話し合っているのを見ると、最初の最悪な雰囲気がまるで嘘のようだ。
そのことにアレクは喜びを覚えつつも、次に町の修繕に取り掛かった。
「ごめん。集中するからちょっと時間もらうかも」
「構わないぞ」
アレクは断りを入れてから、再生魔法を繰り出した。
町全体に結界のようなものが覆われ、光の粒が凝縮して、壊れた建物や通路に降りていく。
町が修繕されていく様は、まるで時を戻しているようであった。
それから五分くらい経ったのだろうか。
アレクは町の全てを元通りにしてしまった。
「終わりました!」
「……こりゃ、将来有望だな」
ヨークはアレクの凄まじい才能に思わず苦笑いした。
全てが落ち着いたことで、レンカは温めていた話題を取り出すことにした。
「アレク。あんたに説明してもらうわよ、あいつのこと」
「……アリスのことですか」
アレクから少し離れた場所で、アリスがこちらを見つめている。
恐らく近づき難く思っての行動なのだろう。
アレクはアリスを手招きした。
「アリス……君のこと、話していい?」
「私から話すよ、お兄さん」
アリスは何かを決心したような表情で、メンバーを一瞥した。
避難所を作り、怪我人をアレクが順々に治していく。
目の回る忙しさを目の当たりにして、ラフテルはアレクに声をかけた。
「アレク、俺に何かできることは……」
「ラフテルはじっとしてて! 君も病人なんだよ?」
「すまない」
親に叱られた幼子のように萎んでしまったラフテルに、アレクは大人びた笑みを浮かべる。
「でも気持ちは凄く嬉しい。ありがとう。町の病院に保管してある輸血パック届いたら呼ぶから」
「わかった」
アレクの言葉に頷き、ラフテルは地面に座り込み休憩を取るため丸まった。
「あなた、傷見せて」
「はい……」
「こんなに抉れて……痛かったでしょう」
「ありがとうございます……」
「これで治療は終了だ。しばらく安静にしてろよ」
アレクの横では、ガディとエルルも治癒魔法を使っている。
アレクに比べれば圧倒的に腕は劣るものの、二人の治癒魔法はアレクの負担を軽くしてくれた。
「兄様と姉様は大丈夫?」
「気にするな」
「アレクこそ。魔力は?」
「僕は大丈夫! こういう時こそ、僕の出番だから!」
ぐっと力拳を作って見せたアレクに、二人が情けないほどだらけた顔をしてニヤける。
ブラコンもここまでいくと、もはや清々しい。
「うわかわい……キッショ」
「レンカさん」
可愛い、と言いかけたレンカが何とか堪え、いつもの悪態に塗り替えた。
レンカはエルルが好き。
ハウンドからアレクはそう聞いている。
多分これは事実。
しかし、なぜ隠そうとするのだろうか。
「あんたら、効率悪いのにたらったらたらったら何やってんの」
「うるさいわねレンカ」
「お前なんもできないだろ」
そうこうしている内に言い合いに発展している。
アレクからすれば、レンカは何がしたいのか全くわからない。
(私のバカ~~っ!)
だがレンカからすれば、ただ緊張して上手く喋れないだけである。
好意的な言葉を与えたいのに、口から出るのは嫌味ばかりだ。
そこでアレクは、これ以上言い合いが続かないように話題を転換する。
「れ、レンカさんはどこに行ってたんですか?」
「どこって……どっかに落ちてる町の人いないか探してきてたのよ」
「落ちてるって」
言い方がおかしくアレクが思わず笑えば、レンカは気をよくしてアレクの頭を無造作に撫でる。
「あんた、可愛いわよね。弟に欲しい」
「「アレクはやらんぞ!!」」
「やかましいわ」
レンカからすればエルルと付き合うこと前提の台詞だったが、双子からすればレンカは愛しの弟を奪おうとする曲者。
おまけに自分達より強いので、どうにかして対抗しなければならない。
二人はより一層レンカへ警戒心を募らせた。
「レンカさん、あの」
「なによ」
「姉様鈍感? だから、もうちょっと優しくしたほうがいいと思う」
この場にユリーカがいれば、「アレク君がそれ言う?」とツッコミを入れたことだろう。
鈍感は血筋である。
レンカは顔を真っ赤にして、「よけーなお世話よ」と言った。
「アレクくぅん……」
「ハウンドさん」
「僕も治癒魔法してもらっていいですか? 黙ってたけど、結構痛いんですよ」
「もちろんです!」
ハウンドが泣きべそをかきながら、足に出来た青痣をアレクに見せる。
治癒魔法を当てると、傷は忽ち健康的な肌色へと戻った。
