110 / 227
超大規模依頼編
第四話 知己
しおりを挟む
後日、メンバー全員がギルドの前に集まり次第、ヨークから大悪魔の説明がされた。
「大悪魔の目撃情報……というか、被害が出始めたのは三ヶ月前。近隣の農村、果ては大きな街まで魔物達が一斉に襲い、壊滅させているらしい。ここで大切なのは、魔物達が協力して動いていたことだ」
「魔物が協力って、当たり前なんじゃないの」
口を挟んだレンカに、ヨークはその質問の解答をすぐに提示した。
「聞け。魔物が協力するのは、同じ種族どうしだった場合だ。例えば、ゴブリンとか、スライムとかな。しかしこれもレアケースなんだよ。対外、弱い魔物が群がってるだけだ。お前そのくらいわかってるだろ。だが……魔物は種族問わずの協力体制だった。ドラゴンまでいたんだぞ。強さの代表格と呼べる種族だ。それを操っていたのが、今回の討伐対象である大悪魔だ」
「……特殊な能力持ちか?」
ガディの言葉に、「まあ、十中八九そうだろうな」と、ヨークが気だるげに答える。
するとエルルがヨークに対して質問を重ねた。
「その大悪魔の特徴……魔力の質ってわかるかしら。そもそも私のスキルである〔追跡〕は、魔力の残滓を読み取るものなのよ。大悪魔がどんな魔力をしているかわからないと使えない」
「そうだな。だから今日は実際に破壊された農村に出向いて、エルルの嬢ちゃんには大悪魔の魔力を覚えてもらう」
「農村って、そもそもここから近いの?」
「今のところ、そこまでトリティカーナには被害が及んでいない。だからかなり遠くなる」
そこでアレクは一つ疑問を抱いた。
「トリティカーナに被害がそこまで出てないのに、何で動くことになったんだろ……」
「俺が説明しようか」
そこで横に並んでいたラフテルが、アレクに話しかけてくる。
突然話しかけられて驚いたアレクだったが、ラフテルはただ親切に声をかけただけだ。
躊躇いながらもアレクは頷いた。
「あ、じゃあ、お願いします」
「ああ。俺も他国の者だし、トリティカーナの中心人物より詳しい自信はないが……できる限りのことは話させてもらう。被害が最初に出始めたのは、東の小国から。やがてそこから広がっていき、とうとう大国ダンカートにまで届いた。それだけでは飽き足らず、北の大国、俺達の国であるアルスフォードを通って、今度はトリティカーナにまで侵入してきている」
四大大国の内三つもの国が被害に遭っているのなら、そもそもアレク達に声がかかるよりも前に対処がされていそうなものだが。
そんなアレクの考えを読んだかのように、すぐにラフテルが続ける。
「初めはダンカートが何とかしようとしたんだ。だが、魔物の大群には、魔法のような能力を持つものがかなり多かったらしい。ダンカートは武力国家として有名だが、同時に魔法使いが足りてない。対抗できず押し負け、多大な被害が及んだ」
そういえば、アレクがまだ学園に入ってばかりの頃、ダンカートの王女であるウィルスが魔法使いをスカウトしにこの国にやってきたことを思い出す。
彼女は確かに、自身の国に魔法使いが少ないことを発言していた。
「次にアルスフォード。俺達の家からも何人か貸し出された。だが、俺達も魔法国家じゃない。寧ろ非戦闘員の多い科学の国。太刀打ちはできなかった。そして、とうとうトリティカーナにまでお鉢が回ってきた」
ラフテルはそこで一息つくと、羨むようにアレクを眺めてくる。
「トリティカーナは、四大大国随一の魔法国家だ。戦闘員が多く、そういう方面では突出している。そとそも友好国であるダンカートが被害に遭った時点で、トリティカーナの国王は腰を上げるつもりだったが……今回で決定打が打たれたらしい。アルスフォードから俺も派遣されたしな」
「つまり、世界中が大変なことになってるから、そんなに被害が出てなくても動かなくちゃならないってこと?」
「そういうことだ。超大規模依頼というものは凄いぞ。国を跨いでの協力がなされるからな。そもそも、アルスフォードとトリティカーナはあまり仲が良くなくないし」
