133 / 227
超大規模依頼編
第二十七話 弱点さがし
しおりを挟む
『お前……悪い癖ついてるな』
ガディは昔、師匠であるクーヴェルの元で世話になっていた頃、こう言われたことがある。
クーヴェルとの模擬的な戦闘の後に言われた。
悪い癖、というものがわからず、ガディは首を傾げる。
『どういう意味だ、師匠』
『避けすぎ』
『避けすぎって』
『大方私の動きを盗んだんだろーけどな。それ、やめな』
パタパタとクーヴェルの尻尾が上下に揺れる。
黒のしなやかな尻尾が、太陽に当たって煌めいていた。
『何でだ。エルルもやってるぞ』
『エルルはな、魔法を主に使うだろ。お前との共闘の時、相性を考えて剣にシフトチェンジすることもあるけどな……それに対して、お前は主に剣を使う。お前は魔法が大して上手くないからな』
痛いところを突かれた。
確かにガディの魔力量は異常なくらいあったし、その魔力を利用した魔法は使えるが、かなり大ぶり。はっきり言えば雑。
細やかな動きができるのは、唯一得意な水魔法くらいだった。
『お前は相手に突っ込んで行って、首を狩らなきゃならない。短剣使いなんて近接戦闘が専らだからな。そんなお前が避けてばかりじゃ、逃げ腰になる』
ふにゃあ、とクーヴェルが呑気に欠伸した。
和やかな様子とは裏腹に、開いた口から牙が所狭しと並んでいるのを見て、ガディはクーヴェルらしいなとぼんやり考えた。
『だからな、逃げるな。受け止めろ。無理だったら流す、もしくは捻り潰せ』
『無茶な……』
『無茶じゃない。とにかくその癖直せ。悪癖だぞ』
クーヴェルに注意され、ほんの少しだけガディは不機嫌になってしまった。
◆ ◆ ◆
(今となっては感謝してるぞ、師匠。おかげで丈夫に育ったもんだ。だがーー今日ばかりは、悪癖を使わせてもらう)
ガディがミヤに拳を振るわれるたびにすり抜けるため、ミヤに焦りと苛立ちが透けて見え始めた。
「ちょっこまかとっ……」
「はっ」
避けた瞬間、ガディがそのまま水で作った剣をミヤの腹部へと突き刺した。
「!?」
感触がおかしい。
人体に刺したようなはっきりとした手応えではなく、まるで空気を刺したようなもの。
「がああっ!」
「ぐぁっ」
ミヤに拳を振り落とされ、ガディの体が地面に食い込む。
避けることに徹している分、油断した隙を狙われるとダメージが大きい。
くらりと頭に眩暈が起こり、視界が赤に霞む。
どうやら額から出血したらしい。
血が目に入って痛い。
「ちょこざいな」
「お前こそ、何だよそのパワー。馬力だけはヨーク並だな」
(こいつ、本当に危険だ。当たったらかなりダメージが入る。だが……体にあっさり魔法が入りすぎる)
見た目に反したアンバランスさに、ガディは思考を巡らせる。
そして一つの解答を得た。
(試してみるか)
ガディは町の生垣に突っ込み、その生垣を利用して大木を作り、ミヤに向かって木々を伸ばす。
それをミヤは叩き落とすと、ガディに向かって走り寄ってきた。
ミヤがガディに殴りかかり、ガディは岩の盾を設置して体を横へ滑らせる。
岩の盾が砕け散ったところで、今度は木をスピードをつけてミヤへと放った。
それはミヤの体を貫いたかに思われたが。
「!!」
(融合してやがる)
ミヤの体に、木がそのまま吸い込まれた。
まるで亜空間に繋がっているようなその様を、ガディは不気味に感じてすぐさま木を引っ込める。
「らぁあ!」
ミヤの拳が、ガディの左肩に掠る。
間一髪で避けたものの、掠っただけの肩に鋭い痺れと痛みが走った。
その後もガディは回避を続けながらも、魔法を放てる限りの種類で放ち続けた。
そして突然撃つのをやめる。
「弾切れかね、ガディ!」
ミヤがそう叫ぶと、ガディは笑ってミヤを指差した。
「……お前、人間じゃないな」
「!」
「短剣を叩き割るだけの力はあったくせして、刺し心地は違和感を感じる。魔法で試してみたが、効くのはあらかた、水、土属性。んで、取り込んで回復するのは木、炎属性。その他はまずまずの効果。攻撃にシフトしている時は体が脆く、逆に防御に徹すれば体が硬い。体の材質が人間のそれじゃねえ。魔物か何かか?」
「……この短時間でそこまで気づくとは。誠に見事」
しみじみと感動したように言ってみせるも、ミヤの目つきが変わった。
余裕のない目だ。
「ただ、魔物とは失礼だな。魔物如きに例えられるなど、不愉快でしかない」
「じゃあお前ら何なんだよ」
「正体が露見するのは効率的ではない。自分で考えたまえ」
「そりゃそうか。まあ、どっちにしろ……何回か殺したら死ぬだろ」
短剣の代わりにした水の剣が再び現れ、ガディの手中に収まる。
ミヤも腰を低く落とし、構えた。
ーー先に動いたのは、ミヤのほうだった。
低い姿勢から一転し、ガディに走り寄ると、そのまま蹴りを食らわせる。
その蹴りを右に曲がることで避け、ガディは剣を叩き込もうとした。
そこでミヤの拳がガディの背に打ち込まれた。
ガディの体は吹っ飛ぶかと思われたが、その地にそのまま止まり続ける。
おかしい。ミヤほどの爆発力のあるパンチなら、いとも簡単にガディを吹き飛ばせるはずだ。
「!」
ここでミヤは、ガディの足に木の根が張り付いていることに気がついた。
地面に根付いた、強度の高い木の根だ。
「まさか」
「ちょっと考えたんだ」
ガディが攻撃されたことで血の絡まる喉を揺らして、「ふはは」と下手くそに笑った。
「こういう時、お前の体はどうなるかって」
ガディはミヤの腕を叩き斬ると、その傷口目がけて最大出力の水魔法を放った。
ジュウ! と音を立ててミヤの体は煙となる。
「くそ、不甲斐ない……」
「あばよ。今度こそ、その面見せるな」
ミヤはそのまま空中に溶けて消えていった。
ガディは昔、師匠であるクーヴェルの元で世話になっていた頃、こう言われたことがある。
クーヴェルとの模擬的な戦闘の後に言われた。
悪い癖、というものがわからず、ガディは首を傾げる。
『どういう意味だ、師匠』
『避けすぎ』
『避けすぎって』
『大方私の動きを盗んだんだろーけどな。それ、やめな』
パタパタとクーヴェルの尻尾が上下に揺れる。
黒のしなやかな尻尾が、太陽に当たって煌めいていた。
『何でだ。エルルもやってるぞ』
『エルルはな、魔法を主に使うだろ。お前との共闘の時、相性を考えて剣にシフトチェンジすることもあるけどな……それに対して、お前は主に剣を使う。お前は魔法が大して上手くないからな』
痛いところを突かれた。
確かにガディの魔力量は異常なくらいあったし、その魔力を利用した魔法は使えるが、かなり大ぶり。はっきり言えば雑。
細やかな動きができるのは、唯一得意な水魔法くらいだった。
『お前は相手に突っ込んで行って、首を狩らなきゃならない。短剣使いなんて近接戦闘が専らだからな。そんなお前が避けてばかりじゃ、逃げ腰になる』
ふにゃあ、とクーヴェルが呑気に欠伸した。
和やかな様子とは裏腹に、開いた口から牙が所狭しと並んでいるのを見て、ガディはクーヴェルらしいなとぼんやり考えた。
『だからな、逃げるな。受け止めろ。無理だったら流す、もしくは捻り潰せ』
『無茶な……』
『無茶じゃない。とにかくその癖直せ。悪癖だぞ』
クーヴェルに注意され、ほんの少しだけガディは不機嫌になってしまった。
◆ ◆ ◆
(今となっては感謝してるぞ、師匠。おかげで丈夫に育ったもんだ。だがーー今日ばかりは、悪癖を使わせてもらう)
ガディがミヤに拳を振るわれるたびにすり抜けるため、ミヤに焦りと苛立ちが透けて見え始めた。
「ちょっこまかとっ……」
「はっ」
避けた瞬間、ガディがそのまま水で作った剣をミヤの腹部へと突き刺した。
