43 / 99
たまにはギャグも必要でしょう。
しおりを挟む
ロマドは情熱の国、と呼ばれています。
その名の通り国民は皆、自分の思い思いに生きられる国です。
「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
「世にも珍しいピエロのダンスだ!」
「ピエロぐらいどこにでもいるでしょー」
「細かいことは気にしない!」
国に入ったばかりなのに、ピエロのダンスが見えてきました。
あれ、凄いですね。
どうやってバランス取ってるんでしょう。
玉乗りをしているピエロを見て呑気にそう考えていると、不意にポスリ、と肩に何かを置かれた感触がありました。
「……? 旦那様?」
正体は旦那様の頭でした。
男性にしては長めに伸ばした漆黒の髪が、肩にフサフサと当たってくすぐったいです。
にしても、なぜ後ろから頭を乗っけてきているのでしょう。
歩きづらいのですが。
「……うるさい」
「え?」
「ムリ、だ」
それだけ言い残して、ずしりと私に体重をかけてきました。
重いです、旦那様。
「アルは相変わらず騒がしいところが苦手だね~。でも、ラティアンカ嬢にここぞとばかりに擦り寄るのはやめたら? 君なら防音魔術ぐらい会得してるだろ?」
「……」
「あら」
すると、いたずらがバレた時のようにビクリと旦那様の体が跳ねました。
エリクル様が言うことはどうやら本当みたいですね。
「旦那様。魔術、使っては?」
「……つかれる」
「嘘はダメだろアル。お前がこれで疲れるんだったら国に残してきた結界はどうした」
なかなか鋭いご指摘ですね。
旦那様が張っている祖国の結界は、旦那様の力によって維持されています。
たとえ眠っている時でも無意識にそれを留め続けるところ、さすが旦那様です。
国に実力を買われたお方ですから、このデタラメな力も凄いものですね。
「キャッ、イケメン!」
「芸能者かしら」
「ステキ!」
「話しかけられない?」
「ムリムリ! 女なんて相手されないわ。おまけに連れがいる」
「あの子達もチョーカワイイ!」
……何やら少女達が、私達を見て楽しそうに話題を弾ませています。
旦那様、かっこいいですものね。
改めて見ますと、濡れた黒鳥の羽のような髪に、宝石にも勝る紫の瞳。
何よりその顔面がもう破壊力がありますね。
エリクル様ももちろん「いけめん」の範囲に入ります。
白に近い銀髪に、翡翠の瞳は優しげに細められ、おまけに鍛えた細身の体。
世の中の女の人は、皆彼らに夢中になるのでしょうね。
ですけど。
「旦那様は、私の旦那様ですからね」
「!?」
キュッと旦那様の服の袖を掴めば、旦那様は飛び跳ねてこちらを見ました。
眼力が凄いです。
「わ、わ、私の、旦那様?」
「はい。……ごめんなさい、少し嫉妬してしまいました。柄にもないことを」
「可愛い」
真顔はやめてください。
圧を感じて目を逸らせば、「なぜ逃げる」と回り込まれます。
ですから、眼力のせいですって。
「ラティ様、可愛いです……!」
ロールは私を尊敬してくれますからそんなことを言ってくれますが、この方達に囲まれた私なんてただの女もいいところです。
ロールは言わずもがな可愛いですし。
そのピンク色の溢れんばかりの目に見つめられれば、庇護欲が湧き出してきます。
「何だか罪悪感がでてきました……」
「何でですか!?」
「あなた達が綺麗すぎて」
「き、綺麗ですか?」
「そうよ。旦那様もエリクル様も、ロールも。みんな可愛い。取られてしまうのかなと、思ってしまいます」
はぁ、と一人でにため息をついて顔を上げれば、なぜか三人共呆れた様子で私を見ていました。
「……ラティアンカ嬢にそれを言われる日がこようとは」
「ラティアンカは、俺のだ」
「ラティ様が一番お綺麗です!!」
ロール、声が大きいですよ。
周りの人達が私達のほうを一斉に見たので、その場から離れました。
「さてと。早くアストロに行きたいでしょ? 風魔の整備場にーー」
「あの、そのことなんですけど」
エリクル様の言葉に、ロールが割って入りました。
「私、この国で少しアストロのことを探りたいと思っているんです。いい、ですか?」
「………」
エリクル様とロールの視線が交わりました。
ロールの緊張した面差しに、何か言われたら庇ってあげようと身構えた時。
「……うん、いいよ」
パッとエリクル様は、笑顔になりました。
「僕もそうしたいと思ってた」
「本当ですか?」
「ああ、もちろんだとも」
じゃあ、情報収集と行こうか。
そう続けてエリクル様は旦那様のほうを見ました。
「アルは僕と一緒に。ラティアンカ嬢は、ロールちゃんと一緒に行動してよ」
「………」
「アル。不満そうな顔をするな」
旦那様の腕を掴み、ズルズルと引きずっていくエリクル様。
その背中が見えなくなったのにも関わらず、ロールはぼぅっと二人が消えた道を眺め続けていました。
「ロール?」
「! ごめんなさい、ボーッとしてました!」
「いいんですよ。やっぱり、気になりますか?」
「う」
私に指摘され、ロールは小さく「はい」と答えました。
「疑わなきゃって思う反面、エリクル様と一緒にいると楽しいんです。凄く、優しい、の、で……」