「え!?」
大声を上げてしまったので、周りの視線がこちらに集まる。
何かあったのかと心配げな目線であり、途端にアレクに居た堪れなくなった。
「なんでもないです! 急に叫んでごめんなさい」
すると、レンカがすぐさま反応して、叱責を飛ばした。
「ちょっと。仮にもメンバーである自覚を持ってちょうだい。叫ばれたら何かあったと思うでしょう」
「は、はい」
「アレクは悪くないだろ。寧ろ反応しすぎる俺らが悪い」
ここぞとばかりに主張するガディに、レンカの額に青筋が浮かんだ。
「あんたねえ、キャラ違いのブラコンなんて発揮してんじゃないわよっ……ヨークの言った通り、あんた達緩んだんじゃないの?」
「アレクは俺達の全てだが?」
「うわあ~……」
レンカは露骨にドン引きすると、そそくさとガディから距離を取った。
「……続けるぞ」
「え、はい」
空気の読めないラフテルに引き戻され、アレクは反射的に頷いた。
場が静まってしまったので、周りもラフテルの話に耳を傾けることにしたらしい。
「領地的な問題もあって、両国の関係はあまりよろしくない。まあ、大国どうしということもあって、表向きは良好な関係を築いているが……裏は凄いぞ」
「そうなんだ……」
「そんなアルスフォードが、英雄家の一員である俺を寄こすくらいだ。世界の一大事と思っていい」
「ラフテルの坊主の言う通りだ」
そこで再び、話の主導権がヨークに移る。
「今回の依頼は、他のものとは全く違うものだと思え。前回の依頼では、ラフテルの坊主の兄、レオ・アインバイルが死亡している。強かった。前回参加した俺も、死を覚悟した。大悪魔の強さはまだわからないが……並大抵の被害ではない。気は抜くなよ」
ヨークの一言に、アレクはゴクリと唾を飲んだ。
「大悪魔の目撃情報……というか、被害が出始めたのは三ヶ月前。近隣の農村、果ては大きな街まで魔物達が一斉に襲い、壊滅させているらしい。ここで大切なのは、魔物達が協力して動いていたことだ」
「魔物が協力って、当たり前なんじゃないの」
口を挟んだレンカに、ヨークはその質問の解答をすぐに提示した。
「聞け。魔物が協力するのは、同じ種族どうしだった場合だ。例えば、ゴブリンとか、スライムとかな。しかしこれもレアケースなんだよ。対外、弱い魔物が群がってるだけだ。お前そのくらいわかってるだろ。だが……魔物は種族問わずの協力体制だった。ドラゴンまでいたんだぞ。強さの代表格と呼べる種族だ。それを操っていたのが、今回の討伐対象である大悪魔だ」
「……特殊な能力持ちか?」
ガディの言葉に、「まあ、十中八九そうだろうな」と、ヨークが気だるげに答える。
するとエルルがヨークに対して質問を重ねた。
「その大悪魔の特徴……魔力の質ってわかるかしら。そもそも私のスキルである〔追跡〕は、魔力の残滓を読み取るものなのよ。大悪魔がどんな魔力をしているかわからないと使えない」
「そうだな。だから今日は実際に破壊された農村に出向いて、エルルの嬢ちゃんには大悪魔の魔力を覚えてもらう」
「農村って、そもそもここから近いの?」
「今のところ、そこまでトリティカーナには被害が及んでいない。だからかなり遠くなる」
そこでアレクは一つ疑問を抱いた。
「トリティカーナに被害がそこまで出てないのに、何で動くことになったんだろ……」
「俺が説明しようか」
そこで横に並んでいたラフテルが、アレクに話しかけてくる。
突然話しかけられて驚いたアレクだったが、ラフテルはただ親切に声をかけただけだ。
躊躇いながらもアレクは頷いた。
「あ、じゃあ、お願いします」
「ああ。俺も他国の者だし、トリティカーナの中心人物より詳しい自信はないが……できる限りのことは話させてもらう。被害が最初に出始めたのは、東の小国から。やがてそこから広がっていき、とうとう大国ダンカートにまで届いた。それだけでは飽き足らず、北の大国、俺達の国であるアルスフォードを通って、今度はトリティカーナにまで侵入してきている」
四大大国の内三つもの国が被害に遭っているのなら、そもそもアレク達に声がかかるよりも前に対処がされていそうなものだが。
そんなアレクの考えを読んだかのように、すぐにラフテルが続ける。
「初めはダンカートが何とかしようとしたんだ。だが、魔物の大群には、魔法のような能力を持つものがかなり多かったらしい。ダンカートは武力国家として有名だが、同時に魔法使いが足りてない。対抗できず押し負け、多大な被害が及んだ」
そういえば、アレクがまだ学園に入ってばかりの頃、ダンカートの王女であるウィルスが魔法使いをスカウトしにこの国にやってきたことを思い出す。
彼女は確かに、自身の国に魔法使いが少ないことを発言していた。
「次にアルスフォード。俺達の家からも何人か貸し出された。だが、俺達も魔法国家じゃない。寧ろ非戦闘員の多い科学の国。太刀打ちはできなかった。そして、とうとうトリティカーナにまでお鉢が回ってきた」
ラフテルはそこで一息つくと、羨むようにアレクを眺めてくる。
「トリティカーナは、四大大国随一の魔法国家だ。戦闘員が多く、そういう方面では突出している。そとそも友好国であるダンカートが被害に遭った時点で、トリティカーナの国王は腰を上げるつもりだったが……今回で決定打が打たれたらしい。アルスフォードから俺も派遣されたしな」
「つまり、世界中が大変なことになってるから、そんなに被害が出てなくても動かなくちゃならないってこと?」
「そういうことだ。超大規模依頼というものは凄いぞ。国を跨いでの協力がなされるからな。そもそも、アルスフォードとトリティカーナはあまり仲が良くなくないし」
「え!?」
大声を上げてしまったので、周りの視線がこちらに集まる。
何かあったのかと心配げな目線であり、途端にアレクに居た堪れなくなった。
「なんでもないです! 急に叫んでごめんなさい」
すると、レンカがすぐさま反応して、叱責を飛ばした。
「ちょっと。仮にもメンバーである自覚を持ってちょうだい。叫ばれたら何かあったと思うでしょう」
「は、はい」
「アレクは悪くないだろ。寧ろ反応しすぎる俺らが悪い」
ここぞとばかりに主張するガディに、レンカの額に青筋が浮かんだ。
「あんたねえ、キャラ違いのブラコンなんて発揮してんじゃないわよっ……ヨークの言った通り、あんた達緩んだんじゃないの?」
「アレクは俺達の全てだが?」
「うわあ~……」
レンカは露骨にドン引きすると、そそくさとガディから距離を取った。
「……続けるぞ」
「え、はい」
空気の読めないラフテルに引き戻され、アレクは反射的に頷いた。
場が静まってしまったので、周りもラフテルの話に耳を傾けることにしたらしい。
「領地的な問題もあって、両国の関係はあまりよろしくない。まあ、大国どうしということもあって、表向きは良好な関係を築いているが……裏は凄いぞ」
「そうなんだ……」
「そんなアルスフォードが、英雄家の一員である俺を寄こすくらいだ。世界の一大事と思っていい」
「ラフテルの坊主の言う通りだ」
そこで再び、話の主導権がヨークに移る。
「今回の依頼は、他のものとは全く違うものだと思え。前回の依頼では、ラフテルの坊主の兄、レオ・アインバイルが死亡している。強かった。前回参加した俺も、死を覚悟した。大悪魔の強さはまだわからないが……並大抵の被害ではない。気は抜くなよ」
ヨークの一言に、アレクはゴクリと唾を飲んだ。
0
お気に入りに追加
10,435
あなたにおすすめの小説
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
私ではありませんから
三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」
はじめて書いた婚約破棄もの。
カクヨムでも公開しています。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。