60 / 99
兄ぃともう、1人。
しおりを挟む
「ーー行ってしまわれましたか」
旦那様の見えなくなった後ろ姿。
アレン様には大変申し訳なく思っています。
巻き込むのを許してほしいとは考えていませんし、これを機に関係を切っていただいても構いません。
どうしても、彼の千里眼が必要だと判断しましたから。
彼の能力を利用するような形になってしまったことに、嫌悪を覚えます。
「私に何か、できることはないのでしょうか」
いつまでも、護られているだけの女でいいのでしょうか。
甘えてばかりの者でいいのでしょうか。
……いいわけありません。
何か、できることを探さねば。
そう思って外に出ると、王子様がこちらに歩いてきました。
黒の長い尻尾が上下に落ち着きなく揺れています。
「王子様」
「……」
私が声をかけると、王子様は歩みを止めてこちらを睥睨しました。
こんな冷たい目をなさる方でしたっけ。
「昨夜はありがとうございます。あなたのお陰で、気持ちの整理ができました」
「誰だ、お前」
「え」
「お前なんて知らない」
不機嫌そうに、不愉快そうに。
言い捨てると、王子様は私の横を通って行ってしまいました。
怒らせてしまったのでしょうか。
何か、無礼を働いたのでしょうか。
「あっ、ラティ様!」
「ロール」
パタパタと、ロールが駆け足でこちらに向かってきました。
その格好はまるで宮殿のお姫様のように綺麗で、私の頬が緩みます。
「可愛いですね、ロール。着せてもらったんですか?」
「あ、はい。一応神子だからって。どうですか?」
その場でくるりと一周すると、ロールの服がまるで花のようにフワリと広がりました。
「ええ。とっても素敵です」
「えへへ……嬉しいです!」
こうして今でも慕ってくれるロールは、大切にしなければいけませんね。
すると、ロールは私の手を引いてどこかへ連れて行こうとします。
「待って、どこに行くの?」
「せっかくですし、ラティ様も着替えましょう! 侍女の方に言ったらオッケーがもらえましたし!」
「そんな。私は今の格好で十分です」
「私がラティ様の、もっと綺麗な姿が見たいんです。今の姿もとてもステキですけどね!」
ロールの屈託のない笑顔を向けられ、ついつい首を縦に振ります。
やっぱりロールには敵いません。
しかし……安易に頷いてしまったことを後悔するくらい、色々着せられ。
結果2時間くらい拘束されてしまいました。
「ラティ様、綺麗です……!」
ドレス姿にされた私を見て、瞳をキラキラと輝かせるロール。
嬉しそうなので、無駄事だったとは思いませんけど。
コルセットが少し苦しいです。
「あれ、何やってんの」
「レオン兄ぃ」
すると、王子様がひょっこりその場に現れました。
先ほどの態度を思い出して隠れようと思いましたが、気づかれてしまったようで。
「ラティアンカじゃん。昨日ぶり」
へら、と、笑いかけてきました。
昨日ぶり? どういうことでしょう。
「あの、さっき会いましたよね?」
「え? 会ってないけど」
「レオン兄ぃ、どういうこと。まさか……ラティ様。マオ様に、会ったんですか?」
「マオ様?」
王子様の名前を聞いたのはロールの口からですけど、「レオン兄ぃ」と呼んでます。
本当の兄妹のように仲睦まじく見える彼らですが、その名前を出した時は顔は厳しげに歪められました。
「マオ様とは」
「……俺の双子のにーちゃん」
「王子様のですか」
「そ。あいつに近寄んなよ。あいつもエリクルとかいう奴に、負けず劣らずのクズだから」
双子。
あまりにそっくりな相貌にも、納得がいく回答です。
ということは、メリアさんが言っていたのはマオという、お兄様のほうだったのですね。
呼び方からして、彼とロールは仲は良くないのでしょう。
「私もそのほうがいいと思います」
「メリアさん」
かつてのロールのことを説明してくれたメリアさんが、部屋に入ってきました。
「彼は誰にも、心を許さないのです」
「シャルロッテのこといっつも泣かすし。俺、あいつ嫌い」
「私はそのことを覚えてないんですけど……マオ様のことを見ると、その、どうしても震えてしまって」
よっぽどマオ様は、素行の荒い方なのでしょう。
周りの侍女の方達の反応も芳しくありません。
「そうですか……わかりました」
関わるなと注意されたならそれまでです。
私はそれに頷きました。
旦那様の見えなくなった後ろ姿。
アレン様には大変申し訳なく思っています。
巻き込むのを許してほしいとは考えていませんし、これを機に関係を切っていただいても構いません。
どうしても、彼の千里眼が必要だと判断しましたから。
彼の能力を利用するような形になってしまったことに、嫌悪を覚えます。
「私に何か、できることはないのでしょうか」
いつまでも、護られているだけの女でいいのでしょうか。
甘えてばかりの者でいいのでしょうか。
……いいわけありません。
何か、できることを探さねば。
そう思って外に出ると、王子様がこちらに歩いてきました。
黒の長い尻尾が上下に落ち着きなく揺れています。
「王子様」
「……」
私が声をかけると、王子様は歩みを止めてこちらを睥睨しました。
こんな冷たい目をなさる方でしたっけ。
「昨夜はありがとうございます。あなたのお陰で、気持ちの整理ができました」
