上 下
73 / 104
第五章 天使と勇者と相棒と

第六十七話 二つ名と杖と金貨の受け渡し

しおりを挟む
「タクヤー!出番、もうすぐだなぁ!」
「…聞くけど、何で俺以外の選手が杖の受け渡しを拒否したんだ?」

後日。
俺達は舞台裏で控えていた。
…何故か俺以外の選手が金貨1000枚と賢者の杖はいらないと言ったので、俺が受け取る事になったのだ。

「だって、タクヤに助けてもらったって人がたくさんいて。それで皆賞品はタクヤにって」

一緒について来たナナカが説明してみせた。
俺もだが、ナナカも体中に擦り傷を作っていたのだが、ポーションを使用したのだ。
…それが、俺の作ったポーションだったから皆俺に恩は必ず返すって言ってたけど…まさかここで返されるとは。

「タクヤ・サカモトさん~。出番です~」
「ああ。分かった」
「いってらっしゃい」

ナナカに送り出され、俺は迎えのバニーガールについて行った。

「………!!」

舞台にあがった瞬間、大会中とでは比べものにならないぐらいの人々が集まっていた。

「見ろよ!!救世主だぜ!!」
「すっげぇな!」
「まだ、子供じゃないか…!!」
「ありがとう!!本当にありがとう!!」

さまざまな声が入り混じった。

「タクヤ選手…いや、タクヤ様。この度のご活躍、誠に感謝しきれません」
「そんなご大層な事やってないって」
「いえいえ、素晴らしいご活躍でした。ありがとうございます」

イリスがぺこりと俺に頭を下げた。
俺がそう言うのを否定し、イリスは感謝を告げた。

「そこで、あなたに金貨と賢者の杖をお渡しします」

イリスが合図をすると、バニーガールが杖を大切そうに布にくるんで持って来た。

「では、賢者の杖の試練を…」
「試練?」
「ええ。杖を掲げ、こう唱えるのです。「我、汝の力を望む者。古の神の名の下に誓いを捧げよ」と」
「それが試練か…」

バニーガールに、賢者の杖を受け取った。

「…我、汝の力を望む者…古の神の名の下に誓いを捧げよ」

すると、

ブワッ!

「な…これは!」
「……!!」

賢者の杖が、光り輝いた。
ザワザワと風が吹き、俺の頬を撫でる。
そして…

「わぁ…」

賢者の杖の先に、光が灯った。
その光に目を細める。
そこには、無かったはずの黒色の宝石がついていた。

「…おお。黒とは、なんと美しい」
「黒の宝石ってなかなか無いわよね」
「…これは、杖に選ばれたってことなのか?」
「その通りです」

おめでとうございます、とイリスが歩み寄って来た。

「杖は、ずっとあなたを待っていたのかもしれませんね…」
「………」

杖を眺めると、黒の宝石が光り輝いた。

「では、金貨をお渡ししましょう」

大袋いっぱいの金貨を渡された。
金貨が溢れそうな程いっぱい入っている。

「じゃあ、俺はこれで…」
「まだやることはありますよ」
「?」

イリスが俺を呼び止めた。

「あなたに、二つ名を与えましょう…」
「二つ名!?」

観客がざわめきだす。

「二つ名って…」
「本来二つ名には二種類あります。一つ目は…自然に呼ばれるようになったもの。二つ目は…その二つ名を貰い、その名に守護してもらったり名声を得たりするものです。今回は後者となるでしょう」

ス…とイリスが膝をついて俺の手を握り唱え始める。

「私イリスは「自然の妖精」として、汝に第二の名を与える。…汝の名は「黒き英雄」。その名が汝を守護するであろう」
「…感謝、します」

こうして、杖と金貨の受け渡しと、予想もしなかった二つ名が与えられたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜

よどら文鳥
恋愛
 フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。  フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。  だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。  侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。  金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。  父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。  だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。  いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。  さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。  お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。

処理中です...