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第一章 勇者は親友、俺は平均魔法使い

第六話 シャツのおひろめと長老様

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「みなさん、出来ましたよ!」

俺の部屋に早朝集まってもらい、出来上がったシャツの数々を村人全員に見せる。

「おお…このような服を作っていただけるなんて…なんとお礼を言っていいのやら」
「この素材はなんですか?」

カストルさんがシャツを触りながら俺に聞いた。

「これは羊の毛で出来てます」
「羊!?まさか…あの羊ですか?」

ん?なんでビックリしてるんだ?

「羊の毛は大変貴重なものでして、羊は国の命令で羊自体を狩ることは禁止されています。それで、羊に頼み込まなければならないのですが、たいてい譲ってくれないのです」

へえ、そうなんだ。

「じゃあ、俺はラッキーでしたね」
「いえ、羊はラッキーなどでは渡してくれません。もしかして魔法使い様はテイマーの素質があるのかもしれませんね」
「…テイマーって?」
『テイマーとは魔族や家畜を仲間にすることです。素質がなければやっていけませんよ』

なんか、大分この異世界でうまくいってるな。
…城から追い出されたこと以外。

「そういえば、前から思ってたんですけど…その、「魔法使い様」じゃなくてタクヤ、と呼んでくれないでしょうか?」
「そんな!!恐れ多い!」

うわぁ。リチャードさんに断られた。別に俺子供だし呼び捨てにしてもらってもいいよ?

「じゃあ、ネネはタクヤ様って呼ぶの!!」
「そうか…タクヤ様か。では我々もそう呼ばせていただきます」

………
なんかお偉いさん扱いは変わらない。
でもいいか。

「みんなシャツ着てみてくれる?」
「もちろんです」

みなシャツを着ると、嬉しそうに言った。

「これは…暖かいです!これでとうぶんの冬を過ごせそうですよ!」
「うわ~!すべすべ~!」

ううん…
シャツだから冬をこすのは難しいかもな。
防寒具は後ほど作るとして!

「あの、確かウルフの件が残ってましたよね?」
「あ…」

今まで忘れてた?らしく、リチャードさんがほけっとした。
だがすぐに切り替え言った。

「ウルフは危険な魔族です。ですので、対策をとってほしいのです」
「対策…?とは?」
「我らの長老様に会っていただきたい」









「こちらです」
リチャードさんに連れて行ってもらったのは村のすみにあったこじんまりした家。
あれで村人全員だと思っていたが、長老様とお世話がかりの人は家の中にいたらしい。
なぜなら、長老様は病気を患っているから。
なかなか治癒魔法でも治らないらしい。

「残念ながらこの村には長老様の病を治すほどの治癒師はおりません。ですので、ベッドでお会いするのをどうかお許しください」
「いいですよ、そんなの」

さすがに俺も病人に「ベッドから降りろ!!」とは言わない。
いや、言えない。

「失礼します」

ドアを開けると、女性が一人、白髪の男性が一人。
女性は男性を世話している様子で、それが長老様とお世話がかりなんだろう。

「あら、リチャード。そちらのお方は…?」
「紹介します。この村を助けてくださる魔法使い様、タクヤ様です」
「どうも」

ぺこりと俺が頭を下げると、女性も慌てて頭を下げた。

「わざわざこんな田舎の村にようこそおこしいただきました。私は長老様お世話がかりのリューリャと申します。そして、こちらが長老様のアギト様です」

リューリャさんが紹介した長老様、アギト様は弱々しい息をし、俺を見据えた。

「そなた…王国との繋がりは?」
「せいぜい勇者の相棒として召喚されて、あげくに追い出された程度ですよ」
「なんと…!」

リューリャさんとリチャードさんが、息をのんだ。
ほんと、無理やりだったよな。
でも残念ながら役立たずの俺はその後色々ステータス届いてしまったけどな。

「…そうか。なら、そなたの欲する情報を与えよう」
「え?」
「長老様は予言者の称号をお持ちなのです」

なるほど…
そんな称号あるんだ。
まあ、異世界だし。

「では…ウルフに立ち向かう者、その赤い額の石を狙うべからず。狙うのは足である。きちんとウルフ一族とも話し合わねばならん。怒りを買ってはならない」
「…分かりました」

てっきり弱点らしい赤い石を狙えばいいと思っていたが、ダメらしい。

「では、失礼しました」

リチャードさんと頭を下げ、俺たちは出て行った。




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