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たまにはギャグも必要でしょう。

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ロマドは情熱の国、と呼ばれています。
その名の通り国民は皆、自分の思い思いに生きられる国です。

「さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
「世にも珍しいピエロのダンスだ!」
「ピエロぐらいどこにでもいるでしょー」
「細かいことは気にしない!」

国に入ったばかりなのに、ピエロのダンスが見えてきました。
あれ、凄いですね。
どうやってバランス取ってるんでしょう。
玉乗りをしているピエロを見て呑気にそう考えていると、不意にポスリ、と肩に何かを置かれた感触がありました。

「……? 旦那様?」

正体は旦那様の頭でした。
男性にしては長めに伸ばした漆黒の髪が、肩にフサフサと当たってくすぐったいです。
にしても、なぜ後ろから頭を乗っけてきているのでしょう。
歩きづらいのですが。

「……うるさい」
「え?」
「ムリ、だ」

それだけ言い残して、ずしりと私に体重をかけてきました。
重いです、旦那様。

「アルは相変わらず騒がしいところが苦手だね~。でも、ラティアンカ嬢にここぞとばかりに擦り寄るのはやめたら? 君なら防音魔術ぐらい会得してるだろ?」
「……」
「あら」

すると、いたずらがバレた時のようにビクリと旦那様の体が跳ねました。
エリクル様が言うことはどうやら本当みたいですね。

「旦那様。魔術、使っては?」
「……つかれる」
「嘘はダメだろアル。お前がこれで疲れるんだったら国に残してきた結界はどうした」

なかなか鋭いご指摘ですね。
旦那様が張っている祖国の結界は、旦那様の力によって維持されています。
たとえ眠っている時でも無意識にそれを留め続けるところ、さすが旦那様です。
国に実力を買われたお方ですから、このデタラメな力も凄いものですね。

「キャッ、イケメン!」
「芸能者かしら」
「ステキ!」
「話しかけられない?」
「ムリムリ! 女なんて相手されないわ。おまけに連れがいる」
「あの子達もチョーカワイイ!」

……何やら少女達が、私達を見て楽しそうに話題を弾ませています。
旦那様、かっこいいですものね。
改めて見ますと、濡れた黒鳥の羽のような髪に、宝石にも勝る紫の瞳。
何よりその顔面がもう破壊力がありますね。
エリクル様ももちろん「いけめん」の範囲に入ります。
白に近い銀髪に、翡翠の瞳は優しげに細められ、おまけに鍛えた細身の体。
世の中の女の人は、皆彼らに夢中になるのでしょうね。
ですけど。

「旦那様は、私の旦那様ですからね」
「!?」

キュッと旦那様の服の袖を掴めば、旦那様は飛び跳ねてこちらを見ました。
眼力が凄いです。

「わ、わ、私の、旦那様?」
「はい。……ごめんなさい、少し嫉妬してしまいました。柄にもないことを」
「可愛い」

真顔はやめてください。
圧を感じて目を逸らせば、「なぜ逃げる」と回り込まれます。
ですから、眼力のせいですって。

「ラティ様、可愛いです……!」

ロールは私を尊敬してくれますからそんなことを言ってくれますが、この方達に囲まれた私なんてただの女もいいところです。
ロールは言わずもがな可愛いですし。
そのピンク色の溢れんばかりの目に見つめられれば、庇護欲が湧き出してきます。

「何だか罪悪感がでてきました……」
「何でですか!?」
「あなた達が綺麗すぎて」
「き、綺麗ですか?」
「そうよ。旦那様もエリクル様も、ロールも。みんな可愛い。取られてしまうのかなと、思ってしまいます」

はぁ、と一人でにため息をついて顔を上げれば、なぜか三人共呆れた様子で私を見ていました。

「……ラティアンカ嬢にそれを言われる日がこようとは」
「ラティアンカは、俺のだ」
「ラティ様が一番お綺麗です!!」

ロール、声が大きいですよ。
周りの人達が私達のほうを一斉に見たので、その場から離れました。

「さてと。早くアストロに行きたいでしょ? 風魔の整備場にーー」
「あの、そのことなんですけど」

エリクル様の言葉に、ロールが割って入りました。

「私、この国で少しアストロのことを探りたいと思っているんです。いい、ですか?」
「………」

エリクル様とロールの視線が交わりました。
ロールの緊張した面差しに、何か言われたら庇ってあげようと身構えた時。

「……うん、いいよ」

パッとエリクル様は、笑顔になりました。

「僕もそうしたいと思ってた」
「本当ですか?」
「ああ、もちろんだとも」

じゃあ、情報収集と行こうか。
そう続けてエリクル様は旦那様のほうを見ました。

「アルは僕と一緒に。ラティアンカ嬢は、ロールちゃんと一緒に行動してよ」
「………」
「アル。不満そうな顔をするな」

旦那様の腕を掴み、ズルズルと引きずっていくエリクル様。
その背中が見えなくなったのにも関わらず、ロールはぼぅっと二人が消えた道を眺め続けていました。

「ロール?」
「! ごめんなさい、ボーッとしてました!」
「いいんですよ。やっぱり、気になりますか?」
「う」

私に指摘され、ロールは小さく「はい」と答えました。

「疑わなきゃって思う反面、エリクル様と一緒にいると楽しいんです。凄く、優しい、の、で……」

そこまで言ってロールの顔は真っ赤になりました。

「あのその、違うんです!! この、これは」
「……ロール。行きましょう」
「はい!!」

神様って本当にいるんでしょうか。
神獣という存在を知っているのにも関わらずそう思ってしまうくらい、厄介なことが起きようとしています。
私だってロールが可愛いのです。
どうかロールがその感情に気づいてくれることがないよう祈りながら、誤魔化すようにロールを連れて聞き込みを開始しました。
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