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アストロに行くまでの風魔での生活は、かなり穏やかなものでした。
ロール自身も最初はソワソワと落ち着かないものでしたが、時間が解決したというのか、今では笑顔で溢れています。
しかし、いざアストロを目にすれば緊張感がその場を支配しました。
すぅ、はぁ、と息をして、ロールが風魔から降りました。
受付係の人が見えてきます。
獣人の国ですので、その方ももちろん獣人です。
「ああ、人間の方達。悪いがこの国には今ーー」
入国審査の係の方が、億劫そうに言いかけた時。
ロールを見て、硬直しました。
「…………………シャルロッテ、様?」
「シャルロッテ?」
「っ、シャルロッテ様!! ご無事ですか!?」
飛び付かんばかりの勢いで叫んでくる係の方に、目を白黒させながらロールは「ええと」と困惑してみせました。
「その、大丈夫、です?」
「はぇ」
「私ってシャルロッテって名前なんですか?」
「………」
「あ」
顔面蒼白になって、パターンと受付係の人は気絶してしまいました。
◆ ◆ ◆
「シャルロッテ様が帰ってきた!!」
「よくぞご無事で……!」
「ああ、よかった、よかった!」
その後の結果、なのですが。
王宮に私達ごと連れられ、恐らく偉い方々に泣きつかれてロールは戸惑いが隠せない様子でした。
「えーと、あのぉ」
「シャルロッテ様?」
「私、四ヶ月前から記憶がなくて」
「ええ!?」
もう周りの方々は大混乱です。
混乱のあまり、次第に私達に敵意を向けてきます。
「連れてきた人間達になにかされたのでは……!?」
「嘆かわしい! シャルロッテ様の記憶を!」
「そもそも人間がなぜこの国にいる!」
そろそろイライラが抑えられなくなってきたのか、旦那様が無言で魔術を使おうとしています。
今回は入国審査表ナシで通ったため、魔術を使ってはならないという紙にサインはしておりません。
ですので魔術を使って即捕まることはないでしょうが……ここで使えば状況は悪化することは目に見えてわかります。
旦那様もそれはわかっているのでしょう。
渋っているようです。
ダンッ!
すると、ロールが大きく床を踏みしめて叫びました。
「この方達に無礼な真似はするな! 私の命の恩人ぞ」
「……シャルロッテ様」
「って、あれ? 私、なんで」
「条件反射ってやつじゃないかな」
ほら、とエリクル様が、先程まで騒いでいた方々を見るように促しました。
ロールに膝まづき、全員が綺麗に整列しています。
「ああ、我らが神子様。どうか怒りをお鎮めください」
「お許しを、お許しを」
……こう言っては、なんですが。
少々気味が悪いですね。
ロールに信仰に近いなにかを向けている気がします。
まあ、神子ですし、当たり前かもしれませんが。
「私がご説明させていただいてもよろしいでしょうか」
ふと、また違った雰囲気の老婆がその場に現れました。
狐の獣人の方でしょうか。
キリリとした目で、ロールを見ています。
「メリア! 無礼だぞ!」
「よい。私は、メリアに頼む」
「シャルロッテ様!」
周りの人の静止を振り切り、ロールはメリアと呼ばれた老婆の方の後ろへつきました。
「ラティ様達も、行きましょう」
「……ええ」
ここはあまり居心地がよくありませんね。
私達もメリアさんについていきましょう。
◆ ◆ ◆
メリアさんに案内されたのは、大きな個室でした。
個室というには広すぎる気がしましたが、使われていた形跡はありません。
「ここは、シャルロッテ様の部屋だったところです」
「私の?」
「はい。どうぞ、お座りください」
席を勧められ、私達は腰を下ろしました。
座ればわかります。
かなりお高い椅子です。
慣れた様子でメリアさんはお茶を入れ、私達に差し出してくれました。
「あっ、ありがとうございます」
ロールがそれを口にするのを見て、メリアさんはロールの向かい側の席へ座ります。
「本当に、記憶がないのですね」
「は、はい」
「昔のあなたは、私が入れたものは口をつけようとしませんでしたから」
「っ」
咄嗟に顔を歪めるロールに、メリアさんは首を横に振ります。
「私だけではありません。あなたは、誰が入れたものも口にしませんでした。神子ですので……命を狙われることだってありました」
「そう、なんですか」
「もちろん毒など入れておりません。ですけど、そうしなければ生きていけなかったのも事実です」
「じゃあ、私は何を食べてきたんですか?」
「アンナという世話役が作ったもの。それ以外、口にしませんでした」
「アンナちゃん……そうだっ、アンナちゃんは?」
ロールはどうやら、アンナという人物のことは覚えているようです。
早口で問い詰めるロールに、メリアさんが答えました。
「アンナは今、遠くに行っています。しばらくは帰ってきません」
「そ、そうですか」
「あなたに恐らく起こったことと、幼少期のことをお話します」
ロールの、秘密。
