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超大規模依頼編
第十六話 弱さと非情
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「……っと、こんな湿っぽい話はおしまいにして、次に移動しましょ。ハウンド。あとどれくらいかかる?」
突然話を切り替えたレンカに、ハウンドが弾かれたように反応する。
「あ……ええと、もうすぐつきます。次はナハールの街付近の町になります」
「そっ。じゃああんた達も準備しなさいよ」
レンカはそう言うと、馬車の奥の方へ引っ込んでいってしまった。
しばらく呆然としていたアレクとラフテルに、ハウンドがそれとなく話を振る。
「どうでした? レンカさんの話」
「……凄いな、冒険者というやつは。本当に命懸けの仕事らしい」
「何を今更」
ラフテルがそう言うと、ハウンドは冗談半分でそれを笑い飛ばした。
「アレク君。君はどう思いました?」
「僕は……兄様と姉様を思い出しました」
アレクは顔を上げると、ガディとエルルのことを反芻する。
「二人はいつも僕に心配かけないように、明るく振る舞ってくれますけど。やっぱり辛いこともあったんだなって」
「当たり前じゃないですか。彼らだって人なのです。君のお兄さんやお姉さんは、当時はまだ子供ですよ」
ハウンドの痛烈な一言に、アレクは少し言い淀む。
わかってなかった。それに尽きる。
冒険者を軽く見ていたわけではない。
ただ二人が強くて、強くてーーその背に抱え込んできたものに、アレクが目を向けていなかっただけだ。
「そうですよね。ライアンやユリーカ、シオン……僕の友達と変わらない年だったんですよね」
「……彼らは幼かった。それと同時に、幼いなりに指針を持った子供達でした」
ハウンドは前を向いたまま、ポツリポツリと続ける。
「君を守る。そのためにここまで強くなれるのですから、はっきり言って異常です。弟のためにここまで意地を張れるのかと驚いたくらいです」
馬車が軽く揺れる。
砂利道に入ったようで、石と車輪の擦れる音が大きく響いた。
「ーー僕はずっと後悔しています。あの時の依頼に参加しなかったことを」
「でも、ハウンドは足を折って療養中だったんじゃないか」
ラフテルの問いに、ハウンドは首を横に振った。
「そんなの建前ですよ。足なんて治癒魔法で治したらすぐです。それにSSSランクである以上、参加は絶対。なぜ僕が依頼に参加しなかったかわかりますか?」
「……ランクを下げたんですか?」
「よくわかりましたね」
アレクの質問は正しかったらしく、ハウンドは少々驚愕を含めた声音で肯定した。
確か、ガディとエルルにもその話は来ていたはずだ。
二人が子供であることを踏まえ、ギルドマスターからの配慮でランクを下げ、依頼への参加条件を満たせないようにすることが提案された。
しかし父は寧ろ英雄家の格付けになると、喜んで二人を送り出していた。
「僕はーー精神が弱くて。声の能力に振り回され、自暴自棄になってしまうことも多々あります。ちょうど依頼がその時期でして。周りから見ても、依頼に出せるほどの精神状態ではないと判断された僕は、一時的にランクを下げられメンバーから外されました」
ハウンドの次の言葉は、やけにはっきりと聞こえた。
「三年前、この能力で妹を殺したんです」
◆ ◆ ◆
次の目的地である町に到着し、アレク達は馬車を降りる。
その賑わいようから、大悪魔の被害はどうやら受けていないようだ。
「行く場所間違えたかしら。とりあえず、二手に別れて聞き込みでもするわよ。私はラフテル連れてくから」
レンカはラフテルの腕を掴んで、そのままさっさと人混みに紛れていった。
残されたアレクは、ハウンドへ目線をやる。
「ハウンドさん。ひとまず馬車を預けられる場所を探しましょう」
「そうですね……確か、先程の町で買った地図ではこちらに専門の預かり場があったはず」
ハウンドが馬の手綱を引いて進んでいくのにアレクはついていく。
『妹を殺したんです』
ハウンドの発言にはどこか深掘りしてはならないような拒絶も含まれていて、アレクは何も言うことができなかった。
気にならないわけではないが、ここで尋ねてしまうのは違う気がする。
馬車の預かり場まで辿り着くと、ハウンドが店と交渉するため中へと進んだ。
アレクもついていこうとしたその時。
「あれ……?」
見慣れた銀色が視界に入った。
「兄様?」
まさかこんなところで合流できるとは思っていなかったため、アレクはほっとして話しかけようとする。
「!」
そこで、ガディの後ろに何かいることに気づいた。
間違いない。兄は尾行されている。
