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アルジェルドside
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ラティアンカが、出て行ってしまった。
全て俺の不手際だ。
こうなったら、一刻も早く彼女を追いかけねば。
「とは言っても、どこに行ったのか……」
まずそれが検討もつかない。
俺はまず、召喚陣を書き出した。
呪文を唱えれば、契約に従って立派な白龍が陣から飛び出してくる。
『アルジェルドか。久しいな』
「ああ」
この白龍は神獣と呼ばれていて、人里離れた森の奥で暮らす神聖なものだ。
そんな白龍をなぜ呼び出すことができるのかと言えば、昔俺がこの白龍の子供を助けたからだ。
偶然所有していたエリクサーを飲ませたので白龍からは感謝され、こうして呼び出せるように契約をした。
『ふむ? お主の愛しの乙女はどこぞ』
「……逃げられた」
『ほぉ?』
俺はペティアからの手紙と、ラティアンカからの手紙二つを白龍に見せつける。
それを器用に受け取り目を通すと、白龍は鼻で笑ってみせた。
『お主、浮気か? 感心せぬぞ』
「違う。勘違いだ」
『ペティアとやらは?』
「男」
それを聞いた白龍はさらに笑いがとまらなくなった。
『はははははっ! お主ともあろう者が、衆道の者に間違われたか!』
「うるさい。ペティアは、女でもよくある名前だ」
『何はともあれ愉快な話よ』
笑い終えた白龍に、俺は頼む。
「ラティアンカを見つけるまで運んでくれ」
『お主、飛べるだろう』
「世界は広いんだぞ。魔力が持たない」
『おかしな話よ。お主なら、探知の魔法を使えるだろう? 乙女の元へひとっとびできるではないか』
「探知の魔法は使わない」
俺の一言に、白龍は目を剥く。
まるで変な生き物を見るような視線に晒されるが、ちゃんとした理由がある。
「俺のせいで、ラティアンカは消えてしまった。俺が望んで結婚したことも、愛していることも、彼女に伝えなかった。だから探知は使わない。自分で探し出してみせる」
『自分もなにも、探知もお主の力であろうに……しかし、今日はまぁよく喋るな』
ふぃー、と、呆れたとばかりに息を吐く白龍。
でも、それくらいしなくてはラティアンカは帰ってきてくれないだろう。
もう俺は捨てられたようなものだ。
正直言って、かなりみっともないことをしようとしている。
だが、みっともなくて構わない。
彼女を見つけて泣いて縋って、捨てないでくれと喚いたって。
彼女といられればそれでいいんだ。
『……お主、まるで取り憑かれているようだの。随分と熱に浮かされておる』
自分の瞳に、情欲が映るのを自覚した。
白龍は何とも言えない顔をすると、シュルリとその尻尾を俺に巻きつける。
そして己の背に乗せると、俺を急かした。
『さあ、行き先を決めよ』
「そうだな……まずはここから南へ。服屋へ行く」
◆ ◆ ◆
「ここだ」
白龍に下ろしてもらい、俺は服屋の前に立った。
周囲の人が俺と白龍を見て呆気に取られているが、そんなことは気にならない。
服屋を訪ねれば、店員達も自分が場違いだと言わんばかりにスス、と後ずさる。
「えっ、なに、何事……っわぁああ!?」
店の奥からルルが出てきて、大声を上げる。
ルルはラティアンカと仲が良い。
彼女の行方くらい知っているだろう。
「はわわ……もう来た、疫病神が……おしまいだ」
「ラティアンカはどこに行った」
「……あなたに愛想尽かして旅に出ましたよ」
そのくらい知っている。
ラティアンカがいつ、どこへ行ったのかが知りたいのだ。
「どうせラティアンカはここに来ただろう」
「あんたストーカーですか?」
「ということは、来たんだな」
「……ええっ、来ましたよ! というかそこまで行動が予想できるならっ、何でラティともっと話し合わなかったんですか!」
ルルの言い分は最もだ。
俺は本当にダメな男だと、ここぞとばかりに実感したのだから。
「……あれ、本気で落ち込んでます?」
「多少」
「ならっ、急いで追いかけてラティに謝ってください! ラティ、新しい相手見つけるとか言ってましたよ! ラティの可愛さだったらすぐに新しい旦那ができますよ!?」
新しい、旦那。
あの美しいラティアンカの横に、俺以外の男が立つ。
ラティアンカがうっとりとその男の腕を持ち、そしてーー
『しっかりせい』
ポン、と白龍に肩を叩かれた。
白龍が小さくなって店内に入ってきていたようだった。
気づけば周りの店員はもちろん、ルルも青ざめた顔をしている。
『殺気を出しすぎだ。威圧を与えてどうする』
「……すまない」
ルルに謝ると、ルルは気を取り直すようにバチン! と自分の頬を叩く。
「……ラティは東に行きました。きっと街に向かってます。国内に留まるつもりはないと言っていたので、隣国のフォルテにでも向かってるんじゃないでしょうか」
「感謝する」
店内を出て、元の大きさに戻った白龍の背に乗る。