「誰だ、お前」
「え」
「お前なんて知らない」
不機嫌そうに、不愉快そうに。
言い捨てると、王子様は私の横を通って行ってしまいました。
怒らせてしまったのでしょうか。
何か、無礼を働いたのでしょうか。
「あっ、ラティ様!」
「ロール」
パタパタと、ロールが駆け足でこちらに向かってきました。
その格好はまるで宮殿のお姫様のように綺麗で、私の頬が緩みます。
「可愛いですね、ロール。着せてもらったんですか?」
「あ、はい。一応神子だからって。どうですか?」
その場でくるりと一周すると、ロールの服がまるで花のようにフワリと広がりました。
「ええ。とっても素敵です」
「えへへ……嬉しいです!」
こうして今でも慕ってくれるロールは、大切にしなければいけませんね。
すると、ロールは私の手を引いてどこかへ連れて行こうとします。
「待って、どこに行くの?」
「せっかくですし、ラティ様も着替えましょう! 侍女の方に言ったらオッケーがもらえましたし!」
「そんな。私は今の格好で十分です」
「私がラティ様の、もっと綺麗な姿が見たいんです。今の姿もとてもステキですけどね!」
ロールの屈託のない笑顔を向けられ、ついつい首を縦に振ります。
やっぱりロールには敵いません。
しかし……安易に頷いてしまったことを後悔するくらい、色々着せられ。
結果2時間くらい拘束されてしまいました。
「ラティ様、綺麗です……!」
ドレス姿にされた私を見て、瞳をキラキラと輝かせるロール。
嬉しそうなので、無駄事だったとは思いませんけど。
コルセットが少し苦しいです。
「あれ、何やってんの」
「レオン兄ぃ」
すると、王子様がひょっこりその場に現れました。
先ほどの態度を思い出して隠れようと思いましたが、気づかれてしまったようで。
「ラティアンカじゃん。昨日ぶり」
へら、と、笑いかけてきました。
昨日ぶり? どういうことでしょう。
「あの、さっき会いましたよね?」
「え? 会ってないけど」
「レオン兄ぃ、どういうこと。まさか……ラティ様。マオ様に、会ったんですか?」
「マオ様?」
王子様の名前を聞いたのはロールの口からですけど、「レオン兄ぃ」と呼んでます。
本当の兄妹のように仲睦まじく見える彼らですが、その名前を出した時は顔は厳しげに歪められました。
「マオ様とは」
「……俺の双子のにーちゃん」
「王子様のですか」
「そ。あいつに近寄んなよ。あいつもエリクルとかいう奴に、負けず劣らずのクズだから」
双子。
あまりにそっくりな相貌にも、納得がいく回答です。
ということは、メリアさんが言っていたのはマオという、お兄様のほうだったのですね。
呼び方からして、彼とロールは仲は良くないのでしょう。
「私もそのほうがいいと思います」
「メリアさん」
かつてのロールのことを説明してくれたメリアさんが、部屋に入ってきました。
「彼は誰にも、心を許さないのです」
「シャルロッテのこといっつも泣かすし。俺、あいつ嫌い」
「私はそのことを覚えてないんですけど……マオ様のことを見ると、その、どうしても震えてしまって」
よっぽどマオ様は、素行の荒い方なのでしょう。
周りの侍女の方達の反応も芳しくありません。
「そうですか……わかりました」
関わるなと注意されたならそれまでです。
私はそれに頷きました。
129
お気に入りに追加
6,224
あなたにおすすめの小説
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
【完結済み】婚約破棄致しましょう
木嶋うめ香
恋愛
生徒会室で、いつものように仕事をしていた私は、婚約者であるフィリップ殿下に「私は運命の相手を見つけたのだ」と一人の令嬢を紹介されました。
運命の相手ですか、それでは邪魔者は不要ですね。
殿下、婚約破棄致しましょう。
第16回恋愛小説大賞 奨励賞頂きました。
応援して下さった皆様ありがとうございます。
リクエスト頂いたお話の更新はもうしばらくお待ち下さいませ。
【完結済】政略結婚予定の婚約者同士である私たちの間に、愛なんてあるはずがありません!……よね?
鳴宮野々花@軍神騎士団長1月15日発売
恋愛
「どうせ互いに望まぬ政略結婚だ。結婚までは好きな男のことを自由に想い続けていればいい」「……あらそう。分かったわ」婚約が決まって以来初めて会った王立学園の入学式の日、私グレース・エイヴリー侯爵令嬢の婚約者となったレイモンド・ベイツ公爵令息は軽く笑ってあっさりとそう言った。仲良くやっていきたい気持ちはあったけど、なぜだか私は昔からレイモンドには嫌われていた。
そっちがそのつもりならまぁ仕方ない、と割り切る私。だけど学園生活を過ごすうちに少しずつ二人の関係が変わりはじめ……
※※ファンタジーなご都合主義の世界観でお送りする学園もののお話です。史実に照らし合わせたりすると「??」となりますので、どうぞ広い心でお読みくださいませ。
※※大したざまぁはない予定です。気持ちがすれ違ってしまっている二人のラブストーリーです。
※この作品は小説家になろうにも投稿しています。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる