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はじまりは。

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始まりは拙いものでした。
親同士に決められた結婚で、私はあの人の元へ嫁がされました。

「きっと幸せになれるから」

そう言って送り出された先には、私の旦那様が待っていました。
驚くほど綺麗な漆黒の髪に、宝石が如く輝く深い紫の瞳。
加えて、最強の魔術師と呼ばれるその人。
きっと決められた結婚がなければ、私なんかと一緒になることはなかったのでしょう。
でも、たとえ自分が決めた結婚でなくとも、私は旦那様を愛そうと決めました。

◆ ◆ ◆

『アルへ

最近は絶好調ね!
あなたのことを考えると、胸が痛くなるほどステキ!
いつ家にいらしてくれるの?
待ってるわ!

あなたの愛するペティア』

「…………………」

何ですか、コレ。
旦那様がうっかり置き忘れたであろう机の上の手紙を読み終わり、私は大きなため息をつきました。
そうですか。
浮気ですか。
いくらなんでも、それはなくないですか?
私、そんなに可愛げがありませんでした?

「何が愛するペティア、ですか」

それを見て思わず嘲笑した。
思えば最初からあなたは私を愛してくれませんでしたね。
初めて会った時もぶっきらぼうで、私に興味がないのだとすぐに思いました。
おまけに私に指一本ですら触れてくれません。
何を言っても大体返事は「ああ」か「うん」。

「何が最強で美しい魔術師、ですか」

旦那様の容姿が優れていることは認めますよ?ええ。
極上の美貌に、二十歳という若さ。
それなのに私はもう二十五歳ですものね?
そうですよね、年増は嫌ですよね。
何だか頭痛がしてきましたよ。

「最初から、期待するだけ無駄でしたね」

プッチーン、と堪忍袋の尾が切れた。
もう我慢してられない。
私は急いで荷物を纏めると、その手紙の横に書き置きを置いた。

『探さないでください。
私のことはどうか忘れて、ペティア様とお幸せに』

「さてと、行きますか」

旦那様のことなんて、忘れてしまいましょう。
もっといい人が見つかるはずだわ。
幸い旦那様は、仕事で一週間もこの家を開けるのだから、もう顔は見なくていいはず。
私はそのまま家を飛び出しました。
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