それは思った以上に過酷なものでした。
ロール自身も最初はソワソワと落ち着かないものでしたが、時間が解決したというのか、今では笑顔で溢れています。
しかし、いざアストロを目にすれば緊張感がその場を支配しました。
すぅ、はぁ、と息をして、ロールが風魔から降りました。
受付係の人が見えてきます。
獣人の国ですので、その方ももちろん獣人です。
「ああ、人間の方達。悪いがこの国には今ーー」
入国審査の係の方が、億劫そうに言いかけた時。
ロールを見て、硬直しました。
「…………………シャルロッテ、様?」
「シャルロッテ?」
「っ、シャルロッテ様!! ご無事ですか!?」
飛び付かんばかりの勢いで叫んでくる係の方に、目を白黒させながらロールは「ええと」と困惑してみせました。
「その、大丈夫、です?」
「はぇ」
「私ってシャルロッテって名前なんですか?」
「………」
「あ」
顔面蒼白になって、パターンと受付係の人は気絶してしまいました。
◆ ◆ ◆
「シャルロッテ様が帰ってきた!!」
「よくぞご無事で……!」
「ああ、よかった、よかった!」
その後の結果、なのですが。
王宮に私達ごと連れられ、恐らく偉い方々に泣きつかれてロールは戸惑いが隠せない様子でした。
「えーと、あのぉ」
「シャルロッテ様?」
「私、四ヶ月前から記憶がなくて」
「ええ!?」
もう周りの方々は大混乱です。
混乱のあまり、次第に私達に敵意を向けてきます。
「連れてきた人間達になにかされたのでは……!?」
「嘆かわしい! シャルロッテ様の記憶を!」
「そもそも人間がなぜこの国にいる!」
そろそろイライラが抑えられなくなってきたのか、旦那様が無言で魔術を使おうとしています。
今回は入国審査表ナシで通ったため、魔術を使ってはならないという紙にサインはしておりません。
ですので魔術を使って即捕まることはないでしょうが……ここで使えば状況は悪化することは目に見えてわかります。
旦那様もそれはわかっているのでしょう。
渋っているようです。
ダンッ!
すると、ロールが大きく床を踏みしめて叫びました。
「この方達に無礼な真似はするな! 私の命の恩人ぞ」
「……シャルロッテ様」
「って、あれ? 私、なんで」
「条件反射ってやつじゃないかな」
ほら、とエリクル様が、先程まで騒いでいた方々を見るように促しました。
ロールに膝まづき、全員が綺麗に整列しています。
「ああ、我らが神子様。どうか怒りをお鎮めください」
「お許しを、お許しを」
……こう言っては、なんですが。
少々気味が悪いですね。
ロールに信仰に近いなにかを向けている気がします。
まあ、神子ですし、当たり前かもしれませんが。
「私がご説明させていただいてもよろしいでしょうか」
ふと、また違った雰囲気の老婆がその場に現れました。
狐の獣人の方でしょうか。
キリリとした目で、ロールを見ています。
「メリア! 無礼だぞ!」
「よい。私は、メリアに頼む」
「シャルロッテ様!」
周りの人の静止を振り切り、ロールはメリアと呼ばれた老婆の方の後ろへつきました。
「ラティ様達も、行きましょう」
「……ええ」
ここはあまり居心地がよくありませんね。
私達もメリアさんについていきましょう。
◆ ◆ ◆
メリアさんに案内されたのは、大きな個室でした。
個室というには広すぎる気がしましたが、使われていた形跡はありません。
「ここは、シャルロッテ様の部屋だったところです」
「私の?」
「はい。どうぞ、お座りください」
席を勧められ、私達は腰を下ろしました。
座ればわかります。
かなりお高い椅子です。
慣れた様子でメリアさんはお茶を入れ、私達に差し出してくれました。
「あっ、ありがとうございます」
ロールがそれを口にするのを見て、メリアさんはロールの向かい側の席へ座ります。
「本当に、記憶がないのですね」
「は、はい」
「昔のあなたは、私が入れたものは口をつけようとしませんでしたから」
「っ」
咄嗟に顔を歪めるロールに、メリアさんは首を横に振ります。
「私だけではありません。あなたは、誰が入れたものも口にしませんでした。神子ですので……命を狙われることだってありました」
「そう、なんですか」
「もちろん毒など入れておりません。ですけど、そうしなければ生きていけなかったのも事実です」
「じゃあ、私は何を食べてきたんですか?」
「アンナという世話役が作ったもの。それ以外、口にしませんでした」
「アンナちゃん……そうだっ、アンナちゃんは?」
ロールはどうやら、アンナという人物のことは覚えているようです。
早口で問い詰めるロールに、メリアさんが答えました。
「アンナは今、遠くに行っています。しばらくは帰ってきません」
「そ、そうですか」
「あなたに恐らく起こったことと、幼少期のことをお話します」
ロールの、秘密。
それは思った以上に過酷なものでした。
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