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何とかしなくては。

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その後ロールと2人で部屋を出て、昨日の庭園へと向かいました。
あの蒼の花は本当に綺麗でしたし、もう一度見たいと私が言ったからです。
しかし、そこにはーーマオ様がいました。

「マオ、様」

名前を呼ばれて、ピクリと猫耳が痙攣しました。
振り返ってこちらを見るマオ様の瞳は、先程とは比べ物にならないくらい冷たいものです。

「何で戻ってきた」
「え」
「お前なんかがいる場所じゃないんだ、王宮は。神子だの何だの言うが、お前は何なんだ? ただの小娘だろう。失せろ。不愉快だ」

あまりの言いようではありませんか。
知らず知らずのうちに、フツリと私の腹の底で何かがのたうちました。

「……言っていいことと、悪いことがあるのではないですか」
「お前は、さっきの人間か。そこの奴の恩人とか名乗ってるらしいな。何が目的だ? どちらにせよ恩人だろうがそいつもろともお前に価値などはない。出て行け」
「聞こえませんでしたか」

わかりました。
私は、怒っているのですね。

「教えていただかったのですか? 人を傷つけることは言ってはいけないと。王子たる者、教育を怠っては失格では? マオ様は本当に幼くいてらっしゃるのですね」
「………」
「聞こえてません? ではもう一度言わせていただきます。ーーあなた、人として終わってます」

勝手に早口で出る罵倒と挑発の言葉。
マオ様の額に青筋が浮かんでいますが、それすらも愉快に思えます。
更に何か言おうと息を吸い込んだその時、クンッと誰かに手を引かれました。

「ラティ様。もう、十分です」
「………」

私の手に重ねられたロールの手は、酷く冷たく震えていました。
声もまるで消えそうなくらいに小さくて。
こんなに怯えて。

「……あ」

気づけば、マオ様の姿はありませんでした。
どこかに行ってしまわれたようです。

「ごめんなさい、ラティ様。でも……多分、昔からあんな感じなんだと思います。言い慣れてる気がしますから」

寂しそうに言うロールの目には、涙が浮かんでいました。
何で、あんな酷いことが言えるのでしょう。
マオ様は何を考えてらっしゃるのでしょう。

「………決めました」
「え?」
「行きましょう」

今度は私がロールの手を引いて歩きます。
旦那様が帰ってくるまでに、あの腐った根性叩き直してみせましょう。

◆ ◆ ◆

ということで、まずは事情聴取です。

「メリアさん。マオ様のことについて、教えていただけませんか」

私の発言にポカンとするメリアさん。

「マオ様のこと……ですか?」
「はい。彼の情報を、あますことなくです」

すると、メリアさんは辺りを見回して何かを確認しました。
満足のいく結果が得られたのか、メリアさんは自分の部屋へ私を招いてくださりました。

「まさかそんなことをおっしゃられるとは、思ってもいませんでした」
「思いついたのはさっきですから」

深刻とまではいきませんが、どこか気まずい雰囲気が流れます。

「マオ様は……シャルロッテ様と、レオン殿下を、嫌っております」
「やっぱりですか」

ロールだけではなく、レオン王子様まで。
彼の周りの空気は肌を刺すように刺々しいものでした。

「というか、典型的な人嫌いなのです。従者も一部の信用した者しか従えませんし、会話どころか目を合わせようともしません。母である女王様も心配してらっしゃいます。かの方は人と距離を置きたがるのです」
「彼、王宮では孤立していらっしゃるのでは?」
「そんなことは……ないとは、言い切れませんね」

歯切れ悪くそう言うと、メリアさんは普段のマオ様の行動を見直すように目を閉じました。

「王子で、しかも長男。ですので、黙っていれば勝手に人が寄ってくるものなのですが……彼は全てを拒絶しました。子供のうちに通う学び舎ですら、彼は1人だったのです」
「他の子供と気が合わなかったのでしょうか」
「マオ殿下は頭が良いですから……」

なるほど。
昔から人とはそりが合わず、半ば孤立気味だったと。

「ちなみに、ロールとマオ様は仲直りできると思いますか?」
「いいえ。あれはもう火と油のような関係性ですから、無理だと思います」

これは手強い勝負になりそうです。
私は覚悟を決めました。
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