とにかく、急がねば。
ラティアンカの顔を思い浮かべて、俺に焦りが募った。
全て俺の不手際だ。
こうなったら、一刻も早く彼女を追いかけねば。
「とは言っても、どこに行ったのか……」
まずそれが検討もつかない。
俺はまず、召喚陣を書き出した。
呪文を唱えれば、契約に従って立派な白龍が陣から飛び出してくる。
『アルジェルドか。久しいな』
「ああ」
この白龍は神獣と呼ばれていて、人里離れた森の奥で暮らす神聖なものだ。
そんな白龍をなぜ呼び出すことができるのかと言えば、昔俺がこの白龍の子供を助けたからだ。
偶然所有していたエリクサーを飲ませたので白龍からは感謝され、こうして呼び出せるように契約をした。
『ふむ? お主の愛しの乙女はどこぞ』
「……逃げられた」
『ほぉ?』
俺はペティアからの手紙と、ラティアンカからの手紙二つを白龍に見せつける。
それを器用に受け取り目を通すと、白龍は鼻で笑ってみせた。
『お主、浮気か? 感心せぬぞ』
「違う。勘違いだ」
『ペティアとやらは?』
「男」
それを聞いた白龍はさらに笑いがとまらなくなった。
『はははははっ! お主ともあろう者が、衆道の者に間違われたか!』
「うるさい。ペティアは、女でもよくある名前だ」
『何はともあれ愉快な話よ』
笑い終えた白龍に、俺は頼む。
「ラティアンカを見つけるまで運んでくれ」
『お主、飛べるだろう』
「世界は広いんだぞ。魔力が持たない」
『おかしな話よ。お主なら、探知の魔法を使えるだろう? 乙女の元へひとっとびできるではないか』
「探知の魔法は使わない」
俺の一言に、白龍は目を剥く。
まるで変な生き物を見るような視線に晒されるが、ちゃんとした理由がある。
「俺のせいで、ラティアンカは消えてしまった。俺が望んで結婚したことも、愛していることも、彼女に伝えなかった。だから探知は使わない。自分で探し出してみせる」
『自分もなにも、探知もお主の力であろうに……しかし、今日はまぁよく喋るな』
ふぃー、と、呆れたとばかりに息を吐く白龍。
でも、それくらいしなくてはラティアンカは帰ってきてくれないだろう。
もう俺は捨てられたようなものだ。
正直言って、かなりみっともないことをしようとしている。
だが、みっともなくて構わない。
彼女を見つけて泣いて縋って、捨てないでくれと喚いたって。
彼女といられればそれでいいんだ。
『……お主、まるで取り憑かれているようだの。随分と熱に浮かされておる』
自分の瞳に、情欲が映るのを自覚した。
白龍は何とも言えない顔をすると、シュルリとその尻尾を俺に巻きつける。
そして己の背に乗せると、俺を急かした。
『さあ、行き先を決めよ』
「そうだな……まずはここから南へ。服屋へ行く」
◆ ◆ ◆
「ここだ」
白龍に下ろしてもらい、俺は服屋の前に立った。
周囲の人が俺と白龍を見て呆気に取られているが、そんなことは気にならない。
服屋を訪ねれば、店員達も自分が場違いだと言わんばかりにスス、と後ずさる。
「えっ、なに、何事……っわぁああ!?」
店の奥からルルが出てきて、大声を上げる。
ルルはラティアンカと仲が良い。
彼女の行方くらい知っているだろう。
「はわわ……もう来た、疫病神が……おしまいだ」
「ラティアンカはどこに行った」
「……あなたに愛想尽かして旅に出ましたよ」
そのくらい知っている。
ラティアンカがいつ、どこへ行ったのかが知りたいのだ。
「どうせラティアンカはここに来ただろう」
「あんたストーカーですか?」
「ということは、来たんだな」
「……ええっ、来ましたよ! というかそこまで行動が予想できるならっ、何でラティともっと話し合わなかったんですか!」
ルルの言い分は最もだ。
俺は本当にダメな男だと、ここぞとばかりに実感したのだから。
「……あれ、本気で落ち込んでます?」
「多少」
「ならっ、急いで追いかけてラティに謝ってください! ラティ、新しい相手見つけるとか言ってましたよ! ラティの可愛さだったらすぐに新しい旦那ができますよ!?」
新しい、旦那。
あの美しいラティアンカの横に、俺以外の男が立つ。
ラティアンカがうっとりとその男の腕を持ち、そしてーー
『しっかりせい』
ポン、と白龍に肩を叩かれた。
白龍が小さくなって店内に入ってきていたようだった。
気づけば周りの店員はもちろん、ルルも青ざめた顔をしている。
『殺気を出しすぎだ。威圧を与えてどうする』
「……すまない」
ルルに謝ると、ルルは気を取り直すようにバチン! と自分の頬を叩く。
「……ラティは東に行きました。きっと街に向かってます。国内に留まるつもりはないと言っていたので、隣国のフォルテにでも向かってるんじゃないでしょうか」
「感謝する」
店内を出て、元の大きさに戻った白龍の背に乗る。
とにかく、急がねば。
ラティアンカの顔を思い浮かべて、俺に焦りが募った。
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