そこまで言ってロールの顔は真っ赤になりました。
「あのその、違うんです!! この、これは」
「……ロール。行きましょう」
「はい!!」
神様って本当にいるんでしょうか。
神獣という存在を知っているのにも関わらずそう思ってしまうくらい、厄介なことが起きようとしています。
私だってロールが可愛いのです。
どうかロールがその感情に気づいてくれることがないよう祈りながら、誤魔化すようにロールを連れて聞き込みを開始しました。
その名の通り国民は皆、自分の思い思いに生きられる国です。
「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
「世にも珍しいピエロのダンスだ!」
「ピエロぐらいどこにでもいるでしょー」
「細かいことは気にしない!」
国に入ったばかりなのに、ピエロのダンスが見えてきました。
あれ、凄いですね。
どうやってバランス取ってるんでしょう。
玉乗りをしているピエロを見て呑気にそう考えていると、不意にポスリ、と肩に何かを置かれた感触がありました。
「……? 旦那様?」
正体は旦那様の頭でした。
男性にしては長めに伸ばした漆黒の髪が、肩にフサフサと当たってくすぐったいです。
にしても、なぜ後ろから頭を乗っけてきているのでしょう。
歩きづらいのですが。
「……うるさい」
「え?」
「ムリ、だ」
それだけ言い残して、ずしりと私に体重をかけてきました。
重いです、旦那様。
「アルは相変わらず騒がしいところが苦手だね~。でも、ラティアンカ嬢にここぞとばかりに擦り寄るのはやめたら? 君なら防音魔術ぐらい会得してるだろ?」
「……」
「あら」
すると、いたずらがバレた時のようにビクリと旦那様の体が跳ねました。
エリクル様が言うことはどうやら本当みたいですね。
「旦那様。魔術、使っては?」
「……つかれる」
「嘘はダメだろアル。お前がこれで疲れるんだったら国に残してきた結界はどうした」
なかなか鋭いご指摘ですね。
旦那様が張っている祖国の結界は、旦那様の力によって維持されています。
たとえ眠っている時でも無意識にそれを留め続けるところ、さすが旦那様です。
国に実力を買われたお方ですから、このデタラメな力も凄いものですね。
「キャッ、イケメン!」
「芸能者かしら」
「ステキ!」
「話しかけられない?」
「ムリムリ! 女なんて相手されないわ。おまけに連れがいる」
「あの子達もチョーカワイイ!」
……何やら少女達が、私達を見て楽しそうに話題を弾ませています。
旦那様、かっこいいですものね。
改めて見ますと、濡れた黒鳥の羽のような髪に、宝石にも勝る紫の瞳。
何よりその顔面がもう破壊力がありますね。
エリクル様ももちろん「いけめん」の範囲に入ります。
白に近い銀髪に、翡翠の瞳は優しげに細められ、おまけに鍛えた細身の体。
世の中の女の人は、皆彼らに夢中になるのでしょうね。
ですけど。
「旦那様は、私の旦那様ですからね」
「!?」
キュッと旦那様の服の袖を掴めば、旦那様は飛び跳ねてこちらを見ました。
眼力が凄いです。
「わ、わ、私の、旦那様?」
「はい。……ごめんなさい、少し嫉妬してしまいました。柄にもないことを」
「可愛い」
真顔はやめてください。
圧を感じて目を逸らせば、「なぜ逃げる」と回り込まれます。
ですから、眼力のせいですって。
「ラティ様、可愛いです……!」
ロールは私を尊敬してくれますからそんなことを言ってくれますが、この方達に囲まれた私なんてただの女もいいところです。
ロールは言わずもがな可愛いですし。
そのピンク色の溢れんばかりの目に見つめられれば、庇護欲が湧き出してきます。
「何だか罪悪感がでてきました……」
「何でですか!?」
「あなた達が綺麗すぎて」
「き、綺麗ですか?」
「そうよ。旦那様もエリクル様も、ロールも。みんな可愛い。取られてしまうのかなと、思ってしまいます」
はぁ、と一人でにため息をついて顔を上げれば、なぜか三人共呆れた様子で私を見ていました。
「……ラティアンカ嬢にそれを言われる日がこようとは」
「ラティアンカは、俺のだ」
「ラティ様が一番お綺麗です!!」
ロール、声が大きいですよ。
周りの人達が私達のほうを一斉に見たので、その場から離れました。
「さてと。早くアストロに行きたいでしょ? 風魔の整備場にーー」
「あの、そのことなんですけど」
エリクル様の言葉に、ロールが割って入りました。
「私、この国で少しアストロのことを探りたいと思っているんです。いい、ですか?」
「………」
エリクル様とロールの視線が交わりました。
ロールの緊張した面差しに、何か言われたら庇ってあげようと身構えた時。
「……うん、いいよ」
パッとエリクル様は、笑顔になりました。
「僕もそうしたいと思ってた」
「本当ですか?」
「ああ、もちろんだとも」
じゃあ、情報収集と行こうか。
そう続けてエリクル様は旦那様のほうを見ました。
「アルは僕と一緒に。ラティアンカ嬢は、ロールちゃんと一緒に行動してよ」
「………」
「アル。不満そうな顔をするな」
旦那様の腕を掴み、ズルズルと引きずっていくエリクル様。