「ありがとうございます。本当にアレク君は治癒魔法が上手ですね」
「いや、それほどでも……でも、僕が誇れるところってそれくらいですし」
「大悪魔を倒した光魔法も凄かったです。君は大人になったら、有名なお城勤めとかになってそうですね」
「あはは……」
このまま順当に行けば、恐らくアレクは王女であるシルファと結婚し、この国を守護する魔法使いの一員となるのだろう。
アレクにはこの先の未来はわからないし、どうなるかもこの先次第だが。
「アレクの坊主! 今回はよくやってくれた!」
「ヨークさん!」
ヨークが破顔してこちらに近づいてくる。
こんなに嬉しそうなヨークを見るのは初めてだ。
「今回はお前なしでは成り立たない依頼だった! ラフテルの坊主も薬? かなんかで治しちまうし、事後処理もよくやってくれてる! 本当に助かった!」
「こちらこそ、お役に立てて嬉しいです!」
「……いい子だなお前!」
アレクが笑い返せば、ヨークは更に大口を開けて笑った。
大きくヨークの笑い声が響いた後、少しだけ寂しそうな顔をする。
「お前さんに、俺のガキと会わせたかったなあ」
「………」
「ミーシャとな、少し話してたんだ。この戦いが終わったなら、子供を作ろうって。きっとアレクの坊なら、可愛がってくれたろうな……悪い。こんな空気にするつもりじゃなかったんだ」
「僕も、ヨークさんのお子さん見たかったです」
しんみりとした空気が場を満たす。
それを打ち破ったのは、ハウンドの一言だった。
「町、どうします」
「どうしますって」
「今回の件で、めちゃくちゃになってしまいましたよ。修繕するにも、町の人達にはどこで暮らしてもらうか、考えなければなりません」
「僕が町を直します」
アレクがそう言い出したため、その場にいる全員が目を剥いた。
「直すって、おまっ、正気か?」
「はい。僕、再生の魔法が使えるんです」
「再生の魔法って……いくら使えても、魔法構築が複雑すぎて保たないわよ」
「大丈夫です。何とかなります」
「何とかって」
「アレクならできるぞ」
ラフテルの一言に、全員が思わず口をつぐむ。
「俺も昔、直してもらった」
「………」
アレクが失ったとされる、三年前の記憶。
空白の一年には、何があったのだろうか。
しかし今はそれどころではない。
「怪我人を集めてください。広範囲の治癒魔法を展開します」
「アレク、俺達も手伝う」
「兄様と姉様も?」
「少しばかりは助けになるわ」
「……ありがとう!」
そうしてアレクの前に、怪我人が集められた。
町というだけあって、怪我人の数はおよそ百人弱。
これでも被害が少ない方だと言えるのが恐ろしい状況だ。
「ハイパーエクストラヒール!」
アレクが展開した魔法に、ガディとエルルの治癒魔法が上乗せされる。
降り注ぐ癒しの魔法が、立ち所に怪我人の傷を塞いでいった。
「……こうして見ると、圧巻ですね」
「もしかしたら、ミーシャさんより治癒魔法得意なんじゃない」
「バカ言え」
「アレクは凄いだろ」
「何でお前が自慢げなんだよ」
四人がわいわいと話し合っているのを見ると、最初の最悪な雰囲気がまるで嘘のようだ。
そのことにアレクは喜びを覚えつつも、次に町の修繕に取り掛かった。
「ごめん。集中するからちょっと時間もらうかも」
「構わないぞ」
アレクは断りを入れてから、再生魔法を繰り出した。
町全体に結界のようなものが覆われ、光の粒が凝縮して、壊れた建物や通路に降りていく。
町が修繕されていく様は、まるで時を戻しているようであった。
それから五分くらい経ったのだろうか。
アレクは町の全てを元通りにしてしまった。
「終わりました!」
「……こりゃ、将来有望だな」
ヨークはアレクの凄まじい才能に思わず苦笑いした。
全てが落ち着いたことで、レンカは温めていた話題を取り出すことにした。
「アレク。あんたに説明してもらうわよ、あいつのこと」
「……アリスのことですか」
アレクから少し離れた場所で、アリスがこちらを見つめている。
恐らく近づき難く思っての行動なのだろう。
アレクはアリスを手招きした。
「アリス……君のこと、話していい?」
「私から話すよ、お兄さん」
アリスは何かを決心したような表情で、メンバーを一瞥した。
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