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しあわせ。

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「ラティアンカじゃないか!」
「っ、え」

てっきり、拒絶されるものだと思っていました。
しかし元両親は、ジリジリと私に近づいてきます。


「力があったんだな! だから戻ってきてくれたんだろう!?」
「あの時は悪かったわ……!」

ーーなんですか、この人達。
驚きすぎて、声も出ませんでした。
私を捨てたくせに。役立たずと、罵ったくせに。
その目は私に縋ろうとしている。
でも、恐怖で足が動かない。
元両親がこちらに手を伸ばすのを、黙って見ていたその時。

「やめてもらおう」

その手を取ったのは、旦那様でした。

「……君は?」
「俺はラティアンカの夫だ。妻に触れないでもらおう」
「ラティアンカは私達の子供なのよ!? 夫だか何だか知らないけど、口を挟まないでちょうだい!」
「違う」

ヒステリックな叫び声を、遮る旦那様。
両親の手を掴む力が、みしみしとかけられていくのが遠目でわかりました。

「ラティアンカは、都合の良い道具なんかじゃない。捨てたら戻ってくるわけないだろう。それに、ラティアンカに愛情を注いだことがあるか。妹同様、道具として見ていなかっただろう」
「ラティアンカは私達の子供だ! 子供は、女は、親の言うことを当然ーー」
「そういう考え方が古いと言われる時がくる。まあ、とりあえず今は……不愉快だ」
「いたっ!?」

ギシッ、とかけられた力に、とうとう母のほうが悲鳴を上げました。

「金輪際、ラティアンカに近づくな。力に目覚めたからなんだ? ラティアンカは、この能力があることを嘆いていた。使うたび、苦しんでいた。俺はもう、二度と能力をラティアンカに使わせるつもりはない」
「お前こそっ、ラティアンカを都合の良い道具として見ているじゃないか!」
「俺はお前らとは違う。ラティアンカを、幸せにしよう。お前らみたいに利益ばかりを求め、ラティアンカ……愛しい人を放り出すほど、阿呆になったつもりはない」
「私達が誰かわかっているの!?」

ああ、とうとう身分をかさに怒鳴り出しました。
不安な行き先ですが、旦那様が安心させるように、私に向かって笑いかけました。

「わかっている。名家の者だ」
「そうだぞ!? 名家フールドの者だ!」
「私達が何か言えば、あなた達なんてあっという間にーー」
「少なくとも、偉そうにしているやつには負けん。俺は魔術師だ。……実力勝負といこうじゃないか」

ニヤリ、と旦那様が私に向ける表情とはまるで違う、挑発的な笑みを浮かべて。
ポン、と2人の額に手を触れました。

「わかるか? 今、魔術を使えばーー俺はお前らなんて、簡単に吹き飛ばせる。普通魔術師ならこんなにあっさり相手に触れさせないんだがな」
「~っ! そうする実力がっ、あると思って!?」
「そうだな。ボンクラとして生きてきたつもりはない。それに、俺は今ーーー猛烈に、怒ってるんだ」

あ。怒ってる。
不意にその一言が浮かぶ頃には、旦那様の額には青筋が浮かんでいました。

「俺のラティアンカを苦しめた。泣かせた。許せない。今ここで、八つ裂きにしてやりたい」
「!? はっ、はなっ」
「ラティアンカがお前らのせいで、どれだけ苦しんだと思ってる。ラティアンカの人生はラティアンカのものだ。お前らのものじゃない。あと、純粋に俺はお前らが嫌いだ」
「ひっ……」

詰め寄らんばかりの勢いで、早口で捲し立てる旦那様。
元両親が恐怖に顔を歪め、悲鳴を上げたところで、パッと手を離しました。

「ラティアンカに関わるな。もちろん、俺にも」
「………」
「わかったな」
「は、はい」

了承を受け取ると、無言で元両親から旦那様が離れました。
そして、私に覆い被さってきます。

「………」
「……その、行こうか」

気を遣って、弟がそう切り出しました。
弟についていって、とある一室につくと、弟は私達に言いました。

「地図持ってくるから、待っててよ」

弟が部屋から出ていくのを確認すると、私は旦那様に話しかけます。

「旦那様?」
「………嫌いか?」
「え?」
「俺のこと、嫌いになったか?」
「な、何でですか」

言い出したことの意味がうまくわからず、思わず瞬きを繰り返しました。
小さい声で旦那様が続けます。

「……脅迫した」
「元両親をですか」
「うん。でも、ラティアンカに嫌われても。俺はあいつらと仲良くなんてできない」
「大丈夫ですよ。実際、私、凄く安心しました。旦那様がそう言ってくれたおかげで、立つことができました。それに旦那様のことは大好きですよ」
「……うん」

私の肩元に顔を埋めてきました。
サラサラの髪が頬に当たってくすぐったいです。

「よかった」
「……それに、嫌いになることなんてありません」
「っ、うれ、しい!」

ボッ、と顔を真っ赤にして、旦那様は私を力強く抱きしめました。
少し苦しいですが、今は甘んじて受け入れましょう。
弟が戻ってくるまで、私達はずっとそうしていました。
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