その背中が見えなくなったのにも関わらず、ロールはぼぅっと二人が消えた道を眺め続けていました。
「ロール?」
「! ごめんなさい、ボーッとしてました!」
「いいんですよ。やっぱり、気になりますか?」
「う」
私に指摘され、ロールは小さく「はい」と答えました。
「疑わなきゃって思う反面、エリクル様と一緒にいると楽しいんです。凄く、優しい、の、で……」
そこまで言ってロールの顔は真っ赤になりました。
「あのその、違うんです!! この、これは」
「……ロール。行きましょう」
「はい!!」
神様って本当にいるんでしょうか。
神獣という存在を知っているのにも関わらずそう思ってしまうくらい、厄介なことが起きようとしています。
私だってロールが可愛いのです。
どうかロールがその感情に気づいてくれることがないよう祈りながら、誤魔化すようにロールを連れて聞き込みを開始しました。
150
お気に入りに追加
6,224
あなたにおすすめの小説
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました
冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。
家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。
過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。
関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。
記憶と共に隠された真実とは———
※小説家になろうでも投稿しています。
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
【完結済み】婚約破棄致しましょう
木嶋うめ香
恋愛
生徒会室で、いつものように仕事をしていた私は、婚約者であるフィリップ殿下に「私は運命の相手を見つけたのだ」と一人の令嬢を紹介されました。
運命の相手ですか、それでは邪魔者は不要ですね。
殿下、婚約破棄致しましょう。
第16回恋愛小説大賞 奨励賞頂きました。
応援して下さった皆様ありがとうございます。
リクエスト頂いたお話の更新はもうしばらくお待ち下さいませ。
【完結済】政略結婚予定の婚約者同士である私たちの間に、愛なんてあるはずがありません!……よね?
鳴宮野々花@軍神騎士団長1月15日発売
恋愛
「どうせ互いに望まぬ政略結婚だ。結婚までは好きな男のことを自由に想い続けていればいい」「……あらそう。分かったわ」婚約が決まって以来初めて会った王立学園の入学式の日、私グレース・エイヴリー侯爵令嬢の婚約者となったレイモンド・ベイツ公爵令息は軽く笑ってあっさりとそう言った。仲良くやっていきたい気持ちはあったけど、なぜだか私は昔からレイモンドには嫌われていた。
そっちがそのつもりならまぁ仕方ない、と割り切る私。だけど学園生活を過ごすうちに少しずつ二人の関係が変わりはじめ……
※※ファンタジーなご都合主義の世界観でお送りする学園もののお話です。史実に照らし合わせたりすると「??」となりますので、どうぞ広い心でお読みくださいませ。
※※大したざまぁはない予定です。気持ちがすれ違ってしまっている二人のラブストーリーです。
※この作品は小説家になろうにも投稿しています。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
【完結済】自由に生きたいあなたの愛を期待するのはもうやめました
鳴宮野々花@軍神騎士団長1月15日発売
恋愛
伯爵令嬢クラウディア・マクラウドは長年の婚約者であるダミアン・ウィルコックス伯爵令息のことを大切に想っていた。結婚したら彼と二人で愛のある家庭を築きたいと夢見ていた。
ところが新婚初夜、ダミアンは言った。
「俺たちはまるっきり愛のない政略結婚をしたわけだ。まぁ仕方ない。あとは割り切って互いに自由に生きようじゃないか。」
そう言って愛人らとともに自由に過ごしはじめたダミアン。激しくショックを受けるクラウディアだったが、それでもひたむきにダミアンに尽くし、少しずつでも自分に振り向いて欲しいと願っていた。
しかしそんなクラウディアの思いをことごとく裏切り、鼻で笑うダミアン。
心が折れそうなクラウディアはそんな時、王国騎士団の騎士となった友人アーネスト・グレアム侯爵令息と再会する。
初恋の相手であるクラウディアの不幸せそうな様子を見て、どうにかダミアンから奪ってでも自分の手で幸せにしたいと考えるアーネスト。
そんなアーネストと次第に親密になり自分から心が離れていくクラウディアの様子を見て、急に焦り始めたダミアンは─────
(※※夫が酷い男なので序盤の数話は暗い話ですが、アーネストが出てきてからはわりとラブコメ風です。)(※※この物語の世界は作者独自の設定です。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる