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第六章 拓也、旅路を行く

番外編 暗殺者達(視点無し)

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「…暗殺、失敗だと?」

凍てつくその場に、重くのしかかるような野太い声が響いた。

「…誠に申し訳ございません。国王陛下」

深々と頭を垂れるのは暗殺部隊の一角。
…そう、タイル達であった。
現在、国王にタクヤの暗殺が失敗に終わった事を報告したのだ。
玉座に深く座り込んだ、肥満体型の国王は、ただただ怒りで染まった目を自ら作り上げた暗殺部隊に向けた。
その光景を無表情で見つめるのは、現在進化し続けている魔法で作り出された砂人形の兵士達。
その中で、国王のそばでかれこれ10年仕えているベテランの老人。
ただ一人、彼だけは冷や汗を流しながらその一瞬一瞬の出来事を目に焼き付けていた。

「…しかし、失礼ながら国王陛下。タクヤ・サカモトは今回の事件の被害者でありながらも勇者様と協力し、我々への協力をも示しました。それに、「取得」の件は彼は漏らすことは無いと…」
「黙れ」

一言。
その一言でタクヤを庇おうとしていたヒラルが口を閉じた。
…ガタガタと震えている。
幼い頃、タイルについて来て王宮に来たヒラルはそのいばらの呪いのおかげですっかり化け物扱いになっていた。
国王からも、化け物退治と名ばかりの暴力を受け育ったのだ。
親からも拒絶されたヒラルには、すっかりと国王がトラウマになっていた。
まるで、自らの力を見せつけるかのように。
笑いながら自分を蹴飛ばしてくる国王には恐怖しか感じなかったのだ。

「どうか、国王陛下。お慈悲を……」
「…黙れ黙れ!暗殺部隊の失敗は何を表すか知っているか…?」
「!国王陛下!どうか、彼らにお慈悲を……!タクヤなるもの、今や「黒き英雄」と呼ばれる有名人!そんな者を殺めれば…国王陛下の信頼に傷がつきますぞ!!」

無論、信頼などもとから無い。
だが、老人は…彼らを庇ったのだ。
それは、幼い頃から虐げられて育った彼らのめんどうをたまに見ていたからの行動である。
この若き暗殺者達を孫のような気持ちで見ていたのには偽りも無かった。

「…ええいっ!黙れ黙れ!わしは国王なのだぞ!?国民…ましてや、わしに仕えるだけしか能の無いクズどもが!!わしに意見するでないっ!!」

とうとう老人にも口出しをされ、腹を立てた国王は怒鳴り散らした。
「ヤロォ…」と国王に牙をむこうとしたイルマをスズリーナが抑えた。

「…もう良い!!貴様ら全員処刑!!処刑じゃああああっ!!」

堪忍袋の緒が切れたかのように国王がとうとう地団駄踏んで怒鳴り散らした。
と。

「…国王陛下。我らが何故あなた様に仕えているかご存知で…?」
「…わしが育てた!親代わりであるわしに命を捧げるのは当然であろう!むしろ、喜んで捧げるべきだっ!」

スッと膝をついていたタイルが立ち上がり、国王に歩み寄った。

「不正解です。では…答えをお教えしましょう」
「は?」
「…正解は。テメェを殺す為だよ」

ドスッ

「…は?」

ポタ、ポタと流れ落ちる真っ赤な液体が、自分から流れているのだと気づくのには時間がかかった。
自分に突き刺さったタイルの手を、呆然と見る。

「ガファッ」

タイルが手を抜くと、血を吐き出し国王は地に倒れ伏せる。

「…これでいいんだよな?じい」
「………ああ。10年。10年間ご苦労」

じいは物言わぬ国王を見て、ただそうつぶやいた。
…実は、タイル達はもともと国王直属の暗殺部隊では無かった。
本当は、国王の知らぬ内に企てられた国王暗殺計画に抜擢された一員だったのだ。

「この国王に国を任せ続ければ…必ずこの国は滅びる。必ず、な」
「…で、この後どーすんの?」

俺ら、殺されるよ?と国王を見下ろしながらタイルは言った。

「ふむ…後は好きにすれば良い。後始末はわしがやる。好きなだけ、金は持って行け」
「感謝するよ。じい」

にっとタイルは笑った。
仲間達も、長年に渡って行われた任務が遂行され、息をついた。
…その時だった。

「やれやれ…人間はいつまでお互いを憎み、殺し合うのか」
「!お前は…!天使のカイル・レッテーカート!」

突如現れたその天使に、皆が身構える。

「罰は…これだ」
「!!まっまずいっ!!」

ギイイイイッと王宮が光り出す。

「逃げろぉおおおおおっ!!」

ドォォオオオン…

派手に王宮が吹っ飛んだ。
それを見てただため息をついて、天使は自らの神の所へ飛び立った。



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