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紐解かれる時がやってきます。

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めいいっぱい遊んで宿に戻れば、旦那様とジェシーさんは帰ってきてはいませんでした。
きっとお二人で楽しんでいるんでしょうね。
部屋に戻って一人になると、どっと疲れが出てきました。

「私……何してるんでしょう」

旦那様に愛していると言われて、それを突き返しました。
今思えば、本当は嬉しかったのに。
旦那様の気持ちを確かめたくて、こうした。
けれど旦那様は私の思った通りには動いてくれなくて。
あの方の精一杯だって、わかっていたのに。
勝手に怒って逃げてしまった。
ジェシーさんと一緒にいる時も、泣いて喚きたいくらい傷ついていたのです。
その人は私の旦那様だから、触らないで、と。
……今更、何が旦那様ですか。
心の中で呼び続けた愛称とも、もうお別れです。
今となっては、ただの他人ですから。

「……ふっ、ううっ」

視界がぼやけ、ポロポロと涙が出てきます。
何て面倒臭い女なのでしょう。
こんなにも、こんなにも……旦那様が今となって恋しくなるなんて。
もう全て忘れて、引きこもってしまいたいくらいぐちゃぐちゃになってしまいました。
その時、私の部屋のドアが開きました。

「! アルジェルド、様」

入ってきたのはアルジェルド様でした。
何やら神妙な面差しです。
涙を拭いて、彼に向き合えば、座り込んだ私に目を合わせるためなのか、彼はしゃがみました。

「ラティアンカ。これを」
「え……?」

手を取られて、指に嵌められたのは。
青い宝石が輝く指輪でした。

「これは、え?」
「……ヒイロには、婚約者に男が指輪を送る文化があるらしい。それを聞いて、ずっとプレゼントしたいと思ってた」
「じゃ、じゃあ、この宝石は」
「海の宝石だ」

まさか、ジェシーさんについていったのは。
私にこの指輪をプレゼントするためだったって言うんですか?

「でも、サイズがわからなかった……」

確かに、指輪は私の薬指には少し緩く、ちょうどではありません。
でも、アルジェルド様が私を思って動いてくれたことが、信じられないくらいに嬉しいのです。

「ありがとうございます。てっきり私は、アルジェルド様はジェシーさんが好きなのだと思っていました」
「そんなわけないだろう。こっちは十五年も片想いだったんだ」
「十五年って……まさか、初めて会った時から?」

するとアルジェルド様は顔を真っ赤に染めて、私の指輪をなぞりながら言いました。

「ずっと、ずっと、不安にさせてすまない。俺はもう、ラティアンカがいるだけで幸せだったんだ。だから何も言わなかった。でも、それじゃダメだったんだ。だから、言わせてくれ。俺は、お前が好きだ」
「…………」

都合の良い夢でも、見ているのでしょうか?
試しに頬をつねってみれば、ちゃんとした痛みが返ってきます。
すると、私の手をアルジェルド様が頬から離させました。

「ラティアンカの綺麗な頬をつねっちゃダメだ」
「綺麗な頬って」
「事実だ」

口数の少ない人だとは思っていましたがーーなんて、不器用な人なんでしょう。
それでもこうして指輪をくれたことが、嫌な思いを全部取り除くくらい素敵なのです。

「アルジェルド様」

いい加減、意地を張るのはやめましょう。
彼の深紫の瞳と目を合わせ、私は正直に話しました。

「本当は好きでした。だけど、アルジェルド様は私に興味がないのだと、思っていました」
「!?」

衝撃の事実を聞いたような顔をしていますが、それが普通だと思います。
だって屋敷内では会話なんてほとんどなかったのですよ?

「もし……あなたが本当に私のことが好きならば、もう一度、旦那様とお呼びしてよろしいでしょうか?」
「………」

緊張で心臓がバクバクとうるさい。
どうか、受け入れてと密かに叫びます。
じっと待っていれば、彼の顔が近づいてきて。
不意に、キスされました。

「……もちろんだ、ラティアンカ。俺はお前を愛している」
「本当、ですね? 浮気なんてしないですよね?」
「しない。絶対に」
「……ペティアさんとは」
「してないっっ」

物凄く食い気味にそう言ってきた旦那様に、思わず笑ってしまいました。
ようやく、旦那様のことがわかった気がします。

「旦那様は、あまり自分の考えを表に出さない人ですね」
「すまない。そのせいで、不快な思いをさせた」
「これからは、たくさんお話ししましょう。たくさん一緒にいましょう」
「ああ」

会話ってやっぱり大事ですね。
相手のことが、少しはわかるんですもの。
旦那様が愛しく思えて、彼に抱きつきました。

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