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超大規模依頼編

第一話 中等部

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「うーん、変じゃないかぁ」

鏡を見ながらアレクは一人でに呟き、頬を薄桃色に染める。
その胸元には、学園から支給された新たなネクタイが収まっている。
見慣れたえんじ色ではなく、新品特有の鮮やかさを放つネクタイは、以前兄や姉が付けていたものと同じだ。

「アレク、もう出るぞ」
「あ、はーい!」

後ろから兄に声をかけられ、アレクは元気よく返事をした。

◆ ◆ ◆

冬休みが終わり、アレク達は中等部へと上がった。
一番下の初頭部から抜け出してみれば、何だか少し大人に近づいた気がする。
見える景色も違うものだ。
高等部と中等部での分かれ道でガディ、エルルと離れ、アレクは新しい教室に急ぐ。
教室の扉を開けると、そこにはお馴染みの面子が固まっていた。

「おはよう、みんな」
「おはよーアレク!」

真っ先にライアンがアレクに飛びつき、アレクの頭をうりうりと撫でる。

「俺達今日から中等部だけどさぁ、アレクはあんまり大きくならないよな~」
「え!? 嘘、僕だって大きくなってるよ!」
「俺より小せえし!」
「このアホライアン」

ユリーカが呆れを含ませた瞳で、ジトリとライアンを見つめる。
ライアンには全く意味がわからず、「な、何だよ」とたじろいだ。

「そもそもアレク君は私達より二個も年下なのよ? 小さくて当然じゃない」
「あ、そっか。忘れてたわ」
「まあ、アレク君なんだか大人びたしね。忘れるのも無理はないんじゃない」
「みんなして小さいって言わないでよ~……」

しょぼくれているアレクに、慌ててシオンが声をかける。

「アレク君は小さくてもかっこいいよ!」
「ありがとシオン……でも小さいは余計かな……」
「ご、ごめん」

そこで扉が開いて、アリーシャが顔を出した。
学年が変わっても、相も変わらず担任は彼女のままのようである。
ふわあ、と大きく欠伸をすると、アリーシャはボサボサの髪の毛を更に自らかき混ぜた。

「あー、はよーございまーす。皆さん新学期ですね……ふわ」
「アリーシャ先生。しっかりしてください」
「ユリーカさんはやっぱり手厳しいね。でも昨日徹夜しちゃってさ。クマがやばいのなんのって」
「先生」
「ごめんって」

ユリーカが凄み出したので、アリーシャは思わず体を縮めて唇を尖らせた。
わざとらしく咳払いすると、とうとう彼女は本題に入る。

「変わらずAクラスに進級できた諸君! おめでとう! だけど中等部は厳しいよ、振り落とされないようにね!」

アリーシャはグダグダのように見えて、一番成績優秀なAクラスを取り纏める人物だ。
ただ者ではないーーと信じたい。
無駄に気合いの入った担任を横目に、アレクはぼんやりと考え事をする。

(そういえば、また新入生入ってくるのかぁ……エリーゼの時みたいに、騒ぎにならないといいけど。まあそもそもあれってレアケースか。そんなに起こらないと思うし、大丈夫)

「アレク君」

(委員会も人数増えるのかぁ……僕とベッキー先輩と、ヴィエラちゃんで纏められるのかなぁ。心配だな……)

「アレク君!」

再度名前を呼ばれ、ハッとアレクは弾かれたように顔を上げる。
目の前には頬を膨らませたアリーシャが立っていた。

「もう、ボーッとしちゃって。今から始業式よ。しっかりしなくちゃ」
「ごめんなさい……」
「別に気にしなくていいのに」

叱ったのはアリーシャだというのに、矛盾していないだろうか。
するとライアンは笑顔で明快な一言を放つ。

「先生がほっぺ膨らませるのキツいっすね!」

否ーー余計な一言であった。
ライアンには強烈な拳骨が下り、ひんひんとライアンは痛みにもがく。

「みんな体育館に行きましょうね~」
「先生容赦ねえ……」
「こわ」
「怒らせんとこ」

クラスメイトが口々に言うため、アリーシャが大声で訂正を入れる。

「普段からこんなんじゃないから! ライアン君みたいな失礼な人にだけだから!」

彼女の訴えは果たしてクラスメイトに届いたのか、それは各々のみが知る結果である。

◆ ◆ ◆

その後すぐに始業式が行われたが、特に何事も起こることはなかった。
心配のしすぎだったかと胸を撫で下ろすアレクだったが、体育館を出てから制服の胸ポケットに手を当てたことで、あることに気づく。

「……ない」
「え?」
「ペンがない」
「ペン?」

どうやらどこかに落としてしまったらしい。
ポケットに何度も手を当てるアレクに、横にいたシオンが声をかける。

「また新しいの買ったらいいんじゃないかな……?」
「いや、あれは……兄様と姉様から貰ったやつなんだ」

二人は時々気まぐれに街を練り歩いては、アレクに土産を届ける。
数ある内の一つでしかなかったが、アレクにとって非常に大切なものだ。

「僕、探してくる!」
「アレク君!?」

驚くシオンに、アレクは走り去りながら頼み事をする。

「先生には事情を説明しておいてほしい!」
「え、ええ?」

そのままアレクが行ってしまったため、シオンは大層困って眉を下げた。






その後学校中を走り回ってみるも、心当たりのある場所にはどこにもなかった。
ひょっとして誰かが拾って職員室に届けてくれた後ではないだろうか。
そんな淡い希望を元に職員室に向かおうとしたアレクに、後ろから声がかかる。

「おい」
「え」

振り返ると、一人の男が立っていた。
見覚えのない、かなり厳つい容貌の男だ。
頬に走る傷跡は痛々しく、何より雰囲気が刺々しい。

「これ」
「……! 僕のペン」

男が差し出したのは、アレクが失くしたはずのペンだった。
ペンを受け取り、アレクは安心して息を吐く。

「あの、ありがとうございましーー」

その途端、ぐいと腕を引っ張られてアレクが宙に浮いた。
顔を至近距離まで近づけられ、身がすくむ。

「お前が……」
「?」
「なるほどな。確かに似てる」

そのままパッと手を離され、アレクは思い切り尻もちをついた。

「な、何なんですかっ」
「あ?」
「あなたは誰……そもそも、ここにいるってことは、学園関係者ですか?」
「いいや、違うね」

男は振り返るとニヒルな笑みを浮かべた。

「ヨーク・フール。俺の名だ。よく覚えておきな、アレク・ムーンオルト」
「え」

男はそのまま、何事もなかったように去っていった。

「……あの人、僕をムーンオルトって呼ばなかった?」

自分の素性を知る人間が現れた。
確かに、もうアレクがムーンオルト家出身の者であることを隠す理由がない。
何せアレクが素性を隠していたのは、父に学園に入っていることがバレ、元英雄家の者として学園に泥を塗ることを恐れられ、退学させられないか心配だったからだ。
ムーンオルト家は現在没落し、父はどこかに行方をくらませている。
名前を知られようが、大した痛手ではないーーはずだ。

「でも、どこから知ったんだろう……」

嫌な予感が拭えない。
アレクは消えた男のことを考え、アレクは頭を悩ませた。
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