姿は見えないが、強い殺気と気配を感じた。
しかしガディは早足へどこかへ行ってしまう。
「追いかけないと……!」
突然話を切り替えたレンカに、ハウンドが弾かれたように反応する。
「あ……ええと、もうすぐつきます。次はナハールの街付近の町になります」
「そっ。じゃああんた達も準備しなさいよ」
レンカはそう言うと、馬車の奥の方へ引っ込んでいってしまった。
しばらく呆然としていたアレクとラフテルに、ハウンドがそれとなく話を振る。
「どうでした? レンカさんの話」
「……凄いな、冒険者というやつは。本当に命懸けの仕事らしい」
「何を今更」
ラフテルがそう言うと、ハウンドは冗談半分でそれを笑い飛ばした。
「アレク君。君はどう思いました?」
「僕は……兄様と姉様を思い出しました」
アレクは顔を上げると、ガディとエルルのことを反芻する。
「二人はいつも僕に心配かけないように、明るく振る舞ってくれますけど。やっぱり辛いこともあったんだなって」
「当たり前じゃないですか。彼らだって人なのです。君のお兄さんやお姉さんは、当時はまだ子供ですよ」
ハウンドの痛烈な一言に、アレクは少し言い淀む。
わかってなかった。それに尽きる。
冒険者を軽く見ていたわけではない。
ただ二人が強くて、強くてーーその背に抱え込んできたものに、アレクが目を向けていなかっただけだ。
「そうですよね。ライアンやユリーカ、シオン……僕の友達と変わらない年だったんですよね」
「……彼らは幼かった。それと同時に、幼いなりに指針を持った子供達でした」
ハウンドは前を向いたまま、ポツリポツリと続ける。
「君を守る。そのためにここまで強くなれるのですから、はっきり言って異常です。弟のためにここまで意地を張れるのかと驚いたくらいです」
馬車が軽く揺れる。
砂利道に入ったようで、石と車輪の擦れる音が大きく響いた。
「ーー僕はずっと後悔しています。あの時の依頼に参加しなかったことを」
「でも、ハウンドは足を折って療養中だったんじゃないか」
ラフテルの問いに、ハウンドは首を横に振った。
「そんなの建前ですよ。足なんて治癒魔法で治したらすぐです。それにSSSランクである以上、参加は絶対。なぜ僕が依頼に参加しなかったかわかりますか?」
「……ランクを下げたんですか?」
「よくわかりましたね」
アレクの質問は正しかったらしく、ハウンドは少々驚愕を含めた声音で肯定した。
確か、ガディとエルルにもその話は来ていたはずだ。
二人が子供であることを踏まえ、ギルドマスターからの配慮でランクを下げ、依頼への参加条件を満たせないようにすることが提案された。
しかし父は寧ろ英雄家の格付けになると、喜んで二人を送り出していた。
「僕はーー精神が弱くて。声の能力に振り回され、自暴自棄になってしまうことも多々あります。ちょうど依頼がその時期でして。周りから見ても、依頼に出せるほどの精神状態ではないと判断された僕は、一時的にランクを下げられメンバーから外されました」
ハウンドの次の言葉は、やけにはっきりと聞こえた。
「三年前、この能力で妹を殺したんです」
◆ ◆ ◆
次の目的地である町に到着し、アレク達は馬車を降りる。
その賑わいようから、大悪魔の被害はどうやら受けていないようだ。
「行く場所間違えたかしら。とりあえず、二手に別れて聞き込みでもするわよ。私はラフテル連れてくから」
レンカはラフテルの腕を掴んで、そのままさっさと人混みに紛れていった。
残されたアレクは、ハウンドへ目線をやる。
「ハウンドさん。ひとまず馬車を預けられる場所を探しましょう」
「そうですね……確か、先程の町で買った地図ではこちらに専門の預かり場があったはず」
ハウンドが馬の手綱を引いて進んでいくのにアレクはついていく。
『妹を殺したんです』
ハウンドの発言にはどこか深掘りしてはならないような拒絶も含まれていて、アレクは何も言うことができなかった。
気にならないわけではないが、ここで尋ねてしまうのは違う気がする。
馬車の預かり場まで辿り着くと、ハウンドが店と交渉するため中へと進んだ。
アレクもついていこうとしたその時。
「あれ……?」
見慣れた銀色が視界に入った。
「兄様?」
まさかこんなところで合流できるとは思っていなかったため、アレクはほっとして話しかけようとする。
「!」
そこで、ガディの後ろに何かいることに気づいた。
間違いない。兄は尾行されている。
姿は見えないが、強い殺気と気配を感じた。
しかしガディは早足へどこかへ行ってしまう。
「追いかけないと……!」
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