「!?」
感触がおかしい。
人体に刺したようなはっきりとした手応えではなく、まるで空気を刺したようなもの。
「がああっ!」
「ぐぁっ」
ミヤに拳を振り落とされ、ガディの体が地面に食い込む。
避けることに徹している分、油断した隙を狙われるとダメージが大きい。
くらりと頭に眩暈が起こり、視界が赤に霞む。
どうやら額から出血したらしい。
血が目に入って痛い。
「ちょこざいな」
「お前こそ、何だよそのパワー。馬力だけはヨーク並だな」
(こいつ、本当に危険だ。当たったらかなりダメージが入る。だが……体にあっさり魔法が入りすぎる)
見た目に反したアンバランスさに、ガディは思考を巡らせる。
そして一つの解答を得た。
(試してみるか)
ガディは町の生垣に突っ込み、その生垣を利用して大木を作り、ミヤに向かって木々を伸ばす。
それをミヤは叩き落とすと、ガディに向かって走り寄ってきた。
ミヤがガディに殴りかかり、ガディは岩の盾を設置して体を横へ滑らせる。
岩の盾が砕け散ったところで、今度は木をスピードをつけてミヤへと放った。
それはミヤの体を貫いたかに思われたが。
「!!」
(融合してやがる)
ミヤの体に、木がそのまま吸い込まれた。
まるで亜空間に繋がっているようなその様を、ガディは不気味に感じてすぐさま木を引っ込める。
「らぁあ!」
ミヤの拳が、ガディの左肩に掠る。
間一髪で避けたものの、掠っただけの肩に鋭い痺れと痛みが走った。
その後もガディは回避を続けながらも、魔法を放てる限りの種類で放ち続けた。
そして突然撃つのをやめる。
「弾切れかね、ガディ!」
ミヤがそう叫ぶと、ガディは笑ってミヤを指差した。
「……お前、人間じゃないな」
「!」
「短剣を叩き割るだけの力はあったくせして、刺し心地は違和感を感じる。魔法で試してみたが、効くのはあらかた、水、土属性。んで、取り込んで回復するのは木、炎属性。その他はまずまずの効果。攻撃にシフトしている時は体が脆く、逆に防御に徹すれば体が硬い。体の材質が人間のそれじゃねえ。魔物か何かか?」
「……この短時間でそこまで気づくとは。誠に見事」
しみじみと感動したように言ってみせるも、ミヤの目つきが変わった。
余裕のない目だ。
「ただ、魔物とは失礼だな。魔物如きに例えられるなど、不愉快でしかない」
「じゃあお前ら何なんだよ」
「正体が露見するのは効率的ではない。自分で考えたまえ」
「そりゃそうか。まあ、どっちにしろ……何回か殺したら死ぬだろ」
短剣の代わりにした水の剣が再び現れ、ガディの手中に収まる。
ミヤも腰を低く落とし、構えた。
ーー先に動いたのは、ミヤのほうだった。
低い姿勢から一転し、ガディに走り寄ると、そのまま蹴りを食らわせる。
その蹴りを右に曲がることで避け、ガディは剣を叩き込もうとした。
そこでミヤの拳がガディの背に打ち込まれた。
ガディの体は吹っ飛ぶかと思われたが、その地にそのまま止まり続ける。
おかしい。ミヤほどの爆発力のあるパンチなら、いとも簡単にガディを吹き飛ばせるはずだ。
「!」
ここでミヤは、ガディの足に木の根が張り付いていることに気がついた。
地面に根付いた、強度の高い木の根だ。
「まさか」
「ちょっと考えたんだ」
ガディが攻撃されたことで血の絡まる喉を揺らして、「ふはは」と下手くそに笑った。
「こういう時、お前の体はどうなるかって」
ガディはミヤの腕を叩き斬ると、その傷口目がけて最大出力の水魔法を放った。
ジュウ! と音を立ててミヤの体は煙となる。
「くそ、不甲斐ない……」
「あばよ。今度こそ、その面見せるな」
ミヤはそのまま空中に溶けて消えていった。
0
お気に入りに追加
10,427
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。