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第3話 女なら誰でもいいわけではない

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異世界へ転移か転生した俺が降り立ったのは『ヨーロガリア大陸』と呼ばれる大陸の最南端の国『イリアン』のイリアン四大貴族であるトリアージ公爵が治める領地『トリアージ州』。暖かく乾燥していて夏は日差しが強く日中は気温が高くほとんど雨が降らず、冬は温暖で雨が降る。山が少なく平野が広がり古くから農業が盛んな国で葡萄や蜜柑の生産量はイリアン国内一位を誇る。 
トリアージ州は地下に石灰岩層が広がっており、人種が住まう町は石灰岩を切り出した切石を積み重ねて造るとんがった円錐形ドームの屋根と真っ白の分厚い外壁の家がほとんどだ。

「くっそ暑い・・・やる気がでねえ」

人の姿に化けたカメレオン男欲視忍は町に入り込む事には成功したが町に来て三日も経過したが何もせずダラダラと過ごしていた。ダークネスエルフとなり欲視忍の奴隷になったハイネだったが『大切な用事がある』との事で欲視忍を町に案内した後にハイネ自身が持っている『財産を全て』を渡してどこかへ出掛けてしまった。欲視忍はハイネから貰った金で三日間ダラダラと働きもせず過ごしていた。

今日も朝から泊まっている宿屋の前にあるカフェでアイスクリーム一個とジュース一杯だけで二時間以上も居座っている。店員がわざとらしく咳をしたりするが知らん顔で居座り続ける。

ざわざわ、ざわざわ。

何やら人が集まり店の外がだんだん騒がしくなってきた。浮浪者のガキが上級冒険者に恵んでもらおうと話し掛けたらその冒険者にいきなり殴られたらしい。
どうやらその上級冒険者はランクが下がってしまった苛立ちを浮浪者のガキにぶつけているようだ。しかも大の大人が五人掛りで一人のガキを痛めつけてるらしい。

「冒険者って本当にいるんだな~」

俺は店で一番安い蜜柑ジュースを新たに注文して飲みながら観戦していた。

集まった人はガキを助ける事なくただ見てるだけだ。その上級冒険者はランクを落としてしまったものの素行が悪いだけで実力は本物で、護衛依頼を受けては護衛者と口論になり護衛者を殴ったり魔物の討伐依頼を受ければ魔物は討伐するが追加報酬を依頼者から無理矢理とるらしい。

今回それらがバレて降格したようだ。

「自分達じゃ止めれないとわかっているから騒動が収まるのを待ってんのか?」

集団から離れた場所から衛兵らしき簡易な鎧を着た数名の男が隠れてコチラを伺っていた。

ガキは殴られた過ぎたのか吐血して動かなくなってきた。五人いた内の四人はその様子を見てようやく冷静になり暴行を止めたがリーダー格らしき男は苛立ちがおさまらないのかとうとう持っていた剣を鞘から抜いた。
他の四人がさすがに殺すのはまずいと慌てて止めようとするがリーダー格の男が喚き散らし黙らせると剣を振り下ろすがいつの間にか浮浪者のガキは消えていた。
リーダー格の男が驚き周囲を見渡すと先ほどまで自分の足元にいたガキが少し離れたカフェのテラス席に移動していた。

「ほう頭に獣耳に獣の尻尾・・・獣人というやつか」

テラス席でガキを持ち上げていた男が呟いた。男がガキのズボンをずらす。

「チンチンついてないな、メスか・・・いや、動物ってメスかオスか最初に確認するもんじゃん?」

ガキを持ち上げた男が注目されているのに気付いた。

「てめえ、何をしやがった!!!」

「ん?舌を伸ばしてガキを引き寄せただけだが?」

上級冒険者たる自分にふざけた男の答えに許せず激怒して剣を振り回しながらガキと男へ突っ込んでいく。

成り行きを見守っていた人間達が悲鳴を上げて逃げていくがガキを持ち上げている欲視忍は椅子に腰を掛けたまま動こうとしない。

「死ねえええええええ!!!え?」

リーダー格の男は気付いた。自分の利き腕、剣を握っていた手が、肩口から腕が剣ごと喪失し傷口から血が噴き出しているのが。

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!腕がああああああああ!!!俺の腕がああああああああああああああああ!!!」

「ふうん・・・伸ばした舌は粘着だけじゃなく削ることもできたのか。ははは、何ができるか検証したほうがいいかな?さて、殺そうとしたんだから殺されても文句ないよな?」

欲視忍は冷徹な笑みを浮かべ地べたに這う虫ケラの頭を踏み砕こうとする。リーダー格の男が身構えるがいつまでたっても足が振り下ろされない。リーダー格の男が瞑っていた目を開けると欲視忍の足は受け止められていた。

「最上級冒険者・・・オーロラ、なんで?」

欲視忍の足を受け止めたのは女性。その女性は黒いバトルドレスを身に纏い右足の金色の義足で受け止めている。

「あん?誰だお前?」

「私はオーロラ、孤児だったから家名はない。この男は名前は知らないけど冒険ギルドで見た顔だったから一応助けた。ねえ?何で殺そうとしてるの?」

事情を知らずにとりあえず助けただけだったオーロラ。

「気に入らないから殺すだけさ」

「そう、なら貴方を潰す」

オーロラは戦いから遠ざけるために後方にいたリーダー格の男を見ずに蹴り飛ばすが加減を間違えていくつもの建物を壊しながらぶっ飛んでいった。

「・・・・よくも、やったわね」

「いや、やったのお前だろ」

ーーーーーーーーーーーーーーー

その後浮浪者のガキを暴行した五人は逮捕され隠れていた衛兵に連れて行かれた。浮浪者で獣人のガキは神殿に連れて行かれて治療できる事に。最上級冒険者のオーロラは欲視忍に頭を深々と下げ謝罪。『何かあれば力になる』と一方的な約束をしてきて自分の腕に巻いていた何かの模様が描かれた白い布を渡して去って行った。

そして欲視忍は町の外に出て己の力を検証をしていた。

周囲に人がいない事を確認すると偽装を解除してカメレオン男になると色々と試してみた。どうやらラノベ定番の己のステータスを見る事ができる術はないらしい。手探りでやるしかない。

・『ステルス能力(透明化)』

全身の透明度を自在に操り、自らの姿を見えなくしてしまう最高峰の『擬態』能力らしく魔法のエキスパートであるエルフ種のハイネ曰く魔法でも探知できないチート能力らしい。
触れた物を透明化する事もできるが手元から離れると透明化が解ける。生き物も可能。

・『様々な状態異常を引き起こす謎のブレス』

『体力を奪う猛毒の紫色の吐息』。
一角の生えた兎型のモンスターに試すと血涙吐血を繰り返しのたうち回り約一時間後に死亡。どうやら即効性の毒ではないようだ。

『四肢を麻痺させる黄色の吐息』。
手足の動きを封じるだけだった。またも一角の生えた兎型のモンスターに試してみた。持っていた鋏を何度も突き立ててみたがどうやら痛みは感じるようだ。ちなみに約一時間後に解除された。

『相手を興奮状態にする桃色の吐息』。
兎型モンスターの群れに放ってみたらいきなり性行為を始めたり威嚇しあったり、殺し合いを始めたり自傷行為を行う個体までいた。症状はバラバラで重度は個体差があるようだ。

『相手を石化の黒色の吐息』
兎型のモンスターに試すと触れた部分から徐々に石化していき約一時間後に完全な石像と化した。そこらに転がっている自然石と同じようで簡単に砕け、石の殻に覆われてという訳ではなく中身は完全に石になっていた。ちなみに別の個体で試したが破壊せずに放置して観察してみたが石化は時間経過では解除されなかった。

どれも厄介ではあるものの即効性がないのがイタい。異常状態を回復する術を持つ者にとっては脅威度は低いだろう。

・『伸縮硬軟自在の舌』
この身体にどうやって収まっているのか謎だが最長約20mまで伸ばせる舌で先端部分は粘液に覆われておりとりもちのような機能がある。舌には猫の舌のような糸状乳頭のような逆向きに生えた棘が収納されており、それを立たせる事によって肉を削ぎ落としたりもできるようだ。

人間に偽装した姿で試す。吐息の効果は変化なし。舌だけは魔力で形成された舌を伸ばすように見えるだけで威力も変化せず。気付くと日が沈んできたので今日の検証はここまでにした。

人に偽装して町へ戻り宿屋の部屋に直帰する。部屋に入ってすぐに気付く。ベッドに何者かの存在に。

「・・・ふざけてるのか?」

何者かの存在はベッドの下に隠れているわけではなく毛布にくるまっているだけ。しかも明らかに小さいためハイネでは絶対にない。というか『尻尾』が隠れてない。

欲視忍は毛布をひっぺがすと予想通りの人物。冒険者に暴行されていた獣人の少女だった。

予想外だったのはその少女が下着姿だったこと。少女はベッドの上から降りて額を床に擦りつけるように土下座をする。

「お願いします!マルルを『買って』もらえませんか!家事洗濯荷物持ちなんでもします!」

欲視忍の答えは、

「マルルって何?え?お前の名前がマルル?ヤダよ。なんで路上暮らしの小汚ないガキを買わなきゃいけないの?病気持ちかもしんないじゃん。絶対ヤダよ」
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